かけはし重要記事

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                          かけはし2002.3.18号より

鈴木宗男疑惑と「北方領土」問題

「『四島返還』を放棄して国益を売り渡した」論に組することはできない


「国益を損なった」との大合唱

 「鈴木宗男疑惑」の最大の焦点のひとつは、「北方四島・ロシア支援」をめぐる外交私物化であり、建設業者、外務省官僚、商社などと癒着して税金を食い物にした利権あさりである。この疑惑が徹底的に追及されなければならないのは論を待たない。しかしわれわれは、民主党などが主張している「『四島返還論』の国是を放棄して『二島返還先行論』という事実上の『二島返還で決着論』に勝手に転換したのは国益を損なうもの」という鈴木批判に組することはできない。日本共産党は、「全千島返還論」というさらに民族主義的な立場から鈴木宗男らの「二島返還論」を糾弾している。
 また証人喚問では民主党が、鈴木宗男が九五年に外務省幹部に「北方四島の診療所建設」をめぐって述べたという以下の発言を暴露した。「そもそも北方領土問題というのは国のメンツから領土返還を主張しているに過ぎず、実際には島が返還されても何の利益にもならない。領土返還要求を打ち切り、四島との経済交流を進めるべきだ」。
 これに対しても同様の批判が行なわれている。もちろんマスコミもこれに同調しており、『週刊金曜日』の編集委員である筑紫哲也などはTBSのNEWS23で「四島返還という外交上の国是をねじ曲げたことが最大の問題」という趣旨の発言を繰り返している。
 言うまでもなく、税金を食い物にした「ムネオ疑惑」については徹底的な批判と徹底的な糾明が必要である。しかし「北方領土返還という国益を損なった」という主張に同調することはできない。そもそも「北方領土返還要求」なるものには国際法的根拠もなく、したがってソ連邦が「返還要求」に応じるわけがないことを前提にして、日ソ平和条約の締結を阻止し、ソ連邦への排外主義的敵意をかきたて、その「反ソ意識」を日米安保体制の強化と自衛隊の大軍拡のために動員しようとするものに他ならなかったからである。

安保体制強化の柱としての返還要求

 アジア太平洋の民衆を二千万人も殺した侵略戦争を行って無残な敗戦を迎えた日本は、ヤルタ協定にもとづくポツダム宣言を受け入れて無条件降伏した。ポツダム宣言は「日本の領土は本州、北海道、九州および四国ならびにわれらの決定する諸小島に局限せられるべし」と規定しており、連合国マッカーサー司令部は「クリル列島、ハボマイ諸島、シコタン島」を日本から分離する訓令を発し、それを受けてソ連邦は旧日本帝国主義の領土であった南サハリンとクリル諸島をロシア共和国ハバロフスク州に編入した。
 この事実を前提にして日本が調印したサンフランシスコ平和条約には、「日本国は、千島列島ならびに日本国が一九〇五年九月五日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部およびこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原、請求権を放棄した」と、一切のあいまいさもなく記されている。
 「請求権」を放棄したということは、「返してほしい」という権利を放棄したということである。すなわち、日本がアメリカを中心とする調印国すべてに対してサンフランシスコ条約の破棄を宣言しないかぎり、「返還要求」を持ち出すことそのものが国際法的に不当だということにほかならない。
 国際法的に確立した現実の変更を求めるこの「北方領土返還要求」なるものは、東西対立の激化のなかで、日本社会に反ソ反共意識を植えつけ、日本をアジアの軍事拠点として形成しようとするアメリカ帝国主義が主導して形成されたものである。五六年の日ソ平和条約をめぐるモスクワ交渉で、フルシチョフが承認した「二島返還」での平和条約調印に傾いた重光全権(外相)の主張に対して、米ダレス国務長官は「二島返還での妥結は絶対に認めない」「日本がクナシリとエトロフのソ連帰属を認めるならアメリカは沖縄を併合する」と恫喝し、平和条約調印を阻止したのであった。
 アメリカ帝国主義と日本の支配体制は、国際法的根拠もない「北方領土」返還要求をソ連邦が受け入れるはずがないと考えていた。彼らにとって必要だったことは、「北方領土問題」なるものの「未解決状態」を持続させることによって日ソ平和条約の成立を妨げ、日本の民衆のなかに「ソ連の脅威」をあおりたてて、六〇年安保闘争に象徴される「反米」的気分に水をさすことであり、あおりたてられた「反ソ」的気分を日米安保体制の強化と自衛隊の大軍拡に利用することであった。この「北方領土」返還要求の巨大な成果として、自衛隊は世界第二の軍事費を飲み込むまでに肥大化し、「平和憲法」が風前の灯の状態に追い詰められているのである。

有事立法反対運動
と「北方領土問題」

 現在、ブッシュ政権は「テロリストの撲滅」を掲げてグローバル戦争に乗り出している。さらに、イラク・イラン・北朝鮮を「悪の枢軸」とののしってイラク侵略戦争に乗り出そうとしており、中国、ロシア、イラク、北朝鮮、イラン、リビア、シリアの七カ国を対象に核兵器の使用計画を策定するよう軍部に指示したことが報じられている。
 小泉政権はブッシュ政権のグローバル戦争を無条件で支持し、報復戦争参戦三法の成立を強行し、自衛隊を参戦させて米軍のアフガン侵略戦争に加担し、日本の主権の及ばぬ公海上で「不審船撃沈事件」という憲法破壊の戦争行為を引き起こした。そしていま、基本的人権を停止し全国民を戦争に動員する有事(戦時)法制の整備を今通常国会で強行することをねらっている。
 このような情勢のなかで、「領土問題」という排外主義的要求を「国益」として掲げ、「国益を守れ」と主張することは、国家主義的国民統合の強化に手を貸すことにしかならない。野党四党すべてがこの流れのなかにあり、とりわけ有事立法と戦争政策に反対する共産党と社民党が無自覚にそれに同調していることはきわめて重大である。国際法的根拠のない「北方領土」返還要求が日米安保体制強化の社会的基盤を形成する政策的柱であったことについて、改めてはっきりさせておかなければならない。(3月12日 高島義一)

(「北方領土」問題については、さしあたり「かけはし」00年9月18日号に掲載された「プーチン来日と『北方領土』問題」を参照してほしい)


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