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ブラジル                      かけはし2003.4.21号より

ルラ政権--変革への大衆的熱望と右からの重圧(1)

ジョアオ・マチャド・ボルゲス・ネト


 昨年十月に行われたブラジル大統領選挙の第二回投票でPT(労働者党)のルラが六一%の得票で勝利した。ルラ大統領の誕生は新自由主義の破滅的影響と闘ってきたブラジル労働者・農民運動の歴史的勝利である。同時にルラPT政権は、ブラジル経済の深刻な危機の中で困難な運営を余儀なくされている。それはPT主流派とルラのIMFや大ブルジョアジーへの妥協への圧力となっている。PT左派として闘ってきた第四インター派(社会主義的民主主義潮流)は、ルラ政権に閣僚を出し、この挑戦に立ち向かっている。



民衆の勝利と新自由主義の敗北

 ルラの勝利は、一般的には、ブラジルとラテンアメリカ民衆の勝利として祝福された。つまり、民衆の指導者であり大衆的左翼政党の組織者である労働組合活動家・労働者の指導者が大統領に選出されるなどというのは決して日常的なことではないのだ。
 ルラの勝利は、議会選挙での労働者党(PT)の勝利によって強められた。PTは下院(連邦議会)で第一党(五百十三議席中九十一議席)となり、上院では第二党となった。PTは諸州議会でも主要政党となった(注1)。PTは、多数派政党となるにはいまだ程遠い。PTは、大統領選の第一ラウンド、第二ラウンドで同盟者となった他の政党を合わせても、下院や上院で多数派を獲得しなかった。また州知事選の結果もほどほどというところであった。
 しかしPTの選挙での成果は、新自由主義の敗北、ならびにブラジル社会における力関係の顕著な変化を示すものである。その根本的理由は、フェルナンド・エンリケ・カルドゾの新自由主義政権の八年間の結果に対する民衆的不満、ならびにPTが体現した変革への巨大な願望にあった。

選挙運動が示した矛盾と限界

 新政権の選出が生み出した偉大な希望は、新政権の発足式典を特徴づけた祝福によってはっきりと表現された。その時、数十万人もの人びとが、民衆がやって来ることを真に待ち望んでいたその日がついに来たことに確信を持ち、「大統領同志」に祝福のあいさつを送るためにブラジリアに向かったのである。
 祝福するにはたくさんの理由があった。しかし、勝利の中には矛盾と限界が存在しており、それは選挙運動期間中に露呈したことであった。最も重要な要因は、明確に右派政党である自由党(PL)をふくむ連合にルラが参加したことであった。PLはこの選挙で、パウロ・マルーフ、アントニオ・カルロス・マガラエスといったブラジルの最も著名な右派の人物を州知事選で支持していた。ルラとコンビを組んだ副大統領候補のジョゼ・アレンカルはPL党員であり、まさに大企業の側のルラへの抵抗を和らげるという目的のために候補者として選ばれた大実業家である。
 二〇〇一年十二月のPT第十二回全国会議で、社会主義綱領と政府の構成を結びつけて、幾つかの点で歴史的な党の立場への復帰(より薄められた形ではあるが)を支持し、新自由主義との決別を目指した綱領を採択したという事実にもかかわらず、選挙で提起された党の政策綱領(マニフェスト)はそれとはきわめて異なったものであった。
 新自由主義との完全な決別という考え方は、「移行期」を承認する言及がなされる中で放棄された。「移行期」はカルドゾ政権の中心的な政治・経済的特徴を維持するものとされている。選挙期間を通じて、「契約」(とりわけ、国内債務支払いの厳格な実施をふくめて)は尊重されると繰り返し約束された。これは、選挙期間中に起草され、ルラの支持(それは不可避的だという理由で)を受けたIMFとの新協定を助けることになった。
 最終的に、第一ラウンドが終わり第二ラウンドが始まる前に、保守陣営からの支持宣言が増大した。選挙後になって、ルラは彼の副大統領を指名して以後追求してきた実業界との大同盟が本来の姿をとりはじめた、と言うことができる。PTの大企業との同盟は、大企業自身からのものというよりも党指導部からのイニシアティブの結果だ、と言うべきである。
 この同盟についてどのように分析しようと、ルラとPT指導部が実施した戦略の本質的部分として理解すべきなのである。また、それが結果としてどのように打ち固められるかは、政府の具体的行動、とりわけ政府が社会的紛争を処理するやり方にかかっている。この大きな政治的ゲームはPTの内外から多くの批判を受けたが、ルラはそれによってほとんど票を失わなかった。
 PTより明確に左に立つ唯一の政党であるPSTU(統一労働者社会主義党、モレノ派起源)は、前回の選挙と比較すれば投票においてきわめて小さな成果しか得られなかった。しかしルラは、左派から得票を大きく失うことなく、右派や中道派からの得票を増やしたのである。
 選挙後のルラへの支持は、勝利した候補者が普通に受ける支持よりも強まった。彼の大統領職継承を讃える祝福、メディアの扱い、MST(土地なき農業労働者の運動)からの支持、IMF代表からの支持(代表のホルスト・コーラーは、ルラは「二十一世紀の政治家」だと述べた)は、これまでのブラジル大統領で権力の座についたとき、自陣営の内と外からとを問わず、これほど多くの支持を得た者はなかったことを確証している。
 過剰な支持は、当然にもそれ自身、問題を引き起こすものだ。ルラ政権を自分たちのものだとしているさまざま異なったセクターが、彼に異なったことを期待している。かりに大統領が結果を出すための時間を手に入れたとしても――全くの「神の恩寵」に恵まれて――矛盾は拡大するだけである。

政権綱領と内閣構成が示すもの

 ルラ政権が受け継いだ枠組みと結びついた諸困難は、もう一つ別の重大な側面を持っている。カルドゾ前政権は、外部からの影響に対するブラジル経済の依存を著しく増大させてきた。ブラジル経済は、国際金融市場の要求に完全に従属するようになった。同じ時期に、国内債務も増加し、公的財政でそれをまかなうのはいっそう困難になった。カルドゾ政権の唯一の成果といえるインフレの抑制は、その在任期間の終わりには脅威にさらされるようになった。
 これらすべてが、この国を民衆の利益に沿って変革するための関与という、新政権の栄誉ある能力に疑問を投げかけている。理想的な条件の下であったとしても、その課題は巨大なものになるだろう。
 ルラ政権の成功は多くのことに依存しているが、そのうちの幾つかは国際的政治・経済情勢などそのコントロールを超えたものであり、他の要因は社会的動員などで、そこでは政権の影響はそれほど深くはない。
 しかし政権の綱領(それに沿って、政権の前に提示される挑戦に向かい合おうとする主要路線)とその構成(政府を構成する政治勢力)は、二つの決定的な要素である。
 第一の側面について言えば、選挙運動を支配していた考え方は、政府はすべての階級、社会勢力の間の討論を促進するというものであった。その主要目標である市民のエンパワーメントは、経済成長、雇用の創出、不平等の削減と平行して進めるものであり、そのすべてはいかなる大きな社会的・政治的衝突もなしに可能であると見なされた。内閣の実際的な構成との関連では、選挙期間中に、政府は広範な基盤を持ち、PTだけではなく第一ラウンド、第二ラウンドの投票でルラを支持したさまざまなグループや連合も代表されるという約束が行われた。
 今や、われわれは新しい政府の構成を知っており、大統領が選んだ人びととそのチームの最初の発表を知っているので、政府がどのようなものになるかについて、より明確な像を描くことが可能である。
 ルラの政権チームのうち二十人(十六人が閣僚、四人が内閣官房事務局)がPTの党員である。七人は、第二ラウンド投票の同盟政党がそれぞれ一人の閣僚を送り込んだものである。七政党とは、自由党(PL)、ブラジルの共産党(PCdoB)、民主労働党(PDT)、社会主義人民党(PPS)、ブラジル社会党(PSB)、ブラジル労働党(PTB)、緑の党(PV)である。
 中央銀行の新総裁は、選ばれた時点でブラジル社会民主党(PSDB、カルドゾの党)の国会議員として選出されていた。彼は中央銀行総裁の職務を引き受けるために自らの議席を放棄しなければならなかった。予測外であり、かつルラが言っていたのとは違ったことは、ブラジル民主運動党(PMDB)が政権に加わらなかったことである(政府は、パウロ・マルーフのブラジル人民党〔PPB〕のような、内閣に閣僚を持たない政党に対してと同様に、議会内PMDBの一部の支持をかちとる交渉を行っているが)。
 他の七人の閣僚は、政党の党員ではない。そのうち二人は弁護士である。司法相は長年にわたってPTと連携してきた人物で、労組の訴訟代理人である(注2)。別の二人は外交官(外相と国防相)で、五番目は軍部出身である(内閣の制度的安全保障首席官)。残る二人の非政党員閣僚は経営者である(開発・産業・外国貿易相と農相)。報道によれば、前者はルラの求めに応じて、ブラジルの主要な経営者組織であるサンパウロ州産業連合(FIESP)が提案した者である。この財界出身の二人とも、ルラに負けたジョゼ・セラ――前政権が擁立した候補――の選挙運動を支持していた。
 PTの二十人の閣僚と官房事務局員の政治的所属を検証することも重要である。十二人はPT多数派(前回の党大会で五〇%を少し上回る票を獲得した)に属しており、三人は多数派とPT左派の間の「中間派」と呼ばれるグループに属しており、二人は最近入った党員であり、残る三人が前回の党大会で左翼潮流リストに参加していた(農業開発相、都市相、農林・水産業官房事務局長)。
 三つのコメントを行おう。第一に、PTは予想されていたよりも内閣の中で有力な位置を占めている。それは閣僚ポストの数の観点からだけではなく、そのポジションの重要性からいってもそうである。政府の中枢(内務相、大統領官房長官、政府報道局、財務相)は多かれ少なかれ完全にPTである。第二にPT諸潮流の多様性が、相対的に尊重されてきた。「多数派」陣営に属さない潮流の誰も政府の中枢には加われなかったとはいえ、その政府への参加の度合いは、たとえば選挙運動指導部や、政府の形成を監督していたチームへの参加よりもすでにより重要なものとなっている。
 最後に、政府におけるPTの優勢にもかかわらず、政府は予測されていたよりもさらに「広範」(第二回投票でルラを支持した連合をも超えているという意味で)なものである。PMDBが加わらなかったことによる「広範さ」の欠落は、中央銀行総裁とPMDBと結びついた二人の閣僚(いずれも経済関連)の組み込みによって、ほとんど埋め合わされている。

中央銀行新総裁と経済政策

 「広範さ」が経済分野に集中している以上、政府の経済セクターについてもっと詳しく見ておく必要がある。政府の経済セクターは、中央銀行(経済相と密接に結びついているが、その自律的機能は強化されている)以外に、四つの閣僚を持っている。すなわち経済相、計画・予算相、産業・外国貿易相、農相である。他の閣僚も経済政策にある程度の影響をもたらすが、中央銀行総裁とこの四閣僚が最も重要である。
 この五つの機関について考察すれば、一方ではPTと「PSDB潮流」とも言うべき存在との間で違いが存在している。経営者はこのPSDB(ブラジル社会民主党)と、その旗印の下で選出された議員を自らのものとして意識している。この後者のブロックの若干の優位性は、それが経済閣僚と中央銀行(これまでのところ経済面では最も重要な機関)を支配しているという事実によって、そしてそれらの指導者たちの宣言によって強化されたものとなっている。
 PSDBと親密な関係にある中央銀行の新総裁エンリケ・メイレスは、ボストン銀行の国際関係責任者であった。予測されていたことではあるが、中央銀行総裁にアメリカの銀行やカルドゾの党と結びついた者が指名されたことは、PT活動家からの反対を受けた。PT社会主義的民主主義潮流(DS、第四インター派)選出の上院議員エロイサ・エレナは、彼の指名を拒否する投票を行った(憲法によれば中央銀行総裁は上院の承認を受けなければならない)。
 こうした批判はPTの伝統を守るものである。四年前、メイレスの前任者アルミニオ・フラガが指名された時、PTは国際金融市場と結びついた人物の指名に激しく反対した(フラガはジョージ・ソロスの下で働いていた)。メイレスの銀行政策について疑いの余地を残さないために、彼は上院でアルミニオ・フラガの政策を全面的に支持すると述べた。さらに、彼は前任者が指名した指導集団をそのままにした。
 今日、中央銀行は、経済政策の実施にあたって最も重要な機関である。中央銀行は金融政策だけではなく、兌換政策、銀行制度の規制と監督、資本の流れのコントロールを指令し、IMFとの討議にあたっての中心的ポジションを保持している。さらに金融政策は、とりわけ通貨価格の設定を優先する。それはブラジルの場合、巨大な財政的影響を持つ。もし金利が上昇すれば、公的債務とその利子支払いも上昇するのである。
 同一の現象は交換レート政策についてもあてはまる。ブラジルの国内債務の多くは、交換レートの変動と関係しているからである。GDPに対する公的債務の比率(それはIMFならびに「市場」の要求の基準である)をコントロールするために導入された予算の赤字の削減は、中央銀行の責任の下に置かれている変動要因(利子率、交換レート)によって、その多くが決定される。
 カルドゾ政権の下で金利は、つねに世界的に最高の数値の中に入っており、メイレスが発表している政策も金利をきわめて高く設定するというものだ。高金利の維持は、より大きな財政的困難を引き起こすだけではない。それは金融資本の株主に富を移転し、利潤率を引き下げ、したがって賃金を押し下げる圧力として働く。要するに高金利は富の集中を極度に強め、ルラが選挙キャンペーンで取り上げた諸課題と真っ向から矛盾するのである。
 金融政策は、広い範囲で経済成長率を決定するものである。高金利は低成長を引き起し、政府のプロジェクトを破綻に追い込むだろう。ルラ政権は、中央銀行に関して「機能的自律」政策を防衛しているが、それはすでにIMFの要請に従ってアルミニオ・フラガを中心とするチームが定式化したものだった。それは以前から銀行が享受していた行動の自由を法的に定式化し、いっそうの一貫性を与えるものである。
 そして、銀行の役員が固定した任期を持っている以上、例えば政府が経済政策を変更する場合、彼らを別の人間に置き換えることはより難しくなる。当然にも「機能的自律」プロジェクトは、フラガの時代に出発した金融政策を固定化する「インフレ目標」の決定との関係で、中央銀行は経済閣僚が規定する目標に合致すべき、ということを想定している。
 論議中の経済政策モデルに基づくことに満足せず、インフレ目標を規定することは方針としてきわめて貧弱なものである。中央銀行は、こうした目標にかなう金融政策を実行する完全な自由を享受している。カルドゾ政権以来起こってきたことが、より際立ったものになるだろう。経済閣僚が中央銀行の行動を指し示す代わりに、中央銀行の方が金融的枠組みの支配を通じて閣僚の自由裁量の余地を規定するということになるだろう。
 PTはつねに、中央銀行のさまざまな形での自律に反対してきた。それは議会の上下両院によって承認されるべき憲法上の問題である。PT議員の一部は、すでにこの構想を批判してきた。いずれにせよその承認は、闘いぬきでは実現されないだろう。(つづく)

(注1)ブラジルは二十六の州と連邦区を持つ連邦共和国である。大統領は四年ごとに二回の投票(第一回投票で過半数を得た候補がいない場合、上位二人で決戦投票が行われる)を通じた普通選挙で選ばれる。大統領は閣僚を選び解任することができる(閣僚は議会に責任を持たない)が、議会を解散することはできない。二院制の議会は連邦代表議会(定数五百十三人で四年ごとに改選)と連邦参議院(定数八十一人で八年ごとに改選)からなっている。各州の政治制度も国と同様である。
(注2)大統領就任演説より。二〇〇三年一月二日。

(筆者のジョアオ・マチャド・ボルゲス・ネトは、経済学者でPTの活動家。社会主義的民主主義潮流の支持者で、数年間にわたって党の全国指導部の一員)

(「インターナショナルビューポイント」03年3月号)               


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