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WORLD PEACE NOW これから           かけはし2003.5.19号より

反戦運動の高揚を次につなぐために

4・30緊急シンポジウム

いまも続くイラク侵略、新しい戦争、そして有事法制

 四月三十日、四谷市民センターで緊急シンポジウム「『WORLD PEACE NOW』これから」が開催された。会場には、イラク侵略戦争に反対して闘ってきたさまざまな団体の活動家や、戦争を止める「人間の盾」としてイラクで頑張った仲間たちなど五百人が参加し、たくさんの発言を受けて「反戦運動の今後」をめぐって意見を交わした。
 昨年十月に、首都圏の平和や人権のために活動してきた五十の団体が集まってイラクへの侵略戦争に反対するために結成された「ワールド・ピース・ナウ」は、約半年にわたってさまざまな反戦行動を繰り広げてきた。ワールド・ピース・ナウの運動は、内ゲバ主義者による大衆運動基盤破壊のために続いてきた長い沈滞を突き破り、数万人規模の連続的大衆行動を実現し、日本におけるイラク反戦行動の中心軸となった。
 このシンポジウムは、米英軍によるイラク軍事占領が始まった新たな事態を受けて、これまでの運動を振り返るとともに、今後どのように、何をめざして進むべきかという方向性を探る試みとして開かれた。
 第一部、「イラク−アメリカは何をしたのか?」では、放送大学助教授の高橋和夫さん、「人間の盾」に参加した志葉玲さん(ジャーナリスト)と相澤恭行さんが発言した。
 高橋さんはまず、多数の記者を従軍させて兵士と寝食をともにさせて精神的一体感を持たせ、「われわれの部隊は現在……」と記者に思わず言わせてしまうような巧妙な情報操作と演出によって、戦争の現実がわからなくされてしまったことに注意を促した。
 そして何よりもいま緊急に必要とされていることは、イラク国民の少なくとも六割、千四百四十万人の生活を支えてきた食糧配給制度を一刻も早く復旧させることであると強調した。そしてもう一つ、アメリカが戦争の理由とした大量破壊兵器について、国連による査察を再開させることだと提起した。
 「アメリカは大量破壊兵器を必ず見つけるという。このままでは、ないのに『見つけて』しまうのではないか。アメリカは拒絶しているが、国連をもう一度入れて査察させるべきだ。見つからなければアメリカは、シリアに移したのだろうとか、サダムを倒したんだからいいじゃないかというだろう。このままでは、自己の行為の正当性を立証する義務からアメリカを解き放ってしまうおそれがある」。
 高橋さんはさらに、「米英は自分たちが一番、血を流したのだから、次のイラクを作る作業の中心に座るのも自分たちだという。しかし一番たくさん血を流したのはイラク人だ。米英にやってもらいたいというイラク人はいない。戦争を止められなかった国際社会はイラクに責任を負っている。われわれは米英日に異議申し立てし続ける義務がある」と訴えた。
 志葉さんと相澤さんは、現場で撮影したビデオを映し出しながら、イラクでの「人間の盾」行動について報告した。
 「生死が交錯する中で、ヒューマン・シールズ(人間の盾)の可能性をぎりぎりまで探りたいと思って参加した。私たちは爆撃されて六十七人が殺された市場や、クラスター爆弾で五十五人が殺された村で負傷した人々が収容された病院を訪ねた。イラクの人が泣きながら私たちのところに来て、家族の遺体を収容したいが米兵が怖くて行けないと訴えてきた。米兵と交渉して遺体の収容を手伝った。収容に応じてくれた米兵と握手したが、この手でイラクの人を殺したのかもしれないと思い、同時に、もし戦争がなかったらこの米兵とも友達になれたかもしれないという気がして、戦争とは何だろうと思った」。
 「イラクが大量破壊兵器を隠していると言いながら、自分たちはクラスター爆弾を使い、しかも人権とか解放とかいうことは許せない。私たちは浄水場などのライフラインに入った。バスラの浄水場など、各地のライフラインが破壊され、感染症などの被害が増えてくると思うが、『人間の盾』が入ったところだけ攻撃されなかった。戦争は止めることができなかったが、犠牲を少なくすることはできたと思う。私たちの行動が有効だったのは、一千万人の反戦デモが示す国際世論があったからだ。それがあったから私たちはこうしてここで話しができる。今回の問題はイラク問題ではない。世界の世論を無視して戦争を始めたアメリカの問題だ。だから問題は解決していない。暴力のない本当の平和のために、みんなと一緒に活動を続けたい」。
 第二部は、「イラク攻撃とピースムーブメント\\私たちは何をしてきたか」と題してパネルディスカッション。パネリストは、許すな!憲法改悪・市民連絡会の高田健さん、グローバルピースキャンペーンのきくちゆみさん、日本国際ボランティアセンター事務局長の清水俊弘さん、グリーンピースジャパンの鈴木かずえさん、ピースボートのチョウ・ミスさん、未来バンク事業組合理事長の田中優さんの六人に、志葉さんと相澤さんが加わった。司会はA・SEED・Japanの羽仁カンタさん。
 高田さんは、昨年十月の最初の行動では六百人しか集まらなかったワールド・ピース・ナウの運動が、四万人、五万人という人々を集めるまでに急成長した経過に触れながら、「この力を本当に生かせればもっと大きな反戦運動を作ることができる」と訴えた。
 グローバル・ピース・キャンペーンの呼びかけで、ニューヨークタイムズ紙に四回、イラクへの武力行使に反対する意見広告が掲載された。きくちさんは、「報道の自由」がうたわれるアメリカでは、報道機関を持っている者の自由しかないと訴えた。
 「受け取る側の自由はない。テレビでは、タリバンがいかにひどいか、フセインがいかにひどいかという番組ばかり。二十万人の反戦デモはほとんど報じられず、二千人の戦争支持デモは大きく報じられる。アメリカは北朝鮮とますます似てきている。しかし、戦争に反対する人たちはめげることなく集まり、一人一人が自分の意志で自分のプラカードを持って行動している。アメリカで一番やらなければいけないことは、アメリカが海外でどんなひどいことをやっているのか知らせることだ。アメリカ人が気がつかなければ変わらない」。
 清水さんは、アフガニスタンで続けてきた巡回診療が、米軍が軍事行動と人道支援をミックスしたプロジェクトを始めたことによって困難に直面していると訴えた。NGOの人道援助の中立性まで疑われるようになってしまったからだ。またイラクではバグダッドの大きな病院も機能せず、小さなクリニックにキャパシティーを超える患者が殺到している状況を報告した。
 鈴木さんは、世界中の反戦デモには何十万人も集まっているのに日本では最大で五千人という状況を変えるため、グリーンピース単独で行った新聞全面広告への挑戦について報告した。さらに、核(爆発)実験全面禁止条約交渉の会場を包囲するNGOの行動について触れながら、「条約交渉も一人一人の市民の行動によって左右される」と訴えた。
 チョウさんは提起した。「世界のあれほどの反対を押し切って始めたアメリカの戦争の、次へ向かうステージが始まった。可能性はどれほどあるかわからないが、アメリカが北朝鮮を攻撃する理由はある。それに対応する態勢がないからということで有事法制を作るという、そんな最悪のシナリオが進んでいる。ピースボートはこの間、六回北朝鮮を訪問し、従軍慰安婦などの戦争被害者、被爆者と交流してきた。たとえ『脅威』があったとしても暴力で押しつぶすのではなく、東アジアの平和のために市民レベルで話し合いを進めるべきだ」。
 田中さんは、「戦争はどこか遠くにあるのではなく平和の裏側にある」と提起した。そして太平洋戦争は税金では八分の一しかまかなえず残りは郵貯でまかなわれたこと、さらに今回のイラク侵略も、財政赤字に悩むアメリカの国債を日本の銀行が年間四兆円も買うことでまかなわれている、と指摘した。そして戦後五十年、社会の構造は変えられておらず、同じわだちを踏む可能性があるとして、社会のあり方を根本的に変える必要があると訴えた。
 会場からたくさんの質問や意見が寄せられ、それにパネリストが自分の考えを述べる形でシンポジウムが進められた。最後に相澤さんが訴えた。「希望を持ってほしい。『戦争中毒』社会には絶望感があるが、しかしそれは人間が作ったものだ。天災じゃない。人間が希望を持てば変えることができる。それを証明するために私は『人間の盾』になった」。
 イラクでは、米英占領軍による民衆虐殺はいまも続いている。イラクから米英占領軍を撤退させ、イラク民衆自身によるイラクを取り戻す闘い、そして戦争のない社会をめざす闘いはこれから始まる。  (I)



東電福島第1原発3号炉
差し止め仮処分申請却下糾弾!
プルサーマルの完全断念に追い込もう!


 【福島】三月二十三日、東京電力福島第一原発3号機でのMOX燃料使用差し止めを求めた仮処分申請に対し、福島地裁(生島弘康裁判長)は原告の請求を却下する決定を行った。この仮処分裁判の争点は、燃料ペレットの品質管理データーに不正操作があったかどうかいうことと、仕様外の燃料ペレットを使用した場合の危険性の二つであった。
 地裁は「本件MOX燃料のペレットの外形径寸法に係る抜き取り検査に不正操作があったとは認めることはできない。検査データは東電や第三者機関による確認で信頼性を推認できる。」「仕様外の燃料ペレットを包含した場合のMOX燃料の危険性について検討するまでもなく、本件MOX燃料が安全性に欠けるとする主張は理由がない」と、東電側の主張をことごとく採用し、原告の立証を無視して不当な決定をくだしたのである。
 昨年八月の仮処分申請以来、六回の審尋と一回の口頭弁論が開かれてきた。原告側はペレット検査の生データ(東電が公表している四ミクロン刻みではなく一ミクロン刻みのもの)の開示がカギであることを主張、福島地裁も東京電力にデータ非開示の理由を質し、反論を求める求釈明を行っていたが、東電はこれに応じることはなかった。こうした不誠実な東電側の態度を見て地裁の心証は原告側に有利に傾いているのではないか、という見方もあったが結果はひどいものであった。判決後の記者会見で原告代表の林加奈子さんは「住民の立場で判断できない司法の限界を感じた」と話した。
 だが、原告側は「不当判決だが、実質勝利」とした。それは、決定文に東電の情報非開示を批判する部分があったからである。「原子力発電所で使用される原子燃料の品質が問題とされたような場合には、可能な限り具体的なデータを明らかにして各方面における検証を可能とするように努める事が原子力分野で事業を実施する企業の責務」「ベルゴニュークリア社は、本件抜き取り検査データを企業秘密に属するとしてその一般公開を拒絶しているのであるが、ペレット外系寸法の検査データが重大な製造ノウハウにかかわるものとはおよそ考えがたく」「東京電力はベルゴ社に対し、本件抜き取り検査データを公開すべく努めた形跡が窺(うかが)えないことは、原子力発電という潜在的に危険な施設を設置稼動する立場にあるものとして、必ずしも十分な対応とは言いがたい」。
 この内容は決定の誤りを覆す契機を含んでいる。不当な判決にもかかわらず公開されたデータこそが真の判決を導くことを示してしまったからである。マスコミ各社もここに注目し、東電側を批判する報道を行った。そして、全国で千九百十五人、そのうち福島県民が九百三十人もの原告を結集して行われてきた裁判が県の姿勢に影響を及ぼし、佐藤知事に『県民の大半は反対』と言わせ、プルサーマルをストップさせる要因の一つとなることができたからである。
 東電の福島原発でのMOX断念が報じられた直後、「東電MOX差し止め裁判の会」は三月三十一日に東京で、四月一日に福島県郡山市で報告集会を開いた。福島県での集会には原告の市民など三十人が参加し、原告団の林さん、坂上さん、鈴木さん、東井さん、代理人の斎藤弁護士、河合弁護士などが発言した。却下の決定ではあったが「場外乱闘で勝ちつつある」(河合弁護士)情勢に立って、東電に情報公開を自治体とともに迫っていくことや、県のエネルギー政策見直し作業に積極的に関与していく活動、新潟県刈羽村の住民投票への連帯などをすすめていくことを確認した。また、四月二十九日に原発立地町の双葉郡富岡町で超党派の四団体の連帯で開かれる「原発の今とエネルギーの未来を考える集い」への参加が呼びかけられた。
 関西電力に続く東京電力のプルサーマル延期はプルトニウム政策の行き詰まりを現実化し使用済み燃料=核のゴミの問題を噴出させる。プルサーマルの完全断念、再処理、増設の中止へと向かうチャンスが今訪れているといえよう。 (N)

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