エスカレートする米中貿易戦争
グローバルな危機との闘いへ
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米中対決の深まり
トランプは五月一五日、「外国の敵対勢力による経済スパイ行為など有害なサイバー活動が極めて重大な脅威になっている」として、国家非常事態を宣言して、中国最大の通信機器企業であるファーウェイの通信技術を米企業が利用することを禁止する「大統領令」に署名した。米商務省も同日に輸出規制リストにファーウェイを追加して、外国企業を含むすべての企業に対して「ファーウェイ向けの米国製品とサービスの提供禁止」措置を発表した。
そうした政権の決定を受けて一九日、米IT企業大手のグーグルはファーウェイのスマホ向け基本ソフト(OS)「アンドロイド」の供給停止を発表した。また米半導体メーカーのインテル・クアルコム・ブロードコムもファーウェイ向けの供給を一時中断することを決めた。こうした動きは米国内で拡大している。特に半導体の製造と販売は世界的に作られてきた巨大な供給網によって運営されてきたのであり、この分野での影響は巨大なものだ。
中国は5G(次世代高速通信網)の世界的な主導権を握り、製造大国をめざす「中国製造2025」という目標を掲げてきた。そのなかでも最大級の課題とされてきたのが「産業のコメ」と言われる半導体の自給率を飛躍的に高めるということだった。昨年の半導体自給率は二〇%以下で、それを七〇%まで引き上げようとしてきた。その弱点を突かれたのがイラン・朝鮮に対する「不正輸出」を理由とする、昨年四月からの中国通信機器大手ZTEに対するクアルコムからの半導体供給の停止だった。ZTEは破産寸前まで追い込まれたあげく、米商務省が要求する罰金一〇億ドル・保証金四億ドル・経営陣の刷新・今後一〇年間の監視と違反があれば保証金の没収と米企業との取引の禁止という「和解案」を丸呑みしなければならなかったのであった。
それを教訓に中国は半導体製造の内製化と米国製からの切り替えを進めてきてはいたが、米国の今回の措置はファーウェイにとどまらず中国経済全体への巨大な打撃になることは明らかだ。半導体の供給が停止すればZTE同様に、ファーウェイも瀕死状態にまで追い込まれる可能性がある。
またファーウェイは通信基地局で世界シェア一位であり、スマホの出荷台数も韓国のサムスンに次いで二位である。今年の一〜三月期のスマホ出荷台数は五九一〇万台(前年同期比五〇・三%増)であり、影響は中国国内にとどまらない。パナソニック・京セラなどの日本企業も昨年、ファーウェイに対して六七〇〇億円の部品供給を行っている。
決裂した閣僚協議
貿易戦争後も米中は通商協議を続けてきた。そのなかで中国が一兆ドル規模の米国製品を購入するという約束も取り交わされてきた。そして一二月一日の米中首脳会談では貿易戦争の「一時休戦(九〇日間)」まで合意したのであった。しかし潮目が変わったのは、三月五日から開催された中国の全国人民代表者大会(全人代)からであった。
政治活動報告のなかで李克強首相は米中貿易問題に関して「外国企業に対する参入障壁の引き下げや出資規制の緩和を加速化する。外国企業が持つ技術を中国に強制的に移転させることを禁じる外商投資法も決める。しかし中国の発展戦略の根幹に関わる産業政策の基本路線の変更には応じない」と発言した。そして三月七日にはファーウェイが「米政府機関が同社製品の調達を禁止したのは米憲法違反だ」として、米テキサス州の裁判所に米政府を提訴したのである。
対中貿易で成果が見えてこないなかで、「中国に譲歩すれば覇権が奪われる」と主張してきた「対中強硬派」のライトハイザー通商代表部代表、ナバロ通商製造業政務局長、ポンペオ国務長官らは「中国の国有企業を優遇する産業補助金問題など、構造的な問題に切り込めなければ意味がない」とする懸念を強めていた。
そして五月九日に行われた米中閣僚級協議が最終的な決裂の場となった。中国側から参加した劉鶴副首相は「@米国の追加関税の即時撤回A米国製品の輸入拡大幅の抑制B中国側に配慮したバランスのとれた合意文書の作成」を要求したのであった。中国は腹を決めたということである。
深まる中国・EU関係
米国議会は昨年八月に政府機関や米軍などでの中国製品の使用を禁止する法案を可決し、米国との同盟国に同様の対応をとるようにと迫っていた。しかしオーストラリアと日本だけが中央省庁の情報通信機器調達で中国製品の排除を決めた。この二国もトランプの「アメリカ第一主義」の強引なやり方を支持して中国製品の排除を決定したわけではない。中国との地政学的な関係からくる米国との「軍事同盟」という観点を優先したにすぎないということだ。
このことをめぐってEU委員会は三月二六日、5Gに関連してファーウェイの製品を採用するか否かの判断は各加盟国の判断に委ねるとして、中国製品の排除を否定した。米国は「中国製品を採用した場合、欧米間の軍事・機密情報の共有に支障をきたす」と繰り返し警告していたが、低価格のファーウェイ製品への評価は根強く、EUとしての統一した対応はしないことを決めたのである。昨年の中国とEUとの貿易総額は七五兆円で、米国とEUとの貿易総額七〇兆円を上回った。
G7の一員であるイタリアは三月二一日に、中国との「一帯一路」の覚書を締結した。その背景にはイタリアがGDPの一三〇%規模の財政債務を抱えているという事情がある。インフラ整備をするにしても中国以外に資金提供してくれる相手がいないのである。今回の覚書も海のシルクロードの終点であり、自由港として栄えてきたトリエステ港のインフラ整備がメインで、締結相手は中国国有企業の中国交通建設集団である。債務危機が続くギリシャも同様な事情から中国からのインフラ整備を受けてきた。三年前には地中海のピレウス港の運営権を中国企業に譲りわたしている。そして中国はこうしたインフラ整備を通して、ファーウェイをはじめとした中国製の通信システムを組み入れてきたのである。現在、中国は中・東欧諸国一三カ国と「一帯一路」の覚書を締結している。投資額は一・七兆円でその七割がバルカン諸国に集中している。
四月二五日から北京で開かれた「一帯一路」国際会議には一五〇カ国が参加し、その内の三七カ国が首脳級を出席させた。日本からは自民党の二階幹事長が出席したが、米国は政府高官派遣を見送っている。三日間の会議中で二八三件の商談が成立して、七・一兆円規模の事業協力が合意されている。
中国の貿易と投資の規模は拡大し続けてきた。昨年九月に北京で中国アフリカ協力フォーラムが開かれた。これは日本が開いてきたアフリカ開発会議(TICAD)の中国版だ。一七年の中国によるアフリカ諸国との貿易総額は一七〇〇億ドルで、それは米国の四倍であった。貿易内容で規模が大きいのは、インフラ整備資金と武器の輸出である。また習近平は三年間で六〇〇億ドルの経済支援を表明していて、その規模は日本の二倍にあたる。中南米諸国との貿易規模も一〇年間でその規模を二・五倍に拡大した。一七年の貿易総額は二六〇〇億ドル(前年比一八・八%増)で、中心的な相手国はブラジル・ペルー・チリだ。中国はそこから大豆・石油・鉱物資源を輸入していることがわかる。中国による太平洋諸国への援助総額は一〇年間で一七・八億ドルで、それはオーストラリアに次いで第二位だ。発電所・道路・病院などこれまでに一〇〇件以上の援助を実施している。
追加関税引き上げ措置
トランプ政権は対中貿易での巨額の赤字を理由にして、中国を「不公平な貿易相手国」だとして米通商法三〇一条を適用し、昨年七月から四度にわたり輸入品に対する追加関税措置を実施してきた。中国もそれに対する報復関税措置で対抗してきた。
追加関税措置の第一弾(七月に三四〇億ドル規模)と第二弾(八月に一六〇億ドル規模)では、米国側は自動車・航空・宇宙関連・原子炉・産業用ロボット・情報通信機器・工業用機械・鉄道関連・化学製品などを二五%の追加関税対象とした。中国側は自動車・農産物・海産物・ウイスキー・タバコ・石炭、石油などの鉱物資源・医療機器・化学製品などを同じく報復関税対象とした。しかし中国はもともと関税が高かったということもあって、同時に関税の引き下げも実施している。そして第三弾が九月に実施された。米国側は二〇〇〇億ドル相当の中国製品に対して一〇%の追加関税措置を発動し、中国側は六〇〇億ドル相当の米国製品に対して最大一〇%の報復関税措置で対抗した。
そして今年の五月一〇日、トランプ政権は米国が中国から輸入する年間二〇〇〇億ドル相当の製品に対する追加関税を現行の一〇%から二五%に引き上げることを決定した。対象は生活関連製品を含めた約五七〇〇品目で、六月一日から実施される。中国もそれに対抗して五月一三日、年間六〇〇億ドル相当の米国製品に対して六月一日から最大二五%の報復関税を課すと発表した。トランプ政権側はさらに第四弾として、残りすべての中国からの輸入品(約三二五〇億ドル相当)にも最大二五%の追加関税を課すための事務作業に入った。その発動は六月下旬以降としているが、米メディアは物価上昇によって、平均世帯支出が年間で七六七ドル(八万四〇〇〇円)増えることになると報じている。
昨年七月から本格化した米中貿易戦争は「貿易赤字の削減」を選挙公約としてきたトランプが主導してきたが、その中間結果はどうなっているのだろうか。一月一四日の中国税関総署の発表によると、一八年の対米貿易黒字は前年比で一七・二%増加して三二三三億ドル(三五兆円)だった。これは過去最大の黒字額だ(米商務省の発表値は中国の発表値よりも高い傾向にあり、米商務省が発表した一七年の対中貿易赤字は四二兆円)。米国への輸出は一一・三%の増加で、輸入は〇・七%の増加だった。ただしこうした数字には追加関税による影響も含まれているので厳密に評価するのは難しいが、いずれにしろトランプとしては「成果」を上げることができなかったということだけは明らかだ。
危機は確実に拡大
しかし「世界の工場」として経済成長を成し遂げてきた中国の官僚資本主義にも明らかな陰りが見えはじめている。国連工業開発機構(UNIDO)によると、昨年の中国の世界工業生産に占める割合は二五%だったが、米中貿易戦争や国内人件費の上昇などを理由に、外国から進出する企業の半数以上が中国以外への工場移転を考えているという。その内の三割程度が東南アジアへの移転計画を進めている。
また長期にわたって実施されてきた一人っ子政策の影響で、中国も日本と同様の少子高齢化社会と人口減少を迎えようとしている。国家財政債務も日本と同規模の年GDP比で二五〇%にまで膨れ上がっていて、個人消費に大きく影響する家計債務も拡大している。経済成長に支えられた輸出と個人消費の拡大は中国経済の推進力であった。トランプ政権によるファーウェイをはじめとした中国の通信機器事業に対する排除攻撃は、陰りが見え始めた中国経済にとって深刻な打撃となることは明らかだ。
米国経済は好調だと言われてきた。今年の一〜三月期の経済成長率は年平均にして三・二%、失業率は四九年ぶりの低水準で三・八%で、こうした数字がトランプを強気にさせているとも言われている。しかし米中貿易戦争の影響も随所で表れている。輸出用大豆の六割を購入してきた中国は、昨年九月の時点で前年比で八五%輸入を減らしてブラジル産に切り替えた。TPPから離脱したことの影響も含めて、農家への打撃は続いている。トランプ政権は昨年七月に実施した一二〇億ドルの農業支援に続いて、五月にはさらに一五〇億ドルの追加支援を表明している。また自動車大手のGMは昨年の一一月に、米国とカナダの五工場と韓国などにある二工場の生産停止と一五%の人員削減を発表している。
現在、米国経済をめぐってエコノミストのなかで不安視されていることは、米国債の「長短金利逆転」(逆イールド)が一一年半ぶりに発生したということだ。昨年一二月に「二年物国債と五年物国債の利回りが逆転」した。それを受けて米連邦準備制度理事会(FRB)は、一月に政策金利の正常化のために一五年から続けてきた追加利上げの休止を表明したのだが、三月になってからも「三カ月物国債と一〇年物国債の利回りが逆転」したのである。米国では一九六〇年代以降の七回の景気後退期にはいずれも逆転現象が発生してきたのである。専門家のなかでは「一九年にも経済が減速して、二〇年には後退局面に入る可能性が高い」という憶測が上がっている。
世界のGDPの半分ほどを占める米中経済の後退は、経済のブロック化・排外主義の強化・戦争と貧困といった深刻な資本主義の新たな危機を作り出すことになるだろう。資本主義の危機を「システム チェンジ」に向かう世界の労働者民衆運動の巨大な一歩に転化しなければならないだろう。 (高松竜二)
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