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                          かけはし2003.1.1号より

国土交通省最終答申と開始する前に破綻しつつある八空整

環境・人権・財政を破壊するゼネコン空港を作らせるな


 国土交通省の交通政策審議会航空分科会は、十二月六日、日本の航空行政の破綻を表現し必死の延命をかけた「今後の空港及び航空保安施設の整備に関する方策について」と題する最終答申を決定した。この答申は、現在進行している第七次空港整備七カ年計画(一九九七年十二月閣議決定)が今年度で終り、二〇〇三年度から始まる第八次空港整備計画(八空整)にむけて今年四月から国交相の諮問機関として審議を行ってきたものである。
 答申は、経済・社会活動のグローバル化・ボーダレス化の進展にともなう国際航空需要の自動増大論という根拠のない認識にしがみついている。その上で空港整備特別会計の債務残高が一兆円を超える破産状況のために「厳しい財政事情の下、緊急性の高い事業に投資の重点化を図る」という苦しい言い訳をして、新東京国際空港公団の二〇〇四年度民営化と平行滑走路二千五百メートル化の推進、関西空港二期工事推進と完全民営化、中部国際空港の二〇〇五年の供用開始と民営化、羽田空港の機能拡張などを強引に押し進めていくことを提言している。

 答申の第一の柱は、成田空港民営化問題である。小泉構造改革と称する新自由主義路線は、二〇〇一年六月、「特殊法人等改革基本法」の成立をバネにして行政リストラ計画を一挙に押し進めていった。そして、十月に行革推進事務局が「特殊法人等の組織見直しに関する意見」を公表し、「成田は民営化、関西空港はさらなる民営化」案を打ち出した。
 だが国交省官僚は、自己の権益防衛と国の介入権の確保、関空財政破綻支援を目的とした「上下分離案」で対抗した。この対立は、そのまま交通審に持ち込まれ、そのことを表現したのが八月の「中間とりまとめ」答申だった。
 中間答申は、結論ではないとしながらも「空港の整備と管理運営を行う主体を分け、管理運営主体の完全民営化を図る上下分離方式が現実的で適切である」と述べ、成田・関西・中部三空港一体の上下分離案を提案した。つまり、収入の多い成田が関空の一兆円を超える負債と千九百億円の累積赤字という巨額な債務返済をすることをねらった官僚案だった。
 しかし、この案に対して財界、航空各社、中空建設推進派、成田空港建設推進派などが借金負担増の拒否、地元への見返りや利権が減額されるなどの理由から反対した。結局、九月二十七日、扇国交相は、「(上下分離を)押しつけるつもりはない」と述べ、白紙撤回せざるをえなかった。最終答申では、成田空港について「できる限り早期に特殊会社化し、早期の株式上場を目指」すことを明記している。成田民営化法案は、来年の通常国会に提出される。
 実はこの過程において国交省官僚は、成田単独民営化の確定を受入れつつ、逆にそれに乗じて空港財政の破綻状況を乗り越えるために二〇〇四年度に公団から移行する特殊会社の資本金を約千億円とし、国からの出資金のうち約二千億円を段階的に引き上げ、空港整備特別会計に繰り入れて関空の支援や羽田の再拡張に投じる案を出してきた。答申では「国際拠点空港の民営化による株式売却収入」は、国の収入となり、「大都市拠点空港整備のための財源として投入すべきである」と確認している。
 この民営化を通した二千億円の国への返還案にあわてたのが、成田市など九市町村で構成する成田空港圏自治体連絡協であった。連絡協は、施設整備・環境対策が不十分だとして「出資金は国に返還せず、千五百億円を新会社へ、五百億円を成田空港周辺地域共生財団等に配分せよ」とカネのばらまきを迫った。これに対して国交省は、十一月の国・千葉県・空港周辺市町村・空港公団による「成田空港に関する四者協議会」で、なんとか地元を取り込もうと「周辺対策を義務づける新法を制定する」と述べざるをえなかった。
 最終的に答申は、「本来の平行滑走路(二千五百m)等の早期整備を着実に推進」し、「騒音問題等の環境問題の大きさにも配慮し、地域と空港の共生」を続け、「環境対策・共生策の適切かつ確実な実施を確保することが必要である」という一文を明記した。つまり、あらためて公団・地元利権屋集団と一体となって東峰部落住民の追い出し攻撃と横風滑走路の完成に向けた横堀部落解体攻撃を続けることを明らかにしたのだ。このような八空整の三里塚闘争解体宣言の反動性を徹底的に批判し、闘う三里塚農民とともに反撃していかなければならない。
 答申の第二の柱は、関西空港の経営財政破綻問題である。ところが答申は、関空の「将来の完全民営化を目指す」と主張しつつ、一兆円という巨額な「有利子債務」に対しては「経営改善につながる条件整備を行うことが必要」と述べているだけだ。
 他方、二期工事については、「早期の平行滑走路供用を目標として予定どおり工事を着実に推進する必要がある。今後、需要動向、関西国際空港株式会社の経営状況等について十分見極めつつ整備していく必要がある」と言うだけで、二期がなぜ必要なのかという根拠を示すこともできず、また当初予定の「二〇〇七年度供用開始」を明記せずに推進・慎重の両論併記という中途半端な形で言いつくろっている。
 関空は九月中間連結決算を発表したが、経常損益が六十四億円の赤字で累積赤字が千九百九十八億円に増大した。有利子負債は、二滑走路造成借金の増大で一兆二千百四億円、利子だけで今年度約三百六十億円になっている。完全な財政破綻状態である。さらに国際線発着回数が一三%減、国内線発着回数も一三%減になっている。これは高額な着陸料(ジャンボジェット機一機あたり約八十三万円)などの理由から、各航空会社は関空から撤退傾向にあるからだ。ちなみに成田空港は約九十五万円で、韓国・仁川空港が約三十一万円である。着陸料に三倍近くもの開きがあり、世界の航空各社は日本の空港経由を敬遠してしまう。
 日経連は、関空推進派を批判する「空港整備と国際拠点空港の民営化問題」と題する意見書を発表した(十一月十八日)。意見書は、関空財政支出による羽田拡張事業の財政配分の縮小に危機感を抱き、二期工事について「需要予測を改めて見直し、推進の在り方をさらに検討することが急務だ」として一兆円の有利子負債の圧縮を最重要課題として事業の見直しを要求した。空港財源については、「成田空港を早期に完全民営化し、売却収入を空港整備特別会計を通じて、羽田再拡張、関空整備に充当せよ」とほぼ国交省官僚案を支持する形をとっている。
 だが、このような状況になっても関空経営陣は、「二〇〇七年に二本目の滑走路の供用開始」を目指していると強気の発言を繰り返している。これは、関西経済連合会、自民・公明・保守の議員でつくる関西空港推進議員連盟の二期推進の強力なバックアップがあるからだ。また、関空に千七十三億円近くの投資をしている大阪府も、府財政破綻の状況に追い込まれているにもかかわらず二期工事推進を主張している。このように関空二期推進は、さらなる財政破綻を雪だるま式に拡大し、日本の航空行政の破産を加速する起爆剤となっている。二期工事の即時中止しか、すでに選択肢はない。

 答申は、第三の国際空港として中部国際空港株式会社を取り上げ、「現在の経営形態を維持しつつ、二〇〇五年の供用開始」を目指し、「供用開始後、経営状況を見つつ、完全民営化に向けて検討する」と主張している。中空は、第七空整において国際ハブ空港として国際線・国内線の定期航空路線の一元化をめざすものとして位置づけられ、国、地元自治体、トヨタ資本、中部電力など中部財界の強力な後押しによって強引に進められてきた。二〇〇〇年八月から埋め立て工事を開始し、県・自治体財政の無駄使いと環境破壊の愛知万博の二〇〇五年に間に合わせようと突貫工事を強行し続けている。
 空港事業費は、一九九八年段階で二十五億七千二百万円の着工予算が計上され、総事業費七千六百八十億円だったものが、すでに関連事業も含めて一兆五千億円と巨額な額に膨れ上がってしまった。この財政支出の積み上げは、愛知県をはじめ各自治体財政を圧迫している。計画では十年以内に単年度黒字へ転換し、三十年以内に債務返済を完了することになっているが、この計算はあくまでも空港推進のための過大な航空需要予測を前提にして導き出したものにすぎない。国交省は、この六月に第七空整時における国内線旅客需要予測を過大に見積もっていたことを認めている。
 現在の名古屋空港でさえ、国際旅客が年間で四百万人台で成田の約六分の一の水準であり、許容量の六割程度しか使われていないのが現状だ。中空推進派は、名古屋空港の限界離着陸数を十三万回として設定し、空港満杯キャンペーンをしている。しかし、九九年段階の定期航空路線離着陸が八万四千回、旅客便の平均座席利用率が五六・三%(採算ラインの全国平均が六〇%以上)にすぎず、三万六千回が小型機や自衛隊機の離着陸数なのだ。このように名古屋空港満杯をデッチ上げることによって、中空工事を強行し続け、巨額な財政支出と借金を膨らませ続けているのだ。中空がまさに関空に続く破綻空港になろうとしていることを明らかにし、工事中止を訴えていかなければならない。
 答申の第四の柱は、羽田空港の四本目の滑走路建設などの再拡張工事について提言していることだ。答申では、羽田空港沖合展開事業に「多額な資金が必要」であり、「財政投融資の元利償還金も、今後十年間は毎年約千億円が必要」だと具体的数字を掲げた。そして、この事業は、周辺地域に大きな利益をもたらすから「地方負担を導入する方向で検討する必要がある」と主張している。現段階での事業の総工費は、滑走路建設費、国際ターミナルビル、航空保安施設など約九千億円だが、さらに膨らんでいくのは必至だ。
 すでに国交省は、総工費のうち三割にあたる二千七百億円の負担を隣接自治体に要求している。しかし、神奈川県、埼玉県、千葉県と横浜、川崎、千葉の政令指定都市は、「強く反対する意見書」を共同で国に提出した(十二月四日)。東京都は、当初、石原都知事が「羽田の国際化を遅らせてはだめだ。羽田は首都圏の空港だから各県が力を合わすべきだ」と手前勝手な発言をした。だが、都官僚は、供用後の事業税収入やその他経済波及効果を試算したが過大に見積もっても借金財政を脱し切れるどころか、火に油を注ぐ状態に陥ると判断し、都として負担拒否を正式に決定した。
 このように関係自治体の負担拒否によって、来年度工事着工がデッドロックに入ってしまった。そもそも国の財政が破綻しているにもかかわらず、慢性的な借金財政にある自治体も負担せよという安易な発想が、こういう事態を引き起こしたのだ。このような官僚の論理は、一貫して航空行政の中で繰り返し再生産され続けてきた。ずさんな八空整を批判し、工事拡張反対を広げていかなければならない。
 さらに答申は、羽田拡張工事を早期着工・早期完成させ、「国際定期便の就航を図る必要がある」と強調している。これまでの「成田は国際、羽田は国内」という空港行政の原則の修正を提言している。また、この提言とセットで成田推進派の反発を予想して「成田空港との役割分担」について今後検討すると言っているが、実質的に羽田の国際化に拍車がかかっていかざるをえない。世界の航空会社は、高額な着陸料の成田空港路線から羽田空港路線に変更を要求してくる。これまでの成田空港完全完成と暫定滑走路供用の根拠が崩れていくことは間違いない。われわれは、これ以上の財政の無駄使い、環境・人権破壊の空港と過密航空はいらないという立場から羽田拡張工事に反対し、三里塚暫定滑走路の供用の即時停止を求めていかなければならない。
 地方空港の新設について答申は、財政逼迫、国交省のゼネコンのための乱開発路線を継承したアリバイ的な「公共事業の見直し」を根拠にして、これまでの空港が設置されていない県に空港を建設する「一県一空港政策」と九〇年代の日米構造協議を通して推進してきた各地の空港滑走路を欧米並に大幅延長する乱造政策から転換し、「事業実施中の空港を加えると、その配置的側面からの整備は概成した」という認識のうえで、「今後の地方空港新設については離島を除き抑制する」方針を選択した。
 しかし、未着工の十一空港と滑走路の延伸や増設といった七空港の事業を止めておきながら、神戸空港、静岡空港などの工事を着工している空港については予定通り進めると主張している。神戸空港工事は、六割の神戸市民の反対と市財政危機を無視して強行し続けている。静岡空港も同じように工事を強行しているが、石川県知事は、反対派の土地に対して土地収用法の適用を二〇〇三年夏までに判断すると県議会で発言した(十二月五日)。反対派と連帯し、全国の力で強制収用策動を粉砕していかなければならない。
 最後に、答申の中で見過ごしてはならないのは、「テロ対策を含む危機管理」という項目だ。答申は、「米国をはじめ、飛行情報区が隣接する諸国と調整を行い、共同の危機管理計画の策定」を目指せと提言している。すなわち、戦争ができる国家体制作りに明確に空港を組み入れることを主張しているのだ。周辺事態法、有事法制を通した空港の軍事利用に反対していかなければならない。
 第七次空港整備七カ年計画は、拠点空港(ハブ空港)の整備を優先に成田空港第二滑走路、関西空港第二滑走路、中部国際空港、首都圏第三空港建設を掲げていた。しかし、三里塚農民の闘いや各地の空港反対闘争、乱開発による財政破綻、空港整備特別会計の破産状態、ずさんな工事計画などによって目標達成にはほど遠い状態にある。
 結果として、アジア・ハブ空港競争からの大きな遅れと挽回不能状態にある。政府・国交省は、そのツケを空港民営化路線によって乗り切ろうとしている。この方針にしても、政官財、地元利権屋集団との暗闘を繰り返しながらようやくたどり着いた代物だ。そして、民営化による「経営の一層の合理化・効率化」を強調しているが、その実態は儲け主義を優先にした超過密運航、環境破壊、航空関係労働者のリストラによる労働強化と安全点検の合理化による安全性の軽視である。
 このような八空整を許さず、十一月二十三日に静岡で行われた反空港全国連絡会の集会でかちとられた団結の力で反撃していかなければならない。静岡集会で確認した「空港計画の中止撤廃、航空機騒音の拡大阻止と抜本的解決、空港の軍事利用阻止」を合い言葉に、全国的な闘う陣形を拡大していこう。二〇〇三年三里塚芝山連合空港反対同盟旗開き(一月十二日、正午、横堀研修センター)に集まろう。二〇〇三年反空港全国連絡会集会(場所予定・羽田と三里塚)を成功させていこう。インター横堀団結小屋維持会の呼びかけに応えていこう。(遠山裕樹)


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