かけはし重要記事

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「不審船撃沈事件」沈黙の38日を経て共産党が見解発表 かけはし2002.2.11号より

違法な武力行使への批判を回避

憲法破壊の戦争行為をなぜ糾弾しないのか


戦後史を画する事件への長い沈黙

 昨年十二月二十二日に発生した、海上保安庁による「不審船撃沈事件」から三十八日間の沈黙を経て、一月二十八日、日本共産党がようやくこの問題についての「見解と提案」なるものを発表した。
 本紙一月十四日号に掲載した論文で詳細に明らかにしたように、海上保安庁によって引き起こされた「不審船撃沈事件」は、武装した日本の国家権力機関によって、日本の主権の及ばない公海上で強行された憲法破壊の戦争行為であり、国連海洋法条約などの国際法はもちろん、漁業法や共産党も賛成して改悪された海上保安庁法などの国内法にも違反する大量殺人であった。
 それはまた、新ガイドライン関連法案成立強行のためのフレームアップであった九九年の「不審船事件」と同様に、米軍と自衛隊と海上保安庁が連携して準備し、北朝鮮金正日官僚専制支配体制の工作船の愚劣な活動を活用して行なった謀略であり、有事法制の整備と憲法改悪に向けた社会的気運を作り出すための一大フレームアップ事件であった。
 第二次大戦から五十七年目にして、日本帝国主義がついに行なった許すことのできないこの戦争行為に対し、日本共産党は糾弾するどころか一切の論評を差し控え、「しんぶん赤旗」には連日この戦争行為と大量殺人を正当化する小泉政権の閣僚や自民党首脳や海上保安庁の言い分だけがそのまま掲載されるという、信じがたい事態となった。
 これによって共産党は、「戦争のできる国家体制」の法的完成をめざす小泉政権の策動に客観的には加担してしまうという、許しがたい裏切りを働いたのである。われわれは「しんぶん赤旗は政府の広報紙となった」と厳しく批判するとともに、「共産党は社民党との共闘を強めて国会に事件の真相究明のための委員会を設置し、違法・違憲の武力行使と大量殺人の責任者である小泉首相らを追及すべきである」(本紙1月14日号)と強く訴えた。
 それでは、事件発生から一ヵ月以上も経ってようやく発表された共産党の「見解と提案」は、憲法違反の有事(戦時)法制の整備を食い止め憲法改悪を阻止しようとして闘う人々の期待に沿うものになったであろうか。

どんな「見解と提案」なのか

 「今回の事件に対する海上保安庁の対応について」と題する「見解」は、@領海と排他的経済水域は、はっきりと区別することが必要A海上保安庁の対応は国際法上の根拠を欠いたあやまったもの\\の二項目である。その内容を要約すると@は、領海には主権が全般的に及ぶが排他的経済水域は水産資源と海底資源と海洋汚染という経済的主権だけが認められているので、それが侵害された場合以外は日本には取り締まる権限はないということであり、Aは、最初から漁船ではないと認識していた公海上を航行する外国船に、日本の漁業法を適用して取り締まることはできないし、それは国際法上の根拠もないので、こうした対応は今後は是正すべきである、ということである。
 「しんぶん赤旗」を直接読めばだれでもわかるが、「かけはし」が直ちに指摘した違法性についての説明とほとんど文章まで同じであり、書き写したのではないかと思ってしまうほどである。いうまでもなくこの程度のことは、法律についての最低限の知識があれば、だれにもすぐわかることである。多数の国会議員を抱え、自由法曹団という弁護士グループと法律専門家を抱えているはずの日本共産党が、この程度の「見解」を発表するのにどうして一ヵ月以上もかかるのか。
 今回発表された文書の後半は「いわゆる『不審船』への対応をどうするか」と題する三項目の「提案」である。@「領海内では、基本的には現行法規による対応で可能」A「排他的経済水域においては、周辺国と共同対処できるルールづくりを」B「海上における警察活動は、第一義的に海上保安庁が行なうべき」というものである。
 @は、報復戦争関連三法案のひとつであるにもかかわらず日本共産党が賛成した、正当防衛でなくても領海内での「危害射撃」(相手船舶を破壊しても乗員を殺傷しても刑事責任を問われない)を可能にした改悪海上保安庁法についての、「危害射撃」は手続きを踏んでからやることになっている、という言い訳である。そして、Aとともに「危害射撃」の範囲を拡大するような新たな立法措置は必要ないと主張している。
 Bは、自衛隊が海上警察活動に任務を拡大することに反対し、「海上保安庁によるものであっても」、武器の使用は抑制的にすべきであり、同時に「この問題を有事体制づくりに利用すること」に反対する、としている。

有事立法と憲法改悪を阻止しよう!

 「見解」はこの「不審船」撃沈事件を以下のように結論づける。「このようなやり方は、国内法上も根拠を欠いているだけでなく、国連海洋法条約など、国際法上も容認されておらず、あやまった対応である。今後、こうした対応は厳しく是正すべきである」。
 「あやまった対応」だって? 「国内法上も国際法上も根拠がない」のに、日本の主権が及ばない公海上を航行する外国船に、日本の国家権力機関である海上保安庁が武力を行使し、数百発の二〇ミリ機関砲弾を撃ち込んで大破・炎上させ、反撃されると「正当防衛」と称して撃沈し、少なくとも十五人の乗員の生命を奪ったのである。
 共産党は、無法な大量殺人の下手人である小泉政権をなぜ追及しようとしないのか。憲法を破壊する武力行使であり戦争行為であるこの暴挙を、なぜ国会の場で徹底的に追及しようとしないのか。これはアフガン復興支援会議へのNGO出席拒否問題よりもはるかに重大な問題である。武力行使によって憲法九条を暴力的に破壊した戦争行為を糾弾することもせず、どうして有事=戦時立法を阻止することができるのか。
 共産党不破・志位指導部は、へたに「不審船」撃沈を糾弾したりすれば、「共産党は北朝鮮を擁護するのか」とキャンペーンされて孤立し、選挙で票が減るのではないかと恐れ、すくみあがってしまったのである。それは、九月十一日の無差別テロ後の一時期、「共産党はテロを擁護するのか」とキャンペーンされることを恐れて「報復戦争絶対反対」の立場を即座に打ち出すことができず、ほとんど一週間にわたってブッシュの報復戦争発動について、評価抜きの客観報道を続けたことと全く同様である(本紙01年10月1日号「テロの衝撃に立ちすくむ共産党」)。
 「不審船」撃沈事件から四十日近くたってようやく発表された日本共産党の「見解と提案」なるものは、このように中途半端で弱々しいものだった。しかしそれは、党内の左派活動家や法律関係者、そしてわれわれをはじめとする党外からの強い批判がかちとった「成果」である。いかに不十分であっても、撃沈が違法行為であることを認め、今後は同様の措置をとるべきではないと述べ、改悪海上保安庁法の拡大解釈を戒め、武力行使を拡大する新たな立法措置に反対し、この問題を有事体制づくりに利用することに反対しているからである。憲法改悪と有事法制を阻止するためにも、共産党の右転落路線を批判し続けるとともに、国会内外で共産党・社民党・無所属国会議員と市民運動・労働運動の幅広い運動を作り出すために全力を上げなければならない。(1月31日 高島義一)

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