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韓国はいま                      かけはし2003.7.7号より

知らぬ間に米のミサイル防衛(MD)計画にはまってしまったのか

韓米当局者非公式会議報告書が示すもの

 「見ずとも見え、聞かずとも聞こゆ……」という仏門の教えは時には吟味する価値がある。あることを推進しながらも、その全体像を現さず、ひとつずつひとつずつ段階を踏んでいけば、人知れず望んでいたことを実現できるという意味だと読み取れるからだ。
 00年2月末、米国ニューメキシコ州アルバカーキにあるカートランド空軍基地から弾道ミサイル迎撃用に改造されたC―135輸送機が滑走路を蹴立てて離陸した。米空軍第452飛行実験団の要員らを載せて東方に機首を回した輸送機の出撃目的は航空機に搭載されたレーザーを利用して発射初期段階にミサイルを迎撃する、いわゆる「エアボンレーザー(ABL)」の実験だった。
 ギリシャ神話に登場する100個の目を持つ巨人の名前をとって「アルゴス」と命名されたこの輸送機の最終目的地は、出撃の目的と緊密に関連していた。出撃初日の夜を日本の横田米空軍基地で送った飛行実験団の要員たちが翌日、7時間余にわたったシミュレーションを終えた後、着陸した所は、ほかならぬ韓国・烏山の米空軍基地だったからだ。
 「エアボンレーザー」はミサイル発射直後弾頭が推進体から分離される前に、早めにこれを迎撃するシステムだ。発射されたミサイルにレーザーで約30センチの大きさの穴を開け、推進体内部のエンジンに圧力が加わるとともにミサイルが暴発することとなる。訓練に参加した米空軍将校は米「空軍ニュース」とのインタビューで「発射直後のミサイルがまだ直進しているときに破壊する能力を持てば、むやみにミサイルを発射できなくさせる抑止力を持つことができる」と強調した。米国防部が08年までに実戦配置する計画で推進中の最先端ミサイル防衛(MD)技術の実験場が、ほかならぬ韓(朝鮮)半島だという、ぎょっとする現実を克明に見せつける事例だ。
 韓国は米国主導のMD計画に参加しているのか? すでに3年余り前から、これをめぐる疑惑が市民社会を中心に絶えず提起されてきた。だが政府の公式の立場は変わったことがない。「米国側から提案されたこともなく、現在のところその計画もない」という答弁だけが繰り返されている。しかし現実はこれとは全く違って進んでいる。あたかも見えなくとも見えるように、わが国防部はMDに参加していないとしながらも、細切れにしてMD兵器体系を組み立てているからだ。
 6月初めに訪韓していたポール・ウォルフォウィッツ米国防部副長官は、だしぬけに駐韓米軍の防衛力増強計画を発表した。「来る06年までに総額110億ドルを投資する」、「韓国もこれに歩調を合わせて増額してくれ」と要求した。わが国防部も尻馬に乗って、延び延びになっていた次期誘導弾(SAM―X)事業など大型兵器の導入計画を相次いで発表した。
 ところで、状況はいかにも妙だ。これら一連のことを予見させる非公式会議が昨年末に開かれていたということが遅ればせながら確認されたからだ。「ハンギョレ21」が最近入手した米国の外交政策分析研究所(IFPA)が出した当時の会議についての公式報告書の内容を見ると、最近繰り広げられた一連の状況は徹底した計画の下でなされているとの感じを拭いえない。
 昨年10月8日午前、ソウル・新村の延世大に国防・安保関連の人々が早々と大挙、姿を現した。米国防部傘下のミサイル防衛庁(MDA)の後援で延世大国際大学院と米外交政策分析研究所が共同で主催した、「韓半島でのミサイル防御と反拡散戦略」というテーマの非公開会議に出席するためだった。
 この日の会議が単純な討論会以上の意味を持っているということは、参加者の面々を見ただけでも容易に気づくというものだ。韓国側の参加者だけでも、パン・キムン現青瓦台(大統領府)外交補佐官、チャ・ヨング現国防部政策室長など現政府で国防・安保の実務責任者であり、さらに、ペ・ヒョンス海軍次世代駆逐艦(KDX―V)事業処長など軍の人士を包め国防部、外交部の実務者たちや国防研究員など、国策研究機関の従事者および学界の人士など全部で33人が出席した。
 米国側からは、トマス・ハバード駐韓米大使、リアン・ラポート駐韓司令官などをはじめ、ミサイル防御庁実務者や韓米連合司の高位将校など全部で28人が参加した。特にこの中にはレイシオンやロッキードマーチン、TRWなどMD開発に参加している米軍需企業の関係者も含まれていた。
 この日の会議はbミサイルの脅威・大量殺傷兵器の拡散および韓半島の安定b韓半島のミサイルおよび大量殺傷兵器の脅威への対応方案bMD配置などが韓半島に及ぼす影響b韓米協力方案など大きく4つに分けて進められた。発言者の名前を明らかにしないまま作成された報告書を見ると、当時の韓国側のある参加者は、わが政府のMD計画参加について、このように話した。
 「韓国国防部は実質的にミサイル防衛能力を備えられるように個別の兵器獲得の手続きを踏んでいる。韓国軍の国防中期計画にそった兵器の現代化の過程だけ見ても、これはたやすく理解できる。すでに第3世代の駆逐艦(KDX―V)事業を通じてイージス体系を獲得したし、空軍の次期誘導弾事業を通じて獲得する兵器もパトリオット・ミサイル(PAC―3)が最も有力であり、早期警戒管制機(AWACS)なども確保する計画だ」。
 彼はさらに「よしんば公々然と論議しているわけではないが、これらの兵器を確保するのはミサイル防御網の構築のために極めて重要なことだ。……これらの兵器購入を通じて整えられた能力は韓米連合防御体制の下で配置されるものであるがゆえに、自動的にMDに密接に統合されるだろう」と主張した。非公式の会合という点を考慮しても、簡単には受け入れがたい発言だ。
 報告書はこれについて「(韓国側の)説明を聞いてみると、表面化せずに漸進的に国防中期計画にそって(MD関連の)兵器体系の購買が実現していくならば、公然と表ざたにして韓米両国がともにMD体制構築に乗り出すよりも効果的だろう。実質的には全く同じ結果を生み出せるからだ。むしろ利点が多い。北韓(北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国)との緊張を減らし、和解・協力に踏み出すことが現韓国政府の立場であると考えるなら、このようなやり方でMD構築を進めることが無用な政治的論争に振り回されない方向と言えるだろう」と分析した。
 別の韓国側参加者の発言も見よう。彼は「非公式的で漸進的なやり方でMD能力を備えるためには、何よりも新政府(ノ・ムヒョン政府)が国防予算をどのぐらい確保できるかが重要だ。国防中期計画をキチンと推進するためには少なくとも国防予算が国内総生産(GDP)の3%にはならなければならない」と強調した。これはウォルフォウィッツ副長官の訪韓後にあふれ出てきた国防部の国防予算増額の主張とも相まって妙な感じを与える。
 さらに耳目をひくのは、まるで米国側にさしで口でもするかのような、また別の韓国側参加者の発言だ。彼は「このような計画が推進される場合(議政府での女子中学生死亡事件後に起き始まった)反米の熱風が再現されるおそれがある。これを避けるためには、韓国のMD参加が米国側の圧力によるものだという印象を与えてはならない。また、特定の兵器体系を購入することが米国の経済的利益に符合するだとか、米国の(強硬な)対北政策に加担することになるとの印象も避けなければならない」と語った。
 あまつさえ彼は「次期誘導弾事業が米国のパトリオット・ミサイル購買計画だと映じないためには、米国がイスラエルと共同開発したアロー迎撃体系も韓国に輸出することができるとの立場を米国政府が発表するのがよいだろう」とまで付け加えた。
 このような論議を土台にして報告書は「韓国が国防中期計画を履行する過程で、すでにミサイル防衛網をひとつひとつ編みあげているが、これをあからさまに宣言していないだけだ」と評価した。これと同時に「海上配置のミサイル防衛網がキチンと作動するためには、すでに購買を決定したイージス戦闘体系のほかにもスパイ・レーダーや戦闘指揮統制体制など弾道ミサイル迎撃に必要な情報を伝達する通信体系や迎撃用最新鋭スタンダード・ミサイルの確保が必要だ。韓国政府は、このために膨大な追加投資の決定も遠からず下すものと思われる」と見通した。
 報告書の結論は、まるで当然のように韓半島にMDを成功的に配置するための韓米両国の政策課題を盛り込んでいる。まず北韓のミサイルの脅威に対して韓米両国は認識をともにしなければならないという点が指摘された。可能な限り早い時期に韓米両国の国防政策担当者がMD体制構築のための努力を傾けなければならないという点も強調された。
 だが両国の参加者たちは「韓国国民にミサイル防衛を説明することにおいて、現存する北韓の脅威を強調しすぎることよりは、統一後の韓半島が直面する安保環境のためにMDを構築するのだということに強調点を置くべきだ」ということでも認識をともにした。また米国とともに推進するという点が深く印象づけられるよりも、韓国の国防現代化計画にそってMD計画に乗り出すものと見られることが「感情的に激高した市民団体や一部マスコミの批判」を避けられる方法だという点も指摘した。興味深いことに、これは最近キム・ヒサン青瓦台国防補佐官やチャ・ヨング国防部政策室長が相次いで放送に出演して語ったことと脈をひとつにしている。
 ブッシュ行政府が発足して以来、米国は毎年70〜80億ドルをMD開発に注ぎ込んでいる。来年にもすでに90億ドルをMD用予算として議会に要請している状況だ。昨年12月、ブッシュ大統領が初期の実験段階にすぎないMDを04年までに配置すると発表すると、「天文学的予算を注ぎ込んでも望んでいる結論を手にできないMDを、大統領選挙をねらって無謀に推進している」との批判がわき起こったのも、このためだ。米国内でさえ絶えず批判の対象となっているMDに、われわれは知らない間にすでにあまりにも深くはまったのではないだろうか?
 パク・スンソン参与連帯・平和軍縮センター所長は語っている。「政府は自主国防を強調するけれども、いわゆる『韓国型MD』は米国が主導する東北アジアMDの下部組織であるにすぎない。対北抑止力の観点から先制攻撃を含む好戦的反拡散戦略と相まっており、韓米連合防衛体制の下で米国に対する軍事的従属性を深めるばかりだ。しかも短期的に北韓との軍備競争を誘導し、長期的には中国とも対立する結果を生みかねない。われわれの安保にとって何の役にも立たないようだ」。(「ハンギョレ21」第464号、03年6月26日付、チョン・インファン記者)

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