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韓国                         かけはし2003.11.10号

労働者大弾圧とイラク派兵の新自由主義政権退陣をめざせ

ノ・ムヒョン大統領「再信任政局」のねらいを暴け


 10月10日、ノ・ムヒョン大統領は再信任を問うと発表した後、13日には再信任国民投票を明らかにし、投票時期や手続きまで公表するに至った。同時に、イラク派兵に関連して10月16日の国連安保理の多国籍軍承認に続き18日にノ・ムヒョン政権は電撃的にイラクへの追加派兵を表明した。
 ノ・ムヒョン大統領が投じた再信任カードの政治的効果は威力的だった。まず、新自由主義の支配分派たちは一大混乱に陥った。ブルジョア諸政党は即刻、反応を示したものの、政局についての利害打算によって1日にして政治的態度を変えるなど、右往左往している。だが、何よりも再信任国民投票の「提起」は追加派兵、北核、経済問題など懸案の諸事案を一括パッケージでまとめてしまうという威力を発揮している。つまり、これらすべての事案を再信任国民投票の下位の事案として配置されることができるようになった、という点だ。
 派兵の決定過程は、このような政治的効果を現実的に確認させるものだ。再信任政局の形成と、その後を追って出てきた国連安保理の決定は、よしんば虚構だとしても最も効果的にこれを打開していく名分を与えている。これによってノ・ムヒョン政権は大統領職をかけた再信任を武器として国民を脅迫するとともに、国連安保理決議という虚構的名分によってイラクへの追加派兵を断行する政治的条件を形成させていくのだ。同時に、派兵だけではなく北核、経済問題、政治改革、ソン・ドゥユル教授の処理の件(注1)など、すべての事案を配置できる政治的条件を形成させている。
 これまでの再信任国民投票についての意見は、まちまちだった。これは単にブルジョア政治圏内部の混乱だけではなかった。ノ・ムヒョン大統領の再信任宣言が出ると、大部分の市民団体は政治的改革を要求した。また10月17日の民衆連帯緊急討論会において民衆連帯は大衆闘争などの原則的な立場は堅持しているが、政治改革や政策の連係を前提とした国民投票の早期施行が労働者民衆の立場であるべきだと表明した。
 民主労働党も国民投票の実施に反対するとの立場を提出した。派兵拒否など国政改革の6大課題の提示とともに、国民投票反対を掲げる理由として5つ挙げているが、驚くべきことは「国民投票による血税の浪費」と「憲法秩序の混乱を招き、違憲的要素が甚大」が含まれているという点だ。最近までイラク派兵問題で国民投票を実施しよう、と言っていた民主労働党の立場は、その主張の正しい正しくないは別として、実に一貫性に乏しく気がかりだと言えよう。
 このように、運動陣営の再信任国民投票についての意見がこうもさまざまなのは、再信任国民投票の政治的性格や、それが意図していることについての理解が異なっているからだ。またはノ・ムヒョン政権の意図を見抜けないか、部分的な効果に注目しているためだ。
 だが、ノ・ムヒョンの再信任宣言の背景についていまなお忘れてはならないのは、これが明白に新自由主義支配勢力の政治的危機の産物であり、同時に新自由主義再編を「強化」するための極端な「処方」だという点だ。ノ・ムヒョン政権は執権以来、主要な国政の懸案をキチンと処理できないばかりではなく、保守―改革間の対立によって力を消耗し、労働者民衆の新自由主義世界化反対闘争にぶち当たり、政治改革の推進は足踏み状況に直面した。ノ・ムヒョン政権としては、このような状況を反転させるための攻勢的方案を求めざるをえなかったのだ。
 特に北核、派兵、経済(不動産、証券市場、家計負債など)の諸問題は、すでに独自的に推進するだけの力が燃え尽きた状態であり、これに加えソン・ドゥユル教授をめぐる保守冷戦勢力の逆攻や統合新党の支持率が低迷しているという点などの政治的不安定性が加重されてきた。結局、攻勢的な局面突破のために「再信任」というどんづまりの戦術の選択が不可避となっていたのだ。
 これを確信させるかのように、13日のノ・ムヒョン大統領の国政演説は再信任と政治改革の問題を除けば、さまざまな懸案についての新自由主義政策の強行をその核心としている。自由貿易協定の可決、労使政策の細部方案提示、金融市場問題などは既存の立場を繰り返すことから大きく脱け出せなかった。同時に再信任カードが「北核」、「派兵」、「経済」などの国政の事案や今後の政治改革問題において及ぼす影響はとてつもないものと予想してきたが、その予想は正確だった。
 だが、運動陣営にあってはノ・ムヒョン政権が再信任投票以後、再信任を土台にして主導権を掌握して各事案を処理していくものと考えたが、これはとんでもない錯覚だった。すでにノ・ムヒョン政権は再信任カードという背水の陣によって再信任政局を形成し、攻勢的に主導権を握ってきている。再信任国民投票がなされるにせよ、そうでないにせよ、ただ再信任の提起―国民投票宣言によってでも、すでにその効果を充分に享受しているのだ。したがってノ・ムヒョン政権は再信任国民投票の前に主要な諸事案についての強制的解決を図った後、大統領再信任投票に臨むだろう。重ねて言うけれども、ノ・ムヒョン政権は再信任投票も問題解決の「始まり」ではなく、それの「結末」である処理過程の事後承認だと見なしているのだ。
 再信任政局を通してノ・ムヒョン政権は派兵反対闘争の戦線を撹乱させた。ノ・ムヒョンの再信任発言が出てくるやいなや、「派兵」への対応を後回しにして「政治改革」の要求に集中することによって対立点は撹乱したし、――このような政治改革の要求はノ・ムヒョンの再信任政局の形成に手を貸すも同然だ――派兵決定を前にしてノ・ムヒョンは17日、市民団体の代表者らを青瓦台(大統領府)に呼んで派兵決定の道連れとした。
 もちろんこれも労働者民衆が現在の戦線を主導できず、大衆運動として派兵反対運動が定着できていないことによる必然的な結果でもある。だがより大きな問題は、このような撹乱要因は今後も予告されているという事実だ。運動陣営の一部は統合新党の派兵反対勢力や反戦平和議員などとの連係の中で国会に向けた攻勢的なアクションを取るものと予想される。これにより派兵方針についての国会通過の過程で国会を中心とした攻防戦に乗り出すものと思われる。また「戦闘兵」か、そうでないのかという問題が再び前面に浮上することもありうる。だが、これもまた運動陣営の主体的意志に伴うものではなく、支配階級内部の対立の様相、支配階級と労働者民衆の対立の様相に伴って規定されることとなるだろう。
 このようにノ・ムヒョン政権の再信任宣言の最大の政治的効果は、いわゆる守旧保守勢力の足引っ張りから脱け出すことに制限されるものではない。むしろ、それはささやかなことにすぎない。より重要なのは労働者民衆の闘争を撹乱させ新自由主義再編を円滑に遂行するための政治的条件を作りだしていくことにある。何よりも労働者民衆の利害にもとづかない政治改革、経済改革は、必ずや新自由主義の世界化攻勢を伴うこととなり、したがって労働者民衆への攻撃を内包しているという事実に注目しなければならない。
 ノ・ムヒョン政権の再信任カードの核心的狙いは、まさにここにある。少数派としての限界を政治的に突破することによって、来年の総選挙を前後する政治圏の再編ばかりではなく、新自由主義の支配秩序を能動的に再編するというものだ。支配秩序の再編は労働についての再編、すなわち労働についての全面的な攻撃を内包するという点において今後、資本・政権と労働者民衆の対立が一層深まりゆくことを予告する。
 10月14日、労働部(省)、検察、警察など15の政府機関の実務者23人は「公安関連実務者対策会議」を開き、年末まで続く各種のデモや集会についての対策の論議を重ね、不法行為に対しては厳しく対処することで方針を決めたという。さあどうだと言わんばかりに、ノ・ムヒョン政権は公務員労働者たちを相次いで連行していき、集会場を侵奪し、派兵反対の記者会見を暴力的に封鎖するなど、すでに「派兵強行―民衆の抵抗―公権力による対応」の政治作業を進めている。このように現在の時点で再信任の剣先は明らかに労働者民衆に向かっていることを直視する必要がある。
 このような状況にあって労働者と農民、都市貧民の命をかけた抵抗はいまも持続されている。年初のペ・ダルホ烈士の焼身(注2)やイ・ギョンヘ農民烈士のカンクンでの割腹自決、そしてパク・ドンジュン、キム・ジュイク烈士(注3)の自決など資本と政権の弾圧や反民衆的な新自由主義政策に命をかけた抵抗は相次いでいる。また大多数の民衆は家賃の暴騰、物価の不安はもちろん、社会の公共資源の破壊や解体の中で苦しい暮らしを生き続けている。
 そのために再信任自体については、まず労働者民衆は生存権、労働権、生活権争取の延長から、新自由主義の世界化攻勢による社会不安、生存への脅威の次元から、再信任に付される以前からすでに不信任政権という攻勢的対応が必要だ。再信任が当か不当かではなく、何のための再信任なのかについて集中的に攻略しなければならない。
 再信任するのか、不信任するのかは2次的な問題であり、それについての態度を持つこともまた2次的な問題だ。これについて結果的にハンナラ党や保守勢力と連係することになるということを心配する声がある。だがこれは考慮し得る問題だが、現在の局面で態度を決定することにおいて考慮する必要はない。すでにノ・ムヒョン政権は派兵をしたからだ。
 再信任政局の局面変化にもかかわらず、新自由主義政権と支配階級全体が苦境に直面している問題は、やはり派兵だ。よしんばノ・ムヒョン政権が全面突破を宣言して国連安保理決議を土台にした大衆的名分づくりに乗り出しているとは言うものの、その結果は依然として未知数だ。そのために労働者民衆の戦争反対・派兵反対の要求は一層拡大していかなければならないし、現在の条件において「派兵政権退陣」を提起しなければならない。
 これとともに労働者民衆を死に至らしめるにほかならない新自由主義世界化攻勢の中断とギマン的新労使関係粉砕闘争を展開していかなければならない。すなわち労働者民衆の公憤を組織化するための効果的で実行可能な実践を展開していかなければならない。これは崖っぷち戦術を繰り広げている新自由主義政権に警鐘を鳴らすことのできる方法だ。
 すでに資本と政権対労働者民衆の命がけの戦闘は始まった。再信任国民投票は単にその戦闘の結末であり、断じて始まりではない。したがってすべての労働者民衆運動陣営は「派兵政権ノ・ムヒョン政権退陣」の立場を明らかにし、派兵反対、労働弾圧―新労使関係粉砕、新自由主義世界化の中断など労働者民衆の当面の要求を掲げて政権退陣としての不信任闘争を展開していかなければならない。(「労働者の力」第41号、03年10月20日付、ホン・ソンマン「労働者の力」事務処長)

注1 軍事独裁時に民主化闘争にかかわり10月、37年ぶりに亡命先ドイツから帰国した哲学者、宋斗律氏をめぐって、かつて宋氏が朝鮮労働党に属していたことについての論争。
注2 斗山重工業労働者。
注3 韓進重工業労働者。金属労組韓進重工業支会長。会社による労組弾圧・分裂工作に抗議してクレーン高空籠城を始めてから129日目、労組が全面ストに突入してから88日目の10月17日、抗議自決。



政府・資本の大弾圧に労働者が連続自死抗議
これ以上、だれも殺すな!
民主労総が不退転の反撃を宣言


 ノ・ムヒョン政権の労働運動大弾圧に支えられた資本の組合つぶしに抗議し、労働運動指導者たちのやむにやまれぬ焼身決起が連続している。弾圧がやまなければ、あと何人の犠牲者が出るかわからない。民主労総は以下の宣言を発表し、不退転の闘争に立ち上がることを決定した。ノ・ムヒョン政権は弾圧をやめよ!

 韓進(ハンシン)重工業労組のキム・ジュイク委員長が自殺(十月十七日)してから一週間もたたないうちにセウォン・テク労組(韓国金属労働者連盟の加盟労組)のイ・ヘナム委員長も焼身自殺を試みた。イ・ヘナム氏は危篤状態で入院中である。
 それからほんの数日後の今日、われわれはもう一人の犠牲者に直面しなければならなかった。今日、十月二十六日、非正規労働者の権利をめざす闘いのために開催された全国非正規労働者集会の最中に、韓国労働福祉協会非正規労働者組合光州支部委員長のイ・ヨンソク氏が自分の体に可燃性の液体をまき、「非正規労働者への差別をやめろ」と叫んで火をつけて自殺をはかった。彼は入院しているが、死線をさまよっている。
 十月二十三日の午後八時半頃、イ・ヘナム氏は経営陣が働いていたセウォン社のオフィスビル(セウォン・テクの本社)の前に出向いた。彼は決意を込めて語った。「私はセウォングループ会長のキム・ムンキを許せない」「これが正しいやり方ではないことを私は知っている。仲間たちの多くは私を悪く言うだろう。しかし私には、極端なやり方、すなわち死を選ぶ以外の方法はない」。
 さらに彼は続けた。「いかに時間がかかり、厳しい道だとしても、われわれはわれわれの夢と希望である、われわれの民主的労組を守らなければならない。……イ・ヒュンジョン氏の葬儀にまつわる問題(イ・ヒュンジョンは二〇〇二年に会社が雇ったならず者に激しく殴られた。その傷による合併症で彼はちょうど二カ月前の今年八月二十六日に死亡した)を解決するまでは、私の体に手をつけてはならない」。
 イ・ヘナムを自殺という極端な方法に追いやったのは、セウォン資本が行った労組に対するひどい抑圧と、ノ・ムヒョン政権の無分別な弾圧である。セウォンの労働者は低賃金にあえいできた。彼らは残業をしても月に約八十万ウォン(約七万五千円)しか稼げなかった。労働者たちは恐るべき労働条件に耐えられず、二〇〇一年十月に労組を結成し、韓国金属労働者連盟に参加することを決定した。これに対して会社側は百五十人のならず者たちを雇い、組合員を職場から追放した。二〇〇二年に会社は自己再編し、「労組破壊シナリオ」を導入した。このシナリオに沿えば、会社はストライキを破壊し、労組を告訴し、組合員の資産/賃金を差し押さえることになる。さらに彼らは組合員に労組脱退を強要することになる。
 今日、自殺を図ったイ・ヨンソク氏は、労働福祉協会非正規労働者組合の団体交渉委員会の一員として集会に参加していた。労働省がいかなる解決策の提案も拒否する中で、協会との交渉は前進しなかった。今年五月に労組は最初の交渉を打診したが、協会側は回答しなかった。協会側が回答したのは、八月に労働委員会の調停が出てからであった。しかしそれでも協会側がいかなる解決案も提示せず、「非正規労働者を差別するのは当然だ」と繰り返したことは、よく知られている。イ・ヨンソク氏は、労働省前での動員の中で抵抗の闘いを指導した。
 民主労総はキム・ジュイク、イ・ヘナム、イ・ヨンソクの自己犠牲に自責の念を表明せざるをえない。そしてわれわれは、労働者たちがこれ以上貴重な生命を犠牲にすることのないよう心から希望する。またわれわれは、労働者たちに自らの生命を奪うよう追いやった資本、ならびにノ・ムヒョン政権の弾圧への怒りをこらえることはできない。
 三人の労働者は、それぞれ一人ではない。ノ・ムヒョンが政権の座について以後、ドゥサン重工業のペ・タルホ氏が、会社の組合弾圧に抵抗して自らの生命を犠牲にした。デハン合成繊維労組のパク・ドンジュン氏がそれに続いた。資本と政府が労働者への弾圧をやめないならば、さらにどれだけ多くの犠牲が出るのかわれわれは知ることができない。
 民主労総は、政府と資本が絞首刑の縄を「ほどく」のをこれ以上待つことはできない。われわれは、さらに多くの仲間たちが連れ去られなければならないという予測に恐怖を感じている。そこでわれわれは闘争を決定したのである。
 われわれは政府と資本が、労働者に対する抑圧的な新自由主義の攻撃を停止すること、無分別で不正な行為を停止することを要求する。さらにわれわれは、イ・ヨンソクの要求である非正規労働者への差別の停止、彼らの基本的諸権利の保護を要求する。これこそ、労働者が自殺という極端な手段を取ることをやめる唯一の道なのである。民主労総は絶望に陥るのではなく、最後まで闘いぬくだろう。
(二〇〇三年十月二十七日)

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