もどる

    かけはし2019年1月21日号

「アベノミクス」の危機は深まる


抵抗と反撃の闘いを作り出そう

株価乱高下の意味するもの

トランプ政治と危機加速

 年末年初、米国株価の動きに連動して日本の株価も乱高下を繰り返した。好調を続けてきた米経済の動向と米中貿易戦争の影響をベースとしながらも、その要因は様々である。一二月一九日に米連邦準備制度理事会(FRB)が今年四回目となる政策金利を〇・二五%引き上げて年二・二五〜二・五%とし、一九年も二回の引き上げを実施することを発表すると株価は大幅下落した。また米IT大手のアップルが年明け二日に中国市場でのアイフォーンの販売不振に触れて「米中貿易戦争が影響している」と発表するや、株価は再び大幅下落した。
 そうした要因は経済的な側面ばかりではない。トランプの政策がもたらす「混乱リスク」がある。一月から米下院は民主党が多数派になり、トランプ政治はこれまでのようには政策を遂行できなくなっている。ロシア疑惑をはじめとしてトランプへの追及が強まる。シリアからの米軍撤退をめぐってマティス国防長官が辞任したように、政権スタッフが大きく空洞化していること。「国境の壁」問題をめぐって米政府機関の一部が閉鎖されたことなど、上げればきりがないほどである。

破綻したデフレ脱却の狙い


 「デフレからの脱却」を訴えて一二年の一二月に発足した第二次安倍政権は、金融政策・財政政策・成長戦略からなるアベノミクスを推し進めてきた。そしてその最大の柱は「二%のインフレ」を目標に設定して、一三年四月から日銀が国債の大量購入を始めたことだ。日銀は「デフレは貨幣的現象だから、ベースマネー(資金供給量)を増やせば物価は上がる」「ベースマネーを二六〇兆円増やして二倍にすれば、インフレが起こり二%目標は二年ほどで達成できる」と考えた。そして日銀は一三年四月に年間六〇兆円、一四年からは八〇兆円に拡大して国債を大量に買い続けてきた(現在は年間四〇兆円ベース)。また一六年九月には一〇年物国債の金利を〇%に固定した。
 しかし昨年一二月一〇日現在で、日銀が六年間かけて総額四七一兆円もの大量の国債買い入れなどを行ってきたのだが、インフレどころか「デフレからの脱却」はまったく実現できなかったのである。日本の国内総生産(GDP)五四〇兆円に迫るほどのベースマネーを増やしたにもかかわらず、その間の銀行貸付金は一六%しか増加しなかったのであった。またその間の日本の平均実質成長率は年約一%止まりだった。
 それにはいくつかの要因がある。ひとつは超低金利によって企業の資金借り入れコストが低くなったために、企業や小売業が低価格競争を継続できる経済環境が生み出されたことである。また政策金利が下がると家計に行く利子が消えて、逆に企業の借入金利が下がるために所得は家計から企業に流れる。さらに借り入れも中高所得者層に限られてくるために、家計部門でも格差が拡大するのである。日本は米国・EUよりも早い時期から超低金利政策を続けてきた。約一八年間も日本の企業はぬるま湯につかってきたのだ。それはまさにインフレにシフトしない構造になったということだ。
 さらにバブル崩壊やリーマン危機、度重なる大地震や原発事故などの災害を経験してきた企業・個人ともに、将来の危機(ポスト・アベノミクス)に備えて、あるいは不安のために消費を抑えてきたということである。日本の企業は内部留保金をため込んでいる。一二年に三〇四兆円だったのが、一七年には四四六兆円に急増している。また非正規職が四〇%という不安定雇用の増加にともなって、労働者の実質賃金指数は一三年の一〇三・九から一七年には一〇〇・五に下がっている。個人消費も一三年に二九一・六兆円から一七年には二九一・四兆円と横ばいである。

円の大幅な下落

 また、こうした円表示の数字について注意しなければならないことがある。それは第二次安倍政権発足後に円安が加速されて、ドルに対して円の価値が最大で四〇%近く下落したからだ。たとえば日本のGDPをドル建てでみた場合、一二年は六・二兆ドルだったのに対して一六年は四・九兆ドルへと大幅に減少しているのである(約二〇%の減少)。その結果、国民一人当たりのGDPも経済協力開発機構(OECD)内で、一一位から一八位まで下がっている(世界全体では二五位)。
〇八年九月のリーマンショック後、〇九年三月には日経平均株価はバブル後の最安値となる七〇五五円まで下落した。そしてその後も株価は一〇〇〇〇円前後を上下する展開となっていた。しかし第二次安倍政権が発足してから株価は上昇基調を続けて、昨年の一〇月二日にはバブル後の最高値となる二四二七一円を記録した。株価は安倍政権発足時から二・四倍に上昇したのであった。
それにはいくつかの要因があった。ひとつは、リーマンショック後の世界経済の低迷期から、米国などが回復期に入ったことの影響である。そして各国の中央銀行による大規模な金融緩和とマイナスも含むゼロ金利政策によって世界的な「金余り」が拡大していた。二つ目は、東京証券取引所の売買が外国人投資家によって支えられたということである。バブル期の八九年に九%だった外国人による売買金額ベースは一七年には六一%にまで高まり、一方で個人取引は一五%にとどまった。三つ目は、一ドル八〇円から一ドル一二〇円まで円安になったために、輸出企業の収益が伸びたことである。

身動きできない日銀


しかしこれらの要因だけでは、現在の日本経済の実力からしてここまでの株価上昇の説明にならない。株価を支えてきた本当の要因があるはずだ。
その第一の要因は日銀による大規模な金融緩和である。日銀は金融機関などから大量の国債を買い取り続けて、国債価格を下支えしている。しかし超低金利により利ザヤが薄いことと、不良債権を出したくない金融機関は企業・個人への貸し出しを渋った。結局、金融機関は入金した資金の一部でまた国債を購入することになり、大量のお金が一般市場に出ることなく、日銀と大手金融機関の間でくるくると回ることになったのであった。そこで日銀は株価を押し上げるために、年六兆円規模で上場投資信託(ETF)の購入を始めた。日銀はこれまでにETFの七五%を保有することになり、買い入れ総額は二五兆円でそれは株式時価総額の四%に相当する。金融機関もまた、リスクは高いが高利回りが期待できる不動産投資信託(J−REIT)や投資信託などへの投融資を増やしている。
第二の要因は、公的年金の積立金を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)による大量の株購入である。GPIFは一四年一〇月に資産構成割合を変更して、株への運用比率を大幅に高めた。またGPIFは国内の不動産ファンドへの投資も本格化させようとしている。こうして巨額の「公的マネー」が日本の株を購入して株高を下支えしているという構図が浮き彫りになる。まさに株価は政府と日銀が主導する「官製相場」なのである。本来はインフレやバブルを抑制する役割を果たさなければならないはずの中央銀行としての日銀が、「株バブル」を作るという異常な状況が続いてきたのだ。
いまや安倍自身も日銀の黒田も、物価上昇率二%の目標を達成できるとは思っていない。昨年四月二七日に開かれた日銀の金融政策決定会合で示された「経済・物価情勢の展望」では、それまでに六回延長されてきた目標達成時期が初めて削除されたことがそれを物語っている。しかし二%の目標を撤回し量的緩和を終了した場合、「円高と株価下落」を招く恐れがあるために、日銀は身動きができなくなっているのである。

国際的な危機の要因

 米国のFRBは一五年一二月から政策金利の利上げを開始し、金融政策の正常化にかじを切った。。個人消費の伸びに支えられて経済成長率が回復(一八年、二・九%)、二%ほどのインフレ、三%ほどの賃上げ、歴史的な低失業率(一八年、三・九%平均)などがそのための条件を作り出した。
しかしそこにはリスクも併存している。ひとつは「低金利だから株高」という状況が崩れることだ。この間の米株価の乱高下は、投資家がこうした動きに敏感になっていることの表れである。そして米国株の下落は世界同時株安につながることは必至である。二つ目は、低金利政策によってそれまで金利の高い新興国に流れていた資金が、米国に向かって逆流することだ。それが加速した場合、新興国バブルが崩壊して通貨危機と債務不履行が広がり、新たな世界的な危機と混乱を引き起こすことになるだろう。そして三つ目は「トランプリスク」である。その最大のネックとなっているのが米中貿易戦争だが、追加関税措置に対する「かけ込み需要」が拡大したこともあって、その影響がまだ統計的に正しく反映されているわけではない。三月にさらなる追加関税措置が実施されれば、米中ともに経済的な大打撃は避けられないだろう。本来であれば、政策金利を上げればドルが買われて「ドル高」になるのだが、そうならないのはトランプリスクがあるからにほかならない。
欧州中央銀行(ECB)は昨年の一二月一三日に、デフレ解消を目的として一五年三月から始めていた国債の大量購入を一二月末で終了すると発表した。ECBも金融政策の正常化にかじを切ったのである。物価上昇率が六カ月連続で二%を上回ったことが政策転換の根拠とされた。ECBはこれまでに購入した資金は計二兆六〇〇〇億ユーロ(約三二五兆円)で、超緩和の政策金利は一九年夏まで維持する。
EUは東西・南北の域内経済格差を抱え、またそのこととも連動して移民政策などをめぐり民族主義と排外主義が拡大するという問題に加えて、三月の英国のEU離脱問題に直面している。ギリシャ債務危機では、緊縮財政策でギリシャの労働者・市民に一方的に犠牲を転嫁してEU金融機関を救済してきたわけだが、今回のECBの政策転換がどのような結果をもたらすのかは未知数である。

労働者運動の課題

 アベノミクスによる財政政策はどうなったのだろうか。国債残高は一八年度末時点で八八三兆円となり、第二次安倍政権が発足した一二年度末から二〇〇兆円ほど増加した。歳入全体に占める国債依存度は、九九年度から二〇年間連続で三〇%を超える状態が続いている。そのために国債と地方債を合計した日本の債務残高は、GDP比で二三六・六%(一九年度見通し)まで膨れ上がった。主要国では内需拡大のために多額のインフラ投資を続けてきた中国もその割合が二五六%(一七年末)で、この二国が突出している。両国ともに少子高齢化が進むなかで、金融・財政破綻のつけを先送りにしているということだ。
本来は財政が悪化すると、国債は売られたり買い手がつかなくなったりする。そしてそれを防ぐために国債の金利が上昇する。しかし日銀は一〇年物国債の利回りが〇%に近い超低金利政策を続けている。それでも国債が売れるのは、その大半を国内の金融機関などに買い取らせてきたからだ。そしてこの六年間の金融緩和策で日銀自身が国債を大規模購入し、日銀資産を肥大化させたのである。その結果、日銀の国債保有額はGDP比で一〇〇%を超えた(国債保有額はGDP比でFRBが約二〇%、ECBが約四〇%)。金利を上げれば利払いも増加するために、「借金地獄」にはまってきた日本資本主義は「ゼロ金利地獄」からも抜け出せなくなっているのである。
最後にアベノミクスの成長戦略とは何だったのか振り返ってみたい。ざっくりと言ってしまうと、第二次安倍政権は内需の拡大に失敗して、経済成長を外需に依存しようとしてきた。そのためには「円安と株高」を維持することが至上課題となった。そして輸出競争力を維持・拡大するためにはアジアからの移住労働者の大量受け入れと、低賃金の労働環境の継続が必要になったのであった。
現在「人手不足」が叫ばれていて、一八年の平均失業率も二・五%ほどだ。求人倍率は上昇しているが、それは高齢化と人口減少が最大の原因である。月平均の求人数は一三年の二二九万人だったが、一七年にはそれが一七九万人に減少している。また安倍は一二年以降に「就業者は二五〇万人増加した」と自慢しているようだが、その内訳は六五歳以上が二一一万人増加したということだ。また子供の貧困率は一二年の一六・三%から一五年には一三・九%にまで減少しているが、それは低所得の母子家庭の母親の就業率が一二年に三六・九%だったものが、一五年に五四・七%に急増したためである。要するに、働かざるを得ない状況が広がっているということだ。一方では一八年一〇月から生活保護費が引き下げられた。
また成長戦略の柱とされてきた「兆円規模の大穴」であった原発輸出は完全に破綻したと言える。いま決まっていることは七〇歳まで年金支給年齢を引き上げることぐらいだろうが、四月の統一地方選と七月の参院選を前にしてそれを公表するわけにはいかない。考えられるのは一〇月に予定されている消費税増税の延期だ。
アベノミクスは日本資本主義の危機を深化させた。特に内需拡大を狙った金融政策の取り返しのきかない失敗は、致命的だと言える。先延ばしにされた危機は近い将来、爆発的に到来するかもしれない。今後、米中両国の経済減速が始まれば、世界資本主義は新しい危機の時代に突入することになるだろう。労働運動や社会運動の再生を推し進めながら、抵抗と反撃の隊伍を撃ち固めて、ウソとごまかしの政治で民主主義を劣化させてきた安倍政権を打倒しよう。  (高松竜二)



もどる

Back