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「WTOは誰のため?」               かけはし2003.2.24号より

「命とくらしは売り物ではない!」

WTO非公式閣僚会議に対決して3日間の連続行動

多国籍企業の支配と生命・生活・環境の破壊に反対してシンポジウム

 二月十四日、労働スクエア東京ホールで「シンポジウム 命とくらしは売り物ではない!WTOは誰のため?」(主催・実行委)が行われ、五百人が参加した。実行委は、WTOの密室討議を通した農産物自由化拡大による食料主権の破壊や医薬品のアクセス権否定に反対し、食のグローバル化を阻止していくためにさまざまな農民団体、労働団体、市民運動団体によって結成された。シンポジウムは、東京で始まったWTO非公式閣僚会議(十四日〜十六日)への対抗アクションの一環として行われた。
 シンポジウムの司会は三井加洋子さん(ATTACジャパン)と稲場雅紀さん(アフリカ日本協議会)。主催者あいさつに立った秋本陽子さん(ATTACジャパン)は、「WTOの会議が密室で行われ、私たちの生活・命が先進国や多国籍企業の野望のもとに切り売りされている。WTOにノーを突き付け、私たちの要求をぶつけていかなければならない。今年九月メキシコ・カンクンでWTO第五回閣僚会議が開かれるが、密室による枠組み決定に断固として反対していこう」と訴えた。
 次に各運動団体からアピールが行われた。
 北準一さん(北海道農民連盟)は、冒頭、WTOによる農業破壊に対して「だまっていられない」と怒りを訴えた。さらに、米国や農産物輸出諸国による農産物関税率の大幅削減など一層の自由化要求に反対し、国内農業・農村の持続的発展のために「緑の政策」にもとづく環境等直接支払いなどの早期法制化の実現を強調した。
 須藤和広さん(郵政全労協)は、「公共サービス・社会的サービスが`売り物aに……日本における『郵政事業』の場合」というテーマで小泉政権の新自由主義的構造改革と郵政公社発足を批判した。さらに、「公共サービスを標的に破壊を押し進めている。この流れは、教育、医療、水、地方自治体などにまで拡大しようとしている。地域社会の安定のために公共サービスは必要なんだと主張していかなければならない」と提起した。
 薬害エイズ問題に取り組んでいる川田悦子さん(衆議院議員)は、「現在、世界で一日一万人の人たちがエイズで亡くなり、結核・マラリアを合わせると一日二万人の人たちが亡くなっていることを知っていますか」と会場に問いかけた。タイのエイズ事情、治療を受けられない実態などを紹介し、「多くの人たちは薬を待っている」と訴えた。そして、製薬会社の特許権によって医薬品が高く民衆が入手できない国際的システムを厳しく批判し、WTOドーハ宣言の「公衆の健康を保護するための措置」を後退させてはならないと訴えた。
 山浦庸明さん(日本消費者連盟)は、WTO体制によって民衆の食卓と第三世界の人々の生活が脅かされていることや、遺伝子組み換え(GM)作物・食品が世界を支配していることについて報告した。さらに、「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」の取り組みを紹介し、GM稲開発やGM大豆の国内作付け運動をやめさせる取り組み、消費者の知る権利、選ぶ権利が守られる表示制度を求め、安全性を軽視する農産物組織コーデックス委員会を市民のものにしようとアピールした。
 シンポジウムの後半は、海外ゲストからの発言。
 グローバリズムに反対するフォーカス・オン・ザ・グローバルサウスのウォルデン・ベローさんは、「WTOとは何か。何が問題か」というテーマで講演(要旨別掲)し、先進国と多国籍企業のためのWTOを批判しぬき、来る九月に予定されているカンクン会議を脱線させるために結集しようと訴えた。
 次にカン・ビョンギさん(韓国・全国農民会総連盟政策委員長)は、「現在、韓国・チリ自由貿易協定に反対する集会が行われています。韓国農民はすでに九五年WTOウルグアイラウンドの時からWTOの横暴に反対してきました。都市と農村の格差が広がり、農業人口が減少しています。このような状況にも関わらずWTOは、関税引き下げ、コメの自由化を迫っています。農民たちは立ち上がり、昨年十一月に十三万人の農民、労働者、市民がコメの自由化反対集会を行いました。国際的な共闘で新自由主義とWTOに反対していこう」と力強くアピールした。また、カンさんとともにWTOに反対する五つの農民団体の代表も参加していることが紹介された。
 続いて、公平な貿易を目指した十二の開発NGO連合体であるオックスファム・インターナショナルのリアン・フォッカーさんは、「ドーハラウンドが始まった時、開発が中心だったが、その約束は守られていません。例えば、トリップス協定にもとづく発展途上国に対する低廉な医薬品提供を、先進国が実行に移さなかった。農業交渉でも約束が守られていません。東京会議でも先進国のダンピング、途上国の農業保護について触れられていません。食糧安全保障が守られず、生活破壊が進行します。また、政府調達・投資について大国の利益のためにルールを作ろうとしている。私たちは、途上国の反対と新議題をスタートさせない立場を支持することが必要です。カンクンは開発ラウンドではない。貿易を公平なものにしていきましょう」と訴えた。
 シンポジウムの最後にアピール文とイラク戦争反対決議と行動提起が普川容子さん(PARC)と田中徹二さん(ATTACジャパン)から行われ、参加者全体で確認した。さらに、参加者全体で「団結がんばろう」を行い、明日の対抗アクションに向けてスクラムを強化していった。 (Y)



2・14ウォルデン・ベローさんの講演

WTOを分裂させ、解体する国際的運動の強化を


 WTOは、昨年十一月、シドニーの会議で数十万の人たちの反対運動によって包囲された。「WTOはシドニーから出ていけ。WTOは必要ない」という訴えだった。東京も同じような扱いを受けるでしょう。九月のメキシコ・カンクン閣僚会議に向けて、ミニ閣僚会議が三月にインド・デリー、六月にエジプトで行われる予定です。だが、この会議には、特定の国々が選ばれて出席するのだが、だれが選んだのかというプロセスが全くはっきりしません。加盟国は百四十二か国ですが、現実には発展途上国を代弁しないし、ほとんどの発展途上国はミニ閣僚会議はだめだと言っています。
 WTOは、一九九五年に設立され、世界に資本主義を進め、貿易を促進していくというものだった。その本質は、新自由主義を代表する組織として経済の自由化、資本の移動、規制撤廃、生産の自由化、民営化です。
 九九年十二月、WTOシアトル会議は、危機が表面化した時期でもありました。九七年アジア金融危機がありました。これは資本の自由化、規制撤廃の影響のためでした。それにIMFが強く影響を与え、経済の不安定化が作られたのです。構造調整プログラムによって経済の安定をもたらすはずだったが、アフリカ・アジアに対して逆に不安定と貧困をもたらした。自由化の本来の目的は、全く達成されなかったのです。
 途上国が大変幻滅している三つの合意があります。トリムス(貿易関連投資措置)は、途上国が工業化を目的にして貿易することが不可能な措置です。以前は輸出入のバランスをとるバランス合意があって東アジア工業化に重要な役割を果たしたが、トリムスのもとでは、それが違法となってしまった。
 二つ目のトリップス(知的所有権に関する協定)は、企業の利潤を守るために技術の拡散を制限する協定です。独占企業の権益を守る協定は、自由貿易に反しています。第二の問題として、命や命の形態に関して特許化することです。さらに、コミュニティーの農産物財産に企業が介入し、そのプロセスを特許化してしまうのです。日本やアメリカの企業が行っています。
 三つめは、農業合意です。これこそがWTOの下の不平等の最たるものです。EU、アメリカは農民に補助金を出しているにもかかわらず、保護が必要である途上国に対してはWTOの名の下に市場を開けろと主張しているわけです。大企業による農業の寡占化です。途上国には農民に与える補助金財政が全くありません。最低賃金しか得られないのです。これは競争ではない。
 WTOは、このように独占企業を保護し、不平等を促進し、大企業を代弁しているのが実態です。途上国は、WTOが反開発・反発展だと認識するようになっていきました。そして九九年十二月のシアトル閣僚会議に対して怒りが爆発する結果となりました。それはわれわれにとって勝利でした。その理由は、シアトルに五万人が集まり、閣僚らの会議入場を阻止したこと。途上国が立ち上がり、不透明な合意を拒否したことです。さらに農業をめぐるアメリカとEUの対立も存在したことが大きかった。
 シアトルの事態によって諸大国は、警戒心を強めました。二〇〇一年のドーハ会議では、危機感をより強めたが、投資・競争政策・政府調達を推し進めるための交渉でしかなかった。こうした状況に対して途上国は、「WTOは必要ない」と抗議を示し、ウルグアイラウンドの原点に立ち戻ろうと主張しました。しかし、ドーハでは先進国による途上国へのワイロやさまざまな圧力が強められました。アメリカに反対したら特恵関税を撤廃するぞと脅かしました。途上国にとってドーハは敗北であったと言わざるをえません。
 カンクン会議は、貿易促進が主テーマと言われていますが、その中身は先進国のために投資、競争政策、政府調達をWTOの枠内に収め、管轄を拡大することをねらっています。WTO閣僚会議を止めるためには、コンセンサスを止めてしまえばいいのです。貿易促進、トリップスの見直しも進めていくことです。
 コンセンサスを止めてしまえばWTOは麻痺していきます。そのためにはWTO反対キャンペーンを強めていくこと、大国間の違いを突き分裂させてしまうことです。何万もの人々がカンクンに集まらなければなりません。民衆の数によってWTOのコンセンサスを麻痺させてしまうのです。貿易大国は、カンクンをドーハの再来にしようとねらっています。われわれは、カンクンをシアトルの再来にしましょう。WTO閣僚会議を脱線させてあげましょう。少数のための、非民主的なミニ閣僚会議にも反対していきましょう。(講演要旨。文責編集部)


WTO国際市民集会

11の海外農民団体代表団とともに1万人が集会とデモ


 二月十五日、東京・日比谷野外音楽堂で「2・15WTO国際市民集会」が開かれた。世界各国と日本全国から結集した農民や消費者団体など一万人(主催者発表)が会場内外にあふれ、前日の十四日から日比谷公園の真ん前に立つ帝国ホテルで開かれている世界貿易機関(WTO)非公式閣僚会議に向けて「WTOは市民の声を聞け!」「第一次モダリティー(貿易自由化・保護削減の基準)案反対!」「日本の農業をつぶすな!」という声が響きわたった。
 世界貿易(WTO)の機関非公式閣僚会議が二月十四日から十六日まで、二十二カ国・地域が参加して開催された。非公式会議ということで、恣意的に選ばれたわずか二十数カ国の代表が、強制力を持つ「世界貿易のルール」についての「合意」を作ってしまおうという、極度に非民主主義的な会議だ。会議には議事録もなく非公開で、しかも会場も直前まで公表されないという、徹底的な秘密主義に貫かれている。それは人びとの命と暮らしと自然環境のすべてを、巨大多国籍企業の利潤追求と収奪の対象にしようとするものにほかならない。
 午前十時から始まった集会の会場を埋めた圧倒的多数は農民だった。韓国からも百人以上が参加して会場前列右手に座っている。ATTACジャパンなど「WTOは誰のため?東京行動実行委員会」の仲間たちは中央に座っている。左右や後ろの通路も満員だ。
 集会では、五年間で平均四〇%〜六〇%という大幅な関税引き下げを要求する農業交渉のモダリティー(保護削減の基準)第一次案への怒りと抗議の発言が、世界各国の農民から相次いだ。日本のコメは四五%もの引き下げだ。それは、世界の農業貿易を支配するアグリビジネス(多国籍巨大農業企業)の意を受けたアメリカを中心とする輸出大国の要求をそのまま反映させたものであり、地域に根ざした農業と環境を破壊し、世界の貧困を増幅し、消費者を遺伝子組み換え農産物などアクリビジネスが提供する危険な食品に依存させようとするものにほかならない。
 主催者に続いて、フォーラム平和・人権・環境(平和フォーラム)、DEVANDA、自治体〃農〃ネットワーク、日本農業法人協会の代表が次々に発言した。スクリーンからは、菅原文太さん、アグネス・チャンさん、ダニエル・カールさん、伊達公子さん、立松和平さんなどのタレントや文化人が次々に「農業や環境を守ろう」と訴えた。
 世界の農業者・林業団体などからの発言が続く。カナダ農業者連盟、EU農協連合会、フランス農業者連盟、フランス青年農業者連盟、インドネシア農業協同組合協議会、全日本農業組合連合会(全農)、日本林業経営者協会、台湾農業者連合、韓国農協中央会、フィリピン自作農業者連合会、フィリピン協同組合連合会、スリランカ販売共同組合連合会、全米農民組合の代表が、モダリティー第一次案に抗議した。
 何十台ものトラクターを先頭にデモに出発、日比谷から新橋、銀座を通って「大国主導のWTO反対!」「WTOは十分な情報開示を!」「公正な貿易ルールを作ろう!」「世界の多様な農林漁業の共存を!」「安全な食糧を!」「飢餓や貧困を撲滅しよう!」と訴えた。WTOは誰のため?東京行動実行委員会の隊列も元気一杯にデモ行進し、シュプレヒコールを響かせた。        (I) 


「WTOはいらない!」

雨のなか元気に会場前抗議行動、街頭宣伝とデモ

 WTO非公式閣僚会議三日目も、「WTOは誰のため?東京行動実行委員会」は朝からさまざまな行動を繰り広げた。
 午前九時、二十五人が日比谷公園に集まり、WTO非公式閣僚会議が開かれている帝国ホテルに向かって「命と暮らしは売り物ではない!」と書かれた横断幕を広げて抗議のパフォーマンスを行った。午前十一時からは約五十人で、有楽町マリオン前でビラを配り、韓国の農民代表も交えてWTOとは何か、何がねらわれているのかを訴える街頭宣伝活動。ブリキの缶の太鼓や鐘もにぎやかに、当たりをぐるぐる練り歩く。
 午後一時からは京橋の水谷橋公園に八十人が集まって、銀座通りから日比谷公園へデモを行った。デモに先立つ集会では最初に、前日に外務省との約束で予定されていた川口外相との会談が一方的にキャンセルされたことについて報告された。訪れた東京行動実行委員会の代表五人をボディーチェックし、一人ずつ両側を抱えるようにして面会所に入れた外務省は、「外相は各国閣僚との昼食で忙しい」という携帯電話一本で約束を反古にしたのだ。
 代わりに対応した島村審議官に対して、ウォールデン・ベローさんが「極度に非民主的な非公式閣僚会議そのものが、そもそも違法である」と追及、ATTACジャパン事務局長の田中徹二さんが二月十四日のシンポジウムで確認された川口外相とWTO事務局長と参加各国閣僚に宛てた要請文を読みあげ、各国閣僚に渡すことを約束させたことなどが報告された。
 デモ出発集会で続いて発言に立った韓国の農民代表は「もはや論議の必要はない。残っているのは闘いだけだ。韓国農民は労働者市民とともにWTO反対闘争の先頭に立つ」とアピールした。最後に、平和フォーラムの市村さんから発言を受けてデモに出発、みぞれ交じりの冷たい雨が降る銀座通りで「WTOはいらない!」「多国籍企業のやりたい放題はごめんだ!」「飢餓と貧困のない世界は可能だ!」と訴えた。(I)


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