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                          かけはし2003.5.19号より

劣化ウラン弾-どんな兵器か、どんな被害が生じるか(下)

山崎久隆さん(劣化ウラン研究会)の報告から



米国のウソと広がる汚染

 米国防総省が三月十四日に行った「劣化ウランブリーフィング」で、「フロリダの一平方キロメートルの土壌には、約六トンのウランが含まれている。だから、湾岸戦争で三百二十トンくらいばらまいたからってどうということはない」とめちゃくちゃな理論を言っている。
 なぜならば、ウランは地中や海中に天然に薄く存在する。たまたま濃いところがウラン鉱床だが、三十トンのウラン燃料を作るためには、二百五十万トンの山を掘り出さなければならない。海水中には、わずか六ppb・これは十億分の一の単位だが、それほど希薄にしか存在しない。劣化ウラン弾は一〇〇%ウランだ。これとフロリダの土壌を比較できるわけがない。もう一つ、ここで使われている劣化ウランは純粋な金属だ。環境中に存在するウランは八酸化ウランないし、それに類似した化学形態・酸化物として存在する。かつ色々な物質と化学的に結合しているので、非常に安定的だ。 それをわざわざ化学処理を行うことによって、金属ウランというものが取り出せるわけだが、その金属ウラン自体は、取り出したときすでに非常に不安定な物質だ。
 ウラン自身にしてみれば、裸で置かれておくことは困るので、まず酸素と結合したい。すぐに空気中で酸化をする。酸化をするということは「燃える」と言うことだ。つまり劣化ウラン弾は、戦車を撃ち抜くときに摩擦熱で数千度まで温度が上がる。ウランの融点は一一三二度だ。したがって、戦車の装甲板を撃ち抜いている間にその融点を超えてしまう。
 劣化ウランは、戦車の中に飛び込んだときに微粉末・液体状になって飛び込む。高温のウランは爆発的に燃焼する。戦車の中でその温度が三千度に達する。その時に戦車の中の燃料や爆弾が誘爆する。そしてイラクの戦車が粉々に吹き飛ぶという順番をとる。
 環境中に取り残されている劣化ウランの不発弾は、酸素や水に反応して、すぐに腐食をしていく。そしてどんどん自然の状態にある酸化物に変わっていく。UNEP(国際連合環境計画)はちゃんとその部分についても報告をしている。
 いままでコソボに撃ち込まれたウランのうち、二〇%位がすでに劣化ウラン弾の不発弾から遊離して環境中に拡散していったと推定される。これは九九年に使われたウラン弾についての報告なので、まだ三年しか経っていない。イラクに使われた劣化ウランは十二年も経っているので、そのペースでいくなら、イラクの劣化ウランの大半は酸化して環境中に入ってしまっているかもしれない。
 もう一つ、爆弾で使われている劣化ウランについてはどうなるかというと、着弾した途端に爆発して粉々になって飛び散る。そのまま粉末となって、環境中に拡散していく、あるいは土壌の中に撃ち込まれる。そういう状態になれば、そこから周りの環境にどんどん浸み出していく。
 普通、劣化ウラン弾が、高い空から撃ち込まれたという場合は、柔らかい土壌だと最大数メーターの地下までは行くようだ。固い岩盤であったりすると、表面近くにとどまっている。ところが、バンカー・バスターは地下三十メートルいくわけだから、少なくとも地下三十メートルから地表まで全域が劣化ウランによって汚染されていくというような、環境への被害を及ぼしていくだろうと思われる。

白血病と劣化ウランの関係

 もう一つアメリカ軍が言っている典型的なウソというのは、劣化ウランの微粉末が人体に入ったときの影響が医学的に明確に解明されているとは言えないというものだ。
 どの地域でどれ位の劣化ウランが体に入ったかということで、がんや白血病になった確率が上がるというのは、いわば経験則だ。他に原因を探したとしてもないわけだから、劣化ウランが原因ではないかということになる。白血病の発症率が七倍から一〇倍以上という上昇の仕方というのは、常識的に考えてあり得ない。アメリカ軍は、例えば「ベンゼンなどは白血病を引き起こすことが知られている」などと言っているが、イラクのどこにそんな大量のベンゼンを撒き散らすような施設があるのか。バスラの周辺にそんなものはない。
 「化学兵器工場を爆撃したときに化学物質が拡散していったのではないか」ということも言っているが、化学兵器工場がどこにあって、どれだけ拡散をしたのかということについては何一つ言わない。実際にそのようなことがあったのかということについては、スコット・リッターなどが国連査察団として現地に行って九五%の生物化学兵器を破壊したという事実が戦後あるわけだが、湾岸戦争中に爆撃でどれだけ破壊したのかについては、実は詳細にはわかっていない。わかっていないことをベースにして、それを白血病の原因にするというのは、理論的にむちゃくちゃな話だ。
 また、白血病の原因というのを調べていくと、北はクルド人居住地域から、南はバスラまで全域にまたがる。化学兵器の製造工場があったとされる場所というのは、バクダッドの南部地域に限定される。したがって、バスラ周辺にそんなものがあったという記録はない。劣化ウラン以外の原因をどう探そうとしてもない。
 石油化学プラントがたくさんの黒煙を上げて環境を非常に大きく破壊をした湾岸戦争の例を挙げると、石油化学プラントの影響があり得るのかと一瞬思いそうになるが、石油化学プラントの火災によって発生するものから白血病になる原因物質が特定されたという話は、聞いたことがない。だいたいイラク・クウェート国境・ルメーラ油田等が集中的に炎上しているが、クウェート側において白血病が急増しているという話はない。また湾岸戦争の最中にクウェートやサウジアラビアで油田火災が起きたことがあるが、その地域で白血病が十倍になったという話はない。
 いろいろな状況を考えていっても、劣化ウラン弾しか考えられない。白血病になるメカニズムについてはもちろんわかっていないが、仮説として一つ言われているのは、肺に吸い込んだ劣化ウランは、そのまま肺胞を通して血中に出る。血中に出た劣化ウランは、リンパ節の中で周辺の造血細胞とかそういったものをアルファ線照射する。それによって影響を受けているという説がカナダの医学者から出されている。

違法行為を許さない行動を

 ただ、医学的なメカニズムを解明するのは必要かもしれないが、それ以前の問題として、原因物質である劣化ウランを断たない限り話がはじまらない。まずそういうものを拡散するのをやめさせて、それから医学的な解明に着手するという順番でいくべきだ。
 なんらかの科学的な影響のあることに関しては、予防的に対処するのが人間の知恵であって、そういうことをやってこなかったのが公害によって多くの被害を生みだしてきた元凶であるわけだから、いまの段階で劣化ウランをクロと断定をしてこれを廃絶する動きをしない限り、イラクにおける被害は、今度も大量に使われているわけだから、ますますひどいものになっていくと思う。
 福田官房長官は「アメリカ軍が使っている劣化ウランについては、医学的な影響が立証されていない云々」という訳の分からない説明をしていて(3月27日記者会見)、これが日本政府の姿勢だ。
 劣化ウランに関して、日本は被爆国であるわけだから、放射能災害については世界一関心があっていい国だ。チェルノブイリの影響に対しても、被害者が日本に来て治療をするというプロジェクトをようやく日本政府も支援するようになってきた。劣化ウランの影響もこれはウランの被曝だから放射線被曝だ。そういったことについて積極的にイラクや影響を受けた地域の人々の医療に対してコミットしていく、日本はそういう立場にある国だ。
 劣化ウラン禁止の決議をあげた自治体がいくつもある。広島市長は、ブッシュ大統領に対して直接劣化ウランの使用中止を求めた意見書を送っている。しかし日本政府が真面目に取り組んでいない、日米安保体制の中で、アメリカのやることについて文句が言えないという自縛の構造になっている。ここを変えさせないといけない。いかなる理由があっても、放射性物質を環境中に撒き散らすこと自体が放射線規制法などのいかなる法律に対しても違法なのだから、違法行為をさせてはいけない。
 例えば岡山県の人形峠にあるウラン濃縮工場から劣化ウランが環境中に放出されたらどうなるか。原子力災害防災特別措置法により、緊急事態が発令される。住民の被曝調査や除染に取り組まなければならないと言うのが日本の法律だ。したがってアメリカの劣化ウラン弾がイラクで撒き散らされたということは、日本の法律で言うならば、そこに放射能災害が発生し、緊急事態が発令されて、地域の人々の健康管理、除染、地域にばらまかれたウランの回収といったことが必要になる。そういう犯罪をいまアメリカがやっているということを日本政府はちゃんと言わなければいけない。そして日本政府を動かすだけではなく、私たちも劣化ウラン弾の危険性というものをもっと強く国際世論に訴えていく、そういう取り組みをしなければいけない。
 そういうことだけでなく、イラクの置かれている実態を、どうやって世界に広めていき、イラクの人々の被害を世界の中で知っていくのかということは、次の放射能戦争を引き起こさないためにも非常に重要なことだと思う。残念ながら三月二十日に戦争が始まってまた劣化ウラン弾が使われた。これは、これまで劣化ウラン弾の廃絶を求めてやってきた私たちにとって一つの負けかもしれないが、これから劣化ウラン弾をなくしていくために多くの人たちとともに取り組んでいかなくてはいけないと思っている。

汚染の完全な除去は不可能

――投下された劣化ウランの害は、除去する方法がありますか。

 率直に言って、完全な除去は不可能だ。理由は二つある。一つは、ウランは天然中に存在するので、ウランがまったくない状況を作れというのは、物理的にあり得ない話だが、ではどの部分がどのくらい汚染をされているかということになると、サンプリング調査などの調査が必要になる。
 しかしウラニウムは、セシウムやストロンチウムと違ってガンマ線をほとんど出さないので、ウランの濃度が高い地域を測定すること自体が、核種分析装置と呼ばれる装置を使って土壌サンプリング調査しなければ確定できないという難問が控えている。先ほどのビデオの中に戦車が砲弾によって撃ち抜かれたところが三百倍のガンマ線が出ているという説明があった。あれは、劣化ウランがいわばこびりついている状態だ。そのくらいの状態であれば非常に高いガンマ線を出すが、環境中に拡散する場合は、チリ状となって飛び散ってしまうので、こびりついてしまうほどの高い濃度では存在しない。
 しかし人間にガンや白血病を引き起こすのは、非常に希薄になったチリ状の物質ですら十分なほどの危険性がある。したがってガンや白血病を引き起こさない程度まで除染をせよということになれば、少なくとも表土を三十センチくらい削り取るというような方法を使うしか考えられない。
 これを常識的に考えれば莫大な費用がかかる。アメリカの市民団体が、除染をするということで劣化ウラン高濃度地帯の表土を削り取るという試算をしたところ、二十兆円かかると推定した。その後、放射性廃棄物となった土壌をどうやって還流するのかという難問も控えている。そういったことを考えれば、土壌を削り取るということは、汚染の高い地域については有効かもしれないが、それ以外の地域については、非常に難しい。
 私はイラク大使館から、劣化ウラン弾が投下されたら市民はどうしなければいけないか助言を求められた。三つ答えた。@マスクを使って粉塵を吸い込まない。A爆弾が投下された地域には近寄らない。B爆弾が投下された後は、建物を水で洗い流せ。しかし、これらは現実的には不可能だ。四番目に言ったのは転地をすること。少なくとも五歳未満の子どもたちや妊産婦をバクダッドから待避させよ、粉塵を吸い込まないようにしろ、家に目張りをしろ。以上を緊急避難ではあるが、アドバイスした。

米軍人にも知らせぬ危険性

――劣化ウラン弾について、アメリカの軍人に対してどの程度の説明がなされているのですか。被害者たちの運動もあれば紹介して下さい。

 湾岸戦争の時に、アメリカ軍の車輌四十台くらいが味方の劣化ウラン弾を受けている。これによって百四十八人のアメリカ兵のうち、四十人くらいが死んでいる。プロジェクト・チームを作って、この同士討ちを受けた戦車などをアメリカは、自国に持ち帰るという作業を行った。実際は六台ほどはあまりにも汚染がひどいので、サウジアラビアの砂漠に埋めた。
 そのプロジェクトの除染作業及び管理責任者がダグラス・ロッキーという陸軍少佐で、彼のチームは十五人ほどのチームだったが、すでに作業中に嘔吐や発熱などの症状を起こし、そのうち五人が帰国後にがんで亡くなった。彼はまた、アメリカ陸軍の命令により、四十時間に及ぶ劣化ウランの取り扱いに関する対策教育プログラムを作成した。
 これを作ったところアメリカ陸軍は、そんなことをすれば、劣化ウランが危険なものであることを世界に発信するようなものだからとんでもないということで、わずか二十分のブリーフィングに差し替えられてしまった。その結果、アメリカ軍の兵隊たちは、正確な知識を持たされないまま、実際に戦闘で使っている。しかし劣化ウラン弾が撃ち込まれた戦車の中に立ち入るときは、防護マスクと全身を覆う化学防護服を着用せよとだけは言うようになった。湾岸戦争の時は、まったく言われなかった。
 もう一つ、マスコミがアメリカの兵隊が、イラクの生物化学兵器から身を守るために、防護服を着用しているという報道の仕方をしているが、それは真っ赤なウソだ。アメリカ軍は、イラク側が今回の戦争で生物化学兵器を使うだろうなどとは、露ほどにも思っていない。その存在すら考えていないだろう。なぜ防護服を着用するのかといえば、その場所が劣化ウランなど有害化学物質を使う戦場であるからだ。
 実際湾岸戦争の時に、二十万の兵隊が湾岸戦争症候群といわれる健康被害を被っている。今回また万単位の被害者が出たとなると、いくらアメリカとしても説明ができなくなってしまう。自分たちの使った兵器が恐いからとは言えないので、イラクに責任を押しつけているだけだ。そういう実態から見ても、アメリカは劣化ウランの危険性について知っている。しかしそれは世界にその危険性はないんだと発信しながらやっているので、それは二重に犯罪的だ。
(見出しと文責は編集部)
      


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