もどる

                          かけはし2003.4.28号より

中国政府の偽「反戦」と台湾愛国派の「反反戦」

鄭 谷雨



 親米世論の強い台湾でも、イラク反戦運動が広がった。これに対して親米派は、反戦は中国を利するものとして「反反戦」を掲げた。しかし世界資本主義の「工場」となった中国政府の「反戦」は、きわめてあいまいな、便宜主義的なものにすぎない。以下は、台湾左翼でいまなお主流である親中派スターリニストに対抗し、反グローバリゼーション運動や反戦運動を展開している革命的社会主義誌『連結』第9号から。



 今回のアメリカの対イラク戦争が不公平であることは明白であり、台湾世論におけるアメリカ一辺倒の立場をいくらか変え、民衆の間でも反戦運動が登場したが、同時に「反反戦」という主張も登場した。これらの「反反戦」人士は往々にして「愛台湾」、「地元派」のスローガンを掲げている。かれらは反戦運動が親中国の立場であり、台湾の利益に反し、「偽善の左派」なので支持するに値しない、と主張している。
 これらの人々は反戦活動家が中国による台湾への武力行使に反対しないのではないかと疑いをもっており、中国での反戦運動を強調し、台湾は現在の(アメリカに対する)反戦運動に同調してはならないと主張する。これらの人々は当面の主要な課題である、アメリカのイラク侵攻を支持するかどうかという問題を回避している。また中国での反戦運動が必要であるにもかかわらず、どうして台湾での反戦運動が必要でなくなるのかという説明はない。これらの人々が「反反戦」である理由は、結局のところ反戦運動がアメリカの利益に反し、「台湾の利益」の障害にもなるということである。
 なぜなら彼らは、台湾の主体性の確立はアメリカに依拠することによって実現されると考えているからである。このような観点は、アメリカがかつて国民党独裁政権を支持したことを完全に無視し、アメリカの台湾に対する経済的侵略の事実(スーパー三〇一条、知的所有権、農産物および酒タバコ市場の強制的開放、原発施設のダンピングなど)を回避しており、当然にも強権の本質を全く理解していない(かつてアメリカに依存したフセインやビンラディンが政治的舞台から退場したことを思い出そう)。これらの人々は「愛台湾」派というよりも「媚米」派といったほうがいいだろう。
 しかしこれらの意見は、台湾がアメリカと中国の大国にはさまれているという状況において、反米が容易に親中国とされてしまうという特殊な状況を反映している。進歩的反戦運動は、とるべき立場をはっきりさせるために、われわれは中国政権と「反戦」の態度についてさらに議論する必要がある。
 実際、中国政府のアメリカに対する姿勢は国連安全保障理事会の常任理事国として、極めて軟弱なものであった。二月二十四日、戦争がまさに開始されようとする中で、中国共産党総書記の胡錦濤はパウエル国務長官を手厚く歓迎し、中国は「アメリカとの共同の努力を願っており、米中関係の積極的な勢いを維持し発展させていく」ことを宣言した。開戦の後、中国共産党は戦争には反対するという姿勢は見せはしたものの、それは国連の承認を経ていない戦争に反対するというものに過ぎなかった。
 もし国連での議論を経た後に戦争が開始された場合、中国はおそらく湾岸戦争のときと同じように拒否権を発動するのではなく、棄権票を投じて、事実上の開戦支持をしただろう。他方、アメリカ主導のイラクへの経済制裁では、イラクの無数の人々が亡くなったが、当初中国はそれにも賛成票を投じている。中国共産党の反覇権、反戦が口先だけのものでしかないことは容易に見て取れる。
 中国共産党のこのような立場は、資本主義的グローバリゼーションを長年にわたって抱え込んできたことの当然の結果である。一九八〇年代から、中国共産党は低賃金と豊富な労働力によって外資を積極的に導入し、労働者の組織とスト権を制限し、資本家による労働者搾取を容認し、中国を世界の絶望工場に変え、外資と外国市場、特にアメリカ資本とアメリカ市場に過度に依存してきた。WTOに加入した後、このような勢いは一層加速された。どおりで多くの国際的評論家が、今回の中国の外交姿勢が「地味で実務的」であると評価したこともうなずける。

 中国のアメリカへの態度は低調であるが、自らの利益を打ち固めることには努力を惜しまない。台湾やチベットの民衆の自決権を認めないだけでなく、列強の石油争奪戦にも参加している。中国の支配エリートたちは西側資本主義の消費様式にあこがれており、例えばモータリゼーションを精力的に拡大している。世界の絶望工場とモータリゼーションの拡大には大量の石油が必要である。安定した石油輸入を保証するために、中国の石油業界の三大グループである中国石油天然ガスグループ公司、中国石油化工株式有限公司、中国海洋石油総公司は各地で油田を買収しており、スーダン、インドネシア、イラクなどの独裁政権やシェル石油などの多国籍石油資本と協力して開発するだけにとどまらず、中国海洋石油総公司などはインドネシア最大の海上石油生産企業にまでなっている。
 イラクでは中国、フランス、ロシアは協力して油田を開発していることから、かれらは当然アメリカにイラク侵攻をしてほしくないのである。中国石油天然ガスグループ公司とスーダン政府による合弁の油田では、人権団体が告発しているように、採油のために三万六千人が強制的に移転させられ、移転を望まない住民には虐殺やレイプなどが行われた。
 台湾・中国にかかわらず、多くの人が中国民族主義的立場から出発し、中国共産党政権に依拠して反帝闘争を行うことを望んでいるが、長年にわたる中国共産党の対外政策は、すでにそれが大いなる幻想であることを説明している。他方、「媚米地元派」が「愛台湾」の旗印を掲げて必ず「台湾の利益」を打ち出すが、彼らが追求する台湾国家とはすなわちアメリカの属国であり、それでは各国民衆のシンパシーを獲得することはできず、アメリカの政治経済の支配下では、台湾民衆はこれまで以上に本当の主人公になることはできない。この二つの民族主義(中国と台湾)はどちらも「愛国主義」をうたっており、「国家の利益」を高く掲げているが、それは本質的には少数の支配エリートに奉仕するためのイデオロギーであり、労働者民衆の真の「解放」と「自由」とは無縁のものである。
 帝国主義戦争はこの社会制度の最も醜悪な弊害であり、さまざまな政治党派にとっても最大のテストである。反戦を掲げるのか。どのように反戦を掲げるか。民族主義を掲げ労働者民衆を抑圧する独裁政権に依拠するのか。分け前が平等ではない強権に依拠するのか。それとも労働者民衆の大衆運動で戦争を生み出す社会制度を変革するのか。アメリカの対イラク戦争は早期に幕が下ろされようとしているが、アメリカは拳をこすりながら次の目標への準備を進めている。それゆえこの問題は過ぎ去った問題ではなく、早急にわれわれが直視し回答することが求められているものなのである。(「連結」9号)


もどる

Back