寄稿
「国際リニアコライダー(ILC)
誘致」にひそむ致命的な危険
A・O(宮城県)
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いま、北上山地に「国際リニアコライダー(ILC)」誘致という計画が浮上している。電子と陽電子を衝突させる実験で、物質の根源と宇宙誕生の謎に迫るというふれ込みだが、実験終了後には「核廃棄物の処分場」にする危惧も浮かび上がっている。現地の仲間に、何が問題なのかについて書いていただいた。(編集部)
全国的にはほとんど知られていないが岩手県と宮城県をまたぐ北上山地に「国際リニアコライダー(以下ILCと略)誘致」の危険が押し寄せている。
「ILC」とは何か
ILCとは
「International 国際 Linear 直線形 Collider 衝突加速器」のことで標高一一〇mの地下に建設する、高さ五・五m・幅一一m・全長三〇q(現在は20qに変更)ものかまぼこ型トンネルの超巨大直線型実験装置のことで、ここで電子と陽電子の衝突実験を行い、ビッグバン直後の状態をつくり物質の根源と宇宙誕生の謎にせまる次世代加速器だとのことである。スイスのセルンのLHC(円形の陽子衝突型加速器)が「ヒッグス粒子」を発見し、次は日本の直線型電子陽電子衝突加速器(ILC)でさらに詳しく、ということだった。
候補地は岩手県奥州市、一関市、宮城県気仙沼市。
前記自治体の説明によると世界各国から学者と技術者とその家族が集まり、人口も一万人くらい増え学都ができる。建設工事(約8000億円)などで雇用も増え地域経済へ大きな波及効果が期待できる。さらに新薬や新素材の開発など、素晴らしいことずくめ。
初めてこのような話を私が聞いたのは二〇一六年の春頃に行われた宮城県気仙沼市による説明会だった。
私がこの説明会を知ったのは地元紙に掲載された小さな広告によってだった。参加者のほとんどが土木建設業、建築、電気工事、水道工事など関係業者で一般の人は少しだったと思う。関係業者には事前に案内が送付されていたと思われた。
物理苦手の私には、宇宙誕生の謎に迫る、と突然言われてもあまりにかけ離れていてチンプンカンプンだった。
それでも二つの疑問が浮かんだ。
トンネルを掘って生まれた巨大な量の残土はどこに捨てられるのか?――新たな自然破壊?
いつかその実験や研究が終わって引き揚げた時、原発の核のゴミ捨て場にならないという保証はない、必ず地元行政は経済的穴埋めのために国の交付金の圧力に抵抗困難な状況になるだろう。
「ILC」実験による危険
だが、それどころじゃないことがわかった。これらについて警報を発する学者や一関市民、平泉町民がいることがわかり、学習会に参加させていただき、学ばせていただいた。そこで知り得たことをもとに以下、箇条書きで報告させていただきます。
1 トンネル内で電子および陽電子を衝突させた場合、放射線や放射性物質が放出されるため、ILC計画は原発の新設にも等しい危険性を持つ
2 ILC候補地の北上高地の岩盤は頑丈で安定的とされるが、その候補地に沿って北上西縁断層帯(活断層)が存在する危険性。もしも巨大地震でトンネルが破損した場合、汚染された放射線(X線、ガンマ線、中性子線など)他が漏れ出る危険性
3 ILCのトンネル工事で発生した巨大な量の残土の処分問題と一〇カ年工期にわたる残土運搬による騒音、ほこり、交通事故、道路の傷みなど生活環境への悪影響と、残土処分地の自然破壊や生態系への悪影響
4 トンネル工事に伴う地下水脈の破断による水流路の改変によって生じる生活水、農業用水や生態系、自然環境への悪影響
5 実験中のトンネル内は超高熱のため冷却が必要となるが、その際に放射能汚染された冷却水と熱風の排水・排熱先の危惧。排水は川を汚染し、飲料、農作物を汚染し最後には海を汚染し、魚介類・海藻を汚染する。また空気中への排熱は放射能汚染された大気を含み、気流の動きに左右されるため、完全に管理することは不可能
6 ILCの実験では、二四時間運転で一六万kwの電力消費が予定され(400万世帯の消費電力に相当)、その供給源として現在停止中の女川原発の再稼働が想定され得る危険
7 ILCの運用終了後、放射能汚染されたトンネル施設が放射性廃棄物(核のゴミ)の処分場に転用されかねぬ危険性。私たちの最も恐れることである。
「もんじゅ」の廃炉決定により六〇〇〇発の原爆を作れるだけのプルトニュームを保有する日本にとってもはやプルトニュームは核のゴミ以外の何物でもない。ある原子力関係の専門家は「ILC実験施設の構造は放射性廃棄物の最終処分場と同じ。そもそも北上山地は地盤の関係でそれに最適の場所だということで以前から目をつけられていた」と言う。
さらに、この工事と運用が終わる三〇〜四〇年後には、福島第一原発や女川原発1号機の廃炉作業がかなり進み核のゴミ捨て場の要求も現実味を帯びてくる。
しかも、ILC推進の日本創生会議座長と、経産省・放射性廃棄物ワーキンググループ委員長は建設省(現国土交通省)出身の増田寛也・元岩手県知事とあっては何をか言わんやである。これについては改めて別項でも触れるつもりである。
8 天災や人災などにより、トンネル内から放射性汚染物質が漏れ出て長期の住民避難が余儀なくされたり、住民の生命や財産が奪われる危険性
9 ILC計画は極めて巨額な総事業費を必要とし(どう見ても1兆円規模で、毎年約500億円の維持費)、他の公的な全学術研究費を極端に圧迫することになる。例えば医学関係の研究予算が極端に阻害された場合、最先端医療や新薬の開発などにブレーキがかかり、国民全般に及ぼす影響は極めて深刻で甚大
10 ILC計画の経済波及効果についてあまりに巨大な事業は地域のバランスを破壊し空洞化しかねない。二〇一一年三月一一日の東日本大震災で津波に襲われた三陸沿岸地域においてその後の復興事業や防潮堤建設工事はある意味巨大プロジェクトであり、多くの労働力がそちらに吸収された。地元被災企業の再建再開の時、建築資材の値上がりと人手不足に見舞われ地場産業の再開は困難を極めた。このようなことがILC誘致によっても必ずおこるだろう。
気仙沼で懸念されること
1 気仙沼の場合、ILCトンネルが最も海岸線に近いことから、アクセス道路整備とからめ、本吉町の海岸線のどこかがトンネル工事の掘削岩石の埋立地(つまり捨て場)となり、漁場や海水浴場に悪影響が生じるリスク。
*気仙沼市には、補償費などの名目で交付金が下付される。これが推進側の常套手段。
*トンネル工事の土石運搬車両による交通障害、事故や自然環境への悪影響のリスク。
2 ILC実験中に発生したトリチウム水などの放射性物質が、場合によっては周囲の人口が少なく海までの距離の短い宮城県気仙沼市の津谷川へ放出されかねないリスク(ILCコース上の岩手県砂鉄川放出は北上川へと繋がるので目立ちやすい)。
3 実験終了後のトンネル施設は、すでに放射能汚染されたILC実験機器ほかが運用、存在すること自体がもはや核処分場化。放射性廃棄物の処分場以外の使い道はなく、その場合、本吉町の港湾は放射性廃棄物の陸揚げ場となるリスク。
*放射性廃棄物の最終処分場の適地は沿岸から約二〇qの圏内とされており、本吉町の港湾施設は絶好の立地。
*さらに青森県六ケ所村再生工場と茨城県東海村の再処理施設から船輸送される高レベル放射性廃棄物(使用済み核燃料、高レベル放射性廃液のガラス固化体)の搬入に好都合な中間地点に位置し、地域住民のリスクは計り知れない。すでに海洋埋め立て等の補償費で麻痺した気仙沼市には、もはや放射性廃棄物搬入のための港湾再整備(むろん交付金が下付)しか選択肢がないことが想定される(原発立地地域の自治体とどうようである)。
問題点一〜七は、高橋龍之(岩手大学元副学長 原子物理学)「地域おこしとILC誘致計画」(2017年7月23日 講演資料)、(株)野村総研「国際リニアコライダーに関する規則・リスク等調査分析」報告書・概要版(2018年3月)、日本学術会議第五回委員会・国際リニアコライダー計画の見直し案に関する検討委員会・同技術検証分科会「国際リニアコライダー計画の見直し案に関する論点メモ」(2018年9月18日)を主に参照。その他二氏から資料提供と助言を受けた。気仙沼の懸念については、そのうちI氏からの資料提供による。
「ILC」をめぐる政治的背景
二〇〇四年、世界の高エネルギー物理学研究者・加速器研究者の代表により構成されるICFA(将来加速器国際委員会)は、超伝導技術に基づく「リニアコライダー」を国際協力により世界に一カ所建設することについて合意した。
このILC計画は、現在欧州のCERN(欧州合同原子核共同機関)で稼働しているLHC(Large Hadron Collider:大型ハドロン衝突型加速器)の次世代器として位置づけられ、当初は全長約三〇q、将来の拡張性を五〇qとし、現在達成可能領域の一兆電子ボルトまでをみこんだものであった。
しかしこの施設の建設には莫大な予算と人材が必要であり世界経済の動向とも絡みなかなか手を挙げる国がなかった。そんな中二〇一二年にCERNでヒッグス粒子が発見されたことから、ICFAは二〇一七年一一月に、ILCはヒッグス粒子の精密測定を初期目的とし全長二〇qに変更するという方針を承認した。
日本においてはかつて福岡県と佐賀県の県境にまたがる背振山地が花崗岩でしっかりした岩盤だということで候補地にあがったが、反対運動によって立ち消えになっていた。
二〇一一年三月一一日の東日本大震災によって東北地方は大打撃を受け、経済は疲弊し被災地の人口減少は加速し、混乱の最中の二〇一一年八月、岩手県東日本大震災津波復興基本計画の参考資料に盛り込まれたのがILCが岩手に登場した最初だったが、密室のまま経過していった。
疲弊した被災地の弱みに付け込むように日本創成会議の第二回提言(2012年7月12日)でILC北上山地誘致が示された。
一方、このようなタイミングを見計らったかのように元岩手県知事の増田寛也氏は「増田レポート」によって「地方消滅」「限界集落」論を打ち上げ、この解決方法として「選択と集中」を提示する。
つまり、限界集落化するという前提を意識づけ、地方消滅への恐れを抱かせ、強力な大規模公共事業を持ち込むことで、むしろ積極的に廃村を進め、経済界に利益を誘導する。
ILCこそ増田氏が提唱する「選択と集中」の具体例であり、超巨大合併自治体の一関市に超巨大公共事業ILCを持ち込むことこそが増田氏の成長モデルと言っても過言ではない。
だが増田寛也氏が建設省(現国交省)出身で日本創成会議座長であるだけでなく経産省・放射性廃棄物ワーキンググループ委員長であることを考えると首都圏から離れた「地方」で未曾有の大災害の東北を復興の名の下に、災害復旧・東京オリンピックに続く一大プロジェクトのILCを持ち込み壮大なストーリーで放射性廃棄物の処分場までの道筋を描いているように見えてしまうのである。
東北の北上山地は九州の背振山地と同じく大きな花崗岩帯であるからだけでなく、汚いもの、核のトイレは「地方」に押し付ければ良いという意識が見え見えで我慢ならないのである。
なお、以下に主なILC推進関連団体を記しておきたい。
*LCB―リニアコライダー国際推進委員会――日本政府に誘致を要請する研究者組織
*KEK 高エネルギー加速器研究機構――研究者組織
*AAA―ILC誘致を推進する先端加速器科学技術推進協議会(会長は三菱重工業特別顧問)――ゼネコン側の推進母体
*建設推進の超党派国会議員連盟 塩谷立幹事長(自民党)
*自民党ILC誘致実現連絡協議会 代表 河村建夫元官房長官
*東北ILC推進協議会
日本学術会議のILC見直し案に関する所見
ILC計画は素粒子物理学分野の国際プロジェクトであることから所管官庁は文科省である。文科省は平成三〇年(2018年)七月二〇日付けで日本学術会議会長宛に「国際リニアコライダーに関する審議について(依頼)」を寄せ、これに対して日本学術会議は二〇一八年一二月一九日、次のように回答した。
(要旨)「……ILC計画を日本に誘致することを日本学術会議として支持するには至らない。政府における、ILCの日本誘致の意思表明に関する判断は慎重になされるべきであると考える」というもので、明確な回答だった。
文科省はこの回答を受け、学術的にはこれに従う方向を示しつつも、最終的判断は政府が決めるとした。この文科省の立場は、文科省の予算の中でのILC誘致については否定的であるが政府による「別枠予算」での誘致はあり得るというニュアンスを残した。
事実、二日後の一二月二一日には岩手県の達増拓也知事、宮城県村井嘉浩知事ほか一関市や気仙沼市等関係自治体などが加盟する東北ILC推進協議会は自民党、文科省、内閣府に対し、国主導での国際協議の開始や、ILCを震災復興、地方創生の柱に位置付けることなどを求める要望活動を行った。
また、ゼネコン側の推進母体であるAAA(会長は三菱重工業特別顧問)などは今年(2019年)一月一八日、「ILC推進産学連携フォーラム」を東京で開くなどし、別枠予算を含む政府の誘致決断を求めた。
本来、日本政府が国際組織であるICFA(将来加速器国際委員会)から求められたILC誘致の是非の意思表示期限は昨年末までだったが、日本学術会議の意向が示されるに及んで、今年の三月七日、日本で開催されるICFAの会議の日までに延期された。
日本学術会議が「ILC誘致支持せず」と回答した現在、政府がこの回答を無視して巨額の資金を要するこの計画を別枠予算で政治決断するとしたら、学術研究とは別のところにその建設意図があるのではないかと考えざるを得ない。われわれが最も危惧するのがそのことだ。それは日本全国どこにも引き受手のない「核のゴミ捨て場」を想定できるものであり、政府が喉から手が出るほど欲しているものである。われわれは断じてこのような可能性を少しでも持つものを受け入れたりしない。
住民運動の現状
岩手・宮城両県や関係市町は一方的にILC誘致のバラ色の夢だけを宣伝し、誘致によるリスクは何一つ市民には知らせてこなかった。岩手県一関市も宮城県気仙沼市も市会議員が全員、各自治体の推進協議会のメンバーになっていることは、議員さえリスクのないバラ色の情報しか与えられず、それに疑問を持つ議員もいなかったということである。共産党を含む全政党がである。と言うよりも、ILC推進側にのせられて、個々人がバラバラに対応し、党として対応しなかったと言うのが事実であろう。
このような状況の中で行政が精力的に動いたのは岩手県であった。ILC予定地の多くが岩手県に位置していることから、岩手県、特に一関市は多くの予算と時間を費やして内部の意思統一を進めていった。宮城県は、それについていったと言うのが事実だろう。
岩手県、一関市、奥州市、宮城県、気仙沼市はスイスのセルンまで視察に行き、ほとんどの市議会議員がつくば大学のILC推進室に行って受けたバラ色の説明を鵜呑みにし、学校教育の現場にまで持ち込み宣伝した。
これらの動きに疑問を持って最初に立ち上がったのはその後「ILC誘致を考える会」に結集する一関市や平泉町の方たちであった。その中には宗教者や、岩手大学関係者、農業者等多彩な顔ぶれだった。彼らは会合を重ね、情報を集め、学習会を組織し、一関市長へ公開質問状をだし、その回答への再質問状をだし、逐一その矛盾点を市民に知らせていった。日本学術会議にも意見書を出し、文科省への回答へは支持表明を送り、文科省へはILC計画の不採用を申し入れた。この時、同会の活動に関わっていた首都大学東京の山下祐介教授にご協力をいただいた。
とはいっても、運動として広がり始めたのは昨年ぐらいからだったと聞いている。
気仙沼でILCに何かしらの問題意識を持っていた私が昨年一〇月「女川原発再稼働の是非を問う県民投票条例制定」(みんなで決める会)の署名集めの会合で「ILCについて、みんなどう思うか」という声を投げかけて、それまでバラバラにILCに疑問を持っていた人たちが集まることになった。議論を重ね、フェイスブックで見つけた「ILC誘致を考える会」(一関市)に連絡をとり、会合や学習会に参加させていただいた。
日本政府がILCを誘致するか否か態度を決めねばならない期日が迫る中、私たちは地元新聞に「投稿」記事を載せ、市民に注意を喚起した。さらに、昨年末の一二月二三日には、ILC実験でトリチューム水が排水される恐れのある岩手県砂鉄川近在の住民主催による学習会(80人参加)にも参加させていただき、資料もいただいてくることができた。帰ってきてから気仙沼でも学習会をやることを年末ギリギリに決め、会の名称を「ILCを考える気仙沼の会」とした。今年一月一八日、短かい準備期間しかとれなかったが「ILC誘致を考える会」メンバーで中尊寺釈尊院住職・岩手大学客員教授の菅野成寛氏を講師に六〇人の参加で開催することができた。参加者の多くは自分たちの身近なところに忍び寄っていた巨大で、致命的な危険に驚いていた。
学習会が終わったその日のうちに次の学習会を、二月二三日(土)気仙沼市本吉町で行うことを決めた。
ILC推進を目論む、政財界、ゼネコン、一部学者、地方自治体幹部は日本学術会議が「支持せず」とした「学術研究」を学術者でない勢力が「別枠予算」を持ってしても実現しようとするのは原発の「核のゴミ捨て場」を確保し、さらなる原発再稼働、原発輸出を推し進める遠望を持っているからにほかならない。
三月七日、日本でILC国際研究者組織の会議が行われる。日本政府はそれまでにILC実験施設を受け入れるかどうかの結論を出さなければならない。どのような結論になろうと、東北・北上山地が狙われていることに変わりはない。われわれは闘いを続けなければならない!
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