もどる

                          かけはし2003.5.12号より

劣化ウラン弾-どんな兵器か、どんな被害が生じるか(上)

山崎久隆さん(劣化ウラン研究会)の報告から


 ブッシュ政権は、かつての湾岸戦争やユーゴ侵略戦争で使用した劣化ウラン兵器を、今回のイラク侵略戦争でも大量に使用した。それは使用時のみならず、その後もきわめて長期間にわたって放射能汚染を広げ、多数の民衆の命と健康を奪い続けることになる。以下は、四月五日に開かれたアジア連帯講座の公開講座で、劣化ウラン研究会の山崎久隆さんが行った講演をまとめたもの。



イラク戦争で何が起きたか

 劣化ウランの話に移る前に、僕自身戦争の経験はないし、戦争を経験すること自体は不幸なことだが、ただ戦争の経験がなかったということで、ある意味で、ピンポイント爆撃だとか、精密誘導爆弾であるとか、あたかも民間人にほとんど犠牲がないかのようなプロパガンダが信用されてしまう、そんな戦争があり得るのかという錯覚を皆おぼえてしまうのではないかという懸念を持っている。

「ピンポイント爆撃」とは何か

 九一年の時には、米軍は一つの建物をピンポイント爆撃する映像ばかりを流していた。その映像は、人もほとんど映っていないし、建物がただ壊れるだけだという、まるで映画でも観ているような印象を受けたと思う。一つ強調しておきたいのは、ピンポイント爆撃であろうと精密誘導爆撃であろうと、爆弾が落ちればその被害半径は、少なくとも三百メートル、大きな爆弾であれば千メートルに及ぶ。一つの爆弾が落ちれば、その周囲の半径百メートルの範囲にいる人たちは皆死傷するという威力は最低持っている。
 一番大きな爆弾、たとえば「MOAB爆弾」に直撃を受ければ半径六百メートルの範囲の人は全員即死する。火傷とか爆風と飛んできたものがあたるなどの周辺被害になれば、半径一キロの被害半径に入る。こんな爆弾を使っておいて人道的も何もあるわけがない。
 精密誘導爆弾が建物一つを破壊したとする。そうするとその建物だけではなくて、その周辺の建物も破壊される。パレスチナ自治区ジェニンの難民キャンプあるいはその他の地域で、イスラエル軍が反イスラエル組織の人間をねらってミサイルを撃ち込むということをよくやる。その時に一般市民も巻き添えをくう。そういうことが国際社会で大変な非難を浴びていたはずだ。アメリカ軍がやっていることもまったくそれと同じで、たくさんの人たちが巻き添えをくって死んでいっている、戦争当初は流れなかったが、最近になって映像として流れるようになった。
 普通の爆弾が落ちた場合どうなるかというと、落ちて爆発した際に、榴散弾といって大きなものだとこぶし大、小さなものだと小指の頭大、その位の鉄片になって飛び散る。その鉄片が人間に当たれば散弾銃を浴びたような状態になりズタズタに引き裂かれる。
 イラクの場合の民家というのは土壁だ。これでは爆風を支えきれない。そういった建物の壁を撃ち抜いて榴散弾の破片が家の中に飛び込む。それによってたくさんの人が被害を受けている。戦争というものは、そういうことを起こす。

非人道的大量破壊兵器の大量使用

 サーモ・バリック爆弾(熱風爆弾)、デージーカッターなど、非常に強力な熱と爆風を引きをおこす爆弾を、今回アメリカ軍は使っている。それはどういうことになるかというと、中心温度が約三千度程の高温の燃焼材を使う。それによって非常に大きな爆風が発生する。その圧力は、そこから百メートル離れたところでも、数十気圧という圧力になる。その非常に大きな圧力を受けることによって、人は内臓破裂で死亡するそうだ。
 あるいは、直撃をまぬがれたとしても、その時の燃焼によって、その周辺地域の酸素が一瞬にして奪われ、酸欠で死亡する。昔ヴェトナム戦争時に開発された真空爆弾というものがある。これは爆発の燃焼によって、酸素がすべて奪い尽くされて、一瞬真空状態がそこに発生する。それによって地下壕にいる人たちが、酸欠で即死状態になった。こういう爆弾が人道的兵器というのであれば、何だって人道的兵器だ。原爆だって人道的兵器ということになってしまう。そういう爆弾をアメリカ軍は、イラク戦争において散々使っている。
 人道的戦争などというものが、私はあるとは思っていないが、国際法では、戦争になった場合何をやってもいいとは書いていない。最低限、残虐なことだけはやめようというのが第二次世界大戦の経験で、その後ジュネーブ条約が作られ、アメリカはこれも批准している。その中には、過度の障害を与える手段を講じたり、自然環境に深刻な障害を与えたり、民間人に大きな犠牲を与えたり、そういう手段を戦争においてとってはいけないと書いてある。これがジュネーブ条約の基本的な精神だ。
 したがって、大量破壊兵器である核兵器・生物化学兵器といったものは、こういう条項に抵触するであろうという批判が強まった。生物化学兵器については、禁止条約が作られた。対人地雷が禁止されたのも、この条約の精神に基づくものだった。核兵器に関しては、米露英仏など持っている国が手放したがらないから、残念ながら廃絶条約というものができないが、それにしても国際司法裁判所は、一九九六年に勧告的判決というものを行った。
 つまり、アメリカのイラク攻撃は、どこから見ても国際法に違反をするということになる。核兵器についても、アメリカは使用をしないとは明言していない。状況によっては、使用することを選択肢として捨ててはいない。これはラムズフェルド国防長官がはっきりと言ったことだ。そんな戦争をアメリカはイラクで続けている。
 その中で、例えばいま問題になっているクラスター爆弾、これは二百個ぐらいの小型の爆弾を撒き散らす爆弾だ。これを住宅地で使ったことが明らかになっている。クラスター爆弾というのは、投下された時の被害半径が三キロメートルと非常に広く、このエリアが二百発の爆弾によって面的に破壊されるというとんでもない兵器だ。これを住宅街で使ったわけだから、とんでもない被害がそこで発生をしていると思われる。約五十人の一般市民が死亡したという報道が、イラク国営テレビによって流された。このクラスター爆弾も国際法上、非常に違法性が高い兵器だと私は考える。そのような兵器の中の一つに劣化ウラン弾があると私は思っている。
 劣化ウラン兵器、そのおおもとは放射性物質のウランである。核燃料や核兵器を開発する際に、ウラニウムは鉱山から掘り出され、これは金属なので精錬加工して最終的に、核燃料になったり核爆弾になったりする。

劣化ウラン弾被害を否定する米軍

 米軍は例えばどういうことを言っているか? 劣化ウラン弾が不発弾となって土壌に残留したとしても、それが地下水などに移行することはないということが、われわれの十五年間の追跡調査でわかったと言っている。ところがその翌日に、国連環境報告はどういう警告を出したかというと、ボスニア・ヘルツェゴビナで使われた大量の劣化ウラン、九トンあまり使われて土壌の中に残留している、そこからしみ出した劣化ウランが地下水系に入っているから(直ちに人体に影響があるとは思えないが)警戒を要すると発表している。つまりアメリカ軍が言った言葉が翌日、国連機関によって全面否定されている。
 この劣化ウラン弾攻撃をやったことでアメリカ軍の兵士が大勢の被害を受けている。したがって、もしアメリカ軍みずからが劣化ウランの影響が高いものだと認めてしまった瞬間、対イラクや対ボスニアというよりも、自分の国の退役兵士たちからからいっせいに反発を受ける。その結果アメリカ軍組織そのものが、自分の国の兵士に対して重大な戦争犯罪をおこなってきたということで訴追される。
 軍の責任が追及され、何万人という数の訴訟団が作られていくだろう。湾岸戦争に従軍した兵士は、六十五万人。そのうち、劣化ウランに限らず何らかの影響で医療サービスを受けている人々は、二十数万人いる。その中で、劣化ウランの影響を受けていると思われる人々が名乗りを上げて政府を追及する。今でも訴訟がおきているが、そのケタが二ケタも三ケタも上がっていくということが明らかだ。
 したがってアメリカ軍的にいうならば、劣化ウランの影響などないのだということをいかなる場においても主張し続けなければ、彼らの組織そのものが保たないという事態に立ち至るということだ。

劣化ウランとプルトニウム

 劣化ウランの主成分はウラン238。実は、劣化ウランの中にプルトニウムが含まれている。私たちは劣化ウラン弾といままで言ってきたが、それをやめようかと思っている。「劣化ウラン・プルトニウム弾」では長いので、放射能兵器と呼ぶようにしている。
 天然中に存在するが、天然には存在しない。これはどこから出てきたのか。普通のウラン・原子燃料は濃縮ウランだからウラン235と238しか存在しない。炉心で中性子を燃やしたときにプルトニウムが濃縮ウラン三十トンあたり三百キロできる。この燃料全体は、一炉心分三十トンを前提としている。ここにあるプルトニウムの中には、239や240などいろいろある。いわばこれが高レベル放射性廃棄物だ。近寄れば一秒で人間が即死するという使用済み燃料の組成だ。
 これを再処理工程で再処理すると、ウランとプルトニウムは取り出せるが、残念ながらウランだけ純粋に取り出すというのは、物理的に不可能だ。どうしてもプルトニウムが混じってくる。プルトニウムが混じっているということは、劣化ウランではなく回収ウランであることを意味する。つまりプルトニウム生産のための軍用原子炉を含む原子炉で燃やした燃料を回収し、再処理工程で回収したウランを回収ウランという。その回収ウランで作った弾であるということだ。
 アメリカ軍は、劣化ウラン弾と称して、プルトニウム混じりの回収ウラン弾も撃っていた。これはコソボ、ボスニア・ヘルツェゴビナの例だ。アメリカ軍は、実際に一部だけ事実を認めた。
 「アメリカのケンタッキー州パデューカ市郊外にあるウラン濃縮工場で、一九七〇年代に回収ウランを最大五〇%使った時期があった。したがって、プルトニウムが出てきても不思議ではありません。しかし、プルトニウムの被爆量は、全体のウランの一〇〇〇分の一から一〇〇分の一の間ほどしか寄与しないので、もともとの劣化ウランであるウラン238の放射線量に比べてそれほど際だった高いものにはなりません」という言い訳をしている。
 この主張は本質的に間違いだ。なぜなら、劣化ウラン弾全部が均等な割合でプルトニウム239・240を含んでいるわけではない。これは一つの弾を分析しただけのデータだ。このデータだけ見てもこれだけ立ち上がりの高いプルトニウムが含まれていれば、もともとのウラン238の危険性に比べると、こちらの危険性は、とても〇・一%というレベルにはとどまらない。これが入っているお陰で、このウラン238に比べて二〇%位加算してしまうという放射線量であることがわかる。
 しかも、ウランよりもプルトニウムの方がエネルギー量が大きい。したがって、一つのアルファ線の打撃力は、ウランよりもこちらの方が高い。影響を受けやすい。そういう点を加味して、この回収ウラン弾は、通常の劣化ウラン弾で考えられていたよりも放射性毒性が高くなっていると言うことがわかる。
 さらにこの劣化ウランが細かい微粒子となって飛び散って人体に入る。そうすると同じ大きさのウランとプルトニウムの粒子の放射性毒性は十八万倍違う。ウラン238に対してプルトニウム239は、放射線の強さ及び半減期の長さ、そういう点から十八万倍も危険なものだ。プルトニウムを大量に環境中に拡散する大事故を起こした旧ソ連・チェルノブイリ原発の周辺地域では、白血病やガンが多発しているが、その中のかなりの部分がこのプルトニウムの影響であると言われている。
 さらに大気中核実験で米英仏などは大量のプルトニウムを環境中に撒き散らした。それらの影響により、全米ではおそらく二十万人が肺ガンになり過剰に死亡したであろうというのが、アメリカのジョン・W・ゴフマンという科学者の推計だ。そういうことも劣化ウランを考える上で考慮に入れなくてはならない。

バンカーバスター爆弾と劣化ウラン

 最後に地下貫通誘導爆弾、これはバンカー・バスター、これ一発で二トンの爆弾であり、こらが地表に突き刺さると三十メートルぐらい地下まで行き大爆発をする。爆発をしたときの地表面は、岩盤によっても違うが、だいたい震度七くらいの大地震になる。その周辺数百メートルも震度五程度の大きな揺れに襲われる。要するに人工地震爆弾みたいなものだ。
 大統領宮殿であろうと、これを打ち込んでまわりの民家が無事であるわけがない。耐震設計でもしてあれば別だが、イラクのような地震のない国の普通の民家は、土で作ってあるので、このような爆弾が数百メートル以内に投下されたら、その周辺の民家は、地震にあったのと同じ被害が起き、家が崩れる。実際アフガニスタンでバンカー・バスターを使われた地域では、着弾後に大きな揺れを観測し、家が倒壊して数百人が下敷きになった。
 このバンカー・バスターにも劣化ウランが使われている危険性がある。使われている重量の最大見積もり一・五トン。戦車砲弾は五キログラムだから、三百発分に値する。そういうものをなぜ使ったかというと、先端の出っ張った部分は誘導装置なので投下後地面に突き刺さった瞬間に吹き飛んではずれる。この下の直径三十三センチの電柱のような部分が砲弾そのもので、これを地下三十メートルまで突き刺そうというのだから、よほど強固なものでなければ潰れてしまう。
 地面の中を垂直に進まなければならない。少しでも斜めに入れば折れてしまう。三千メートルの高い空から落としたバンカー・バスターが地表に垂直に突き刺さり、かつ比重が非常に重く固いものでなければ地下三十メートルまで行かない。そういう目的で開発された爆弾なので、劣化ウランのような固い金属がどうしても必要だ。
 この開発が本格的になるのが、九七年以降だ。九七年から今日の間に改良に改良を重ねたバンカー・バスターGBU28・GBU37などを量産する。その時の命令書の内容は、「対強化目標爆弾の開発を命ずる」となっている。対強化目標とは、厚みが十メートルに達する強化コンクリート、あるいは地下百メートルに達する地下施設。
 それでは、目標はどこか?一つはイラク。フセイン政権は、バクダッドの地下に百メートルにも達する広大な地下施設を建設している。もう一つは、北朝鮮。寧辺(ヨンビョン)の核開発施設は、固い岩盤の下でおこなわれている。それぞれ一撃で破壊できるような爆弾を開発しなければならない。
 これらを製造したレイセオン社など軍事産業は、アメリカ特許庁に対して、地下に突き刺さる部分・貫通体の特許申請をしている。そこには、貫通体について劣化ウランまたはタングステンと書いてある。これはアメリカ軍が秘密にしているのに、劣化ウランと明記しては、アメリカ軍のウソが暴かれてしまうので、ぼかしたのではないかと思う。アメリカ軍は別のところで、タングステンでは大したことがないと明確に書いている。タングステンは、三千度くらいの融点を持っていて、非常に加工性が悪く、劣化ウランよりはるかに高価だ。
 劣化ウランは、核兵器や原子燃料の材料の副残物でゴミであり原価はタダだ。アメリカ・エネルギー省は、軍事産業にタダで払い下げている。かたやタングステンといえば中国や外国から買わなければならず、一般的に使用されており、商品価値があるので高い。高いものを何トンも使えば一発あたり何億円もしてしまう。アメリカ軍も採用できない。   (つづく)
                   


もどる

Back