もどる

    かけはし2019年2月25日号

G20 トランプ・安倍への怒りで包囲を


地政学的カオスと6月「主要国・地域首脳会議」

サミット警備に名を借りた
治安弾圧強化はね返そう!


正統性も権限もないG20


 世界の「主要国」と称する一九カ国とEUの首脳・閣僚が会合を行う私的なイベントが今年は日本の各地で開催される。G20と呼ばれるこの会合は国連をはじめとする国際機関や国際社会から何らかの委託を受けたものではなく、いかなる意味でも国際社会を代表するものではない(「国際社会」という用語自体の問題点については後述)。単に人口、経済力、軍事力、政治的影響力の点で大きな力を有する国家や地域共同体が自分たちの利害を調整するために開催しているものである。
 G20は一九九九年から、当時のG7(米、英、仏、独、日、伊、加)にEU、ロシア、新興国一一カ国(中国・インド・ブラジル・メキシコ・南アフリカ・オーストラリア・韓国・インドネシア・サウジアラビア・トルコ・アルゼンチン)を加えた二〇カ国・地域の財務大臣・中央銀行総裁会議として開催されている。中国・BRICsの台頭とG8の機能不全の中で、〇八年以降はG20首脳会合(サミット)が開催されることになった。
 一九年は日本が開催国となり、六月二八―二九日に大阪で首脳会合(G20サミット)が開催されるほか、各地で閣僚会議が開催される。公式の会合の日程と開催地は以下の通りである。
五月十一―十二日、農業大臣会合、新潟市
六月八―九日、財務大臣・中央銀行総裁会議、福岡市
六月八―九日、貿易・デジタル経済大臣会合、つくば市
六月一五―一六日、持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合、軽井沢町
六月二八―二九日、首脳会合、大阪市
九月一―二日、労働雇用大臣会合、松山市
十月一九―二〇日、保健大臣会合、岡山市
十月二五―二六日、観光大臣会合、北海道倶知安町
十一月二二―二三日、外務大臣会合、名古屋市
 安倍政権は参議院選挙と改憲のスケジュールを睨みながら、トランプとの緊密な連携と西側同盟の「調整役」としての外交力をアピールする機会としてG20を最大限に活用しようとしている。大阪府政・市政を支配する大阪維新も、サミット開催を万博開催と合わせて、大阪都構想の再浮上の追い風にしようと策している。
 しかし、G20はいかなる正統性も有しておらず、特に米国トランプ政権の登場以降は各国の利害調整さえ不可能になっている。開催国にとっては警備が最大の関心事であり、地元においては日常生活や経済活動に支障をもたらす迷惑イベントでしかない。

トランプ登場でカオス化加速


 〇八―〇九年のリーマン・ショックによる世界資本主義の未曽有の危機を背景に、G7・G8に代って各国の経済政策・通貨政策の調整の役割を付与されたG20は、米国一極支配の終焉・多極化の下での世界経済への主導権・覇権をめぐる攻防の舞台となってきた。〇〇年代において南の諸国を代表して米国やEUが主導する規制緩和・投資の自由のためのルール作りに抵抗してきた中国とBRICs諸国は、〇〇年代末から好調な経済を背景として世界資本主義の救い手として発言力を増してきた。G20体制の中でこれらの新興勢力は米国やEUが主導するルールへの抵抗をやめ、米国やEUと同じ論理とルールに従って地域レベルの覇権を確立しようとしてきた。今ではアジア、アフリカ経済における中国の存在感は米国を圧倒しているし、南米においてさえ中国資本の進出は勢いを増している。世界資本主義の総本山である世界経済会議(ダボス会議)の近年の会合では保護主義に反対してグローバル資本主義の旗を振っているのは中国であり、EU諸国さえ中国との経済関係に大きな期待を寄せている。
 こうしてこの一〇年間の変化は、世界経済の主導権・覇権をめぐる争いの様相を一変させた。この変化が政治や軍事のレベルにおけるバランスにも反映されつつあり、特に米中ロの三カ国の間の政治・軍事的な対立・緊張は急激に増幅・拡大している。G20はこの対立・緊張を抱えたまま、現時点では経済レベルでの調整に役割を限定している。
 一七年七月にドイツ・ハンブルグで開催された首脳会合では、米国の保護主義に対してEUや中国が猛烈に反対し、首脳宣言には「保護主義と引き続き闘う」と明記された。しかし昨年一一―一二月にアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催された首脳会合の首脳宣言では、米中および米・EUの対立激化を背景に、宣言に「保護主義との闘い」を明記できなかった。「各国の経済成長が同時に連動しなくなった」、「金融の脆弱性や地政学上の懸念などいくつかのリスクが顕在化した」という認識が示されたが、「WTO改革」、温暖化対策の「パリ協定」、対外債務問題、タックスヘイブン規制などの具体的な問題をめぐって各国の利害は対立したままである。
 米国一極支配の終焉と新自由主義の行き詰まりを背景とした地政学的カオスは米国のトランプ政権の登場を境に加速し、誰もコントロールできない文字通りのカオスと化している。

「国際社会」からの離脱


 トランプ政権の「米国第一主義」はG20や対中国政策だけでなく、EUとの関係、米日関係を含めて世界の経済秩序を大きく揺るがしている。しかし、そのことよりももっと重大な問題は、国際政治の領域において、米国が国際社会からの一切の制約や批判を無視して行動し、国際社会が直面している気候変動問題、難民問題を始めとする人類的課題への国際的な取り組みにあからさまな敵意を示していることである。気候変動問題への取り組みを合意したパリ協定から一方的に離脱し、イスラエルの極右政権を全面的に擁護し、米国大使館をエルサレムに移転し、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出を一方的に打ち切り、イエメンで数十万人の市民の殺戮を支援しているサウジアラビアの王政を容認し、一九八七年に旧ソ連と結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱し、国内でも難民の家族を引き離し、中米諸国から米国へ向かった難民キャラバンに軍を差し向けてきた。トランプ政権の登場はイスラエルのネタニヤフ、インドのモディなどの極右あるいはファシスト的政権を勢いづけ、ブラジルにおける極右勢力による事実上のクーデター、ベネズエラにおける極右勢力による政権簒奪の試みへのゴーサインとなった。
 われわれは「国際社会」なるものや国際機関の役割について無批判に擁護するわけではない。「国際社会」は多くの場合、西欧的価値観を共有する「先進国」の中産階級を中心とする社会意識と同義として語られており、国際機関はしばしば米国やEUに支配され、歪められている。また米国はトランプ政権以前から、特にネオコンにコントロールされた(子)ブッシュ政権以降、国際社会を無視した行動を繰り返してきている。
 しかし、トランプ政権の登場とともに世界的に極右やナショナリズム、独裁を指向する流れが加速し、同期化していることに十分な注意が必要である。米国の覇権の下で維持されてきた秩序が崩壊し、カオス化した世界の中で新たな覇権構造をめぐる確執が続いている中で、米国が国際機関や国際社会からの離脱を進め、世界的な極右勢力の台頭を助長していることは極めて危険な兆候である。嘘と強弁、ヘイトの扇動が政治の手法として受け入れられる状況は異常であり、民主主義の基盤そのものを脅かしているし、不断に意図的または偶発的な戦争の危険を高める。まさにジョージ・オーウェルの「1984年」の世界であり、ディストピア(反ユートピア)である。

新自由主義の行きづまり

 一七年と一八年のG20は新たな覇権構造をめぐる米・中・ロ・EUの抗争が表面化する中で、経済面での調整に腐心してきた。外務省経済局政策課G20サミット事務局作成の「二〇一九年G20大阪サミット概要」によると、「……上記設立経緯もあり、G20の主要議題は基本的に経済分野。近年、取り上げられた議題は世界経済、貿易・投資、開発、気候・エネルギー、デジタル、雇用、テロ対策、移民・難民問題等」であり、「G20においては、メンバーの多様性ゆえに、G7に比べて合意形成が容易でない面があるものの、新興国に対し、その国際経済に対する影響力に見合った責任ある対応を取るよう働きかけていくことが重要」となっている。
 経済分野の議題はもちろん、新自由主義に沿った規制緩和と投資の自由をベースとしているが、その中でトランプの「米国第一主義」をめぐる中国・EUとの対立はG20の枠組みではなく個別交渉に委ねられている。
 トランプ政権はレーガン政権以来の新自由主義への反発の増大、特にTPPに対する強力な抵抗、一%の富裕層を代表する民主党・クリントン候補への反発を有利に活用することで大統領選挙に勝利した。このことからトランプ政権の反グローバル化の姿勢を評価する人々が少なくない。しかし、トランプ政権の経済政策を支配しているのは金融、軍需産業を中心とするロビイストと一体化したエリートたちであり、トランプの支持基盤は圧倒的に白人ナショナリストたちである。トランプが「米国第一」を掲げて守ろうとしているのはトランプ一族とそれに恭順を示す経済エリートたちの利益であり、恭順を示さない側近やエリートたちは容赦なく攻撃され、排除される。こうしてトランプは共和党の議員団をほぼ掌握した。トランプはWTOやTPPなどの枠組みでは米国の利益がストレートに反映されないことに苛立ち、個別交渉・二国間交渉を通じて行き詰まりを打開するという戦略を採用している。目指しているところは米国が当初WTOやTPPで勝ち取ろうとしていた内容であり、それを協調的な手法ではなく力を背景とした「ディール」(取引)を通じて達成しようとしているのである。
 現下の最大の焦点となっている米中の「貿易戦争」は米国の国際収支赤字と国内産業の空洞化を背景としているが、それ自体は新自由主義の下のグローバル化がもたらしてきた必然的な結果であって、米国企業の多国籍企業としての戦略や金融資本の戦略から考えれば何の問題でもない。事業をグローバルに展開し国内を空洞化させることで利益を得てきたのは米国企業であり、世界の過剰資金を米国に還流させることで巨大な利益を得てきたのは米国の金融機関である。その限りで米国の主張には根拠はない。
 しかしトランプ政権に強力な影響力をもっている防衛産業・防衛ロビーにとって最先端技術をめぐる中国との競争は死活問題であり、また、金融機関・金融ロビーにとっては中国の金融市場の開放は長年の願望である。この問題は中国の習近平体制にとっても譲れない領域である。通商上の摩擦についてはギリギリの妥協が繰り返されるだろうが、米中の対立の構造は当分解消されないだろう。
 習近平体制の下で中国は一帯一路構想を打ち出し、官僚資本主義と共産党独裁に起因する国内の経済構造の歪みをそのままに東南アジア、南アジア、アフリカへ覇権を拡大しつつある。このやり方と論理は古典的な帝国主義と変わらない。われわれは米中貿易戦争においていずれの側を擁護する立場にも立たない。プロレタリア国際主義の立場から各産業の供給チェーンにおける中国と米国の労働者の階級的連帯の可能性に注目し、支援するべきである。東南アジア、南アジア、アフリカにおいては中国資本による搾取・略奪に対する抵抗の拡大は必然であり、われわれはそのような抵抗を支持し、支援するべきである。
 米国とEUの対立も、EUそのもののカオス化の中で大きな不安定要素となり始めている。英国のEU離脱をめぐる騒動は当分収拾不可能であろう。気候変動問題や中東問題をめぐる利害対立は、米国のエネルギー戦略や対ロシア戦略からの独立性を指向するフランス・ドイツの動きとも相まって、西側同盟の部分的な分裂状態を引き起こしている。

民衆のグローバルな連帯を

 六月G20サミットはこのような地政学的カオスの深まりの中で開催される。われわれはカオスの中から新しい時代に向かう確実な流れを可視化していくことが求められている。この間の反原発運動、安保法制反対の運動、沖縄を先頭とする反基地・平和の闘い、反貧困、反差別の運動、TPPやFTAに反対する運動の経験の蓄積の上で、トランプ・安倍に代表される世界的な右傾化、極右ナショナリズムの台頭、民主主義の風化に抗して、民衆のグローバルな連帯のためのさまざまな行動を計画し、広範な共同行動を実現しよう。
昨年のブエノスアイレスでのG20に反対する市民フォーラムとデモには世界各国からの活動家を含めて数万人が参加した。この行動の中心を担ったATTACアルゼンチンの活動家にはマネーロンダリングの容疑(完全なでっち上げ)で不当な捜査とメディアでのフレームアップが行われた。また、サミット開催中の空港や会場周辺の警備にはイスラエルのセキュリティー企業が最新の機器やノウハウを提供している。イスラエルの諜報機関の情報に基づいてイスラム教徒の住民一〇人余が事前拘束された。
G20などの国際的なイベントを利用しながら警察・治安当局、セキュリティー企業の国際的な連携が急激に強化されている。
日本においては、市民運動や労働運動の活動家に対する明らかな治安弾圧が繰り返されており、テロ防止に名を借りた交通規制や不当な情報収集が常態化している。市民運動や労働運動を委縮させ、物理的に妨害し、市民を分断するこうした動きに対して、表現の自由・デモの権利を攻勢的に訴え、反撃していくことが重要である。
大阪ではG20サミット直前の週末に広範な運動団体の共同行動に向けて準備が始まっている。また、NGO・市民団体は市民サミットの開催を準備している。
六月、全国から大阪へ結集し、G20サミットをトランプ・安倍への怒りで包囲しよう!
(小林秀史)



もどる

Back