| パレスチナ和平--米・ロシア・EU・国連の「ロード・マップ」 かけはし2003.5.26号より |
「パレスチナ和平」を「二つの国家」という枠組みで解決するという、米・ロ・EU・国連による「行程表」(ロード・マップ)が、イスラエル政府とパレスチナ自治政府に対して提示された。それは米帝国主義がパレスチナ人民に強いる、圧倒的にイスラエル優位の「共存」策である。岡田剛士さんに寄稿してもらった。
四月三十日、アメリカ合州国、ロシア、EU、国連の「四者」による「イスラエル・パレスチナ紛争を二つの国家という枠組みで恒久的に解決するための、具体的な達成目標に基づいた行程表」(以下、ロード・マップ)が、イスラエル国家とパレスチナ暫定自治政府の両者に対して正式に提示された。米大統領ブッシュは、これを受けて声明を発表、これが「イスラエルとパレスチナ国家の共存に向けた『出発点となる』と述べた」という(共同通信/五月一日付)。
このロード・マップの全文は、すぐにパレスチナ問題に関するインターネット上のメーリング・リストの一つにも投稿されていたし、PLO(パレスチナ解放機構)の「和平交渉局」のホームページにも掲載された(http://www.nad-plo.org/eye/news54.html)。
以下、このロード・マップの内容について概括する〔注1〕。
「二つの国家」とは何なのか
まずもって、その表題「イスラエル・パレスチナ紛争を二つの国家という枠組みで恒久的に解決するための、具体的な達成目標に基づいた行程表」だ。「二つの国家」という文言は、一九九三年九月にイスラエルとPLOが調印した「暫定自治政府の取り決めにかんする諸原則宣言」(いわゆる「オスロ合意」)にはなかった表現だ。
ロード・マップの文中では、その解決策の基盤とされる国連安保理決議として、二四二号(一九六七年)と三三八号(一九七三年)、そして一三九七号(二〇〇二年三月十二日)が挙げられているが、この決議一三九七号こそが、「〔国連安保理は〕イスラエルとパレスチナという二つの国家が、保障され承認された国境線をもって隣り合って存在するという、この地域の一つのビジョンを支持する」という表現で、国連安保理決議としては初めて「二つの国家」という文言を盛り込んだのだった(もちろん二四二号、三三八号には、こうした文言はない)。
それゆえに、この昨年の安保理決議一三九七号は画期的であり、それを基盤とする今回のロード・マップも肯定的に評価できる、という見方はあり得るだろう。例えば実際に、「国連パレスチナ常設オブザーバー使節」が隔月で発行している『PALESTINE
& THE UN』という英文ニューズレターの二〇〇二年三月中旬号(第七巻第三号)は、その冒頭で、安保理決議一三九七号について「驚くべき、かつ重要な展開として、合州国が国連安保理に対して、現在のパレスチナ・イスラエル紛争についての決議案を提出した」(強調、筆者)と書いている。
しかし、ここで重要なポイントは、実は「テロ」の停止なのだ。安保理決議一三九七号では、「〔国連安保理は〕テロや挑発、煽動そして破壊という暴力行為のすべてを直ちに停止するよう、要求する」という一節が入っているし、そのためにイスラエルとパレスチナの指導者たちは協力すべき、とされている。
また、ロード・マップの前文は、より明快だ。
「イスラエル・パレスチナ紛争に対する二つの国家という解決策は、パレスチナ人たちが、寛容さと自由を基礎とした実際的な民主主義を打ち立てようとする意志を持ち、断固としてテロに立ち向かってゆく、そうした指導部を手にした時点での暴力とテロリズムの終結を通じて、また民主的なパレスチナ国家の建設に向けて必要とされる事柄をイスラエルが実行する準備を整えることを通じて、さらには以下に詳述される、交渉の上での解決という目標を両者が明確に、かつ疑いの余地なく受け入れることを通じて、初めて達成されるだろう」。
つまり、昨年以降のイスラエルによる徹底的な国家テロの強化と継続、そして合州国の対イラク戦争準備の過程における、イスラエルと合州国からのパレスチナ側に対する二つの要求――テロの抑止と指導部の「民主的改革」という要求――にパレスチナ側が全面的に従うことこそが、この「二つの国家という解決策」の前提とされているのだ。だから、このロード・マップは、今回の対イラク開戦に先立って米ブッシュがぶち上げた「中東地域全体の民主化」構想の一環として明確に位置付けられていると、そのように見ておく必要があると考える。
「達成目標」のアンバランス
ロード・マップの「第一段階」(今年五月まで)に示されている、パレスチナ側・イスラエル側双方の「具体的な達成目標」の対比は、この「両者」の位置関係を明確に示しているだろう。「第一段階においてパレスチナ人たちは……無条件の暴力停止を直ちに実行する」とされている一方で、「イスラエルは、安全保障の実現と協力関係の前進に伴って、二〇〇〇年九月二十八日以降に占領したパレスチナの諸地域から撤退し、また両者は、その時点までの状況に復帰する」という。
この年の九月二十八日、首相シャロン(当時はリクード党の党首)が東エルサレムにあるイスラームの聖地を「強行訪問」し、これを契機として現在にまで続く「アル=アクサーのインティファーダ」が開始されたわけだが、それ以前の状況にまで復帰せよ、というのだ。
シャロンの聖地「強行訪問」は完全な挑発であり、すでにそれまでに、パレスチナ人たちの間には不満や怒り、そして失望感がうっ積していたはずだ。その時点への「復帰」という「目標」自体が、このかんのインティファーダで二千人とも伝えられている大量の人々がイスラエル軍によって殺され、日常生活や生活基盤の徹底的な破壊を受けてきたパレスチナ人たちからすれば、巨大な欺瞞以外の何ものでもないだろう。
しかもパレスチナ側は無条件・直ちに暴力を停止することが求められており、一方のイスラエル側は、その状況を見ながら撤退してゆけばよいとされている。「両者」に提示された「達成目標」のアンバランスは覆い隠しようもない。
「第二段階」でのポイント
「第二段階」(今年六月から十二月まで)でのポイントは、パレスチナの経済復興を支援するために「四者」が主催する国際会議だろう。この会議で、「アラブ諸国は、インティファーダ以前のイスラエルとの関係(通商事務所などの)を再構築する」、また「この地域の水資源、環境問題、経済開発、難民問題、そして軍縮などを含む諸テーマについての国際的な関与を復活させる」という。
この二点は、ごく手短に表現するならば、前者は象徴的な意味合いにおいてのオスロ和平プロセス(九三年〜)への回帰を、また後者はより具体的な表現においてのマドリード多国間交渉(九一年〜)の再開を、それぞれ意味しているだろうと考える。
これは、パレスチナ側に対しては「テロを止めたら、経済支援をくれてやる」という「サインの再確認」であり、一方では中東地域における軍事的・経済的な強国でありながら、しかし現在は深刻な不況に陥っているイスラエルを、再び中東地域で「グローバル化」させてゆこうとするプロセス〔注2〕に復帰させようとする救済策でもあるのではないか。さらにマドリードからの多国間交渉の枠組みが「復活」するのであれば、日本の関与もまた「復活」することになる。継続的な注視が必要だろう。
もちろん、この「第二段階」においても、「この〔第二段階での、暫定的な国境線を伴った独立パレスチナ国家の創設という〕ゴールは、すでに言及されているように、寛容さと自由を基礎とした実際的な民主主義を打ち立てようとする意志を持ち、またそれを実現でき、断固としてテロに反対して行動する、そうした指導部をパレスチナ人たちが手にした時点においてのみ、実現される」と繰り返した上で、「そのような指導部と改革された市民行政機関、そして治安維持機構の下においてこそ、パレスチナ人たちは『四者』からの、また広範な国際社会からの積極的な支援を受けることができるだろう」としている。つまり、どこまでも基本的な前提は、テロの抑止と改革なのだ。
この「暫定的な国境線」も問題だ。それがどのように引かれるのかも不明だし、暫定のまま確定される方向に進んでしまう可能性も大きいだろう。
恒久的地位の交渉について
「第三段階」(二〇〇四年から二〇〇五年)でのポイントは、もちろん国境線の確定、エルサレム問題、難民問題、入植地問題などを含む、いわゆる「恒久的な地位の交渉」だ。これらは、オスロ和平プロセスでの抜き差しならない中心的な諸問題であり、二〇〇〇年夏の「キャンプ・デーヴィッド2」長期交渉においても最終的に合意できなかった諸問題であった。
例えば難民問題について、ロード・マップには以下のように書かれている。
「〔第三段階では〕両者は、最終的かつ包括的な恒久的な地位の合意に至ることになる。その合意は、国連安保理決議二四二号、三三八号、そして一三九七号に基づいた、両者間の交渉による合意を通じて、二〇〇五年にイスラエル・パレスチナ紛争を終わらせるものとなる。また、その合意は、一九六七年に始まった占領を終わらせるものとなる。この合意には、難民問題についての、互いに合意された、正義ある、公正で、現実的な解決策が含まれる」。
安保理決議二四二号には「難民問題の公正な解決」とあり、また三三八号では「二四二のすべての部分につき、履行に着手するよう、要請」とされている〔注3〕。それが、このロード・マップでは、形容詞テンコ盛りでイスラエルに配慮する形となっているのだ。
しかし、それでもなおイスラエル側は、五月四日にシャローム外相が合州国のバーンズ国務次官補と会談した際に、パレスチナ側が難民の帰還の権利を放棄することがパレスチナ暫定国家に対する承認の条件であると強調し、ロード・マップの受け入れを留保(共同通信/五月五日付ほか)している。つまり、このロード・マップ自体が、そのスタート地点に到達する以前で、すでに道に迷ってしまっている(!)のだ。
双方の民衆的イニシアチブを
パレスチナ難民の帰還の権利は、ある意味では、人が自ら住みたいと思う場所に住むことのできる権利であり、それは特殊パレスチナ人たちに限定されることのない、言わば基本的な人権ではないのか、と考える。そのパレスチナ人たちの権利を奪い続けているのはイスラエル国家だ。イスラエルによる歴史的な軍事占領と、圧倒的な軍事力を投入したパレスチナ人たちに対する国家テロこそが、何よりもまず「無条件に・直ちに」停止されなければならない。そのような全く当然かつ基本的な立場を、ここで再確認しておきたい。
そしてパレスチナ人たちの側では、自らの政治的延命をかけてロード・マップに寄り添ってゆこうとするアラファート体制に拝跪することなく、また合州国とイスラエルが言い立てる「民主化」でもない、民衆自身の側からのイニシアチブによる民主化が構想されなければならないだろう。
もちろん、現在の、イスラエルの占領によって強いられたメチャメチャな状況の下では、そうした努力はほとんど不可能かもしれないし、この拙文でそのような主張をすることにどれほどの意味があるのか、とも思う。だがしかし、そのような努力がパレスチナ人たち自身の側に要請されているだろうと、少なくとも僕自身は(認識の問題としては)、そう考えている。
また、占領者としてのイスラエル国家の内側での、反戦・反占領・反軍の取り組みも重要だ。「強力な軍隊が、この国家の存在それ自体を支えているのだ」という軍事主義そのもの(それは、この国家の歴史経過においては、シオニズムとコインの裏表を成してきたとも言い得るだろう)が徹底的に批判されなければならないし、どのような形や枠組みであれ「隣り合って」生きている(そして、殺され続けてきた)パレスチナ人たちとの共存に向けた具体的な構想や取り組みが求められている、と考える。
それは、今回のロード・マップの表題にあるように「紛争を二つの国家という枠組み」で「解決するため」に合州国が強いる「行程表」ではなく、また米ブッシュが言い立てる「共存」でもなく、パレスチナとイスラエル両者の側の民衆自身によるイニシアチブからの共存に向けた行程でなければならない。(二〇〇三年五月十七日 記)
注1:引用したロード・マップと決議一三九七号の英文からの翻訳は、筆者による。
注2:このあたりの問題については、「中東和平プロセス/イスラエルのグローバル化と『九・一一』」(『ピープルズ・プラン』第十七号/二〇〇二年一月三十一日発行)で若干触れているので、参照してほしい。
注3:この二つの歴史的な決議の訳文は、浦野起央『パレスチナをめぐる国際政治』(南窓社、一九八五年)によった。ちなみに決議一三九七号には難民問題についての言及は、ない。
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