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                          かけはし2003.1.27号より

ブラジル大統領選━民衆の勝利とわれわれの挑戦課題

PT(労働者党)社会主義的民主主義潮流全国調整委員会決議



 〇二年十月に行われたブラジル大統領選は、労働者党(PT)のルラが六一%を獲得して画期的勝利をかちとった。それは、ラテンアメリカを貫く新自由主義の危機と崩壊の表現である。以下は、ルラ勝利がもたらした情勢の中で、PT最左派として「もう一つの世界」をめざして闘う第四インターナショナルブラジル支部・社会主義的民主主義潮流(DS)の決議である。DSは連邦議会選挙で十議席を獲得した。



 二〇〇二年十月の選挙結果は、ブラジル社会における力関係の大きな変化を示している。労働者党(PT)は共和国大統領選挙に勝利し、六一%を獲得したルラが大統領になるとともに、九十一の下院議席、十四の上院議席を持つ国民議会の最大政党になった。
 PTの勝利は民衆の勝利であり、新自由主義の深刻な敗北であった。PTとルラは、民衆の利益の防衛と一体化した歴史的基盤の上に、変革への願いの触媒として行動した。この過程は、選挙はこの国にとってのさまざまな対案の衝突の中で役割を果たしうるという考え方を民衆の中でよみがえらせている。
 他方、われわれはさまざまな州知事選で第二ラウンドに進んだが、アクレ州、マトグロッソドスル州、ピアウイ州では多くの票を獲得して勝利し、リオグランデドスル州では敗北した。さらにPSDB(ブラジル民主社会党)とPMDB(ブラジル民主運動党)は主要な州の多くで政権を獲得した。
 PTの勝利に示される力関係の変化は、右翼的部分との連合や、選挙で拒否された経済政策の中心的要素に責任を持ちつづけることによっても、限界づけられたものである。ルラとPT指導部多数派は、IMFとの協定とその諸結果を維持することの「不可避性」なるものによって、この経済政策を批判的にではあるが受け入れることを表明したのである。
 もう一つの重要な側面は、選挙キャンペーンが広範な政治的動員をもたらしたにもかかわらず、この間、目立った大衆的・社会的動員が不在だったことである。
 選挙はブラジルにおける新しい政治情勢を切り開いている。一方では、新自由主義政策の継続にとって逆風となる国際的環境がある――世界的規模での不況、中枢諸国での保護主義の発展、アメリカの介入主義と単独行動主義、右翼民族主義の増殖がそれである。新自由主義は、アルゼンチンを最も顕著な例として、一連の諸国を深刻な危機に導き、国際的にますます疑問を投げかけられるようになっている。
 他方、われわれには、十年間にわたるわが国への新自由主義政策の適用の累積的な影響がある。それは国民的富の重要な部分が人手に渡り、非国有化され、フェルナンド・エンリケ・カルドゾ政権を中心にして作られたブロックが解体する一時期を通じた、破滅的な経済的・社会的結果、民衆の不満の拡大、エリートたちの相対的な分解であった。
 選挙は、新自由主義モデルの公然たる危機と疲弊という筋書きのただなかで行われた。そしてこの深い全国的な危機は、来るべき次の時期にも長く持続するだろう。新自由主義の敗北の後に、異なった利害を持った異なった諸階層が、危機からの最善の脱出の道をめぐって闘っているが、はっきりとした結果は現れていない。ブラジル社会の現存する衝突が継続しそうであること、そして民主的・民衆的部門が動員される潜在的能力が力を取り戻していることは、社会主義左翼の強化の可能性に道を開いている。
 支配階級が長期にわたって確立したヘゲモニーは打撃を受け、民主主義的・民衆的オルタナティブを建設するための諸条件は改善されている。

 ルラ政権の性格は、当面のところまったく未知のままである。ルラはフェルナンド・エンリケ(カルドゾ)政権に対する批判の具現者として、この国の変革への巨大な期待を基礎に選出された。しかし他方、選挙期間中に設立された連合、党内民主主義に打撃を与えた決定、エリートと「市場」に対する保障の提供を求めた宣言は、この国の政治的方向における憂慮すべき厄介さの継続を指し示すものであった。われわれはすでに、選挙運動期間中にこうした憂慮を表明した。
 ルラ政権の性格は、社会的・政治的衝突過程の成り行きによって規定されることになるだろう。PT政権は、選挙結果と政治闘争によって打ち立てられた力関係を出発点として、いかにして変革のための議会的・社会的多数派を保障するのかという問題に直面するだろう。
 しかし戦術的イニシアティブを超えて、戦略的選択がなされなければならないだろう。それは、われわれの構造的改革の綱領の適用による民主的・民衆的陣営の社会的基盤の強化か、われわれの敵との妥協かという選択、参加型民主主義を基盤とした統治か、伝統的方法による統治かという選択、新しいヘゲモニーの構築に向けた前進か、それとも後退の危険を伴った道半ばでのあいまいで危険に満ちた停止かという選択である。われわれの挑戦は、現在、新政権に突きつけられている限界を超えることのできる選択を構築するためである。
 将来のブラジル社会にとって中心的なものとなる対立に、次の時期に直面することになるだろう。わが国は、国内的かつ国際的な金融資本の投機的移動に対してきわめて脆弱であり、またIMFの後見は、こうした状況を保持し、政府を「市場」のとりこにしたままにすることにその目標があった。市場に対して国家の行動の自律性を回復し、国家的主権を行使の条件を回復することが、枢要な戦略的目標にならなければならない。
 それはすべての戦線で追求されなければならない。すなわち、社会的・政治的動員を通じて力関係の変化を深めること、参加型民主主義と資本の移動に対する民衆的統制のメカニズムを制度化すること、ブラジル国家が現在直面している被保護状況と対決することである。
 新政権にとって一連の戦略的諸問題がすでに提起されている。農業改革、IMFへの服従と対決しFTAA(米州自由貿易協定)に対する国家的主権を主張すること、金融システムの規制、とりわけ中央銀行の新政権との関係の規制、課税問題などである。こうした諸問題の中で問われていることは、アメリカ帝国、ならびに投機的資本、別の言葉で言えば「市場」への権力の譲与に反対し、民主主義と国家主権を防衛することである。
 PTの勝利によって切り開かれた新しい政治的条件を考慮して、これらのことに立ち向かうことが必要である。それらはたんに政府の問題ではない。社会全体の問題とならなければならないのである。われわれは、選挙での多数派が政治的多数派に転化するようなプロセスを築き上げなければならない。それはこの国の民主主義と主権への道を正統化し、持続させることができるものである。国家主権を防衛することは、民衆的主権と真の民主主義の実践にとって不可欠の条件を防衛することである。

 前回のラシフェでのPT全国会議(二〇〇一年末)決議で提示された新しい社会契約という考え方は、選挙戦の中心テーマに浮上した。それは社会のすべての部門に対する、生産、経済成長、国内市場の発展に有利な協定の呼びかけとして提出された。
 PTは、さまざまなブルジョア政府が提起した社会協定のためのこれまでの提案をつねに批判してきた。これまでの提案は民衆の多数の従属、すなわち社会的対立をいわゆる政府の合理的行動なるもの、すなわち求めることができるもの(あるいはできないもの)の制定に従属させることを意味していた。
 われわれが防衛することができ、また防衛しなければならないものは、参加型民主主義と、紛争を交渉し、解決する民主主義的スペースの存在に基礎を置かなければならない新しい社会契約であり、それは新政権が多数者の利害の歴史的周縁化に終止符を打つことを義務とするところからもたらされるのである。それは国家という思想に社会的性格を与えることのできるプロセスである。
 民主主義的・民衆的運動は、かつてない歴史的経験に乗り出した。それはわれわれの将来にとって、あらゆる観点から見て決定的なものである。
 PT社会主義的民主主義潮流は、PTとブラジル左翼が直面する挑戦を共有し、自らをこのプロセスの必須の一部であると見なしている。われわれは、進行中のこのプロセスに介入し、PTがこの歴史的経験と、新自由主義的グローバリゼーション、市場と寄生的金融資本の専制、不平等、ブラジル社会を特徴づける歴史的排除を克服する闘いとを結び付けるように向かわせる。
 われわれの展望は、この経験を、資本主義を民主主義的で国際的な社会主義に置き換えるという地平を持ったプロセスに統合することである。
 ルラ政権の構成は、当面する緊急の挑戦となる。PTの諸機関内でのわれわれの介入を通じて、われわれはそれが、党の最も進んだ経験に基づいて民主的になされることが確保されるよう追求する。強化されたPTは、いまやブラジル社会の主要な政治勢力である。それは、連邦政府の構成において自らの発言権を持つべきである。
 同時にわれわれは、来るべき時期において、わが党のこの前の全国会議で採択された決議を新たな形で防衛することを引き受ける必要があると信じる。それはその核心において、新自由主義モデルとの決裂、国家主権ならびに所得と権力の再分配に基づいた発展、ルラ政権は社会主義的価値の刷新に貢献すべきであるという考え方を持っている。それは、偉大な政治的変革の前夜において自らを統一することができる戦略的観点を定式化する党の能力を表明した。この能力を保持することは、この新たな歴史的瞬間においてもいっそう重要なのである。

 選挙の結果は、PTと国家の関係を質的に変化させ、党建設の全過程に影響を与えている。PTは成長しているが、より政治的に不均質な組織になっている。その討論は、社会の全部門をフォローしている。政府としての責任が特定の討論の遂行に慎重さを求めるものであったとしても、それは討論と決定の民主主義的プロセスを妨げるものであるべきではない。
 社会主義的民主主義潮流は、自らの立場を責任ある、しかし鮮明で意識的なやり方で表明して党内討議に介入する。多様性は、ブラジル社会のあらゆるレベルで権力に挑戦する目的を持った運動の建設において、その力の源泉となりうるし、ならなければならない。選挙で選ばれた党の議員とダイナミックな社会運動とのより密接な関係さえも、政府との関係での運動の自律性の防衛と同様に、運動建設の中で戦略的重要性を帯びるのである。
 PTは選挙運動において、支配エリート、「市場」と中枢諸国の政府、とりわけアメリカ合衆国からの強力な圧力にさらされたが、連邦政府の頂点に立った党へのこうした圧力は増大するだろう。しかし、投票箱からの委任は、われわれにブラジル社会の深い変革を遂行する正統性を与えたことも事実なのである。
(「インターナショナルビューポイント」02年12月号)


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