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中国共産党3中全会                  かけはし2003.11.17号

「私有財産保護」を初めて盛り込む

資本主義国家としての法的基盤完成めざす

新自由主義的グローバル化に突き進む胡錦濤政権

 十月十一日から十四日、中国共産党第十六期第三回全体会議(三中全会)が開かれた。三中全会の最大の特徴は、中国の経済発展を主導する資本家階級のかねてからの強い要求に従い、資本家の財産権をあらゆる側面で擁護し、私的資本蓄積に関する制限をあらゆる側面で撤廃するという経済政策を、体系的に打ち出したことである。
 すなわち、実態としてはすでに資本主義社会となった中国経済の法的基盤を完備することが決定されたのである。昨年の中国共産党第十六回大会は、江沢民の「三つの代表論」を規約に取り入れて資本家階級の大量入党に道を開き、党を資本主義的国民政党に転換する方向を確立した。中国の資本主義国家体制はこの三中全会を経て、来年の全人代で憲法に「私有財産の不可侵」を明記する改定案が決定されることによって、形式のうえでも最終的に完成することになる。

三中全会は何を決定したか

 発表された「経済所有制に関する決定」は「公有制経済」に関して、「経済市場化の発展という情勢に適応し、……株式所有制を公有制の主な形式としていく」と述べている。世界の反グローバリゼーション運動や闘う労働運動で使われている表現に直せば、JRやNTTと同様、「当面は国を最大の株主として公営企業を全面的に株式会社化し民営化する」ということにほかならない。そこではまた、重要産業以外の国有企業について、「公平な市場競争により存続、または淘汰させていく」と述べ、不採算部門を全面的に切り捨てる国有企業大リストラの方向性もあらためて確認している。
 「非公有制経済」、すなわち私的資本主義経済に関しては、誤解の余地なく次のように述べている。「非公有制経済の発展、積極的な導入に力を入れる。個人経営、民間企業など非公有制経済は生産力発展の重要な力であるため、その発展を制限する法律法規および政策を廃止・改正し、体制的な障害を取り除いていく」「インフラ整備、公用事業その他の業種や分野への非公有資本の参入を許可する」「非公有制企業は、投融資、税収、土地利用、対外貿易などの分野で、他所有制企業と同等の待遇を受ける」。
 すなわち今後、官僚は自らの判断で私的資本蓄積を妨げるような行為をしてはならないし、私的資本の全面的な行動の自由を保障することを明記した法体系を整備するということである。
 「金融改革に関する決定」では、すでに全面的に進行している「国内商業銀行の株式制への移行」の促進が、あらためて確認されている。中央銀行である人民銀行を除いて、あらゆる国有銀行がすでに次々に民営化されつつある。
 「対外開放に関する決定」は、「対外開放の制度的保証」について次のように述べている。「市場経済やWTO規則にもとづき、国内取り引きと対外取引の一本化を急ぐ。……各類企業の対外経済貿易活動での自主権や平等の地位を確保する」「対外投資へのサービス体制を完備し、域外での経営管理に関する企業の自主権を拡大し、域外で投資を行う企業への監督・監視体制の健全化を進め、国内多国籍企業の発展を促進する」。
 すなわち、WTO規則に従って、多国籍企業にやりたい放題を保証するということであり、中国企業もどんどん多国籍化させ、中国からの資本輸出をさらに促進し、資本のグローバリゼーションの主体となって行動するということである。
 これらの三中全会の決定について、国務院国有資産監督管理委員会の李毅中副主任は、十月二十一日の記者会見で次のようにはっきりと述べた。
 「公有制経済の主な形式として株式制を提案し、所有制と社会主義市場経済体制の認識を大きく前進させた」「『帰属を明確にし、保護を厳格にし、流れをスムーズにする』という、新しい財産権制度の整備を提案するとともに、私有財産の保護を初めて盛り込み、資産の秩序ある流動への障害を取り除いた」(人民日報03年10月22日)。
 三中全会は、「WTO規則」が体現する多国籍資本の論理にもとづき、国有企業の株式制による全面的民営化=私有化を促進し、資本のグローバリゼーションの意識的主体となり、私的資本蓄積に関するあらゆる障害を一掃することを、公然と宣言したのである。

資本主義中国の経済の現実


 中国経済は、本紙でも九〇年代後半から繰り返しさまざまな形で論評してきたように、実態としてはすでに労働力から不動産まで、あらゆるものが商品化された全面的な資本主義経済へ、急速に全面的な転換を遂げてきた(注)。むき出しの資本の支配に対する労働者の抵抗を「反革命」として圧殺する中国共産党官僚支配体制は、いまやブルジョアジーに最大限の資本蓄積を保障する最大のテコとなっている。その意味で中国国家の階級的性格は、資本主義国家に転換した。三中全会の決定は、この実態に即して全面的な法整備を進めようとするものである。
 「三中全会」の「決定」は先に引いたように、「株式所有を公有制の主な形式としていく」「商業銀行の株式制への移行を促進する」「国内多国籍企業の発展を促進する」と述べ、税制などでの国有企業などとの均等待遇や公共事業への参画の権利を打ち出している。しかしこれは、何年も前から大規模に進行している現実を、後から確認するものにすぎない。
 すでに主要な国有工業は香港などを通じて次々に外資を呼び込み、合弁や合作で「外資系」となり、株式を上場して株式会社になっている(もちろん当初の最大の株主はJRやNTTなどと同様、政府になる)。上海など中国株式市場の時価総額は、いまや香港市場と肩を並べる規模になっているが、その上場企業の最大多数派が「国有」株式会社なのである。
 国有銀行の株式会社化も同様である。たとえば四大国有商銀の一つである中国銀行は二〇〇二年七月に香港市場に上場、続いてニューヨーク市場への上場をめざしている。中国銀行はさらに、米最大手投資銀行モルガン・スタンレーと合資して中国最大の対外投資銀行である中金公司を設立した。主要業務はデリバティブなどの金融投機である。すでに中国の「国有」銀行は、カジノ資本主義のプレーヤーとして金融賭博の鉄火場に登場するまでになっているのである。
 日本の個人投資家は八百八十三万人である(01年)。中国で証券取引所が開設されたのは九〇年だったが、個人投資家数はわずか四年で日本を追い抜き、二年前には日本の八倍近い六千六百五十万人に達している(01年末)。現在は十倍を超えているだろう。
 また、海璽(ハイアル)集団、格力集団、美的集団、TCL集団、科竜集団など大手家電メーカーをはじめ、株式会社化した国有企業や純然たる私的大資本などの中国系多国籍企業が続々と登場し、ベトナム、マレーシア、インドをはじめアジア各国、アフリカや南米各国、さらに日本や米本土など巨大多国籍資本の拠点にも現地法人を設立し、企業買収や工場建設などの本格的資本輸出を展開している。
 そして中国政府は、日本を出し抜いてアジアの自由貿易協定(FTA)形成を主導し、多国籍資本のための新自由主義グローバリゼーションをさらに押し進めるための国際的基盤作りに全力をあげている。これが、「社会主義市場経済」という看板を掲げた資本主義中国の現実である。

現実に合わせ法的基盤整備

 昨年十一月の中国共産党第十六回大会は、党は「先進的生産力」「先進的文化」「最も広範な人民の利益」を代表するという、江沢民のいわゆる「三つの代表論」を党規約に盛り込み、党の性格も「労働者階級の前衛部隊であると同時に中国人民と中華民族の前衛部隊」と改めて、私的資本家階級の大量入党に道を開いた。
 いまや、メーデーで中央政府から表彰される「労働模範」に、私的大資本家が何人も選ばれるようになっている。そして「労働模範」となったその資本家が「率直に言って労働者より私たち経営者の方が社会に貢献している。従業員九千人、昨年は三千五百万元の税金を払った。雇用と納税で貢献している」(浙江省温州市の大手靴メーカー奥康集団・王総裁の発言。朝日新聞02年6月19日)と豪語するまでになっている。資本家階級を全面的に入党させるという路線は、このような社会の現実とその社会的力関係を、党という権力機構にストレートに反映させようとするものである
 三中全会の決定は、私的資本に対して税制面での均等待遇や公共事業などへの参入の権利を保障することが打ち出されている。すでに例えば税制面では外資との合弁・合作、独資(一〇〇%外資)のいわゆる「三資」企業には、大幅な優遇措置がとられてきたし、公共事業などへの私的資本の参入も全面化していた。しかし法的基準があいまいで、自らの利権を拡大しようとする官僚の恣意的判断が入り込む余地があり、それが資本蓄積の成果を台なしにしてしまいかねない危険性が常に存在した。
 何清漣『中国現代化の落とし穴』(草思社)が詳細に描き出しているように、官僚自身が政治権力と特権を利用して国有資産を食い物にし、次々と自ら資本家になりつつある。そのような資本家になった官僚と、流れ込む大量の外資と結びついて急成長する私的資本家階級にとって、地方や部所ごとに権力を牛耳る官僚の恣意によって蓄積の成果を破壊されかねない「人治」的要素を一掃することは、文字通り火急の課題だった。
 そのため、憲法に「私有財産の不可侵」を明記させることを頂点に、資本主義的蓄積をあらゆる領域で保護するための法体系を整備することが、中国経済を主導する資本家階級の当面する最大の政治的要求となっていたのである。
 三中全会には憲法について、「立派な憲法だが、社会の要請に沿ってよりよいものにしていかなければならない」として一部改定案が提起された。この憲法改定案は、来年の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で決定されることになっている。コミュニケでは憲法改定案の内容は触れられていないが、「経済所有制に関する決定」や、先に触れたこれらの決定についての李毅中副主任の公式コメント、そしてマスコミの多くの報道は、改定の中心が「私有財産の不可侵」をめぐるものであることをはっきりと語っている。
 こうして中国共産党十六期三中全会は、実態としてはすでに全面的に資本主義化した中国社会が、法制面でも資本主義国家としての最終的完成段階に入っていることを宣言したのである。
(10月31日 高島義一)
(注)中国社会の全面的資本主義化の進行とその過程、あるいは中国国家の階級的性格などについては、「かけはし」に掲載された以下の諸論文を参照してほしい。b高島「『革命中国の終焉』―小平の死とともに何が終わったのか」97年3月14日、24日号。b高島「『反官僚政治革命』の時代の終焉と中国における新たな社会主義革命」97年11月24日、12月1日号。b高島「『反官僚政治革命』という戦略概念をいまどのように考えるか」01年5月28日号。b劉宇凡「中国の資本主義復活は完成した」02年6月24日号。b早野一「何清漣著『中国現代化の落とし穴』に寄せて−官僚による国有財産略奪で進行した全面的資本主義化」03年7月14日、7月21日、7月28日、8月4日、8月11日号。b高島「中国共産党第16回大会の示したもの−資本主義的国民政党への転換へ」03年1月1日、1月13日、1月20日号。


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