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9月WTO閣僚会議対抗アクションへ          かけはし2003.7.14号より

多国籍企業の支配はごめんだ

脱WTO草の根キャンペーンがスタート

 暮らしと働く現場から考える

 六月二十八日、「脱WTO草の根キャンペーン全国実行委員会」主催による同キャンペーン立ち上げ集会が、豊島区民センターで七十人以上の参加で行われた。集会では、キャンペーン実行委員(アタック・ジャパン)秋本陽子さんの司会あいさつの後、キャンペーン事務局長大野和興さんのコーディネートで、四人のパネリストから、いま現場で何が起こっているか、その問題とどう対抗しているか中心に話が進んだ。
 まず、「村から」と題し、新潟農民の峯村正文さんが「村から田畑と人が消える」と題して現状報告。
 「自分の村では、農業用堆肥センターを山間部に持っていこうとしている。農民すら堆肥センターに反対している。悪臭がするという。それが農業のはずだった。このことからも、暮らしや食のあり方が、本来どういうものか分からなくなってきていると言える。こんな中、体制派が強いのかといえば、否であり、高齢者ががんばっている。地球に優しい循環的な農業を工夫している。また、市町村合併がはやっているが、自分たちで自分たちの村のことを考えられない現実の結果でもある。自治の力も明日はなくなってしまうのではないか」。
 中小労組政策ネットワーク事務局長、平賀健一郎さんは、「職場から/働くものの権利が一五〇年前に逆戻り」との題で報告。今年の労基法改悪で、働くものの権利が比喩的にであれ百五十年前の水準に戻ってしまった。自分たちの組合は全国一般とか地域ユニオンで構成される脇役であったが、資本・工場移転の結果である国内の失業・リストラ攻撃と対決するばかりでなく、もう一度アジア諸国に闘う労働運動を組織することで主流に挑戦したいとの熱弁。
 続いて、日本消費者連盟事務局長・水原博子さんは「食卓から/食の不安の背後にあるもの」とのテーマで報告した。
 「一九九五年WTO設立と同時に、食の自由化が一挙に進行したが、自分たちの立場は、『食べ物は商品ではない』としてきた。しかし、自由化の結果、BSEや残留農薬など安全性が脅かされ、食品業界のモラルハザードが吹き荒れた。さらにWTO体制の問題性は、SPS協定(衛生植物検疫措置に関する協定)で、安全基準の国際的下位平準化を図り、その基準をつくるコーデックス(食品規格)委員会は、特定分野での基準をつくりたい国が議長国となり、任意で課題を設けることができ(例えば、日本はバイテク委員会を設定)、委員会を切り盛りし採決していく体制であり、また、遺伝子組み換え(GM)食品を拡大する体制でしかない。五月十六日成立した食品安全基本法でも食品安全委員会は内閣府の下にあり、消費者の代表を排除している」。水原さんはこのように述べ、食の実態を告発した。
 最後に、駒ヶ根カソリック教会司祭、マッカーティン・ポールさんは「生命にも特許の網が」と題し、次のように語り出した。「生命が多国籍企業の特許の餌食となっている。カナダでは、ナタネの種子がモンサント社に遺伝子組み換え(GM)で特許化され、その耕作地から花粉飛来で自分のナタネが汚染された地元農民が、逆にモンサント社に特許料を払わずにGM種子を使っていると訴えられ、二審まで会社が勝利判決を得ている。シュマイザーさんという方だが、今、日本各地を講演している(シュマイザーさん講演会報告は別掲)。自分は何もしていないのに訴えられてしまう! GMの種子は毎年購入しなければならない。となると、価格誘導などで会社は農家の作付けまで指示できてしまう。ブッシュ・アメリカ大統領は、GMOの必要性を説くが、農民が貧困化する現実を分かっていない。いまや松の木にもGM化が進行中だが、その花粉が遠く日本まで風に乗り飛来し、混ざってしまったら、日本人はモンサント社から訴えられるときが来るかもしれない」。
 「医薬品も同様だ。乳がんの特定遺伝子をアメリカの製薬会社が特許化してしまったために、特許が認可されれば乳がん検査の料金が(特許使用料支払いのため)三倍以上になってしまう実態だ。HIV/エイズに感染したと思った人が、自分は発症しないのが変だと思い、ある研究機関に遺伝子を調べてもらったところ、その人のある部分の遺伝子が壊れていて、エイズが発症しないことが分かった。ところがその研究会社は、その遺伝子を本人には通知せず、特許化してしまったという。その遺伝子はその人のものなのに……。冗談ではない現実だ。医薬品会社・アグリビジネスの研究者は、世界の先住民の遺伝子ばかりか、各地の植物、動物の遺伝子を先を競って調査している。これらすべては、WTOが先進国に有利な特許制度をTRIPS協定(知的所有権の貿易関連側面に関する協定)により、第三世界に強制するもので、私たちは少なくともTRIPS協定の二七条三のB項を変えなければならない」。
 会場からの質疑・発題でポール司祭は「インドのニーム樹は、はるか昔からその外皮の絞り汁が病気を治す薬として伝承されてきたが、アメリカ企業がこの樹の有効成分を得る絞り方まで特許化した。一方、アフリカのある国が特許化したエイズ薬を患者のため安く作ろうとして、特許取得会社から訴えられたが、国内外の抗議の声で訴訟をあきらめたケースもある」と答え、TRIPS協定めぐる企業と民衆の攻防の様子を紹介した。
 日本ネグロス・キャンペーン委員会からは、フィリピンでは包括的農地改革(大地主から小作農への土地の分割)プログラムが政府で合意されながらまったく進まず、東南アジア自由貿易圏協定締結というグローバル化の下、タイなどから安価なサトウキビが輸出され、フィリピンではオクラとアスパラガス耕作のプランテーション化へと元地主が転換する過程で、彼らが雇う私兵集団が、土地改革で分割された自分の土地を耕作する小作農を襲撃・殺害する事件が発生しているという許しがたい状況が語られた。
 さらに、フィリピン・トヨタ労組を支援する会からは、日本経団連会長奥田(トヨタ会長)は、自社で一兆円を超える利益を出しながら、企業内労組にはベースアップ・ゼロで妥結させ、フィリピンでは、九八年に結成された労働組合に法的な攻撃を仕掛け、そればかりかフィリピン政府にも投資撤退の脅しの圧力をかけ、刑事事件のでっち上げなどで解雇者二十五人という攻撃を強いていることが報告された。しかし逆に、日本の労働運動にとって実に五十年ぶりに、企業城下町豊田のトヨタ本社に、来日したフィリピントヨタ労組の労働者と支援の赤旗が翻る闘争となったという、アジアの労働者の闘いから日本の労働者が元気づけられている現況報告があった。
 その後、コーディネーターの大野さんから各発題者にまとめの質問。
 まず、WTO閣僚会議の最大の中心点である農業交渉では、稲作への助成金を長期にはゼロにするよう求められていることに対し、一農民としてはどうか、との質問に峯村さんは、「いま地域の農民は圃場整備の償還金(借金)すら払えない経営状態。農地を買って欲しいと言ってくる人も多い。しかも、政府の計画は十万人都市構想で、地域が残れない。それでも、地元の学校給食に地元の作物を提供する動きもあるが、根本のところで揺らいでいる状態」と説明した。
 会場からもたくさんの質問や意見が出されたが、最後に、ここではさまざまな運動を担っている人たちがおり、その運動と運動とのつながりはできているのか――という質問。
 中小労組ネットの平賀さんは、「札幌での労基法改悪反対の集会のため、ナショナルセンターの垣根を超えて呼びかけた結果、百人が時計台前公園に集まった。同時期にイラク戦争反対でワールド・ピース・ナウが呼びかけた札幌の集会には千人が集まった。日本では働く者が六千万人いる。従来のナショナルセンターを超えて……という考えだけでなく、世論形成をどう作っていくかといったレベルの発想が必要だ」と締めくくった。

 WTO問題だけでも、南北問題から農業問題、環境・生活の問題、公共サービスの民営化、FTA(二国間自由貿易協定)など多岐にわたり、私たちからは見えにくいところで協定が決まっている。
 こんな仕組みはごめんだ!と始められた「脱WTO草の根キャンペーン全国実行委員会」。いま集会に合わせ「WTOって誰のため」というミニ・リーフレット(一部五十円)を発行した。今後、同キャンペーンでは各地の闘いと交流しながら、九月WTO第五回閣僚会議(メキシコ・カンクン)対抗行動への派遣、国内での前段省庁交渉やシンポジュウム(九月五日)、そして、国際的に呼びかけられている九月十三日、グローバル・マーチ・デー〜グローバリゼーションと戦争に反対する大規模な行動など予定している。 (S)
 詳しいことは、東京都文京区白山一\三一\九小林ビル3Fアタックジャパン気付 TEL:03-38136492 FAX:03-5684-5870 /e-mail=owner-derail_wto@freeml/com



遺伝子組み換え作物にNO!
モンサントと闘う農民・シュマイザーさん講演会
国際的ネットワークで反撃しよう

 七月三日午後から千駄ヶ谷区民会館大ホールで、カナダ農民シュマイザーさん(72歳)の講演会が開催された。集会には、多くの生協団体の賛同もあって、三百人近くの人で会場一杯となっていた。講演前の主催者あいさつで、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンの安田節子さんは、「ようやく二〇〇一年から食品の一部に遺伝子組み換え作物の表示が義務化となったが、いまやその数は四十七品目となり、国内でのGMO栽培は、大豆、稲で開始されてしまった。カナダのシュマイザーさんの敗訴は、全世界農民の敗北にもつながりかねない」と懸念を表明した。
 韓国からも「韓国反GMOネットワーク」の代表が来日しており、韓国では一九の農民・消費者団体が一体となったネットワークが二〇〇〇年に形成されている。  (S)

パーシー・シュマイザーさんの講演から
遺伝子組み換え種子で畑を汚染された被害者を攻撃する企業と司法

 カナダ中央西部(サスカチュワン州)で先祖代々、農業を営み、キャノーラなたね・豆などを生産して五十年になる。地区組長、州議会議員、連邦や州の農業委員として二十五年間務めてきた。一九九八年、モンサントのGM種子を違法に入手し栽培したとして私は訴えられた。しかし五十年間、私と妻が育ててきたキャノーラなたねの種子がモンサントの種子に汚染させられたのであり、それはモンサントの罪だ。
 ところが、カナダ連邦法にもとづく特許法違反で、一人の判事が出した判決は、私の畑の脇の側溝でモンサントのGM作物が発見されたのは事実だから、@種子がどのように汚染されたかは問題ではないAモンサントの作物に汚染されたら特許料は払うべきだB九八年以降の収穫物はすべてモンサントに渡すべきだC今後私の畑の種子の使用は禁止――というものであり、一年経て連邦裁判所もモンサントへの勝訴判決を出した。昨年十一月最高裁に上告し、来年一月が審理となった。
 モンサントのやり方は、農家が交わす契約書を見れば分かる。この契約書では、@農家は自分の種を使えないAモンサント以外からは種子は買わないB肥料・農薬もモンサントからのみ購入C契約書の内容など守秘義務D一ヘクタール当たり四十米ドルの支払いEモンサント・ポリスがチェックのため三年間訪問することを認めるFモンサント・ポリスの自由な通行権、捜査権(畑ばかりか売上伝票までもチェックしている)まで約束させられる。
 これをどのように農民たちに強制していくのか? モンサント・ポリス(アメリカでは警備調査会社に委託)ばかりでなく、農民同士の監視を奨励しているのだ。モンサントでは、通報者には革ジャケットをプレゼントすると宣伝している。これは長い間培ってきた地域コミュニティを破壊するものだ。
 最初は、まず、除草剤に強い種子だといってモンサントの種子を広めてしまう。次に、モンサント・ポリスが突然農家の畑を訪れ、お宅の畑にモンサントの作物が混ざっているかもしれないといってサンプルを取っていく。さらにその次に、書類(損害賠償請求書や示談書)を送りつけてくる。そして最後に、家にモンサント・ポリスがやって来て、示談に応じなければ、裁判に訴えられ土地はなくなってしまうぞと脅される。これで皆泣き寝入りしてきた。
 GMO反対の根拠には大きく三つあり、農業の問題、健康への影響、そして環境汚染。今回は農業の面から強調したい。一九九六年からアメリカ・カナダでGMO作付けが始まった。当初、モンサントはGMOを使えば収量が上がり、栄養価も高く、農薬は少なくなると宣伝した。ところが数年後実際に起こったことは、収量は一五%マイナス、スーパー雑草といわれる普通の除草剤では枯れない雑草がはびこり、農薬も三倍使用しなければならなくなった。これでは、世界の食糧問題が解決すると言われてきたことと全く反対だ。
 また、GM作物は大豆やなたねだけに影響するのではなく、なたねで言えば、カブや大根、野生マスタードという類似の系列にも影響する。そして、何より閉鎖しておけない。
 したがって、GM作物があるところでは有機農業はできない。従来の種子も穫れず、全滅してしまう。そして、最後に種子がGMだけになった時、何らかの天候異変などでその作物が全滅してしまう可能性も強い。モンサントは一月前、新たにGM小麦の導入を発表したが、カナダでもアメリカでも反対の声は強い。GM小麦が導入されたらカナダの農民は全滅してしまう。大豆・なたねはEUには売れず、カナダの大豆販売は国内とアメリカ・メキシコだけになり、経済的にも苦しい。
 私はこの問題を訴えにアフリカにも訪れた。GM作物を導入し、自分たちの種子への自家採種を放棄したら、新たな植民地になり、多国籍企業が民衆を支配する大きな力を得ると警告して歩いた。そして、GM作物によって生物の多様性は失われてしまい、それ以外の手段もなくなってしまうと訴えてきた。(講演要旨。文責編集部)


〈資料〉
遺伝子組み換え作物作付反対東京集会声明

 いま、世界の遺伝子組み換え作物の栽培面積は拡大しています。ISAAA(国際アグリバイオ技術事業団)が今年発表したデータによると、昨年の作付け面積は五八七〇万ヘクタールで、日本の国土の一・五倍、一九九六年に作付けされて以来毎年増え続けていることが分かりました。
 米国では今年、遺伝子組み換え大豆の割合は、全大豆の八〇%を占めるまでになり、食料の多くを外国、特に米国に依存している私たちの食卓での、遺伝子組み換え作物の割合が高くなっています。その大豆は、モンサント社の除草剤耐性大豆1品種であり、綿も同社の独占です。ナタネもトウモロコシも同社の種子の市場占有率は高く、遺伝子組み換え作物の大半をモンサント社が支配する事実上の独占状態となっています。
 日本では、バイオ作物協会(長友勝利代表)が、日本モンサント社と一緒に除草剤耐性大豆の作付け運動を進めています。二〇〇一年には全国九カ所で、二〇〇二年には六カ所で作付け、今年も何カ所になるか不明ですが、茨城県谷和原村などで準備を進めています。
 もし、本格的に収穫を目指して作付けすると、何が起きるか分かりません。花粉の飛散によって周囲の大豆が汚染され、除草剤で枯れない雑草などができるなど、遺伝子汚染の拡大が懸念されます。作物はいったん野外で作付けされると、人間のコントロールを失なってしまいます。現在起きているメキシコ原生種の汚染など一連の生態系破壊が、そのことを雄弁に物語っています。シュマイザーさんのように、遺伝子汚染の被害を受けた上に、モンサント社によって特許権侵害で訴えられるケースが増加する可能性もあります。
 次に登場する遺伝子組み換え作物は、稲と小麦です。米国のモンサント社は昨年末、農務省と食品医療品局に遺伝子組み換え小麦の作付けと販売認可の申請を行いました。モンサント・カナダ社もまた、政府に申請しました。いずれも除草剤耐性小麦です。日本での申請も間近と見られています。
 一方、稲もまたモンサント社は、除草剤耐性稲のアジアへの売り込みをもくろんでいます。しかし、日本では私たち市民の力で、モンサント社と愛知県が共同開発した「祭り晴れ」を、昨年末に開発中止に追い込みました。しかし、多国籍企業の進出に歯止めをかけたと思った矢先に、日本の公的研究機関で開発された遺伝子組み換え稲が、北海道、岩手、茨城の三カ所で野外実験が認可され、実験が始まりました。
 私たちは、遺伝子組み換え作物の国内作付けを認めるわけにはいきません。遺伝子組み換え大豆の作付けを阻止し、遺伝子組み換え稲の野外実験をやめさせましょう。
 私たちの大地に遺伝子組み換え作物はいりません。私たちの食卓から遺伝子組み換え食品をなくしていきましょう。
 植えたらオシマイ!遺伝子組み換え作物の作付を止めよう!東京集会参加者一同(実行委員会)遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン、日本消費者連盟、大地を守る会、日本有機農業研究会、生活クラブ各単協



ボベさん即時釈放を
「ボベ・アラ・メゾン」
ATTACジャパンがフランス大使館に抗議

 七月二日、ATTACジャパンは、六月二十二日に治安当局の特別部隊によって自宅から刑務所に強制的に移送・収監された仏農民連盟のジョゼ・ボベさんの即時釈放を求める行動をフランス大使館に対して行った。ボベさんは、遺伝子組み替えイネを引き抜いたとして「器物損壊罪」で有罪が確定していたのである。
 ATTACジャパンは、反グローバリゼーション運動の闘士と連帯する闘いとしてこの日の行動を取り組んだ。平日の昼間にもかかわらず、約二十人がこの日の抗議行動に結集した。ATTACジャパンの仲間が、フランス大使館にボベさんの暴力的収監に抗議し、即時釈放を求める要請文をフランス大使館の館員に手渡したあと、フランス大使館前でアピール行動。ボベさんの釈放を求めるフランスでの行動に参加したATTACジャパンの湯川順夫さん、フランスの階級的独立労組であるSUD\PTTと交流してきた郵政4・28被解雇者の池田実さんの報告を受けた後、平和フォーラム、国労闘う闘争団などからともに反グローバリゼーションの運動に取り組むあいさつを受けた。
 大使館前では「シラク・アン・プリゾン、ボベ・アラ・メゾン」(シラクを監獄へ、ボベを家へ)などのシュプレヒコールが繰り返され、仏文のチラシも昼休みで外出してきた大使館員などに手渡された。
 ボベさんの闘いに連帯し、九月にメキシコのカンクンで開催されるWTO総会に日本から反対していく脱WTO草の根キャンペーンの行動をさらに力強く広げていこう。(K)                                    



日本からの原発ユニット持ち込みに台湾で怒りの抗議行動
貢寮漁民を軸に海と陸で闘いぬく


 台湾第四原発の原子炉ユニットがついに今日の早朝に上陸した。第四原発の工程はユニット組み立ての段階に突入した! この歴史的な瞬間は、貢寮郷民の心中は最も痛み、米日の原子力産業の「怪獣」が上陸し、第四原発を建設しなければ台湾経済は後退すると語る資本家の鼻息が最も荒くなる瞬間であり、それ以上に民主進歩党(以下、民進党)が反核運動に背いた決定的な瞬間である。
 今日の早朝四時、空がうっすらと明るくなり始め、海岸一体は静寂に包まれていたが、三十二台の第四原発原子炉ユニットを搭載した「ハッピー・バックナー号」が、基隆港を出港し、保安警察第七総隊(水上警察局)が多数の護衛艦を出動させるなか、七時五分に大型貨物専用港に入港し、原発の「巨大怪獣」が上陸した。
 貢寮区漁協は六時半に貢寮郷漁協に動員をかけ、漁協会長の呉文益が三つの点に関して声明を発表した。
 一、台湾電力によるとユニットを輸送する船舶のトン数はきわめて大きく、多数の護衛艦によって守られているという状況から、漁業に影響を与える懸念があり、漁民に関心を寄せる漁協は、出航して状況の観察と把握を行う。
 二、塩寮反核自救会と反原発団体からの情報によると、今回輸送されてきた原子炉ユニットは欠陥品であることから、漁協は郷役所、塩寮自救会とともに、日本の未成熟な原子力産業によって輸出された欠陥品を政府が正式に日本に送り返し、原発の安全を重視するよう呼びかける。
 三、大型貨物専用港の遮蔽効果(突堤による潮の流れの変化で、突堤周囲の堆積が変化すること:訳注)はすでに塩寮砂浜と海岸の環境を破壊しており、原子力委員会も第四原発工事の重大な失策であると認めており、環境監督機構が「真実の」環境報告を行うことを希望する。
 声明を発表した後、漁協はすぐに船を出港させ、原子炉ユニットの搭載された「ハッピー・バックナー号」の行く手を阻んだ。しかし保安警察第七総隊の護衛の下、「ハッピー・バックナー号」は入港を果たした。漁協は保安警察第七総隊に抗議文を渡した。
 輸送船は接岸した後に積み下ろし作業を行った。塩寮自救会、貢寮郷民、緑色公民行動連盟など数十人が澳底(地名)仁和宮(航海の安全をつかさどる媽祖神を祭る:訳注)に集まり、陸上の抗議行動を展開した。台湾電力のニセ情報が何日も続いたなかで、貢寮郷民と反原発団体は心身ともに疲労困憊のきわみであったが、闘争意欲は依然として意気揚々であった。
 八時半、澳底仁和宮の銅鑼がいっせいに鳴り響き、媽祖神が担ぎ出された。塩寮自救会、貢寮郷民、反原発団体は第四原発建設区域と大型貨物専用港へ向かい、欠陥だらけの第四原発ユニットを調査した。仁和宮は貢寮現地の信仰の中心であり、反原発運動が結集する場所でもあった。そしてこの媽祖神は貢寮の子々孫々を庇護しつづけ、一九九六年に立法院(国会)で第四原発廃止法案を通過した直後にそれを覆す法案を行政院(内閣)が提出したときに立法院前で大衝突がおこった際にも、その場に担ぎ込まれていた。
 二〇〇〇年三月七日、陳水扁が総統選に当選し、仁和宮の媽祖神の前で、原発反対の公約にサインした。当日は、すでに逝去した塩寮自救会の前理事長、陳慶塘が証人として同席し、笑顔で陳水扁と写真を撮った。しかしユニット上陸の瞬間、陳水扁と民進党の約束はどこへ行ってしまったのだろうか。
 警察が厳重に警備する台湾電力竜門工事局と大型貨物専用港で、仁和宮の媽祖神に率いられた貢寮郷民と反原発団体の数十人は、台湾電力に対して欠陥だらけの第四原発ユニット調査のための立ち入り調査を求めた。塩寮反核自救会の会長、呉文通は「政権交代がなされた後も、民進党政府は原発の安全性を軽視し、貢寮地方の声を無視しているので、貢寮の先祖子孫を守護し続けてきた媽祖に、この歴史的な瞬間の証人として、また問題だらけの原発ユニットの調査及び原発の悪霊の駆除のために来ていただいた」という抗議声明を発表した。
 台湾電力竜門工事局の林源得副主任が出てきて、ユニットに問題があるかどうかは、検査して半年後にはじめてはっきりすることであり、台湾電力としてはしっかりと監督を行うと伝えた。しかし呉文通と貢寮郷長の陳世男は、基礎工事の段階から違法工事が行われており、大型貨物専用港では、貢寮漁民と反原発団体が当初から警告していた突堤による遮蔽効果が出現していることから、台湾電力がしっかりと監督を行うといっても信じるわけにはいかない、と強い疑問を呈した。
 林源得は貢寮郷民と反原発団体が準備してきた原発安全約束書へのサインを拒否して構内に引き返した。台湾電力がその場しのぎの態度をとり、日本政府も問題が生じても台湾政府が自ら責任を取らなければならないと明言している状況は、まさに塩寮反核自救会が発表したプレスリリースの「GE(ジェネラル・エレクトリック社、ユニットの発注先)も保証しない、日立も保証しない、台湾電力も保証しない」そのものである。将来この欠陥だらけのユニットに問題が生じても、台湾民衆はだれの助けもあてにできない。
 第四原発ユニットが多数の警察の護衛の下で上陸したが、第四原発に反対する闘争は終了してはいない。貢寮の環境生態系だけでなく、第四原発の建設過程におけるさまざまな手抜き工事はすでに明らかになっており、将来、第四原発が稼動し始めたなら、安全に全く何の保証もない第四原発は、台湾全土と東アジア地域の民衆に脅威をもたらすだろう。
 将来、反原発運動は貢寮および全世界で闘われるだろう。原子力産業をふくむ軍事産業複合体と米日台の政権の関係がますます深まっていく今日、軍事産業複合体の拡張と抑圧は、民営化、WTO、世界銀行、海外投資、イデオロギー、政権買収などの面で天地を覆うかのごとくやってくるだろう。それゆえ反原発の闘いが、どうしていずれかの政党に依拠することができるだろうか。どうして一回のたった一つのテーマの投票に頼ることができるだろうか。原子力産業の抑圧がいずれか一回の闘争の成功あるいは敗北で緩むことはない。唯一の道はその侵攻に対して一つ一つ反撃するのみである。(6月20日)
(台湾の社会運動をあつかうウェブサイト「苦労網」http://61.222.52.195/より訳出)


八つ場ダム現地調査見学会に参加して
ムダな公共事業と「水の民営化」との闘いを考える


 六月十四日から十五日にかけて、ATTACジャパンは、WTO草の根キャンペーンの一環として、水源地調査見学会に参加した。見学会は主催した全水道東京水道労働組合の案内で行われ、全体では九十三人の参加となった。ATTACからは子連れで六人が参加した。
 十四日の朝に朝霞駅をバスで出発し、途中の休息所で、東京水道労働組合の水政策対策会議林書記次長はこの現地調査の意義と経過をつぎのように語った。
 「ダムの水源と流域下水道の両方の調査を行い、過大な公共事業のあり方をここで考えたい。さらに昨今、いわゆるグローバル化による事業の転換が叫ばれ、民営化、委託の問題も合わせて、考えて行きたい」。
 次に水問題対策会の渡辺洋議事務局長は、「循環型資源としての『水』をもう一度考えてみよう」というレジュメで問題提起を行い、水が利権と大きく関わり、公共性に反している流れがあることを強調した。さらにダム反対闘争の歴史と意義にも触れ、これまで中止となったダムと同様に、この八つ場ダムも建設の必要性を失くしていることを実際の水需給率を提示しながら話した。
 また特にダム建設を中止させるために公共事業審査法の制定を図るべきであり、鳥取県や川辺川ダムの事例をあげ、合わせて「ダム計画中止後の生活再建支援法」の制定も必要であることを提示した。
 続いて多摩水道対策支部の鈴木さんは、「東京(多摩地区)の下水道」と題して提起し、多摩地区水道の経過を概説し、現在では大幅な委託合理化が進められようとしていることへの警戒と対抗を呼びかけた。
 全水道東水労本部の長瀬さんは、「八つ場ダムと地元の暮らし」と題して基調報告を行った。
 最後に東京の水を考える会の嶋津さんが、日本だけでなく世界的な視点でこのダムの建設が無意味であり、現地の人々をいかに苦しめてきたかを告発した。
 報告会の後、バスは途中でモデル代替地区を訪れた。そこには二階建て、四棟の家屋が立ち並んでいた。これは、途中の駅舎や学校の校庭の半分までがその水没予定地であり、その代替の家のモデルになっているものだった。ただし、移転先の土地も決まらない住民の側から見れば上ものだけのもので、何かわびしい感じがした。水没予定の小学校の移転地区にも行ったが、かなりの登坂の高台にあるため、生徒はスクールバスで通うそうだ。
 草津温泉の酸性の強い水がPH2のため、中和するために石灰を入れる中和工場がある。中和する際に発生する物質で沈殿物質が多くなり、それを取り除く作業として沈殿物を脱水しているが、現状のままの処理ではいずれは堆積が飽和状態になってしまうとの説明を受けた。
 白木ダムの湖水の色は、石灰と藻の入り混じった独特の乳緑白とでも表現するようなものだった。
 夕方、標高五八六メートルの丘の上にある温泉地街の宿に到着した。宿の周りは硫黄の匂いが立ち込め、川原湯神社の表にあたり、芭蕉の句牌などあり情緒がある風景の中にたたずんでいた。
 その夜、現地の住民の方からダム建設反対闘争の歴史と現状が語られた。五十年と一口で言うが、半世紀という時間の経過のなかでともに闘ってきた仲間も心変わりし、一人抜け二人抜けてきたことの重さが話のなかで感じられ、もしダムが建設されてもその代替地もない現状の葛藤を隠さず語った。草の根の運動を継続する難しさを痛感した。
 私たちが出来ることは、こうした水源地の抱える問題を全国に訴え、運動を大きくし、ダムを中止させるまで頑張ることだとあらためて考えた。   (浜)

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