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                          かけはし2002.3.25号より

精神障害者の「予防拘禁」許すな!「心神喪失者処遇法案」を廃案に


 三月十五日、小泉政権は「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の処遇に関する法律案」(心神喪失者処遇法案)を閣議決定した。法案の言う「重大な他害行為」とは、殺人、放火、強盗、強かん、強制わいせつ(いずれも未遂を含む)、傷害致死、障害(軽微なものを除く)を指す。これらの犯罪を犯した者のうち心神喪失などの理由で不起訴や無罪が確定した者、心神耗弱により裁判で刑を軽くされ、執行猶予などで実際に刑に服することがなかった者すべてを対象に、地方裁判所の裁判官と精神科医の二名で「再犯のおそれ」がないかどうか審判し、「再犯のおそれ」がなくなるまで強制入院や強制通院などの処分を行うというものである。
 継続的な治療をしなくても「精神障害による再犯のおそれが明らかにない」と認められる場合(!)を除き、検察官は前記の「対象者」全員に対して審判を申し立てなければならない。申し立てを受けた裁判所は、ただちに鑑定のための入院(二カ月間。一カ月の延長が認められる)を命ずる。
 その後の「継続的な治療」のための入院期間に上限はなく、六カ月ごとに「再犯のおそれ」があるかどうかを判断して入院を無限に継続することができる。いったん退院したものを再入院させることもできる。しかも入院継続と再入院に際しては、精神科医による鑑定さえ必要とされておらず、裁判所の判断だけでいくらでも強制的に入院させることができるようになっている。
 退院後に一定の住居に住むなどの決まりを守らなかったというだけで、再入院申し立ての対象になる。入院施設側が「治療は終わった」と判断しているのに、保護観察所が再入院を申し立て、裁判所がそれを認めてしまう可能性も指摘されている。
 これは、七四年に出された改正刑法草案に盛り込まれた、犯罪を侵した精神障害者を「再犯の恐れ」を理由に予防拘禁しようとする保安処分制度そのものである。この時は日本弁護士連合会(日弁連)や精神科医らでつくる日本精神神経学会、精神障害者の団体や人権団体など、多くの団体が強く反対し運動を展開したため、この法案の国会上程は阻止された。
 その後も、八一年に法務省刑事局が「保安処分制度の骨子」を発表するなど、精神に障害を持つ人による犯罪がマスコミで取り上げられるたびに、保安処分の制度化に向けた策動が続けられてきた。そして戦争国家体制の形成をめざす小泉政権のもとで、昨年六月の大阪・池田小学校殺人事件を契機にこの策動が一挙に強まり、今回の閣議決定に至ったのである。
 厳しく批判されてきた保安処分との違いを強調するために、法案では「社会復帰の支援」などの文言を法案に盛り込んでいる。しかし、精神障害による「再犯のおそれ」を理由に強制入院させる新法が成立することによって、「精神障害者は危険」という差別と偏見がより一層強まるだろうことは論を待たない。
 現在でも精神科の入院者三十三万人のうち七万人が、帰る家のないことによる「社会的入院」とされている。差別と偏見と、精神障害者に対する社会保障制度の極端な貧困、日本の精神医療の極端なたち遅れが、このような状態を作り出しているのである。欧米では六〇年代から、「病院中心から地域福祉へ」をスローガンに、精神医療の病ゆか数を減らしてきた。人口千人当たりの精神病床数は、アメリカ〇・四床、ドイツとフランス一・三床、イギリス一・五床に対して、日本は二・九床もある。平均入院日数も欧米では半月から三ヵ月、日本は三百日を超えている。欧米では精神病院の多くが国公立であるのに対して日本は民間中心である。一般病棟の四分の一程度の医師と半分程度の看護者しか置かずに、長期入院させることで患者を食い物にする悪徳病院が告発される例が後を断たない。
 あらゆるストレスがますます強められていく社会のなかで、社会制度としての日本の精神医療の極度の断ち遅れと、精神障害者に対する社会保障政策が極度に貧困であることこそ、まず第一に問題にされなければならない。
 長期不況の深刻化と貧富の差が拡大するなかで犯罪が増加しているが、その中で特に精神障害者の犯罪が増加しているという事実はないし、再犯が特に多いという事実はない。二〇〇一年版『犯罪白書』では、交通関係を除く刑法犯検挙人員に占める「精神障害者」と「精神障害の疑いのある人」の比率は〇・六七%に過ぎない。
 また法務省のデータによれば、重大犯罪を犯した人のうち十年以内の前科・前歴がある人で「精神障害等で不起訴等の人」は二七・九%、これに対して「一般刑法犯(起訴・起訴猶予処分を受けた人)」は四二・九%である。そして法務省自身が、精神障害者と診断された重大犯罪容疑者の四割以上を起訴している事実をあげ、「安易に不起訴にしている」という批判に、「そのような批判はあたらない」と反論しているのである。
 刑法犯全体のなかで精神障害者だけを取り上げて新たな処分を課す法律を作るような理由がないにもかかわらず、このような予防拘禁を可能にする法律を作ろうとすること自身が、精神障害者に対する深い差別意識の表現である。そして差別意識にもとづくこのような悪法が作られることによって、社会全体の差別と偏見はより一層、深まっていかざるを得ないのである。
 この法案に対して日本精神神経学会(会員約九千人)は三月十二日、数カ月先、数年先の「再犯のおそれ」を精神科医が見通すことは不可能であるとして、法案の撤回を要求する緊急声明を発表した。日弁連も三月十五日、法案は信頼性の乏しい「再犯の恐れ」の予測によって患者の無期限の入院を可能とするもので「許容しがたい人権侵害をもたらす」とする久保井会長名の声明を発表した。
 三月十八日から二十日までの三日間、国会前でDPI日本会議、全国自立生活センター協議会、障害者総合ネットワーク、東京精神医療人権センター、NPOピア・サポートセンターこーらるたいとう、全国障害者解放運動連絡会議・関西ブロック、大阪精神障害者連絡会(ぼちぼちクラブ)、NPO大阪精神医療センター、障害者の完全参加と自立をめざす大阪連絡会議、NPO精神障害者支援の会HIT、NPOハートラインくれよんらいふの十団体が、精神障害者を予防拘禁し差別をさらに深刻化させるこの法案の廃案を求めて座り込みを行っている。
 戦争国家体制の整備をめざす有事法制や、労働者人民への強権的管理統制支配を目論む他の反動的諸法案とともに、この「心神喪失者処遇法案」の廃案を要求しなければならない。(3月18日 瀬戸沢登)

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