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韓国は、いま                    かけはし2003.9.22号より

戦争政策と新自由主義に対決する2003年下半期の闘いへ!



 新自由主義の攻勢から10年、通貨危機以後、急激に推進された新自由主義の世界化は労働者民衆の生存を無慈悲にじゅうりんしてきた。03年3月末現在の家計負債は439兆3千億ウォン(世帯当たり約3千万ウォン)で、1年間に30%以上、増えた。統計に表れない私債まで含めれば5百兆ウォンを超えるものと推定される。過剰蓄積による長期不況に突入しながら投資先を求められない資本は金融圏に押し寄せ、金融圏は家計の不動産担保貸し出しや信用カード事業に主力をおくことによって家計負担の増加を煽り立ててきた。超国籍資本の投機性金融政策の強行による結果だ。
 03年6月現在、信用不良者は323万人(経済活動人口7人に1人の割合)で、98年末に比べて約3倍程度、増加した。家計負債は民衆の生存を脅かす凶器にほかならない。多くの民衆は負債によるストレスで慢性的な病を患っており、絶望と死の境を行き来する局限の条件に直面している。家計負債や信用不良量産の主犯である資本も、不安であることにおいては同じだ。ところで資本は「家計負担の増加→延滞率の増加→個人破産の増加→不良債権化→収益率の下落」を不安がっている。二律背反的な資本の論理がぴんと首をもたげているのだ。
 負債による自殺や犯罪の増加、家族の解体、社会不安の増幅は、すでに資本の危機管理の上限ラインを踏み越えている。03年5月末までに警察に申告された家出人(20歳以上)だけでも1万9931人であり、離婚件数は98年10万組、01年13万組、02年14万5千組に増え、家族解体の速度も早まっている。青年失業者は4人に1人の割で街を徘徊し、暗い未来に落胆しつつ移民を決心している40代の中産層も急増している。宝くじや株式、賭博が生活の逃避所となってからも、すでに久しいことだ。
 自殺者は98年1万2458人から00年1万1794人に減ったものの02年には再び1万3055人(1日36人の割)へと増加した。自殺のパターンも破壊的で極端だ。子どもを高層マンションの窓の外に放り投げるという衝撃的なことさえ、あるいは始まりにすぎないのかも知れない。今日、新自由主義の世界化や労働力柔軟化の強化がもたらした猟奇的でゆがめられたな現実の自画像なのだ。

 ノ・ムヒョン政権の発足によって労働者民衆は改革や民主主義の発展に多くの期待を寄せた。ノ・ムヒョン政権は発足の初期、期待に答えでもするかのように人的清算をはじめとする強い改革のドライブをかけた。だがノ・ムヒョン政権は、韓国社会の支配構造を画期的に変化させていくだけの物的基盤を持てなかったばかりか、資本や支配階級の分派間対立、葛藤を調節し引っ張っていくだけの能力が検証されない状態で出発した。「改革と参与」を掲げたノ・ムヒョン政権が、新自由主義の政権としての限界や本質をさらけ出すのにかかった時間は、そう長くはなかった。
 ノ・ムヒョン政権の限界は3つの側面から整理できる。第1に、キム・デジュン政権の新自由主義政策を続けていかざるをえない新自由主義政権としての限界だ。第2に、ノ・ムヒョン政権の登場は新自由主義支配連合の亀裂を内包していることによって政権の物理力が脆弱だ、という点だ。第3にノ・ムヒョン政権の支持基盤は、株主資本主義など新自由主義の資本の論理を基調とする市民運動勢力、理念的アイデンティティーが解体された386世代(80年代に学生運動、民主化闘争を経験した世代)、それにネッティズン(インターネット世代)など世代的、世論的部分にもとづいているという点だ。
 このようなわけでノ・ムヒョン政権は、検察・言論・労働・教育など社会の主要分野においての人的清算や、社会改革においては注目に値する成果を示したりもしたが、超国籍資本の利害が関わった事案や分野においては、労働者民衆の暮らしを直接攻撃する反動的で露骨な新自由主義の攻勢を止めなかった。
 ノ・ムヒョン政権は資本の要求を積極的に受け入れ、執行している。ノ政権の国政の指標の核心として掲げた「東北ア経済中心推進」(東北アジアにおける経済の中心地としての韓国を目指す)は、資本の利害を全幅的に反映していることを意味する。資本と政権は「東北ア経済中心推進―経済自由区域―グローバルスタンダード―統合的労使関係」の骨格を作ることに集中してきた。言葉は壮大に見えるが、泡の部分を取り除けば残るのは労働力の柔軟化(フレキシビリティー)だけだ。
 先月、ノ政権は実効をあげられずにいる「東北ア経済中心推進」という看板を引き下ろし、「国民所得2万ドル」へとつけ替えた。「東北ア経済中心推進」は突破口を見いだせない資本の避けられない選択だったが、今日まで「東北ア経済中心推進」は明白な成果もないばかりか、提示されたいかなるロード・マップ(青写真)も、手にできる未来を盛り込むことはできなかった。
 農業、サービス部門など、あらゆるものを投げ出してでも自動車、半導体、鉄鋼、電子、造船など主力産業だけ育てればよい、IT、BT、NTに長期的に投資すればよい、という話ばかりを繰り返してきたにすぎない。「国民所得2万ドル」のようなスローガンは労働力柔軟化のための類似帝国主義イデオロギー攻勢化をその本質としているからだ。
 ノ政権は資本の要求に沿った政策を強行しながらも、事案や場合によっては資本としばしば摩擦をかもした。これは事実だ。ここからノ政権は親労働、改革勢力だとのイデオロギーが広がり、したがってノ政権を批判的に支持したり圧迫することによって改革の速度を高めるべきだとの主張が大衆的なアピール力を持ちもした。
 このような期待は、とりわけ運動陣営全般にも影響を及ぼした。一部では6・28の鉄道労働者のストライキ闘争に公権力を投入すると、そのときになってようやく「改革は失踪」という情勢分析を出したりもした。振り返ってみれば、ノ政権が上半期中ずっと新自由主義のグローバル化攻勢を展開することによって反動的政策を強行してきたという事実を客観化しない、主観的情勢認識のなせるわざだった。
 ノ政権は、今後もさまざまな地点で資本との摩擦の可能性を内包している。ところで、この一次的動因はノ政権の改革と資本の対立にあるのではなく、資本の合理化に伴う株主資本主義の拡大過程で生じる資本の分派間利害対立にある、という点だ。
 ノ政権は資本分派間で起きている緊張や対立を収拾すると同時に、株式資本主義を拡大するやり方で新自由主義の改革を推進してきた。このような緊張と対立が高まった場合、政権と資本間の対立が、しばしば外化されたのだ。ところでノ政権は、このような緊張と対立を全体資本の利害に外れない範囲で効果的に管理しているのだ。この点を明確にしないならば、ノ政権に対する期待や幻想を捨てるのは決して簡単ではないだろう。
 これは労働政策だけではなく、対北政策においても同じことだ。太陽政策を継承した「平和と繁栄政策」は超国籍資本や韓国独占資本の利害に沿った攻勢的な対北戦略だ。もちろんノ政権の「平和と繁栄政策」が、韓(朝鮮)半島の戦争の危機と関連した米国強硬派の敵対的な対北政策とは区別され得るとは言うものの、究極的に東北ア単一市場形成のための資本の政策だという点で、労働者民衆の利害に反する新自由主義の政策であることをハッキリさせなければならない。民族主義運動陣営は、このような力学を客観的に把握しないことによって6・15継承、太陽政策支持のような態度を示すことにより、ノ政権に対する期待を捨てられないのだ。
 ノ政権の大統領当選は、そのプロセスにおいてであれ、結果的にであれ韓国社会全般の左旋回を伴った事件だった。左旋回は理念的左翼化というよりは反共―発展イデオロギーの弱化と一般民主主義の発展を意味する。ところで最近、一部ではノ政権が新自由主義のグローバル化攻勢を止めないことによって保守化しており、これとともに社会全般の左旋回も右傾化へと回帰しているとの分析を出している。しかし、これは現象的な分析にすぎない。
 韓国社会全般の左旋回は浮沈は繰り返すだろうが持続的な傾向を帯びるだろう。なぜならば、ノ政権の反動的攻勢が強化されたとしても、今日まで形成された大衆の意識や状態がノ・ムヒョンを超える対案へと結びついていないだけであり、再び反共―発展のイデオロギーに吸収されはしないだろうからだ。
 もう一つ注目すべき点は、改革や一般民主主義の発展としての左旋回はノ政権の新自由主義の世界化攻勢と矛盾しないという事実だ。通貨危機以降、強力に適用された新自由主義の処方は韓国社会全般の新自由主義的権力関係や位階秩序を形成した。この過程は、競争と効率という新自由主義の資本のイデオロギーにもとづいたもので、初めから反共―発展のイデオロギーとは立脚点を異にしており、改革や一般民主主義に対する大衆的熱望を吸収する中でなされてきた。逆説的なのは、ノ政権の改革は徹底して新自由主義にもとづいているために、それ自体として労働に対する攻撃を伴っているという事実だ。
 ノ政権の登場は3キム時代として表現された支配分派間の連合の秩序を打ち破るものとして、出発当初から支配階級内部の少なからぬ動揺と混乱とを予告した。現時期、支配階級内部の対立と競争、混乱と動揺は、支配分派間の保守対改革の対立として表面化して表れている。保守は反共―発展主義に基盤をおいた守旧的新自由主義の勢力を、改革は民主化運動に基盤をおいた改革的新自由主義の勢力を指す。したがってキム・デジュン政権に続くノ・ムヒョン政権の登場は、新自由主義の改革のドライブとともに上からの韓国社会の主流秩序の地殻変動を意味するのだった。これに危機意識を感じた保守は強力な抵抗と逆攻勢を展開することによって過去とは違った新たな局面を形成している。
 保守―改革の対立は権力をめぐる支配階級内部の対立という点において、現時期の韓国の階級闘争の全体の性格を規定する物差しではない。けれどもこれら支配階級内部の対立は、資本と政権の新自由主義のグローバル化攻勢と労働者民衆の生存権、生活権・労働権争取闘争の対立という現時期の階級闘争の流れにさまざまな影響を及ぼす。
 ノ・ムヒョン政権の発展以来、保守と改革間の対立、すなわち労働者民衆の闘争とともに支配階級内部で形成された混乱と動揺は、代表的に派兵、NEIS、セマングム(大規模干拓)、国家保安法、対北送金特検、8・15行事などをめぐって展開された。それぞれの事案は異なった条件、異なった状況で労働者民衆の闘争とからみあって展開されたが、保守と改革間の対立を共通の分母としており、特に政治分派間の対立として制限されず大衆動員とイデオロギー対立を伴った全社会的なイシューとして作用した。これと似たような事件や事案などは今後もさまざまなレベルで予告なしに吹き出るだろうし、04年の総選挙を前にした支配分派間の対決や競争はいっそう増幅するものと思われる。
 ここで注目すべき要の1つが、いわゆる改革新党をめぐる政治地形だ。新党問題は今後、保守と改革間の対立や政局変化のバロメーターとなるだろう。ハンナラ党の現在の支持率は20%台、20〜30代ではダブルスコアの差があり、湖南(キム・デジュン、民主党の伝統的基盤)では3〜5%の支持にとどまっている。反統一、親財閥、嶺南(慶尚南・北道、ハンナラ党の主力基盤)党の限界を抜け出せずにいる。ノ政権の支持度下落が、そのままハンナラ党の支持度上昇に結びついていない、というわけだ。
 民主党は旧主流と新主流間の内部危機に逢着するなかで、新主流中心の改革新党推進を本格化している。改革国民新党、地域主義打破国民統合連帯(統合連帯)、改革新党推進連帯会議(新党連帯)など改革新党推進の諸勢力は不安定な中で改革新党の創党を予告している。ノ・ムヒョン政権は、来年の総選挙で改革新党を通じて第1党とまではいかないとしても一定の政治的基盤を拡大する戦略だ。改革新党推進勢力の構想通りに、旧主流を清算して改革新党として04年の総選挙で勝利することになれば、これはノ政権の発足に続く韓国社会におけるブルジョア政治の大変な地殻変動を意味するのだ。
 一方、民主労働党の登場が主たる変数として作用するだろう。現在、世論の支持率は3〜7%を行き来している。04年の総選挙を前に民主労働党主導の特別な政治イシュー化や変数が作用しないならば、現在のところ比例代表を含めて2〜4議席規模の国会議員の当選が予想される。今後、民主労働党の総選挙の対応において最大の影響を及ぼす要素もまた改革新党の動向いかんにかかっているだろう。さまざまな状況の変化はあるだろうが、保守と改革の対決の構図に進歩の制度内的根拠を用意することが確実視されるという点において、それ自体において鼓舞的なことであるのは明らかだ。
 こうしてみると来年の総選挙を前後する時期に形成される政治地形の最も有力なシナリオは、保守―改革・進歩の構図が作られていくという点だ。保守―改革間の対立が常時化するなかで保守―進歩間、改革―進歩間、保守―改革・進歩間の政治的利害関係が至る所で衝突する様相を帯びるだろう。このような衝突は、資本と労働間の対立、すなわち資本や政権の新自由主義の世界化攻勢と労働者民衆の闘争として形成される全レベルでのものというよりは議会をめぐる政治勢力間、政治分派間の政治地形を語っているのだ。
 03年下半期、資本と政権の新自由主義グローバル化攻勢はより強化され、労働者民衆のさまざな抵抗や闘争は拡大される流れを示すだろう。これはキム・デジュン政権当時、新自由主義の構造調整反対、生存権死守を主とした内容にしていた闘争が労働権・生活権などの内容へと拡張することを意味する。
 キム・デジュン政権当時、階級闘争の性格は資本や政権の新自由主義構造調整や労働者民衆の生存権死守を基本軸とした。それに比べて今年の階級闘争は資本や政権の新自由主義グローバル化攻勢と労働者民衆の生存権、労働権・生活権争取闘争を基本軸にしている。周知のように、これは米帝国主義の東北アジアの秩序再編への介入や資本の地球化と金融の世界化に伴う資本や政権の攻勢が強化されていることに起因する。
 ところで労働者民衆は新自由主義のグローバル化反対闘争を持続しているにもかかわらず、闘争の成果を自身のものとして完全に手にすることができずにいる。これは現在の実利主義、議会主義政治運動の撹乱要因や代案的階級的主体形成の遅延とも密接な関係がある。労働者民衆運動は今後形成される情勢の科学的な予測を通して、反帝―反世界化闘争に基盤をおいた新たな政治地形を意識的に作り出していかなければならない。
 長期的眼目として反資本(主義)労働解放の代案的展望の提示や現実階級闘争の企画、実行者としての政治的階級的主体の結集を図り、同時に労働者民衆の持続的な反帝―反世界化大衆行動を展開していかなければならない。労働者民衆は短期的には今年下半期の闘争課題や闘争の集中点を正しく設定し、地域と部門の実質的な連帯闘争を掘り起こすことによって04年の階級闘争の政治地形を保守―改革・進歩―反世界化(反資本)の3勢力化の構図へと作り出していくことを直接的な目標としなければならない。
 下半期、労働者民衆は反帝―反グローバル化の旗じるしの下に韓半島の戦争の脅威と労働力柔軟化粉砕を闘争方向として定め、反帝、反米、反戦活動と非正規職闘争に集中する。
 第1に、韓半島情勢への対応に万全を期すことによって戦争の脅威を除去する実践を展開していかなければならない。ノ政権は韓米軍事同盟を強化し、米国の対中、対北ミサイル防衛体制への編入を既成事実化する一方、攻勢的な対北政策に乗り出している。これにより国防予算増額など後続措置が続いた。労働者民衆は米国のミサイル防御体制反対と軍備縮小、不可侵協定締結、自主交流、駐韓米軍撤収など反帝、反米、反戦活動に主力を注がねばならない。
 第2に、資本と政権は鉄道労働者のストライキ闘争鎮圧や経済自由区域施行などに力を得て「東北ア経済中心推進」や2国間投資協定、自由貿易協定など新自由主義グローバル化攻勢の手網を緩めずにいる。労働者民衆は、近くはWTO第5次閣僚会議に対する対応と韓米投資協定、韓日自由貿易協定など資本と政権の開放政策や新自由主義のイデオロギー攻勢に立ち向かっていかなければならない。
 第3に、資本と政権の労働者分轄統治戦略を粉砕し車内下請け労働者、非正規職労働者の生存権争取および闘争の組織化に万全を期す。あわせて経済自由区域の細部推進にそって派遣制の拡散や現場の労働強度がいっそう強化されるだろう。労働者民衆は確かに7月1日の施行令を阻止はできなかったものの、経済自由区域施行に盛り込まれた資本と政権の新自由主義の世界化の構図を一定程度、看破しているだけに今後、地域別の経済自由地域施行反対や労働強化阻止闘争を継続しなければならない。
 第4に、資本と政権は労働運動に対する分轄・打撃・包摂・排除戦術を試みるだろう。これに対決して現場を死守するための団結と連帯の契機を拡大して、現場の弾圧を粉砕する闘争とともに賃金削減なしの週5日制など労働基本権争取闘争を展開しなければならない。
 第5に、国民年金改悪に伴う全民衆的抵抗組織し、全教組のNEIS廃棄と情報人権の争取闘争、農民の生存権要求闘争、社内下請け労働者や非正規職労働者の闘争など下半期に予告される労働者民衆の闘争を援護し、新自由主義世界化反対闘争へと上昇させることによって闘争の成果を04年の闘争へ結びつくようにする。(「労働者の力」第37号、03年8月20日付、ユ・ヨンジュ、政策宣伝室長)

【訂正】 かけはし9月8日付(第1795号)7面最下段左から24行目、「日本の財務省」を「日本の再武装」に訂正します。


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