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                          かけはし2003.1.13号より

トロツキー『バルカン戦争』 出版記念講演会開く

民族問題と「バルカン連邦」めぐって

 十二月十四日、東京文京区民センターにて「トロツキー『バルカン戦争』出版記念講演会」が柘植書房新社とトロツキー研究所の主催で行われた。
 最初に、訳者の清水昭雄さんは「政治的論文は少ないが、すぐれたルポルタージュである。トロツキーが元気はつらつとしていて、文章に律動感がある。登場人物評が面白い。楽しみながら、四年間トロツキーといっしょに過ごすことができた」と自らの翻訳活動を振り返った。
 続いて、佐原徹哉さん(明治大学政経学部専任講師)の「トロツキーのバルカン論の今日的意義」に関する講演が行われた。
 佐原さんは、「ユーゴスラビアの解体そして内戦はなぜ起こったのか。この原因を『民族』問題としてとらえることに問題がある」と提起した。「問題はむしろ民主主義の欠如にあった。民族自決を掲げて、少数民族の生存権を奪い去った。民族が共存できないとか、民族が何百年前、何千年前から存在していたという過去に遡ってもしかたがない。IMFの構造調整が国民的枠組みを壊してしまったことが内戦を作り出した」
 「『マケドニア人』は十九世紀にはそもそも存在さえしていなかった。チトーは民族が五つしかないのに、緩衝地帯を作るために七つの共和国を作った。旧ユーゴはマケドニア人は固有の民族であると主張したが、ブルガリア側はそれをブルガリア民族であると主張していた」
 「マケドニア共和国内にはマケドニア人とアルバニア人の対立がある。それにさらに、コソヴォのアルバニア人とアルバニアの三つを合せた大アルバニアの構想が存在している。今後、この大アルバニア主義がバルカン南部の大混乱の火種になる可能性がある」。
 コソボ以降のバルカン情勢の現局面の問題点を明らかにしたこの佐原氏の講演の後、本書の解説を書いた湯川順夫さん(トロツキー研究所)は「トロツキーは現地での取材を通してこのルポルタージュを書いた。ロシア・バルカンの専門家がだれもやらなかったことで、他に類を見ない本であり貴重な資料だ。ドイッチャーはトロツキーの『バルカン戦争』を『戦争ルポルタージュの古典的名著である』と高く評価している。そして、トロツキーの言っていることは今日のバルカン問題解決についていぜんとして重要な意味を持ち続けている」と語った。
 さらに湯川さんは、「民族が違えば対立し、衝突することは当たり前というのが今日の『常識』になっているが、歴史的には労働者運動において、そして左翼に中ではむしろ、そうではなかった」と述べた。
 そして、「『バルカン連邦』という言い方は第二インターの中では常識であった。バーゼル宣言にもそう書かれている。ロシアの指導者のレーニンなどもバルカン共和国連邦と主張している。セルビア社会民主党もそれを支持していたし、コミンテルンの中でもその初期において、この地域の共産主義者は定期的会議を開いていた。しかし、この考え方はその後のスターリニズムの台頭の中でまっ殺されていった。トロツキーは各民族の独立=国民国家の形成という展望ではなく、民族自決権にもとづくバルカン連邦としてやってゆくべきだと主張していた。そして、チトーも実際にナチスの侵略に対する大衆的な抵抗闘争を組織する必要に迫られたとき、この地域の各民族の平等にもとづくパルチザン闘争の組織化を行わざるを得なかったし、その考えは闘いに勝利した後の第二次ユーゴスラビア連邦の構成にも一定程度、反映されることとなった」とトロツキーの主張する「バルカン連邦」の意義を語った。
 この後、会場からの佐原さんに対する質問を中心にして、バルカン問題をめぐるさまざまな問題の質疑討論があり、有意義な出版会になった。トロツキーのこの大著にあらためて挑戦する意欲をかきたててくれる出版記念会であった。(M)

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