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戦争情勢下の2002年アメリカ中間選挙        かけはし2003.4.14号より

民主党の地すべり的大敗が示すもの


 昨年十一月五日に投票が行われた米中間選挙は、イラク戦争に突き進むブッシュの共和党が、上下両院て過半数を獲得する地すべり的勝利をおさめ、ホワイトハウスと連邦議会両院の「三冠支配」を確立した。そしてその勢いでブッシュはいま、イラク侵略戦争に全面的に突き進んでいる。民主党の敗北と共和党の勝利は何によってもたらされたのか。以下は、アメリカの革命的社会主義誌「アゲンスト・ザ・カレント」1月号編集部論説。


 二〇〇二年中間選挙における民主党の地すべり的敗北の理由は明らかである。すなわち、ラルフ・ネーダーである。そうには違いない。しかし、何もかもがラルフ・ネーダーのせいだったのだろうか。
 まじめな話、それぞれ付随的分派(リベラル派、および社会宗教的超保守派)を引き連れた中道右派(民主党)と強硬右派(共和党)を代表する二つの資本主義政党によって均等に分極化されている国では、選挙におけるわずかなぶれが、鋭く増幅された結果をもたらす。
 二〇〇二年十一月に起こったことは、これであった。わずかな数的移行が、共和党とブッシュ政権に上下両院の確固たる支配、戦争や「祖国防衛」や金持ちに有利な不公平税制の政策を進めるテコをもたらした。この政策の多くを住民の大多数が嫌っているにも関わらず、である。なぜ、こうなったのか。重要な要因は一般に良く知られており、それほど複雑なことではない。
b二〇〇一年九・一一は、ジョージ・W・ブッシュのイメージを、不当な権力簒奪者で国際的には軽量級というイメージからテロに対する世界十字軍の組織者に変えた。それはオサマ・ビン・ラディンの原理主義からもう一つの原理主義への贈り物となった。
bイラクに対して周到に計画され、綿密に実施された戦争心理宣伝が、現共和党政権に大いに有利に作用した。これは、戦争や戦争のうわさが一般に現政権に、そして特に共和党には、有利に作用するという歴史的パターンにあてはまる。
b民主党は、ほとんどの有権者が抱いている重要な疑問に対して、すなわち、戦争推進、テロ問題、経済、企業犯罪の頻発について、一貫したことは何も言わなかった。意味のあるメッセージがかくも欠如していたことは、全国的民主党に頼りになる指導者がいないという事実の反映であり、指導者がいないことでさらにひどくなったのである。
bその結果、通常の米国中間選挙の関心の低さの水準から見ても驚くべき低い投票率となった。
 特に最後の要因について少し詳しく見ると、共和党への一方的長期的振れのように見えることの中身が分かってくる。これは大衆の社会的または政治的保守主義への転換とはほとんど関係がなく、二つの政党の党と基盤の関係の問題であるとわれわれは考える。共和党の中核有権者層は、民主党の中核有権者層に比べて、党の政策にはるかに満足し、動機づけられているのは明白な事実である。この現実が公然と、特に民主党指導部によって、論じられることはあまりない。なぜなら、この問題には人種が大きく関わるからである。
 最も忠実なゆるぎない民主党有権者層は、アフリカ系アメリカ人コミュニティである。これよりやや弱い程度でラテンアメリカ系アメリカ人有権者層も確固たる民主党陣営であり、さらにあらゆる人種および民族グループの都市労働者階級有権者もそうであるが、しかし絶対的に明白なことは、全国レベルおよび大きな州での民主党の勝利は決定的に圧倒的な黒人票にかかっていることである。
 共和党の浸透の努力にもかかわらず、アフリカ系アメリカ人の票が依然として圧倒的に民主党のものであることは顕著な事実である。なぜか理解することは難しいことではない。トレント・ロットだけではないのである(ロットは、最近、一九四八年大統領選挙のストロム・サーモンドの人種隔離主義的選挙運動を賞賛する評価をした後、上院共和党指導者の地位を辞任した)。また、中心問題はロットの個人的人種隔離主義的ノスタルジアではない。中心問題は、ここに南部主導の共和党指導部全体の白人優越主義維持の社会政策と司法路線への関与が示されていることである。
 コリン・パウエルやコンドリーザ・ライスを並べた外面に関わらず、また、黒人中産階級や専門家層が成長し、いわゆる「財政保守主義」がこの層を引きつけているにも関わらず、黒人共和党支持層は依然として小さく、相対的に固定している。選挙の接戦に影響する真の変化は、アフリカ系アメリカ人の投票率である。
 これらの有権者は、不動の忠誠心の代償に得るものは何か。最後の民主党政権をちらりと振り返ってみれば答が与えられる。得るものはほとんど何もない。アフリカ系アメリカ人票に圧倒的に熱烈に支えられたクリントンとゴアの八年間がもたらしたのは、黒人投獄の恐るべき増加(大部分は被害者のない麻薬犯罪による)、福祉の破壊、そして実際の犯罪発生率の低下にも関わらずこの数十年で最も厳格な「反犯罪」法が実施されたことである。
 これは、「収拾のつかない黒人の犯罪性の神話」に対する、メディアにあおられた白人の恐怖症におもねったものであった(ついでに、このテーマの穏やかならざる探求を行ったマイケル・ムーアの輝かしい新作ドキュメンタリ「ボーリング・フォア・コロンバイン」を大いにお勧めする)。
 疑いなく、黒人は民主党の勝利によって一つの利益を得る。すなわち、共和党を権力から遠ざけることである。これは、イデオロギー的に高まった大統領選挙の熱情的シンボリズムがない中では、投票率の大幅上昇をもたらすには究極的には不十分である。
 第二の(重なっているが)民主党主要有権者層である労働組合運動を調べてみても、同様の結果が得られる。他方の共和党は、南部および宗教的右派の白人有権者の間に強固な基盤を持っている(これは、もちろん、南部白人がまとめて反動的であるというのではない。ここでは、戦術的次元について論じているのであり、誰かの政策をその民族性や出自に基づいて特徴づけようとするものではない)。
 これらの有権者は政治的投資に対してはるかに良い見返りを得ていると言わなければならない。確かに、権力の座にある共和党は、宗教の権利や人種主義の全面的プログラムを展開できるわけではない。学校での祈り、イスラムに対する公然たる攻撃、公式の移民排斥主義と移民やスペイン語を話すコミュニティに対する攻撃、妊娠中絶の非合法化、教条的白人優越主義の復活などを打ち出せるわけではない。
 これらの方向に極端に傾くことは、国内的にも国際的領域でも政治的自殺行為になるだろう。それにも関わらず、全国レベルおよび州レベルの共和党は強硬右派路線の重要部分を打ち出すことができる。アファーマティブ・アクション、バイリンガル教育、移民の権利の大幅後退、軍事支出の膨大な拡大、生殖の自由の厳しい制限、絶えず削減される福祉手当ての受給者に対するこれまでにない過酷な条件の強制、などである。
 特にブッシュ政権の下では、環境破壊はほとんど市民の義務となった。これらに加えて、金持ちへの減税、企業福祉が実施され、反労働組合環境が維持され、そして恐らく今後を予兆する意味を持つだろうが、裁判所に反動的な司法カードルが送り込まれた。
 一般的に言って、これらに対する民主党の抵抗は、精力的であるというより悠然としていた。結果はかなり予測可能であった。共和党を支持する有権者層は、相対的に意欲を失った民主党支持層より高い投票率を示した。
 敗北は敗北主義を生み出した。選挙結果は与党陣営内に歓喜の空気を作り出し、戦争の権限委任とイラクに対する迅速で喜ばしい勝利の期待の感情が生まれた。リベラル派と左翼の支配的気分は意気消沈とパニックであった。
 実際、当面の短期的展望は荒涼たるものに見える。われわれは祖国防衛状態の時期に入った。この状態は、官僚的なくだらない対策、全体主義、住民にテロを絶えず意識させ続ける恒久的な低レベル非常事態、はてしないハイテク戦争装置の無制限の拡大、などからなる。
 共和党政権は使命を持っている。本誌前号で分析したように、それは米国の世界支配の使命であり、それはむき出しの物質的で戦略的な帝国主義的利益だけでなく擬似救世主義的イデオロギーによって駆り立てられており、われわれの社会と地球にとって極度の危険に満ちている。しかし、好むと好まざるとに関わらず、それは政権とその支持者の間に統一と団結心を生み出すような使命である。
 反対に民主党は現在何の使命も、メッセージも、統一も持っていない。二年の選挙サイクルの中では多くのことが起こり得るが、政党指導部トップ・レベルの対抗者がアル・ゴアであり、十二月十五日に投了してしまったとすれば、こうなるのは当然であろう。
 下院民主党指導者としてナンシー・ペロジが選出されたことが宣伝されているが、この相対的リベラル派が傑出しているのは、闘争戦略よりも資金調達の専門家としてである。
 左翼は何をしているのか。最近のリベラル左派の新聞は、民主党をその保守主義、臆病、無能から救うにためにできることは何かという問題に時間を浪費している。この問題の単純にして十分な答は「何もない」ということだとわれわれは考える。
 このままの党が民主党なのである。それは究極的には大資本に責任を持ち大資本から資金を供給され、権力を勝ち取るために依拠している労働者階級、アフリカ系アメリカ人やその他の中核的支持層を裏切り意欲を失わせることを強制され続ける党である。この現実の下に「中道派的」日和見主義の民主党は、共和党の路線が経済的または軍事的に破綻し火だるまになったときにのみ権力を握る恒久的第二党として自己を位置づけてきたのである。民主党の指導部評議会はこの腐った連中の確固とした支配下にあり、党の進歩的翼が指導部を奪還するというのは幻想である。
 われわれの側にとって、十一月の選挙でピーター・カメホとドンナ・ワーレンの緑の党の運動がカリフォルニア州で五%を超える票を得たことは、非常に勇気づけられる結果であった。獲得した票数以上に、この運動はメキシコ人、パキスタン人や、反移民的雰囲気の影響を深刻に受けているにも関わらず通常政治的視野に入れられてこなかったその他のコミュニティの多様な有権者と重要な接触を発展させた。
 この結果は始まりに過ぎないが、真に新しい独立した政治に向かう道を示唆している。また、アフリカ系アメリカ人運動の中の多くの声が(ドンナ・ワーレンもその一人であるが)、黒人コミュニティが緑の党に注目し、この党を自分たちの党と考えるように主張していることを指摘しておく必要がある。
 これとは対照的に、選挙後慌てふためいてパニックに陥った進歩派のまことに哀れな表現は、ロニー・ダッガーのような主張であり、二〇〇四年大統領選挙を前にしてラルフ・ネーダーや緑の党を頭から拒否している。「民主党のメルトダウンによって今生み出されているブッシュ政権という災難は、非常事態である。わが隊列内で再度分裂している余裕はない。それは二〇〇四年にジョージ・W・ブッシュを再選させることになるであろう。」(「ネーション」、02年12月2日)
 ダッガーは代わりに「コミュニティのリベラル派、進歩派、ポピュリスト派が、進歩的民主党大統領候補の指名で結集すること」を提案している。よろしい。
 われわれは二〇〇四年の進歩派統一候補に関する独自の提案をしよう。明らかに、このような政治的重大事態における候補者の論理的受け皿は緑の党である(ふたたびネーダーになるか、新しい候補者かに関わらず)。どちらにせよ、民主党は何者も代表していないのであるから、進歩的な緑の党の票を分裂させないように大統領候補を立てないことを提案するのが妥当である。この方が筋が通っており、実現の可能性もダッガーの提案よりやや高いであろう。
 こうしている間も、忌まわしい戦争が迫り、経済的メルトダウンの可能性が強まっている中で、運動の緊急の任務は、われわれの社会的運動を基礎から構築することである。(「インターナショナル・ビューポイント」03年2月号)


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