イラク侵略戦争めぐる「亀裂」の意味
六月一日から三日間の日程で、フランス、スイス両国の国境をなすレマン湖のほとりにある保養地エビアンで主要国首脳会議(サミット)が開催された。参加国は、アメリカ、カナダ、フランス、イギリス、ドイツ、イタリア、ロシア(今年から正式メンバーとなる)、日本のほかに、昨年のカナダ・カナナスキスサミットからはじまった「途上国との対話」のために特に招待されたアルジェリア、ブラジル、中国、エジプト、インド、マレーシア、メキシコ、ナイジェリア、サウジアラビア、セネガル、南アフリカという「途上国、非同盟諸国、アフリカの代表の指導者」、エビアンに隣接するという理由で招待されたスイスのクシュパン大統領、国連のアナン事務総長、世銀のウォルフェンソン総裁、国際通貨基金(IMF)のケーラー専務理事、世界貿易機関(WTO)のスパチャイ事務局長が参加した。
エビアンサミットはイラク戦争の硝煙がいまだ消え去らぬなかで開催された。サミット開催を前後してマスコミで盛んに、イラク戦争で生じた米英と仏独の亀裂が修復できるか否かに焦点を当てた報道が行われた。事実ブッシュ米大統領は、サミット二日目の途中で退席しエジプトへ向かった。今回の対イラク侵略戦争に象徴されるように、ブッシュにとってG8や国際機関などは、協調が図れる場合には大いにそれを活用するが、それが不可能な場合には単独で、あるいは同調する国との共同行動で十分である、ということに過ぎない。今回のサミットでもその姿勢は明確であった。
フランス訪問に先立ってポーランド、ロシアを訪問し、サミットでは途上国との対話に参加したという行動は、明らかに来年の大統領選を意識したものである。アメリカのポーランド系、ロシア系有権者は、選挙戦が接戦になった際には無視できない勢力になる。また「弱者配慮」を打ち出す民主党の機先を制するためにも、第一日目に行われた途上国との対話への参加は、ブッシュにとっては必要なことであった。なお、ポーランド訪問一カ月後、アメリカは、イラク戦争に特殊部隊を派遣した「功績の報償」として、ポーランド軍を、およそ二十カ国七千人からなるイラク治安維持部隊の指揮軍として指名している(朝日新聞、6月28日)。
サミット開催日の一日、サンクトペテルブルグで行われた米ロ首脳会談後の記者会見で、ロシアのプーチン大統領は、「ロシア企業はイラクで豊富な経験がある。専門性と経験を国際社会に提供したい。ロシア企業をイラクから排除することはできない」と、本音をのぞかせた。これが戦争に参加しなかったG8諸国の本音である。
同じ記者会見でブッシュは慎重に次のように語っている。「ロシアは(原油開発に)長い経験を有するが、決断を下すのはイラクの統治機構だ」。そしてバクダッド陥落後、復興事業という莫大なビジネスチャンスを制したのは、米ベクテル社であった。ベクテル社は軍需産業や港湾事業、水道などのインフラ事業を世界的に展開し、歴代の米政府閣僚が顧問などの要職につき、百四十カ国で水の民営化プロジェクトに関与し、ボリビアのコチャバンバにおける水の民営化での悪行でも有名な多国籍資本。同社は向こう十八カ月で六億八千万ドルのイラク復興に関する契約を獲得した。復興事業は十年近く続くとの予測もある。
フェミニズム運動や反グローバリゼーション運動のスポークスパーソン的存在でもあるバンダナ・シバは「この契約によってベクテルは長期にわたる復興計画――一千億ドル以上が見込まれる――の運転席に座ったも同然である。ベクテルは金儲けのライセンスを与えられたが、このライセンスは政府にコネがある一握りの企業家に限定された密室での話し合いによって与えられたのである。サダムの独裁体制が米国企業の独裁体制に代わりつつある。……血は石油のためにだけ流されたのではない。水やその他の基本的サービスの支配のためにも流されたのだ」と批判している(「サンド・イン・ザ・ホイール」日本語版03年第16号)。
今回のサミットでイラク復興問題が公然と議論されなかったのは、多国籍資本の代弁者たる各国政府の水面下の駆け引きがおこなわれており、調整のつかないまま公然とサミットの議題とすることができなかったからである。
イラクへの侵略戦争をめぐる帝国主義諸国間の「亀裂」は、新自由主義的グローバリゼーションの推進という「団結」の中で生じた事態であることを、われわれはこのエビアンサミットで再度確認しなければならない。
「水に関するG8行動計画」
シラクは今回のサミットの正当性を「演出」するためだけに途上国やアフリカ諸国をサミットに招待したわけではない。サミットのなかでシラクは「特にアフリカの発展途上国に対して、すべての人が衛生的な水を利用できなければならない」ことを強調した。フランスにとって「水」は人々の生活に欠かすことのできない人権としてではなく、莫大な富を保証し、他国の多国籍資本との競争において優位に展開することのできるビジネスの道具としてクローズアップされている。
今回、ミネラルウォーターで有名なエビアンでサミットが開催されたのは故なきことではない。そこにはフランス資本の水を通じた世界戦略が色濃く反映されている。世界の二大水資本であるスエズ社とヴィヴェンディ社はともにフランスを本拠とする多国籍資本である。両社はフランス国内で八五%、世界では七〇%の市場を独占している。スエズは百三十カ国で拠点を持っており、一億千五百万人に水を供給するプロジェクトを持つ。ヴィヴェンディ社は百カ国、一億千万人に水を供給している。
スエズ社やヴィヴェンディ社など多国籍資本による水の民営化は、世銀によって民営化の成功例として持ち上げられてきたが、いまではほとんどの人間がそれを真に受けることはなくなっている。九〇年代に多国籍資本と世銀、IMFなどによって進められたアルゼンチン・ブエノスアイレスの上下水道の民営化の顛末がその著名な例である。
民営化政策を推進したアルゼンチンのメネム政権のもと、九〇年十二月に世界銀行は「アルゼンチン新調整プロジェクト」で三億ドルの貸付を行い、九三年にはフランスの二つの多国籍水資本(後にそれぞれスエズ社とヴィヴェンディ社によって買収)がブエノスアイレス一千万人市民の上下水道を請け負う契約を落札した。しかし民営化の後、ブエノスアイレスの水道料金は二〇%上昇し、多くの貧困家庭の家計を圧迫した。
昨年のアルゼンチンの経済危機の後、スエズ社とヴィヴェンディ社の合弁で作られたアルゼンチンウォーター社は、ブエノスアイレスの水道料金を四二%引き上げることを宣言した。世銀はこれまで民営化の成功例としてブエノスアイレスの水道事業の民営化を持ち上げてきたが、結局昨年末スエズ社が「儲からない」ことを理由に撤退をほのめかした。
多国籍資本は政府による補助金や世銀による低金利融資などによる保護がなければ、魅力的なビジネスを展開することができないことをあけすけに語り始めている。その流れの上で、今回のサミットで採択された。「水に関するG8行動計画」を読み解かなければならない。
同行動計画では「官民の連携(パートナーシップ)を推進する」「国連とブレトンウッズ機関、地域開発銀行及びさまざまな関係者との協調の強化の重要性を強調する」ことが掲げられた。ブレトンウッズ機関とはいうまでもなく世銀、IMF体制である。水問題の解決をめざす「官民の連携」は「PPPs(パブリック・プライベート・パートナーシップ)」と呼ばれるが、水問題に取り組む世界のNGOからは「(PPPsによって)真の勝者となるのは、スエズやヴィヴェンディ、テムズウォーターなど、ヨーロッパに本社を置くグローバル水企業のみである」(オリビエ・フーデマン、「環境・持続社会」研究センターウェブサイトより)と批判されている。
二〇一五年までに安全な飲料水を利用できない人口の割合を半減させるという国連ミレニアム開発目標(MDGs)に設定された目標と、二〇一五年までに基礎的な衛生施設を利用できない人口の割合を半減させるというWSSD(02年8月26日から9月4日まで、南アフリカ共和国のヨハネスブルグで開催された、国連の環境/開発会議)の実施計画文書に設定された目標は、世界水フォーラムやWTO・GATS(サービス貿易に関する一般協定)を通じて、多国籍水資本による水の私有化という真の目的をあらわにしつつある。
「水に関するG8行動計画」は、衛生的な水にアクセスできない十一億の人々のために発せられたのではなく、世界的な経済停滞のなかで主に途上国に対する新規事業の展開のための支援をもとめる多国籍水資本の要請から発せられたものなのである。すべての帝国主義諸国は、水の民営化を含むサービス貿易の自由化を暴力的に推進することになるWTO・GATSの交渉を一致団結して推進することをあらゆる機会を通じて表明している。
「途上国との対話」とは何だったか
エビアンサミットは「途上国との対話」で幕を開けた。それはグローバル化の負の側面として批判されている貧富の格差の拡大に対して、G8諸国が責任をもって対応しようとしているという「決意」を世界に示すためのものであった。しかしその決意は単なるポーズにすぎない。
G8諸国は、二〇〇〇年沖縄サミットを前に世界的に盛り上がったジュビリー二〇〇〇(債務帳消し運動)を中心とした世界的な運動に押される形で債務の一部帳消しに同意せざるを得なかったが、貧困を固定化し格差を拡大する途上国の債務が実際にはほとんど帳消しにされていない。
昨年のカナナスキスサミットでは、「アフリカ自身で貧困の撲滅や持続的な成長を目指す」とされている「NEPAD(アフリカ開発のための新パートナーシップ)を受けて、G8アフリカ行動計画が策定された。エビアンでの「途上国との対話」では途上国政府の腐敗防止と投資ルール作り、ODAの質の向上と効率化、債務削減問題などが論点となった。しかしその重点が決して途上国の債務削減にあるのではないことは、G8自身も認めている。
日本の外務省幹部は、「(G8は)ODAだけでは足りない開発支援に民間資金の流れを作る」ことを念頭においている、と語っている(朝日新聞6月2日)。またNEPADは「基本構想がタボ・ムベキ(南ア)大統領によって作られたことからも分かるように、アフリカ大陸全体をグローバリゼーションの荒波に投げ込むための、G8に対する約束文書」である(本紙02年10月7日号「ビジネスのための会議に堕した環境開発サミット」福島康真)。
帝国主義諸国による「途上国支援」は、資本主義的グローバリゼーションを通じて解決するという流れの中で、あらたな途上国搾取ビジネスになっている。債務帳消し運動の世界的世論を受け、日本を除くG7各国はすべての二国間債務を帳消しにすることを約束したが、日本政府は返済と交換に同額の無償援助を提供することを約束した。周知の通りこの無償援助とはひも付き援助と呼ばれ、援助を受ける国はこの援助で日本資本の提供する商品を購入しなければならない。途上国支援の国際的NGOオックスファムは今回のサミットにおいて途上国支援について「前進はゼロに等しい」と批判している(朝日新聞6月21日)。
また今回「途上国代表」として招待された国々の大半は、G8が「反テロ国際包囲網」を構築する上での協力が不可欠である国であるということ以外に、それらの国々が各大陸・地域での経済的・軍事的イニシアチブを持っている、あるいはグローバリゼーションを率先して推進している国であるということにも注意が必要だろう。
なかでも南アフリカは顕著である。「現在、南アフリカ政府は、その経済政策をアフリカ大陸全体に広げようとしている。昨年、発足したAU(アフリカ連合)の基本的政策文書であるNEPAD(アフリカ開発のための新しいパートナーシップ)を通して、新自由主義的経済政策をアフリカ大陸に導入するとともに、南アフリカがG8や国際金融機関、多国籍企業の大陸の窓口になろうとしている。その結果、アフリカ各国で民営化が進められ、国民の財産が次々と多国籍企業の所有物になっているだけでなく、南アフリカ資本もアフリカのあちこちに進出している」(「第三回世界社会フォーラムに参加して考えたこと」福島康真、ATTAC―Japan『公共サービス研究』4号)。
世界の社会運動への「宣戦布告」
G8は、暗礁に乗り上げているWTOの新ラウンド立ち上げの交渉について、九月のメキシコ・カンクンで行われる第五回WTO閣僚会議で新ラウンドを立ち上げるために一致団結して交渉を推進することを宣言した。
宣言は冒頭から独断とうぬぼれと欺瞞によって塗り固められている。「われわれは、五十年以上にわたり国際的な成長、安定、持続可能な開発にかくも多大に貢献をしてきた多角的貿易体制への信頼と誓約を強調する。継続的な貿易自由化はより強固な国際貿易ルール及び規律と組み合わされることで、G8諸国及びその他特に開発途上国の双方において、世界経済の成長への最適な途を示していると考える。このように、世界貿易機関(WTO)に体現される多角的体制及び現在のドーハ開発アジェンダは、世界経済を活性化し、雇用を増大させ、持続可能な開発を加速し、国際的な統治を改善し、貧困を撲滅するためのG8の取組にとり中心的なものである」(「貿易に関するG8協調行動」)。
しかし九九年シアトルの闘い以降、WTO体制に象徴されるグローバリゼーションへの批判は世界的な運動になりつつある。五月にメキシコで開催されたFTAAとWTOに反対する半球/地球集会から世界の社会運動に発せられた宣言は、次のようにWTOを批判している。
「WTOはいかなる意味においても戦争である。WTOとは、途上国の経済を再び隷従させて多国籍企業の利益に貢献しようという最も野望に満ちた努力を表したものである。WTOに具体化されている新自由主義的な自由貿易のパラダイムは、南と北の人々の利益を破滅させる。そこから受け継がれているものは、世界の隅々で見られる貧困、不平等、ジェンダー差別、および負債の拡大である。さらに、それは地球環境の破壊も促進してきた」。
G8はエビアンサミットで再度この戦争―――WTO体制の確立―――の宣戦布告を世界の社会運動に対して発した。ジュネーブ、ローザンヌでは十万人を動員したG8に反対する行動が取り組まれた。ジュネーブではWTO事務局の看板が引きはがされた。
九月のWTO閣僚会合に向けて、各国の社会運動団体が取り組みを開始している。日本においても運動の下地を作るための活動が開始されつつある。「別個に進んでともに撃て」。いま日本の運動に問われているのは、別個に進んできた運動が「ともに撃つ」ことである。ともにグローバリゼーションを推進するG8を、ともにWTOを、そして何よりもともにグローバリゼーションの要請としての生産力の対外拡大を軍事的に保障しようとする小泉政権を撃たなければならない。
日本では有事法制が国会を通過し、労基法改悪が強行される状況が示すように、四半世紀近くに及ぶ労働者運動の後退戦が続き、その闘争はいまだ反撃の狼煙をあげられていないことが、社会運動の本格的な登場に大きな影を落としている。しかしこの厳しい十年間を乗り越えてきた闘う労働運動とラジカルな市民運動、そして国際主義に根ざした日本左翼が、世界的な反グローバリゼーション運動に合流し「もうひとつの世界は可能だ」というスローガンをそれぞれの運動の場で実践し、つなげていくことによって、もう一つの日本を可能にするだろう。03年6月29日(早野 一)
ボベさんを即時釈放せよ!
釈放を求める署名に協力を
ATTAC Japan(首都圏)
六月二十二日早朝、治安当局の特別部隊はボベさんの自宅のガラスやドアを叩き壊して、就寝中のボベさんに手錠をかけ、ヘリコプターで刑務所に移送し、収監しました。こうしたシラク大統領の卑劣なやり方は、ボベさんをテロリストであるかのごとく見せて、収監を正当化するためのものです。
ボベさんは九九年六月に遺伝子組み換え(GMO)イネを引き抜いた件で器物損壊罪で起訴されていましたが、今年二月に、GMOに関する同様なもう一つの件と合わせて禁固十カ月の刑が確定しました。
シラク大統領は「法と秩序を守る」という口実で、言わば見せしめ的にボベさんを収監しました。これは、年金改悪反対デモなど再燃しつつある社会運動を押さえ込むことと、シラク大統領を支持する農民組織FNSEAが自分たちの要求を通すために過激な行動に走り、相当な逮捕者を出しているという傾向に歯止めをかける目的があると言われています。
ボベさんは「自分は逃げも隠れもしない」、「GMOを破壊することは我々の権利である」と述べており、こうしたボベさんの行為はフランスのみならず世界の人々から支持されています。
昨秋、ボベさんは来日して、私たちにGMOやWTOに反対する正義を守るための闘いの重要性を訴えました。そして、ボベさんの話に共感した多くの人たちがボベさんを収監させないための署名運動に協力しました。
現在、フランス農民連盟は「シラクを監獄へ、ボベを家に(Chirac enprison, Bove a la maison)」というキャンペーンを開始し、シラク大統領にボベさんの即時無条件釈放を要求しています。私たちATTAC Japanもこの呼びかけに応えて、ボベさんを釈放させるための運動を開始しました。
どうぞ、多くの皆さんが、この署名に協力してくださるよう呼びかけます。
二〇〇三年六月二十八日
署名集約先:ATTAC Japan事務局 〒113-0001東京都文京区白山1-31-9小林ビル3F ピースネット気付TEL:03-3813-6492FAX:03-5684-5870
(アタック宛)メール:attac-jp@jca.apc.org
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