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                          かけはし2003.3.24号より

日本政府との連帯ではなく途上国農民との連帯を

ウォールデン・ベロー(フォーカス・オン・ザグローバル・サウス)


 二月十四日から十六日、東京でWTO(世界貿易機関)非公式閣僚会議が開催され、「WTOは誰のため?東京行動実行委員会」などの連続抗議行動が行われた。以下はこの行動に参加したウォルデン・ベローによる総括である。


 成田国際空港で出国便を待っていたら、テレビに見慣れた米国通商代表部(USTR)のロバート・ゼーリック代表の姿があった。彼は「他の国が日本の生産加工品のために自らの市場を開放してきた」ように、今回は、日本にもその農業市場を開くよう要求していた。それは東京ミニ閣僚会議の最終記者会見であり、またゼーリック通商代表や彼の仲間であるEUのパスカル・ラミー通商代表、ならびに他の出席者たちの譲歩しない言葉や身振りは、現在、行なわれているWTO農業交渉が問題を抱えていることを示唆していた。
 スチュアート・ハービンソンWTO農業交渉議長によって準備された交渉原案は、議題のトップ案件になった。会議が始まる前から、日本の大島農水相は、五年間で、すべての農産品関税を最低で二五〜四五%削減するか、または平均で四〇〜六〇%削減するという提案を拒絶していた。「貿易を歪曲する」補助金を五年間で六〇%削減し、そして輸出補助金を九年にわたって段階的に完全に廃止していくという提案に対して、欧州連合(EU)は、日本と同じくハービンソン提案を「片寄っている」と非難した。日本およびEUは同提案に対し、米国を農業交渉の唯一の勝利者にさせるものだとして非難した。
 農産品輸出大国間の争いにおいて発展途上国の問題は見事に消えていった。フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウスのアナリスト、アイリーン・クワが指摘するように、ハービンソン提案では、EUと米国の補助金問題がいわゆる「グリーン・ボックス」―直接または間接的に貿易を歪曲する、農業従事者への大規模な直接の支払いなどの免除金リスト―に入れられるのではないか、という発展途上国の不安を取り上げていない。
 さらにハービンソン提案では、補助金を受けている先進国の農産物に対して、発展途上国にその補助金に相当する割合で関税を引き上げることを認めるという相殺措置を求めたアルゼンチンとフィリピン(その両国とも東京会議には招かれなかった)の提案は完全に無視された。その代わり、発展途上国には、裕福な農産品輸出国で実施されている補助金とは無関係に、一二〇%を超える関税については四〇%、二〇〜四〇%の関税は三三%引き下げることが提案された。
 また提案には、農業発展のさまざまなレベルや条件による構造的な理由から、発展途上国の農業部門に重要な保護を与える「特別かつ区別された待遇(S&D)」の原則を発展途上国に適用するといった有意義な勧告は記載されていない。
 要するに、ハービンソン提案では、EU、米国、オーストラリア、カナダの独占的競争条件の一部変更が要求されるとともに、発展途上国市場の保護障壁について早期撤廃が求められている。
 ミニ閣僚会議の透明性とその正当性に関する問題が取りざたされているが、会議に出席した二十二カ国の政府代表がその問題に苛立つことはなかったようである。 それは、おそらく英字新聞がかなり簡潔に報告したことと、NHKが短いニュース・クリップで報じた以外には、ほとんどこの問題が報道されなかったからである。しかしながら、非透明性については、二月十四日にATTCジャパン、日本消費者連盟、ならびにその他の市民団体たちが開催した市民集会ではメインテーマであった。集会には様々な部門から約四百人が参加し、今後、日本においてもWTO問題で(運動が)組織化できる可能性を示した。
 その他の重大な問題についてもミニ閣僚会議では熱の入らない論議が繰り広げられた。その中には、公衆衛生に関してTRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)を無効にするドーハ宣言条項(第六項)を弱体化させようという米国の努力について継続的な論争があった。
 東京会議で米国は、特許より公衆衛生が優先されるという病気について、その病気の数を厳重に制限するという姿勢を崩すことを拒否した。国境なき医師団(MSF)、アフリカ日本協議会(AJF)、オックスファム・インターナショナルなどのNGOは、東京会議に出席した各政府に対して、クリティカル薬(決定的に重大な薬品)の強制実施権を 「国家的危機あるいは、その他の緊急状態」に限定すべきであるというTRIPS理事会の最新勧告を拒否するようロビー活動を展開した。これらのNGOは、ドーハ宣言では、TRIPSの優先事項を「国家的危機」に限定することについては何も語られていない、と指摘した。
 二月十五日、こうしたその他の問題点を指摘するために、私たちはミニ閣僚会議を開催した日本の川口外務大臣に直接会う機会があった。彼女は前もってNGO代表と会うことに同意していた。私たちが東京の帝国ホテルの会議室に案内されてから十分後に、外務省の藤崎審議官の携帯電話が鳴り、「スケジュールの多忙」により残念ながら来ることはできないという外相の言葉が伝えられた。私は、川口外相と藤崎審議官は最初からすべての台本を書いていたという印象を強く持った。
 そこで、私たちは問題点を藤崎審議官に伝える羽目になった。彼が適度な真面目さを示したのは、市民社会が持っている関心事に対して日本政府はすぐに対応するのだ、というもう一つの例を記録するためにカメラマンがスナップ写真をとったときである。
 TRIPS問題と会議の非透明性のほかに、私たちは、ニュー・イッシュー、とりわけ投資交渉を推進させようとする日本の主導的な役割について、私たちの懸念を持ち出した。私たちは次のように指摘した。発展途上国は、シアトル閣僚会議以前から意見を変えない日本の姿勢に脅迫されているように感じている。すなわち「内国民待遇と最恵国待遇はWTO協定の基本原則であり、したがって、その原則は今後のWTO投資ルールにも盛り込まれるべきだ。とりわけ、いったん外国企業がある国で設立されると、原則として、その企業はその国の国内企業と同等に扱われるべきである。ほとんど差別的待遇には理論的根拠がないからである」という姿勢である。
 日本は投資に関する自国の立場を執拗に追求してきた。そこで、ジュネーブの消息筋によれば、ドーハ閣僚会議以前に、日本はインドネシア政府に対して、WTOに投資交渉を盛り込ませる日本政府の努力を阻止しようとするインドネシアの試みは、資本をインドネシアに持ち込む日本の投資家の意欲に支障を来たすかもしれない、という警告を発したとされている。
 私たちの話をていねいに聞いた後、藤崎審議官は次の二つのコメントを言うだけであった。一つは、「ミニ閣僚会議は『非公式会議』である」ことと、もう一つは、その「投資に間する日本の立場は他の国によっても共有されている(支持されている)」ということであった。
 シドニーのミニ閣僚会議と比較すると、明らかに東京会議は一般の人々から問題点が指摘されるまでには至らなかった。その責任の大半は日本の農民組織のリーダー、とりわけ全国農業協同組合中央会(全中)になければならない。二月十五日、土曜の朝、全中によって組織化された、ほとんど高齢の農民二千人弱の小さいデモは、WTO問題に世論を引き付けるというアプローチが弱いことを示していた。
 まず第一に、日比谷公園でデモの前に行われた大集会では十五人くらいがスピーチをしたが、TRIPS、非透明性、投資に関する日本政府の立場などその他の問題については誰も取り上げなかった。他の―そして若い―有権者たちに日本の農民の闘争を広げるのではなく、集会主催者はWTO問題を農業に限定することに懸命になっているようであった。
 日本のWTOは高齢化した農民の問題としてしか取り上げられないのは当たり前だ! 私は壇上に駆け上って、重要なのは、わずか数ブロックしか離れていない帝国ホテルで開かれている会議の「正当性」なのだ、と叫びたかった。しかし、誰も主催者と連絡をとれないようであった。
 第二に、この大集会のテーマは日本政府およびEUに対する日本の農民の支持を示すものであり、そこには小規模農民を守るというレトリックがあった。すなわち、農業とは一つの生活様式であり、環境に有益な効果をもたらすという意味で、農業は工業とは異なるものという情熱的な発言もあった。しかし、政府間の同盟を維持しようとして、日本の農業とEUの農業は根本的に違うということは語られなかった。日本は農業輸出国ではなく、農民たちが単に生き残ろうとして、他の社会と有機的なつながりを維持しようとしているにすぎない。EUは大規模な農業輸出国であり、彼らの生産した補助金による産品は発展途上国の小規模農民たちを破滅に追いやっている。日本農民の本当の利益は、大規模なEUの農業従事者やブリュッセルの農業技術者とではなく、ダンピングに反対する共同戦線で発展途上国の小規模農民たちと連帯することである。
 確かに他の市民団体もデモに参加したが、集会主催者は、彼らをカメラから離れた、デモの最後の方に追いやった。とにかく、午後一時までに、デモ参加者たちは、他の二十一カ国の政府に対し、日本の農民と日本政府は一つであることを伝えるという全中と日本政府の目的を果たすことができた。彼らは政府を困らせていなかった。日本政府がすでに疑わしい立場を取っていた投資などの問題には、集会では誰も言及しなかった。彼らはすでに、NGOが都合の悪い事件を引き起こすことはないことを確認した。
 デモは突然終了し、デモ参加者のほとんどは、地方まで送るために待機していた暖められたバスの中に急いだ。ある参加者は「これは力の誇示ではない」として、「彼らは主催者から来るように言われたから、やってきたのだ。多分、昨年は彼らの隣人がデモにやってきていて、今年は、彼らが参加する番だったのだ」と語っていた。
 私は、市民の不服従をはじめとして戦闘的な行動を考えながら東京にやってきた!
 とにかく、いいニュースは、農業がWTOのアキレス腱になり得るかも知れないということである。三月三十一日の期限までに農業交渉が合意に至らない場合は、工業関税、ニュー・イシュー、 サービス、そしてTRIPSなどの他の分野での交渉が白紙に戻されるであろう。九月中旬にメキシコ・カンクンで開催される第5回閣僚会議の前に合意形成に向けた動きがないとしたら、とWTOのスパチャイ・パニチャパクディ事務局長は大きな不安を抱いている。あまりにも多くの点で合意が欠落している「括弧でくくられたテキスト」は、残念ながらシアトルの大失敗をもたらした一因となったことをWTO官僚たちは十分によく知っている。
 よくないニュースは、二〇〇二年十一月にシドニーで開催されたミニ閣僚会議では、反対する大規模な抗議によって「正当性」をいくらか取り去ることができたが、東京会議に反対する抗議が相対的になかったことで再び違法な会議へと戻してしまったことである。
 スポットライトは、三月中旬に次のミニ閣僚会議が予定されるニュー・デリーに移った。インドの市民社会は、私たちには、カンクーンへの前段階においてもう一つの東京を差し出す(東京会議を再現させる)余裕がないことを悟らなくてはならない。

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