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朝鮮半島情勢が新たな局面へ             かけはし2003.8.4号より

中国外交の主導性強化で転換に向かう金正日「瀬戸際外交」


はじめに

 朝鮮半島情勢は大きな転換局面を迎えつつある。指導部を一新した中国が米朝関係打開へ積極対処外交を決断しイニシアチブを発揮している。米帝ブッシュの「悪の枢軸」先制攻撃を促すネオコンの登場と、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)・金正日の軍事と外交のもてあそびによる、米朝ともに織り込み済みの「朝鮮半島危機」演出は、仲介者としての中国の登場を促すものであった。
 中国にとってはもはやこの地域の動静は一刻も座視し得ない桎梏要因となっている。そして中国指導部の北朝鮮に対する牽制外交は見せかけの「中朝友好」とは無縁の激烈な外交角逐として、いまこの瞬間も水面下で進行しているだろう。

中国の北朝鮮牽制外交政策

 中国は北朝鮮に対する食糧、原油、コークスという三大戦略物資の最大供給国である。あえて換言すれば北朝鮮の死命を制する立場にある。
 近年も〇一年には食糧二十万トンとディーゼル油三万トン、〇二年にはディーゼル油二万トンをそれぞれ無償援助し、そして今年はディーゼル油一万トンの無償援助を決定している。朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)からの年間五十万トンの重油供給がストップした本年以降、北朝鮮は石油をすべて中国に依存せざるを得なくなっている。
 その中国が二月に北朝鮮への送油を一時的に中断したことが伝えられた。中国の対北朝鮮牽制外交が活発化する中で、北朝鮮・金正日がこの牽制にどう対処するか、石油自給ゼロ、食糧支援激減という破滅的事態のなかでなおも「核開発」という一目瞭然の児戯にはまり続けるのだろうか。
 そして中国のこの対北朝鮮牽制外交路線が一時的、あるいは緊急避難的なものではないことを確認しておくことは今後の朝鮮半島情勢を見ていく上できわめて重要である。四月の米朝中三カ国協議開始以降、米日韓三カ国、そして北朝鮮の間を頻繁に往来して局面打開にかつてない主導性を発揮している中国外交の姿は、対北朝鮮牽制外交路線が北東アジアの未来、とりわけ民間レベルで先行著しい中国と韓国の政治的経済的緊密化という長期展望から導き出された確固とした路線であることを明らかにしている。
 一九九二年の中韓国交樹立から十年の間に両国間貿易総額は五十億ドルから四百四十億ドルへと急増、中国にとって韓国は最大の貿易相手国である日本や米に迫る勢いとなっている。また韓国にとっても中国は香港を含めれば最大の輸出市場となり、最大の対外投資先(十七億ドル超で全体の三四パーセントを占める)となった。両国間の人的交流も年間二百万人を超え、韓国自治体の姉妹都市・友好都市提携先のトップは中国が百十二都市で群を抜いている(二位は米国七十五都市、三位は日本七十一都市)。
 七月の韓国・廬武鉉大統領訪中には現代自動車ら経済界三十人が同行して上海を視察、中国側は連日の首脳部主催の宴席という「異例の歓待」(日本メディア)で応えた。中朝関係は実は中韓関係にこそ大きく規定されるものとなっている。そして朝鮮半島情勢の今後に影響力を行使していくのは中国であって米帝ブッシュではない。

中国外交への米政府の期待


 四月の米朝中三カ国協議開始以降、ブッシュを始め米首脳部は、ことあるごとに中国の積極対処姿勢を絶賛して止まない。その一方でこうした中国の対北朝鮮牽制路線を見切り、対イラク戦「圧勝」とも相まって攻勢に転じた。米国はこれまで米朝がともに聖域と認識して温存してきたKEDOによる軽水炉原発建設事業の中止方針を打ち出し、米メディアは最近になって北朝鮮核開発エスカレーション報道を前面化させている。
 こうした動きは直接に北朝鮮に対して向けられたものというよりも、中国に対してより積極的な対北朝鮮牽制路線の発動を求めるという意味合いが濃厚だ。またクリントン政権時代に米国務省の北朝鮮担当スタッフとして米朝交渉にあたっていたキノネス、同じく南北米中四カ国協議(96〜97年)の米国代表を務めたカートマン(現KEDO事務局長)らの対北朝鮮穏健派(反ブッシュ)スタッフがこの間、北朝鮮の核開発路線顕在化の中で北朝鮮批判の姿勢を明確化するなど、北朝鮮自身が一目置いていた米国内有力スタッフも相次いで離反した。

局面大転換は開始されるか


 こうした動きの中、自尊心と体面という「儒教倫理」に拘泥した北朝鮮の自縛外交からの転換の兆候が見え始めてきた。すでに北朝鮮核開発をめぐる多国間協議受け入れの方針を北朝鮮は中国を代理人として明らかにしており、韓国メディアが最近伝えた金正日の対米礼賛メッセージ(米国資本主義を絶賛し社会主義の病弊を嘆くもの)は金日成・金正日一族王朝と緊密な関係にある韓国・現代グループが意図的にリークしている点からも何らかのシグナルと受け止められる。北朝鮮・金正日はかねてからの局面大転換のシナリオに沿った動きをいよいよ開始した。
 ニューヨークの北朝鮮国連代表部スタッフは米国との水面下接触(非公式協議)を濃密化させ、北朝鮮核開発問題の協議形式(米朝間か多国間か)にとどまらず北朝鮮体制保障問題についても踏み込んだ折衝を目下続行中であることが、最近の米国務省見解からも窺われる。
 国務省は「(北朝鮮に何らかの文書で不可侵の確約をすることが)今も選択肢の一つ」であることをあらためて明らかにしている(7月22日)。また北京での中朝、そして南北の水面下接触もこの動きと同時進行で進んでいるだろう。二〇〇〇年六月の南北首脳会談実現に向けた水面下接触の場所を提供したのは中国であった。
 一九五〇年に勃発し南北米中合わせて四百万人の犠牲者を出した朝鮮戦争は、今年七月に休戦協定署名から五十周年の節目を迎えた。そして署名当事国である米朝中の三カ国(北進逆襲・武力統一にこだわったイ・スンマン独裁の韓国は署名拒否)が北朝鮮核開発問題でこの四月以降に再び協議のテーブルにつくことになった。
 北朝鮮が四月以降に一貫して主張する「大胆な転換」がこの危うくもろい軍事休戦体制からの転換を意味するとすれば、協議の核心はおのずとこの点に定まっていく可能性もある。今後の協議形式が多国間による協議へと移行したとしても北朝鮮にとっては時間稼ぎのための「外交駆け引き」を駆使して臨むような体制的余裕はもはや残されていない。
 北朝鮮での昨年七月の賃金・物価双方の大幅引き上げを中心にした経済改革は逆に急激なインフレ進行をもたらし、モノ不足は解消されずコメ市場価格はこの一年間で実質四倍以上に上昇した。中国から流入した消費財や農産物をごく一部の労働党や軍の腐敗特権官僚たちが転売して利ざやを稼ぎ、ピョンヤンなど一部都市を除く地方経済は困窮を極めている。経済破局は社会危機へと連動し、なかでも軍の規律崩壊(夜盗集団化など)が著しいことを窺わせる証言情報が増加している。
 こうした中、北朝鮮にとっては中国からの支援のみが唯一の「延命の源泉」となっており、この源泉を断つような北朝鮮核開発路線は北朝鮮の最終的自壊を意味するだろう。
 中国を仲介した米朝間水面下交渉は、「北朝鮮の核放棄」と「米国の不可侵確約」の同時履行とその保証形式(二国間か多国間か)をめぐる駆け引きの局面に入っている。八月にも二回目の米朝中三カ国協議開催が伝えられており、ここでの協議内容が合意か決裂かを巡る分岐点となるだろう。
 何らかの合意が得られれば米朝中三カ国首脳が前面に出る外交局面へと移行し、決裂となれば中国がさらに踏み込んだ対北朝鮮牽制路線を展開することになるだろう。北朝鮮核開発を「絶対に認められない」のは米帝ブッシュやネオコンというより、むしろ中国指導部の確固とした意志である。

拉致と核問題の外交的解決を


 昨年九月の日朝ピョンヤン宣言署名と国交交渉再開からまもなく一年を迎えようとしている。しかし金正日による日本人拉致・抹殺の自白という衝撃を伴ったピョンヤン宣言の履行は十月の国交交渉再開以降は中断し、再開のための交渉も決裂状態に陥ったままにある。
 私たちは日朝交渉の場において「日朝間の不幸な過去の清算」(ピョンヤン宣言)が真剣に論議され、日本による謝罪と補償をその実質とする国交交渉によってのみ未来が切り開かれることを確信しているがゆえに、「拉致事件解明」「北朝鮮核開発放棄」について日朝両国が外交解決のための努力を急ぐことを要求する。
 昨年十月に帰国した拉致被害者五人はそのまま日本にとどまり残された五人の子どもたちの帰国を北朝鮮に要求している。そこに至る経緯がどうあれ、拉致連行という明白な国家犯罪による被害からの回復は無条件に保障されるべきであり、これは北朝鮮や日本政府の対応を云々してどちらかを批判してすまされるような問題ではない。
 生存被害者五人の原状回復(残置五人の帰国)すら放棄した北朝鮮政府のいう「拉致事件本質決着論」は暴論の極みである。左翼の側こそがこうした「決着論」の中に、北朝鮮人民に隷属を強いて平然とする金正日専制独裁支配の一端が露わに示されていることを見てとらなければならない。
 国家犯罪の被害者の痛苦にまともに応えられないような左翼やメディアに未来はない! 自尊心と体面という「儒教倫理」に拘泥した北朝鮮の自縛外交(そこには日朝間の不幸な過去の未清算という歴史経緯が投影されている)を解きほぐしていくためにも、人道支援組織や第三者機関の仲介が切実なものとなっており、日本政府は無策の日々を排外主義煽動に明け暮れることなく、そのための労を執るべきである。そしてより長期的には日朝間の自由往来を求める在日韓国・朝鮮人の、北朝鮮帰国者の、日朝友好を願う人々の運動が切実な政治課題となってくるだろう。

ピョンヤン宣言の原点にもどれ


 昨年十月以降の北朝鮮の核開発宣言と核拡散防止条約(NPT)脱退、核開発誇示の外交戦略化という一連の事態は日本での有事(戦時)法体制確立を呼び込み、「北東アジア地域の平和と安定を維持・強化する」としたピョンヤン宣言の条項を宣言から一年を待たずして日朝双方が破棄するに等しい行動に出た。
 米英日が国際社会での暴走を開始した今日、日朝双方にピョンヤン宣言の原点に立ち戻ることを要求する闘いは、北朝鮮・金正日の核開発を利用した「親米事大主義外交」、日本・小泉の「親米番犬外交」、そして米帝ブッシュの「悪の枢軸」先制攻撃、イラク植民地支配のすべてと闘う大義と道理を人々に訴えていく闘いでもある。
 六月の北朝鮮貨客船「万景峰92号」の新潟港寄港をめぐる日本政府による規制措置と寄港中止という事態は、昨年9・17以降の排外主義煽動の強まりの中で私たちが在日韓国・朝鮮人とのどのような共闘を創造していくのかを問いかけるものとなった。
 「万景峰92号は九三年からほぼ毎年塗装やエンジン調整などのため広島県内の造船所でドッグ入りしており」「日本政府は毎回密かに調査を続けて詳細な資料を作って」(6月6日付読売)いるという代物の船舶だ。同船を利用した北朝鮮からの秘密指令や密輸疑惑がささやかれようが、臨検まがいの船内検査が強行されようが、日本政府が厳戒警備体制を敷いたり、北朝鮮政府が寄港中止で対応するような一連のパフォーマンスは、同船が本来の目的としている在日同胞、帰国同胞のための人とモノの往来という堂々たる使命をくもらせ、不用意な誤解を招くだけの結果に終わっ た。
 万景峰92号は今後も日朝間の堂々の往来を続けるべきだし、日本政府がどのような対応措置を執ろうが私たちはこの往来権を保障するために闘わなければならない。

日朝国交交渉の早期再開を


 そしてこの事件はまた、北朝鮮本国と朝鮮総連の相互関係について私たちがどういう視点を持つべきかを改めて問いかけた。
 朝鮮総連傘下の人々が北朝鮮を祖国として率直に慕い擁護する姿勢には何一つ非難されるようないわれはない。だが北朝鮮・金正日による専制独裁支配体制がこうした人々の「祖国を慕う気持ち」に正面から応えるどころか、朝鮮総連の一部部署を労働党による諜報作戦指令対象として徹底的に利用し、場合によっては帰国同胞を「人質」として利用し、挙げ句にことが発覚して在日朝鮮人全体の地位や権益が危うくされるという悪循環が繰り返されてきた。
 朝鮮総連の置かれているこうした政治環境をふまえた上で私たち自身の主体的判断を持たなければならない。日本人拉致事件真相解明の中で浮かび上がった事実関係、そして祖国と朝鮮総連の未来のために勇気ある発言に踏み切った人々の証言はこのことを問いかけている。そしてこうした提起に対しては「植民地支配の清算すらできていない日本人にそんな干渉じみたことだけは言われたくない!」という在日朝鮮人のストレートな怒りが返ってくるという現実を受け止めながら、北朝鮮と朝鮮総連の相互関係を見据えていかなければならない。
 最近のメディアによる世論調査では日朝国交交渉「反対」が初めて「賛成」を上回っている。昨年9月の金正日による日本人拉致・抹殺自白直後の世論調査ですら国交交渉には「賛成する」が「反対する」を上回っていた。今日、日朝関係がこうした最悪の局面にあるからこそ、両政府が日朝ピョンヤン宣言の原点に立ち返って国交交渉再開に努めることを要求する。
 北朝鮮政府は拉致事件生存被害者の意思に従い原状回復(五人の子供の日本への帰国)を即時実現すべきであり、日本政府は高齢化する在北朝鮮の軍隊慰安婦ハルモニや被爆者、強制連行被害者への補償措置のための実情調査を国交交渉再開を待つまでもなく直ちに着手すべきである。そして日朝間でこれらが同時的に履行されるために私たちは闘っていこう。そして日朝はともにアジアの平和と未来のために、核開発と海外派兵を即時中止し国交交渉のテーブルに着け!  (荒沢 峻)


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