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読者からの通信                    かけはし2003.3.3号より

「猟奇的な彼女」を観て

M・S

 一月にシャンテ・シネ1(日比谷)で「猟奇的な彼女」(クァク・ジェヨン監督作品)を観た。
 ストーリーを紹介したい。ある晩のことだ。「彼女(チョン・ジヒョン)は酒に酔っていて、駅のホームで足元がふらついていた。キョンヌ(チャ・テヒョン)は「彼女」を助ける。「彼女」は電車に乗るが、電車の中で倒れてしまう。キョヌは再び「彼女」を助けることになる。こうして出会った二人は交際を始める。だが、二人は少し変っていた。キョヌは女の子のように育てられた男の子だった。そして「彼女」は暴力的で酒好きな女の子だった……。
 この映画は、正義感が強くて心に傷を持った女性と彼女の心の傷を癒(いや)そうとする優しい男性の恋愛映画だ。この映画を見終って、ぼくは温かい気持になった。この映画はとても面白い。とても笑える。そして見ていて、切なくて優しい気持になることが出来る。
 この映画は「男らしさ」「女らしさ」というものをコミカルに批判しているような気がする。「彼女」がお見合いの席を抜け出してキョヌを捜(さが)すシーンがぼくはとても好きだ。援助交際をしようとしている男女を「彼女」が叱(しか)り付けるシーンもぼくは好きだ。ただ、「彼女」が電車の中でゲロを吐(は)くシーンは見ていて気持が悪かった。また、女装した男性を笑いの対象にしているシーンには疑問を感じた。
 いい外国映画を見ると「外国人も日本人も同じ人間なんだ」ということを感情的なレベルで理解することが出来る。「外国人は愛すべき隣人なんだ」ということを感情的なレベルで理解することが出来る。それが優(すぐ)れた外国映画のいい所の一つだ。ぼくは、そう思う。この映画は音楽もとても良かった。
 『キネマ旬報』二〇〇三年二月上旬号の中で伊藤卓さんは「猟奇的な彼女」について「これまで日本に紹介された韓国映画のなかでもっとも魅力的な一本である」と語っている。この映画のプログラムの中で山中久美子さんは語っている。「『彼女』という匿名のキャラは、時には女性の隠された男性への願望を体現し、時には大人から若者たちへの苦言を代弁してくれているのだ」。
 同じプログラムの中で「彼女」を演じたチョン・ジヒョンさんは語っている「『彼女』がキョヌを殴るシーンはとてもユニークな状況でしょ。殴っても憎たらしくないし、殴られても可哀そうじゃない。撮影のスタッフたちも、彼に同情するどころか、笑いをこらえるのが大変だったくらいなんです」(一部の記号をかえて引用した。チョン・ジヒョンインタビュー「本気で殴れという監督の指示だったから、最初は、とても緊張しちゃった」より)。「彼女」の暴力は逆DVというより漫才に似ているような気がした。
 この映画を見ていて韓国が「武装した国家」であることがよく伝わってきた。
 この映画のプログラムを購入したが、あまり良くない、とぼくは思った。
 「猟奇的な彼女」/原題 My Sassy Girl/二〇〇一年/韓国映画/原作 キム・ホシク(根本理恵訳『猟奇的な彼女』日本テレビ出版部刊)/音楽 キム・ヒョンソク。(2月24日)

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