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日本人外交官射殺事件                 かけはし2003.12.8号

自衛隊イラク派兵阻止こそ労働者・市民の国際的責務

イラク占領に加担する小泉政権の責任だ


 十一月二十九日、イラクの首都バグダッドからサダム・フセイン前大統領の出身地ティクリートに四輪駆動車で向かっていた日本人外交官二人(奥克彦・英大使館参事官と井ノ上正盛・イラク大使館三等書記官)が、幹線道路を走行中の車両を銃撃され、運転手とともに射殺されるという事件が起こった。ブッシュ米政権が主導したイラク侵略戦争とイラク軍事占領以後、イラクで殺害された初めての日本人である。
 メディアは二人の外交官が「復興の志」を抱き、「ほこりまみれで奔走」し、「NGOからの評価も高かった」と、その人格と仕事をほめたたえている。しかし彼らはいずれも、バグダッド陥落直後の四月に米復興人道支援室(ORHA)に派遣され、現在では米英の暫定占領当局(CPA)の中で、米英のイラク軍事占領政策と一体の「復興支援」業務に従事していた。とりわけ奥参事官は日本政府とCPAとの連絡調整を一手に引き受け、自衛隊のイラク派遣準備を現地で進める役割を果たしていた。
 奥参事官らは「米英暫定占領当局に派遣されている日本人外交官は攻撃の対象」だとする事実上名指しの「攻撃予告」を受けていたという。二人の「善意」がどれほどのものであれ、彼らがイラク民衆に敵対する帝国主義の占領支配の一翼を客観的に担っていたことは、冷厳な事実であると言わなければならないのだ。
 二人の外交官を「国家に殉じた」者として祭り上げ、「二人の意思を引き継いで復興支援の強化を」といった政府と右派メディアのキャンペーンを絶対に許してはならない。それは次に続く派遣自衛隊員の死者の「英霊」化へのステップなのである。
 今回の日本人外交官射殺事件は、ブッシュ政権が主導した無法きわまる侵略戦争と長期にわたる占領支配に対するイラクの反米武装勢力による戦闘が激化するなかで引き起こされた。十一月に入ってイラク全土にわたる占領軍支配に対する攻撃は、いっそう熾烈さを増している。戦闘による占領軍兵士の死者は十一月だけで百六人に達している。うち七十九人が米兵である。
 占領軍への攻撃の態様が、明確な司令系統の下にいっそう組織的で大規模なものになっていることは米軍司令官も認めている。それは決してたんなる「テロ」ではない。フセイン派武装勢力などによる米英占領軍との「戦争」が現に展開されているのだ。そしてこの戦争は、占領支配の下での米英軍による民衆抑圧と拘束・殺戮や、生活基盤の破壊に対する広範なイラク民衆の怒りの高まりと抵抗に支えられている。
 ヘリコプター撃墜など相次ぐ死者による米兵の士気低下を恐れたブッシュは、自ら十一月二十七日にバグダッドを「電撃訪問」し「感謝祭」の夕食の場で米兵を「激励」した。しかし、このバグダッド訪問の滞在時間はわずか二時間半であり、しかも大統領専用機がバグダッドを後にして初めて「訪問」が公表されるという極秘の隠密行動であったことを見ても、ブッシュ政権が「治安の悪化」におののいている様が如実に見て取れる。
 米英占領軍は、いまやいつでもどこでも攻撃の脅威にさらされており、攻撃の対象は米英に協力して軍隊を派遣している諸国にまで拡大している。十一月二十九日の日本人外交官射殺事件も、同日にバグダッド近郊で起こったスペイン情報機関車両へのロケット砲による攻撃(七人死亡)、三十日にティクリート起こった米軍請負業者の韓国人二人の射殺事件と軌を一にした組織的な軍事行動であり、攻撃側によって彼らの行動の情報が逐一把握されていたことは間違いないだろう。
 今や、ブッシュ政権の大義なきイラク侵略戦争と占領支配の破綻は明らかである。「復興支援」にあたる国連と赤十字の職員はすでにイラクから撤退した。NGOの人道的支援活動も、外国の軍事占領に対する民衆の批判の高まりの中で、ますます困難な状況に直面している。
 日本人外交官の死をもたらした責任は、なによりも米英軍などのイラク軍事占領とそれを支持して自衛隊をイラクに送り込もうとしている小泉政権にある。われわれは今こそ、あらためて声を大にして占領軍のイラクからの即時撤退、自衛隊派兵計画の撤回を求めていかなければならない。イラク人民にとっての平和と自由と解放、戦争によって破壊された生活の再建は、軍事占領をやめることによってのみその前提を確保できるのである。
 小泉首相は、十一月三十日の記者会見で「テロに屈してはならない。イラクの復興支援、人道支援には国際社会の一員として責任をしっかり果たすという基本姿勢に変わりない」と答えた。主流メディアも「ここでイラク復興支援から手を引けば、イラクを混乱させようと狙っている勢力の思うつぼ」(日経新聞12月1日「社説」)と、小泉政権の自衛隊派兵方針を尻押ししている。
 元駐米大使の栗山尚一は「日本はエネルギーの供給を中東地域に頼っており、イラクとその周辺は、日本にとってかけがえのない地域だ。イラク復興に日本が一役買うことは日本自身の国益にかなうことなのだ」(朝日12月1日)として「石油のための自衛隊派兵」の意図をあからさまに語った。
 しかし明らかに政府与党内部の動揺が広がっている。自民党内からも「イラク戦争の大義」そのものに疑問を呈する声(たとえばともに元幹事長である古賀誠、加藤紘一など)が上がっており、「自衛隊派遣のタイミング」を再考すべきという主張も広がっている。そして政権を支える与党・公明党もまた「慎重な判断」を要求している。政府はこうした中で、イラク特措法にもとづく文民派遣については「現地の治安情勢が改善されるまで」当面の間は見送るという方針を固めたとされている(朝日新聞、12月2日)。だが自衛隊派遣については「既定方針」を崩してはいない。小泉政権は、自衛隊派兵の断念がブッシュ政権を窮地に陥れ、それが自らの危機に連動することを何にもまして恐れている。
 「対米約束」の道具として生命の危険にさらされるイラク派遣予定の自衛隊員の間での政府に対する不安や批判が、今回の事件をきっかけにさらに根深く拡大していくだろう。イラク占領軍の主力である米英両国においてはもとより、軍をすでにイラクに派兵し犠牲者を出しているスペイン、イタリアなどでも撤兵世論が勢いを強めている。そして周知のように韓国でも、イラク派兵反対の運動がノ・ムヒョン政権を揺るがしている。
 あくまで派兵に固執する小泉政権に対して、自衛隊派兵の撤回を求める運動を強化しよう。すでに「大量破壊兵器の脅威」のデマゴギーは崩壊し、イラク侵略を正当化した論拠は崩れさった。「戦闘地域」と「非戦闘地域」を区別する「イラク特措法」の小手先のごまかしも暴露された。小泉政権に残されたものは「テロに屈してはならない」とか「復興支援の国際的責務」といった強がりのみである。
 しかし軍事占領の恒久化、自衛隊による占領支援が、民衆の抵抗をさらに強め、「混乱」と「治安の悪化」を収拾不可能な段階にまで押し上げ、イラク民衆にとっての平和・人権・民主主義の確立に敵対することを現実が示している。それは独裁者サダム・フセイン一派や反動的イスラム主義勢力を反米闘争の「英雄」化する結果しかもたらさないだろう。
 われわれは今こそ、自衛隊イラク派兵を阻止する主張と行動を緊急に広げていかなければならない。グローバルな反戦運動と連携し、自衛隊イラク派兵を阻止することこそ、イラク民衆に対する日本の労働者・市民の「国際貢献」であり「国際的責務」なのである。                            (12月2日 平井純一)

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