かけはし重要記事

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韓国は、いま                    かけはし2002.3.4号より

「非人道的国家犯罪への公訴時効を排除せよ!」

軍事政権時代の犠牲者遺族たちの叫び

 チョン・ドゥファン、安企部、保安司(国軍保安司令部)、イ・グナン、サムチョン教育隊、チャン・セドン……。
 これらの名前や名称には共通点がある。国家機関がほしいままにした暴力の構造をかいま見せる「代表性」と人権じゅうりんの性格を語る「固有性」を持っているということ。これらの名前が挙げられるたびに被害者たちは恐怖と恥ずかしさとで震えた。ある日、これらの人々や諸機関を法と正義の名において呼び出せるようになった。恐怖せずに、それで羞恥なしに呼びだしはしたものの、これらの主人公たちは公訴時効という安全地帯にいて、そのだれ一人、どれ一つキチンと処罰されなかった。
 「国家機関が殺人者と共謀して罪なく殺害された女性をスパイに仕立てあげても、その罪過が問われないのであれば、はたして国民は法と正義を信じられるだろうか。国家機関の責任者が自らの権力を利用して極悪非道な犯罪をしでかしてもお構いなしというのであれば、国民はどうして国家を信じられると言うのでしょうか」。
 一月三十日午前、ソウル地検の記者室に高らかに声が響きわたった。声の主はスージー・キムの妹のキム・オンニム氏(41)。民主労働党人権委員会、民主社会のための弁護士の会、人権運動サランバンなど六つの人権団体が「スージー・キムスパイでっちあげ事件の責任者を処罰し、非人道的国家犯罪に対する公訴時効を排除せよ」との内容の記者会見文を発表した直後のことだ。
 キム・オンニム氏の話が終わった後、各人権社会団体はチャン・セドン元安企部長を非人道的犯罪の容疑で告発し、スージー・キムの遺族たちは最近チャン氏にインタビューした『新東亜』イ某記者を出版物による名誉毀損の容疑で告訴した。人権社会団体のチャン氏告発の理由は「国家機関の最高責任者が殺人を隠蔽してスパイ事件をでっちあげたことは明白な非人道的犯罪で、国際法上、公訴時効は適用されない」というものであり、スージー・キムの遺族たちのイ某記者に対する名誉毀損の告訴は「チャン氏へのインタビューで遺族たちがだれかのけしかけを受けて責任者への処罰運動を展開しているかのように表現するなど記事の随所でチャン氏を庇護しつつ、遺族らの名誉を著しく毀損した」というものだ。遺族らは、これとは別にチャン氏と国家を相手とする損害賠償請求訴訟を準備していることを明らかにした。
 「法律がなければ犯罪はなく、法律がなければ刑罰はない」。法学部出身であれば一年生のときから耳にタコができるほど学んだ罪刑法定主義だ。刑事法の最高原則である罪刑法定主義は、どんな行為が犯罪なのか、またその犯罪について、いかなる刑罰を与えるのか、あらかじめ法律に規定しておかなければならないという意味だ。ここには国民の自由と権利を保障するという大原則が横たわっている。
 ところで、この罪刑法定主義が時にはドグマとなり、国民の自由と権利の足を引っ張るとんでもない状況が繰り広げられることにもなる。公訴時効を理由に非人道的犯罪者たちを処罰しないケースが、その典型だ。過去の清算と責任者の処罰問題が表ざたになるたびに「公訴時効は手続き的問題であるので罪刑法定主義の対象ではない」という主張と、「非人道的犯罪と言えども公訴時効を排除するのは罪刑法定主義の根幹を揺るがすものだ」との主張が平行線のように対立してきた。
 公訴時効というのは、ある犯罪事件について一定期間が過ぎれば刑罰権が消滅するという制度だ。時間が経過したという事実関係を尊重し、社会と個人生活の安定を計り、刑罰権を適正に行使するということに目的がある。その結果、証拠がいん滅されたり証人がいなくなって防御権の行使が難しくなった被告人も保護を受けられるようになる。刑量によって違いはあるが、死刑に該当する犯罪は十五年、無期刑に該当する犯罪は十年、十年以上の懲役または禁固に該当する犯罪は七年、などだ。
 だが韓国社会で公訴時効は、いつも二つの顔を持って存在してきた。いかに極悪な犯罪と言えども七〜十年、逃れ続ければ免罪符を手にすることになったり、大量虐殺の犯罪者と言えども十五年が過ぎれば処罰できなかったのだ。本来、意味のある善意の顔に反する公訴時効の暗い顔だ。その結果、被害者もいるし加害者もいるのに処罰はないという奇妙な状況が繰り返されてきた。イ・グナンによる拷問の被害者や、かつてのサンチョン教育隊の被害者、青松刑務所の被害者たちは、すべて公訴時効の壁にぶち当たって民事・刑事上の被害救済を受けられず、責任者たちを断罪できなかった。これとは性格が異なるものの九五年の5・18特別法を通じて時効を中断させ処罰したチョン・ドゥファン、ノ・テウ元大統領は、わずか二年後に釈放され、翌年の大統領特別赦免によって特別法制定の意味さえ顔色なからしめた。
 九九年末にイ・グナンが自首した背景には自身の犯罪が公訴時効が過ぎたとの計算があった。イ・グナンの容疑に、キム・グンテ、ハム・ジュミョン氏ら多くの被害者への拷問、加害の事実が含まれていないことが知れると民弁所属の弁護士たちはイ氏を告発した。だが検察は拷問の事実を認めながらも公訴時効がとうに成立したとの理由で不起訴処分し、弁護士らがソウル高検に抗告、大検への再抗告まで行ったが相変わらず同じ理由で却下された。その結果、イ氏は入北した漁師キム・ソンハク氏を不法監禁し暴行(拷問)した容疑でのみ拘束起訴され、懲役七年を宣告された。
 当時、イ・グナンを告発したパク・チャヌン弁護士は「戦争・虐殺はもちろん拷問、政治的宗教的理由による迫害など国家機関が国民を相手に振るった非人道的犯罪については法律先進的国であればあるほど公訴時効を適用しないのが普遍的だ」「スージー・キム殺人隠蔽、スパイでっちあげ事件の真相が一部明らかになったものの、加害者らがこれっぽっちも処罰されないという悪循環が繰り返されており、人権後進国・法律後進国という汚名をぬぐい去る道は次第に難しくなっている」と語った。
 非人道的犯罪に対する世界的な流れや国際法、国際慣習法の原則は大別して四つに分けられる。@どの国であれ処罰が可能だ(普遍的管轄の原則)A犯人が発見されれば時間とは関係なしに公訴時効は適用されないB地位に伴う免責、国民和合を名分として捜査や起訴をしないこと、政治的便宜に伴う赦免などを認めてはならない(不処罰禁止の原則)C成文の事前条約なしに国際裁判で処罰可能であり特別法を作って処罰することができる(罪刑法定主義の緩和)。
 わが国の憲法は、一般的に承認された国際法規は国内法と同じ効力を持つと規定している(六条一項)。だがわが国でなされた反人道的犯罪捜査や処罰の過程ではただの一度もこれが守られたことはない。その隠れみのは、いつも公訴時効だった。
 参与連帯司法監視センターが二月五日、主管する「公権力による非人道的犯罪の処罰方案と再発防止対策準備」でも公訴時効の問題は集中的に取り扱う。人権社会団体が主張している公訴時効排除の方法は大きく言って二つだ。国家機関が組織的に隠蔽・でっちあげて正常な公訴提起が不可能だった事件について、政府と国会は公訴時効を排除する特別法を作るか既存の法律を改め、六八年の国連総会で採択した戦争犯罪や非人道的犯罪に関する時効不適用条約に即刻加入し、非人道的犯罪についての国際法の原則に従うというものだ。
 民主党ハム・スンヒ議員(ソウル・蘆原甲区)が作った仮称「殺人罪など反人倫犯罪の公訴時効などに関する特例法(案)」(以下、特例法)は、事案別に特別法を制定したり広範囲に一般法を改正するわずらわしさへの負担を減らせるものと評価されている。この特例法は「時の経過とともに事実関係が変わったり自己の防御能力が難しくなった人々を保護しようというのが公訴時効の趣旨だ。だが国家公権力による殺人、拷問致死、死体遺棄などの反人倫犯罪や政治工作的意図から真実を隠蔽・でっちあげた犯罪まで保護する必要はない」という極めて「常識的な」線で特別原則を提案している。「犯罪に対する捜査が現実的に不可能だったり困難な状態が続いた後で、でっちあげ、隠蔽の真実が明らかになった場合、事実上、捜査が不可能だった期間は、その犯罪や関連犯罪に対する公訴時効が停止されるようにする」との原則によって公訴時効の停止と裁定申請に関する特例を定めたものだ。
 二月の臨時国会への提出を前にしているこの特例法の内容について、非人道的犯罪の被害者たちや各人権社会団体は大歓迎している。人権実践市民連帯オ・チャンイク事務局長は「チョン・ドゥファン、ノ・テウ政権の時代は、問題を提起することさえできず、捜査もなされなかった事実上、凍りついて時間だった」「時間を停めた張本人の犯罪の事実が満天下に明らかになったものの、彼らがわがもの顔に力を振るっていた時期まで含めて公訴時効を保障してやるのは、それこそ法の精神に対する侮辱以外のなにものでもない」と語った。奪われた時間を取り戻す方法は公訴時効を画一的に適用するのではなく、根底的真相究明と責任者処罰の意志を持って公訴時効を「キチンと」適用することだ、という話だ。(「ハンギョレ21」第396号、02年2月21日付、キム・ソヒ記者)

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