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                          かけはし2003.9.15号より

脱WTO草の根キャンペーン

私たちの農と食からグローバリゼーションを考える


ウボン・ユーワーさんを迎えて

 【大阪】九月四日、エルおおさかで「私たちの農と食からグローバリゼーションを考える・『タイと日本の農業と今』と題したATTAC関西主催・AMネット協力の講演会が開かれた。これは、九月十日からメキシコのカンクンで始まるWTO閣僚会議を前に、WTOに反対の取り組みとして開かれたもの。講演会はATTAC関西事務局の寺本勉さんの司会で始まった。

WTOでいま何が論議されているか

 はじめに、AMネット(APECモニターNGOネットワーク)の川上豊幸さんが、WTOで論議されてきた内容を解説した。
 WTOは一九九五年に生まれ、農業・サービス・非農産品市場・補助金・知的所有権・環境・投資などの新分野等、貿易の自由化に関するあらゆる事項を並行して交渉する新ラウンド交渉が二〇〇一年から始まった。二〇〇三年五月までにモダリティ(交渉のやり方)を確立し、二〇〇五年に交渉を一括妥結するというスケジュールがたてられていたが、未だに交渉のやり方すら決まっていない。農業交渉のモダリティが定まらないからだ。
 自国農業への補助金や輸入関税(現在、日本では輸入米に四九〇%の関税をかけることによって自国のコメを保護しているが、一方日本は工業製品を輸出する場合、輸入国の関税は低くしてほしいと思っている)を減らす、さらに輸出補助金も減らす。一定量までの輸入品には低い関税をかける。そして貿易を自由化していくというのが米国などのねらいである。
 自国農業を保護するための補助金政策すら、自国政府だけでは決定できないようにさせるわけである。「WTOは国と国の交渉であるが、持続可能な農業にするためにはどうすればいいか、アグリビジネスと家族農業の関係はどうあるべきかについても論議されるべきだ」と、川上さんは問題提起した。
 続いて、持続的農業を普及するための「タイ・オルタナティブ農業ネットワーク」のスタッフとして活動をしている農民のウボン・ユーワーさんが講演した。ウボンさんは、脱WTOキャンペーンの一環として来日した。(講演、別掲)
 続いて、タイから帰国したばかりの豊田勇造さん(ミュージシャン)が登壇した。十年前、日本が冷夏でコメが不作になった年に豊田さんはタイにいた。タイから日本に送られたタイ米を、日本人がくさいと言って捨てたことに非常にショックをうけたことを、豊田さんは語った。豊田さんがタイで学んだことは、命があればそれで十分ということ、農業は命だということ。そのような話を挿入しながら、コメの歌・タイのともだちの歌・タイ米の歌などをうたい、ギターの熱演を披露した。
 十分の休憩の後、京都京北町の農民である鳥居隆太郎さんが日本の農業の現状を報告した。鳥居さんは、自分の五反の田を合わせ二町歩の田でコメを作っている。鳥居さんは六十八歳、現在の日本の農業の担い手の平均の年齢であるとのことだ。昔は、地域ごとにあうコメを作っていた。しかし、一九六〇年頃から施策が小農切り捨て大農優遇の政策に変わった。それから農業のやり方ががらっと変わって、牛から耕耘機・手作業による水田の除草から除草剤・有機肥料から化学肥料になり、余った人手は都市に出て行った。そして農村は過疎になった。
 いまでは、祭りの御輿を担ぐ人がいない。減反政策で、水田の三八・七%は転作が奨励されたが、ほとんどは休耕田になった。耕地面積を制限する政策が続いてきたが、小泉政権の農業政策を転換させ、来年度から、水田面積は個人二町歩・集落二十町歩までとし、今まで休耕田に支給されていた補助金はなくなる、政府は買上げる目標数量を決めることになった。買い上げ量を超える分は自前で売れということだ。小泉政権はこれで外国にうち勝てる農業をせよいう。ここにはアグリビジネスの思いが潜んでいる。都会で農業の話をするのは初めてだといい、来年度から農業は一層厳しくなると、鳥居さんは語った。
 この後、ハイブリッド種によって生産力は増えたのかの質問に、化学肥料を使っても生産は以前ほど上がっていないなど、若干の質疑応答があり、「ODA政策ネットワーク関西」から五十年を迎える日本ODAに関係する連続講座の知らせ、関西よつば連絡会からは、タイの南部ブーケットでつくっているバナナの販売のこととカンクンに代表団を派遣するとの報告があった。     (T・T)



ウボン・ユーワーさんの講演から

WTOとIMFによる支配とタイ農業の現状

 タイの農業は、四十年前、米国からの援助による緑の革命の影響でがらっと変わり、輸入化学肥料を使うようになり、今では全域で使っている。以前は自給用作物をつくっていたが、今は輸出用作物を作るようになっている。米国とロックフェラー財団は、高収穫で農薬使用効果の大きい改良種をつくるために、国際稲作研究所をフィリピンに建設するよう支援した。ここにアジアの四千五百八十三種もの在来種を保存しているが、米国はここでコメのハイブリッド新品種を開発し、それを使うようにさせ、多種栽培から単一作物栽培への生産様式の転換が起き、米国は知的所有権を拡大している。
 タイは、バーツの下落以来IMFの援助を受けるようになったが、そのときのIMFの条件として、民間企業の負債を政府の負債にすること、公団・公社を民営化することを受け入れた。いま、タイでは外国人が百年契約で土地を借りることが出来るようになっている。
 タイは一九九五年にWTOに加盟し、二十三農業品目が完全自由化されている。大豆・ジャガイモ・タマネギ・トウモロコシなどは、外国(米国)産のものに太刀打ちできない。大豆は、タイの国内ではなく、遠い米国からやってくる。近い国では、ニンニクやリンゴが中国から、椰子の実はフィリピンから入ってくる。タイ・オルタナティブ農薬ネットワークは、タマネギの輸入をやめるように要求しているが、政府はWTOで決まっているとの理由で受け入れない。
 タイにはマンゴウなど豊富な果物がたくさんあるのに、人々はそれを食べずにリンゴを食べる。政府は、他の農産品で損をしても自国の米が売れればもうかると考えているが、そうはならないだろう。米国やベトナムのコメに太刀打ちできないだろう。コメは、その国の文化と密接につながっている。タイに帰ったら、農民・労働組合一千人ぐらいで米国領事館に抗議に行く。(報告要旨・文責編集部)



ウボン・ユーワーさんを迎えてWTO学習会

9・13グローバルピースマーチへ

 【札幌】九月一日、WTO閣僚会議に向けた対抗アクションとして、札幌でも「脱WTOキャンペーン」とリンクした「WTO学習会」が開催された。主催は北海道農民連盟、連合北海道、食・みどり・水を守る道民の会。
 集会のメイン講演は、タイ農民活動家ウボン・ユーワーさん。
 ウボンさんは、一九六一年以降の世界銀行が推進した「緑の革命」による、伝統的な農業や農村社会の崩壊、環境破壊の始まりから説き起こし、これを極限まで押し進め、タイ農業を壊滅的な状態へ追いやるものとして、現在のグローバリゼーション│WTO支配を弾劾し、闘いの必要性を訴えた。
 「緑の革命はそれまでの、自給的で多様な伝統的農業から、農薬・化学肥料による換金・単一作物への転換が進められ、農民は食糧を買うようになり、種の多様性も失われ、農薬のために借金漬けとなった。返せない借金の重圧の上、買いたたかれる悪循環が、農民を苦しめてきた。都市への出稼ぎが一般化し、やがて女性も外へ働きに出る中、家族崩壊が進み、村に人が減って伝統的な助け合いも機能しなくなった。森林は国土の二〇%以下に減少してしまった」。
 「グローバリゼーションは、それよりはるかに巨大で壊滅的な影響をもたらす。すべてを金持ちが所有してしまうからだ。香り米のようなタイの特産物を、アメリカ企業が特許化してしまう。タイ政府は自由化に全面賛成で、米の輸出確保のためにカンクンWTO会議で条件をのむつもりだが、WTOルールに縛られれば、農民は緩慢に死ぬしかない。自由化で利益を得るのは資本家だけだ」と指摘した上で、これとの闘いについて紹介した。
 「百五十万家族の土地なし農民がいる。南タイでは、企業の農園に農民が実力で入り込んで生活しているが、政府は軍を動員して追い出そうとしている。また、私たちは『貧者連合』という農民、労働者、失業者、ダムに追い出された住民などによる組織を作って闘っている」。
 また、農民が自立した力をつける取り組みとして、ヨーロッパのNGOへの「産直」や、村の中で消費する「地産地消」、種苗の自家採取、山形県のレインボープランを参考にした「生ゴミたい肥化」等について紹介した。
 最後に涙ぐむ農民の写真を紹介しながら、「WTOは農民を苦しめる。このままでは死ぬしかない」と、闘いを訴えた。
 集会はさらに、主催者からの「現況報告」として、西原淳一道農民連盟書記長の報告を受けた。西原さんは、ウボンさんの話は日本においても同じ状況があり、とりわけ北海道は深刻だと連帯を表明した。WTO交渉の状況とカンクンでの合意の困難性に言及しつつ、アメリカなどの輸出国の、一方的な自由化要求の不当性を訴えた。
 コメに関しては、アメリカ提案で関税率が引き下げられれば、北海道から水田がなくなると危機感を述べた。三割しかない自給率を守り抜き、安全で顔の見える農産物を供給し、農業政策の転換を勝ち取らねばならないと、決意を述べた。
 集会の最後に「脱WTO草の根キャンペーン」から田中徹二さんが発言し、カンクンではビア・カンペシーナはじめ多くの農民が参加する事に触れながら、八月のフランス反WTO集会の大成功に続く、「9・13反戦・反WTOグローバルピースマーチ」の意義と結集を訴えた。    (N)


世界は売り物ではない!

脱WTOをめざして草の根シンポジウム開く

 九月五日、東京・文京区民センターで「世界は売り物ではない!脱WTOへ! 9・5脱WTO草の根シンポジウム」が脱WTO草の根キャンペーン全国実行委の主催で行われ、百五十人が参加した。
 新自由主義と資本のグローバル化を押し進めるWTO(世界貿易機構)は、九月十〜十四日、メキシコ・カンクンで第五回閣僚会議を開催する。この会議に対してカンクン現地と全世界の民衆たちは、「もうWTOはいらない!閣僚会議を失敗させよう!ニューラウンド開始を阻止しよう!」を合言葉にして世界同時行動を取り組む。実行委は、この国際的キャンペーンに応え、カンクンへの訪問団の派遣出発とキャンペーン行動のスタートにあたってシンポジウムを開催した。
 シンポジウムは、秋本陽子さんの主催者あいさつから始まり、「戦争とWTOにNO!私たちの生活を破壊するなという運動を作りあげていこう」と力強く訴えた。
 続いて、ウボン・ユーワーさん(タイ・オルタナティブ農業ネットワーク)が、「タイ農業の現況」をスライドを使いながら報告した。オルタナティブ農業ネットワークは、タイの農村で活動するNGOと農民運動が提携して一九八九年に結成。ネットは、経済のグローバル化による農業破壊の拡大に抗して、森林農業、自然農業、持続的農業、有機農業など複合農業を展開しながら民衆生活のための農業を造り出していこうとねばり強く活動を行ってきた。ウボンさんは、@米国多国籍企業と世界銀行による「緑の革命」と称する農業破壊A農業開発によるタイ社会の弊害実態B食の危険C持続可能な農業と地域コミュニティの発展に向けて\\などをめぐって報告した。

 北海道農民連盟副委員長の山田富士雄さんは、日本政府への要請行動の報告とカンクン現地行動に向けた決意表明を行った。そして、「日本は農産物を多く輸入している。食の安全、農業自給、保護が今こそ求められている。食糧を世界全体でバランスをとりながらいかに供給できるかが問われている。WTOを通して一部の国々が豊かになり、多くの農民たちが疲弊に追い込まれてしまう事態をとめなければならない」と強く訴えた。 
 続いてWTO閣僚会議現況報告を山浦康明さん(日本消費者連盟)が行った。山浦さんは、「交渉は、すでに米・EUの意志が反映された流れになっている。農業では関税の大幅一律削減と品目別の柔軟な削減方式の折衷案、非農産品のモダリティ案(ジラール議長案と米・EU・カナダ提案)が出されている。新分野のw投資、競争x、貿易円滑化問題では日本は交渉開始推進派だ。色々な動きを注意深く監視し、少しでも流れを止めるために現地行動を行っていこう」と発言した。その後、カンクン現地行動に参加する仲間が紹介され、現地\日本を結んだ闘いを展開していくことを参加者全体で確認していった。
 次に、「国内での経済・軍事的グローバリゼーションに対する活動報告」が三人の仲間から行われた。
 入沢牧子さん(ストップ遺伝子組み換え汚染種子ネット)は、茨城、岐阜、滋賀での遺伝子組み換え大豆作付けに対する反対行動の報告した。
 酒井和子さん(女のワーキングライフを考えるパート研究会)は、「間接差別の禁止、コース別や雇用形態の違いによる差別撤廃などを求め、労働者のためのパート法改正を実現していこう」とアピール。
 高田健さん(許すな!憲法改悪・市民連絡会)は、この間のイラク反戦運動に対して総括的な整理をしながら自衛隊イラク派兵反対運動、軍事のグローバル化に抗する闘いの方向性を提起した。
 特別アピールとして、工場閉鎖攻撃と闘う韓国シチズン労組の仲間たちが登壇し、「労働コスト削減のために資本は、中国に工場移転した。それにともなって韓国シチズンの不当廃業による集団解雇を行ってきた。シチズン日本本社との交渉を求めて来日している。ぜひ支援してください」と訴えた。
 シンポジウムの最後は、田中徹二さんから脱WTO草のキャンペーンの取り組みへの呼びかけ、実行委の仲間が9・13グローバル・ピース・マーチへの参加をアピールした。   (Y)                 


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