かけはし重要記事

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読書案内『海外派兵!』池田五律著-発行 創史社 発売 八月書館 1600円                          かけはし2002.3.11号より

グローバル戦争下で変貌する自衛隊と有事法制の行方

――自衛隊の変貌と危険なゆくえ

 テロ対策特別措置法によるインド洋、アラビア海での米軍への洋上補給は、昨年十二月以来、丸三カ月の間に、三十八回約五万九千キロリットル、約二十三億円分にのぼる。アラビア海に展開する各国の艦船は約百隻、内二十隻の米艦船が消費する燃料の二、三割を海上自衛隊が補給する。二月二十一日には、約一トンの修理部品などの物資輸送も行った。
 これは、対テロ報復戦争を行っている米空母艦隊群への後方支援であり、自衛隊ははじめての戦時下における軍事作戦参加となった。
 日本政府のいう「非戦闘海域」での行動であり、直接戦闘艦船への補給は九回であるが、燃料がなければ艦船は行動できず、沿岸国で調達した燃料を補給するのは軍事作戦の重要な一環である。
 十一月下旬に派遣された補給艦「はまな」「とわだ」と、護衛艦「くらま」「さわぎり」「うらが」は、まもなく第二次派遣の補給艦「ときわ」、護衛艦「はるな」「さわかぜ」「せとぎり」と交代する。
 昨年成立したテロ対策特別措置法で自衛隊の行動は大きな一線を超えた。だが、この法律は時限立法であり、対象を限定している。これを恒常化させ、集団自衛権の行使まで視野にいれたのが、三月中にも法案が上程される「武力攻撃事態への対処法案」だ。
 今国会に政府が提出する有事法制関連法案は(1)「武力攻撃事態への対処に関する基本構想」「国の責務」などの総則的規定(2)日本有事の際に物資を収用できる手続きを定めるなど、自衛隊の行動の円滑化(3)米軍の行動の円滑化――が柱となっている。
 そして、「日本有事」とは、数十万人規模の地上軍投入による日本上陸侵攻に限らず、大規模なテロを含むものとされている。
 自衛隊や米軍の行動を円滑に行うためには市民の基本的な権利が制限される。所有者の同意なしで土地や建物の使用や、燃料・食料等の保管命令に従わなければ罰則が摘要されるなど、二十項目が示されている。
 法律が成立したとしても、実行する自衛隊にその能力がなければ意味はない。しかし、自衛隊は実際に戦闘ができる集団へと変貌しつつある。
 九七年の新ガイドライン以降勢いを加速する有事法制、自衛隊の変化をまとめたのが本書である。ポイントではわかりやすいイラストもあり、理解を助けてくれる。
 昨年末に発行された本書は「武力攻撃事態対処法案」が浮上した背景、その問題点がどこにあるのかも指摘している。有事法・憲法改悪を許さない運動の基本を学ぶ入門書として最適である。
 まず、予算・装備・方針などから具体的に変化を見る。
 日本の防衛関係費は、思いやり予算などを加えると年間五兆円を越える。自衛隊のための経費に限っても米国、ロシアについで世界第三位になる。米国でも冷戦後は軍事支出は減少したが、日本では一貫して増大し続けた。
 脅威が喧伝される中国の国防費は、九九年ドル換算で三百八十八億七千六百万ドル、日本の四百三億八千三百万ドルを下回る。朝鮮民主主義人民共和国にいたっては、二十一億ドルに過ぎない。ハイテク戦争時代に見合った装備を備えるためには額がものを言う。日本は世界有数の軍事大国である。
 前中期防衛計画(九六〜二〇〇〇年度)で備えた主な装備は、攻撃力アップしたF2戦闘機、従来よりも約六倍に大型化した輸送艦「おおすみ」、早期警戒管制機(AWACS)。目立たない所では、有毒化学剤や放射性物質に汚染された地域での戦闘を可能する個人用防護装備や、装甲車をキャタピラー型でなく車輪への変更。新中央指揮システム(NCCS)、固定式三次元レーダー等。
 二〇〇一年度から始まる新中期防衛計画では、F―2支援戦闘機四十七機、軽装甲機動車百二両、空中給油機4機、P3C哨戒機の後継機、新型戦闘ヘリコプター(AH64D)、イージス艦二隻、新型戦車など金食い虫の装備を備える。
 九五年閣議決定された防衛計画大綱では、「各種事態への対処」として、周辺事態、PKO(国連平和維持活動)、災害派遣などが、直接侵略への対処と並ぶ自衛隊の主任務に格上げされた。そして、次の中期防衛計画の見なおし作業では、「領域警備や緊急事態への対処」も重点化する方針を防衛庁は打ち出している。
 部隊の再編も進んでいる。これまでばらばらであった中央組織を機能強化し、陸海空の三自衛隊の統合した指揮運用を可能にし、実際に戦闘できるノウハウを持った米軍との合同演習、教育・研究組織の充実を図っている。
 陸上自衛隊は十八万人から十六万人体制への移行が進行中だ。第十二旅団(群馬・新潟)はヘリコプターを中軸にした空中機動旅団に改編され、東京や大阪の部隊は、戦車や重火器をなくし、政府を防衛する政経中枢師団へ変わろうとしている。単純な縮小ではなく、目的機能を明確にした再編成である。
 隊員の不足は、即応予備自衛官制度や、新たに導入された予備自衛官「補」制度で補う。また、防衛庁は他省庁との人事交流を進めている。自衛隊の人件費負担は少なくなるが、受け入れる民間企業や省庁は、負担が増えるだけでなく、自衛隊への協力を強制させられることになる。
 これらの特徴は@輸送・機動力=海外など遠隔地への展開能力の向上、Aテロ・ゲリラ対処、B災害やPKO派遣など多用途化、C情報化、省人化につながるハイテク化である。
 一昨年から、東京都がはじめた自衛隊中心の防災訓練=ビッグレスキューも、市街地での対テロ・ゲリラ戦や、海外都市でのPKF活動を想定した演習が、隠された目的である。そこには自治体や住民の統制も視野に入っている。
 冷戦終了後、大規模な侵攻を「想定」することがほとんど不可能になり、自衛隊の「存在意義」を押し出すことが困難になっている。そこで災害派遣や海外派遣、そしてテロ・ゲリラ対策で生き残りを果そうとしているのである。言うまでもなく、自衛隊で安全はもたらされない。
 生き残りを目指すのは、自衛隊だけでなく、これまで競争相手もなく巨大な利益をむさぼってきた軍事産業も同じだ。ハイテク化・IT化でこれまで以上にカネを引き出そうとしている。
 いつ起きるかわからないテロ・ゲリラに対応するため、一般の隊員は常に緊張状態に置かれる。また、民間との交流が進めば、防衛秘密の漏洩に対する管理も厳しくなる。有事法制は、自衛隊員の未来さえ暗くしている。
 著者の池田五律さんは「派兵チェック編集員会」のメンバーとして市民・労働者の立場から自衛隊を監視し、また地域でも自衛隊監視の運動をしている。アジア連帯講座は三月二十三日夕方、文京区民センターで池田さんを講師に「自衛隊の変貌と危険なゆくえ」の講座を開く。本書を読み講座に参加しよう。(長沢克巳)

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