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浜岡原発で連続する重大事故                 かけはし2001.11.19号より

老朽化した危険な原発を大地震震源域でこれ以上動かすな!


 静岡県浜岡町の中部電力浜岡原発一号炉(沸騰水型軽水炉、出力五十四万キロワット)で、連続して重大な事故が発生した。十一月七日午後五時、緊急炉心冷却装置(ECCS)の高圧注水系の配管(炭素鋼製、内径15センチ、厚さ11ミリ)が、原子炉稼働中の起動試験で突然、破断した。破断した個所は配管がL字型に曲がった部分で、90センチにわたって断裂して大きくまくれ上がった。噴き出した蒸気のために配管は斜めに折れ曲がり、配管を固定する厚さ6ミリの金属製支持板もちぎれて、瞬時にして破断したその衝撃力の大きさを物語っていた。
 高圧注水系の起動試験は原発稼働中に毎月一回、必ず行われている。もし大事故が発生して冷却水が失われ、原子炉が空だき状態になる危険が迫った時、緊急炉心冷却装置が働いて直ちに注水することができなかったとすれば、原発はメルトダウンし、最悪の大惨事がもはや避けられなくなるからである。このいわば「最後の頼みの綱」の配管に高圧の蒸気を送り込んで起動させたとたんに、肉厚11ミリもの配管が爆発的に破断してしまったのだ。
 九一年二月に、関西電力美浜原発二号炉(加圧水型、五十万キロワット)で蒸気発生器細管がギロチン破断し五十五トンもの冷却水が喪失するという重大事故が起き、緊急炉心冷却装置が作動している。九九年七月には、敦賀原発二号炉(加圧水型、百十六万キロワット)でも五十一トンの冷却水喪失事故が発生した。浜岡原発一号炉は、七六年三月に運転を開始してすでに二十五年以上もたつ老朽原発である。複雑に入り組んだ無数の配管のどこにひび割れが生じてもおかしくないし、それが大量の冷却水喪失事故に発展してもおかしくない。そのような事故になった時、それがメルトダウンに至ることを食い止める「最後の頼みの綱」が、起動テストで瞬時にして破壊されてしまったのである。
 破断した配管は九三年から九四年に行われた定期点検時に現在のものと交換された。中部電力が十月三日に行ったテストでは異常はなかった。それが前触れもなくいきなり破断してしまったのである。すなわち、同様の配管はすべて同じように破断する可能性を否定できないということである。
 経済産業省原子力安全・保安院によれば、国内の沸騰水型原発二十八基で同じ炭素鋼の配管が使用されている(しんぶん赤旗11月9日)。ただちにこれらすべての運転を停止し、徹底した点検が行われなければならないはずだ。「同じような配管がある原発は全国にあわせて十五基ある。経済産業省原子力安全・保安院は九日、緊急点検を電力会社に指示した」(朝日新聞11月10日、図参照)。柏崎刈羽など他の沸騰水型炉はなぜか除かれている。なぜ十五基だけなのか。
 これらの配管は国が年に一度義務づけている定期点検の対象とはされていないため、定期点検の際も厚さ五センチもある保温材の上からながめるだけの「検査」しかしていなかった。しかし微細なひび割れが保温材の上から発見できるはずもないし、内部で発生しているひび割れは超音波検査などによらなければ発見することはできない。敦賀二号炉の冷却水喪失事故も、配管が点検項目でなかったために保温材の上からながめるだけの「検査」しか行われておらず、L字型部分に発生したひび割れが広がって冷却水が噴き出し始めるまで、まったく気づくことができなかったのだ。
 それでは原子力安全・保安院の「指示」にもとづいて、電力会社はどのような「緊急点検」を行ったのだろうか。「緊急点検した東北電力は『破断したのと同じ配管部分を点検した。巻かれている保温材を外すことまではせず、水漏れがないか確認した。異常はなかった』」(朝日新聞11月10日)。
 今まで通り上からながめるだけ。これが原子力安全・保安院の「指示」を受けて、電力会社の行った「緊急点検」なのである。この無責任さ。驚くべき危機感のなさ。JCO臨界事故の悲劇の教訓はなんだったのか。このままでは、いつか必ず第二のチェルノブイリが起きるだろう。
 七日の事故から二日後の十一月九日、運転を止めて点検中に今度は原子炉圧力容器底の制御棒駆動機構付近から、放射能を含む炉水が漏出しているのが発見された。圧力容器を駆動機構の「さや管」が貫いている部分で、さや管にひびが入っている、溶接部に亀裂が生じている、などが原因ではないかといわれているが、圧力容器そのものにひびが入っている可能性も否定できない。
 圧力容器にしても制御棒にしても原子炉本体の中枢部分であり、そのひび割れや亀裂、不具合は、最悪の大事故に直結している。制御棒のさや管は内径12・5センチで厚さ12・5ミリのステンレス製。七六年に運転開始してから交換されたことはない。定期点検の際に、さや管からの漏水はチェックされてきたが、ひび割れの有無が検査されたことはない。
 二十五年間にわたり二百度C以上、七十気圧以上の猛烈な高温・高圧で激しく流れる冷却水にさらされ、圧力と振動でひずみができ、腐食し、ひび割れが生ずる「応力腐食割れ」が進行している。さらに超高放射能のために、中性子線にさらされ続けて脆くなる「中性子照射脆化」が進行している。もちろん圧力容器も同様である。浜岡原発一号炉は老朽化し、ボロボロになっているのである。
 中性子照射脆化が進んだ原子炉圧力容器に小さなひび割れが生じていると、冷却水喪失事故で緊急炉心冷却装置から急激に低温の冷却水が大量に注入された場合、圧力容器そのものが一挙に破壊されてしまう可能性がある。これが原子力技術者が最も恐れる「脆性破壊」である(脆性破壊について詳しくは田中三彦『原発はなぜ危険か』岩波新書を参照)。
 ごく小量の炉水が漏れだしていたとしても、運転中は高熱で瞬時に水蒸気になってしまうために発見は困難である。そして制御棒駆動装置のある圧力容器の底は、極めて放射能が強く、作業員は容易に近づくことさえできない場所である。また今回、炉水が漏出した部分は他の機器に覆われて見えにくい場所であった。気がつかないままひび割れが進行し、突然、重大事故が発生する可能性は十分にある。まさに今回、緊急炉心冷却装置の分厚い炭素鋼の配管が突然破断したように。浜岡原発一号炉は八八年にも圧力容器底の制御棒駆動装置付近から炉水が漏れ、一年以上も停止する深刻な事故を起こしている。ボロボロになった浜岡原発一号炉は直ちに廃炉にするしかない。
 これまで原発の耐用年数は「三十年程度」とされてきた。ところが七〇年三月に運転開始した敦賀原発一号炉、同年十一月に運転開始した美浜原発一号炉、七一年三月に運転開始した福島第一原発一号炉をはじめ、すでにその「耐用年数」を過ぎた原発が出だしている。二〇一〇年までには、浜岡一号炉も含め二十基の原発が当初設定された「耐用年数」を過ぎてしまうのである。
 老朽化した原発はいずれもボロボロ化しており、沸騰水型では原子炉圧力容器内の三十トンもある巨大な炉心隔壁(シュラウド)に多数のひび割れが生じて、それを丸ごと取り替えるという大工事が次々に行われている。加圧水型では蒸気発生器細管に多数の応力腐食割れが生じているために、六千本から一万三千本もある蒸気発生器そのものを丸ごと取り替える大工事が次々に行われている。
 何百億円もかけて大規模な修理をした原発をすぐ廃炉にしてはあまりにももったいないので、政府と電力会社は「耐用年数は実は二倍の六十年だった」ということにしてしまった。もちろん科学的根拠はない。「エネ庁の担当者は『とくに根拠のある数字ではない。`えい、やっaで決めたが、電力会社の見解とも期せずして一致した』とあけすけに語る」(東京新聞99年2月23日)。
 しかもこのようにボロボロの原発なのだから、定期点検ぐらい十分にやってもよさそうなものだが、経費を節減して稼動率をあげるために、かつては一回に三ヵ月かけていた定期点検はいまではわずか四十日に短縮されてしまった。「重大事故」とされる深刻な原子力関係の事故は何度も繰り返されてきた。そしてついにJCO臨界事故が発生した。にもかかわらず政府・電力会社・原発推進派はいささかも反省することなく、無責任極まりない態度を続けている。
 浜岡原発一号炉の連続する重大事故は「最後の警告」かもしれない。東海大地震はすでに秒読みの段階に入ったとされている。阪神大震災の最大地震加速度は八〇〇ガルであった。浜岡原発の耐震設計は最大六〇〇ガルに耐えるというものに過ぎない。ボロボロ化した浜岡原発はひとたまりもなく東海大地震で破壊されるだろう。まず浜岡一号炉を直ちに廃炉にすること、そして二号炉、三号炉、四号炉もできる限り早く停止すること、そして全国のすべての原発を停止するプログラムを作ることが求められている。
 すべての原発を止めたとしても、各地の電力を融通し合えばほとんど何の支障もない。停電になる可能性があるのは、盆休みを除く真夏の十日前後だけである。盆休みは工場や事業所の多くが止まっているためすべての原発を止めても十分に電気は足りている。したがって過労死労働をやめて夏期休暇を長くすればいいのである。そして時代は原発や大型火力に依存する時代から燃料電池やマイクロガスタービンなどの分散型発電に急速に向かっている。今や時代遅れの原発、しかもボロボロ化した原発と心中する時代ではない。二十一世紀の早い時期に脱原発を実現するために、まず第一に浜岡原発一号炉の廃炉を要求しよう。 (11月13日 高島義一)

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