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    かけはし2021年1月18日号

2019年の反乱経て攻勢的左翼政治に挑戦


プエルトリコ

新たな社会主義者の隊伍と政党既成システムの麻痺状況に介入

民主主義的社会主義者(PR)


植民地的制約下の政治可能性

 社会主義的視点からプエルトリコの選挙問題を議論しようとするならば、プエルトリコにおける選挙プロセスの限界を指摘することから始めなければならない。重要なことは、植民地的な地位によって、広範な制約が国家政策の作成に課せられているのを認識することである。この制約は、プエルトリコ政府の財政政策を監督する、連邦政府が設立した財政監視・管理委員会のもとでより強くなっている。
 われわれはまた、こうした限界を認識しながら、選挙政治と選挙プロセスには大きな関心が寄せられていること、そして労働者階級の大多数の生活に影響を与えている法律がプエルトリコ議会で議論され、採決されていることを認識しなければならない。さらに、植民地的に課せられたものの重要な部分(たとえば、財政監視・管理委員会それ自体や委員会による緊縮策)は、プエルトリコの政治を支配してきた政党によって可能となっている。そして、それは既存の植民地的な地位が許容する唯一の代表制政治空間では問題とされてこなかった。われわれは、疑う余地なく、選挙プロセスに無関心でいるわけにはいかない。それゆえ、それは、社会主義者がその時期だと考えれば、国民のかなりの部分に手が届きそうな空間に介入できる闘争の場である。以下では、民主主義的社会主義者(PR)[訳注:第4インターナショナルと連携する左翼グループ]が2020年の選挙で「市民の勝利運動」への投票を呼びかけることを選んだ理由を説明しよう。

経済的・構造的危機深化を前に


 現在のプエルトリコの歴史的状況は、2006年に始まった深刻な経済的・構造的危機の状況である。この崩壊は、既存の自治領としての地位とその弱体な経済基盤の危機を表現するものであり、伝統的な与党である人民民主党(PPD)と新進歩党(PNP)(訳注1)の危機をも招いてきた。両党の間に相違点があるのは事実だが、同じ利害と同じイデオロギーを代表していると言うことができる。両党は1980年代後半以降、新自由主義的資本主義の政策、すなわち市場を優先する政策、民営化、公的機構のリストラ、経済における国家介入の縮小を内面化し、代表してきた。
プエルトリコにおけるこの新自由主義的プロセスは、世界的な資本主義の再編成の一部である。民営化と労働・社会的権利排除のプロセスは、プエルトリコに限られたものではない。しかし、プエルトリコの植民地的状況がそれを深刻化させている。アメリカやヨーロッパが風邪をひくと、貧しく、搾取され、植民地化された国々は肺炎にかかるのだ。
 新自由主義をイデオロギー的な根拠として、国内の重要なサービスは民営化され、3万人以上の公務員が解雇され、支配層は労働者階級が獲得した権利に対して大きな打撃を与えてきた。これらすべては、経済を再生させるためではなく、むしろ諸勢力の相関関係の中で労働者階級を弱体化させ、圧倒的な方法で資本とその利益を有利にするためなのである。
 新自由主義モデルは、プエルトリコの危機を深化させた。それは、一部の企業の利益が増大し、大多数の人々の貧困化が加速することを意味する。プエルトリコの大多数の人々が、危機の結果として生じる矛盾に気づかなかったわけではない。年々、2大政党は支持を失い、票を失い、党員を失っている。この意味では、選挙に参加するがそれには制約されないオルタナティブな運動、つまり新自由主義的イデオロギーに反対し、街頭での闘争を促すことに自らを位置づける運動のための空間がある。したがって、選挙プロセスに効果的な社会主義的介入をおこなう可能性がある。
 しかし、選挙への社会主義的介入とは何を意味するのだろうか? この問いには、前後の状況を無視して答えることはできない。プエルトリコの歴史のさまざまな時期に、社会主義政党や社会主義を宣言する政党が存在してきた。たとえば、20世紀前半の社会党や、2--度も選挙プロセスに参加したプエルトリコ社会党がそうである(それらの歴史や活動は選挙という領域にとどまるものではなかったが)。ある時点では、プエルトリコ独立党も社会主義的言説を採用していた。社会主義的言説は、プエルトリコの選挙政治にとって新しい現象ではない。
 過渡的綱領の必要性は、民主主義的社会主義(PR)の綱領的原則の中に含まれている。
 「われわれは、既存社会の改良、あるいは抽象的な革命的言辞のどちらにも我慢することはできない。大多数の人々は、既存社会に疑問を持ち、経験と自らの実践を通して、既存の社会を変革する能力を発見するようになる。そのような経験を導くためには、過渡的綱領を作成し、広めなければならない。それは、大多数の人々が現在の意識レベルでアクセス可能でなければならないが、資本主義が自らの良く生きたいとの思いにもたらす限界を発見できるものでなければならない」。
 大多数を動員できない中で、資本主義国家打倒に賛成だと叫んでも、ほとんど役に立たない。しかし、改革派の立場に陥ることはさらに危険である。社会のわずかな変化に満足してしまうからである。ここに、社会主義組織と過渡的綱領の重要性がある。過渡的綱領は、常に革命的目標を羅針盤としながら、明確に述べられ、推進されなければならない。

選挙ボイコットか選挙参加か


 選挙ボイコットを選択する人々がいることはわかっている。選挙ボイコットは不満の集団的表現であり、2大政党と彼らが推進する新自由主義政策に対する拒絶であるのだろう。それはまた、全体としての植民地政府機構に対する拒絶でもあるだろう。
 しかし、革命家としてのわれわれの目標は、既存の制度に対する拒絶を記録に残すことではない。われわれの目標は、こうした制度に疑問を呈し、拒否するために、これまで以上に幅広い部門を引き付けることである。
 レーニンが提起したように、われわれがこれらの制度をより民主的なものに置き換えることができない限り、われわれは、自らの考えと綱領を提示し、促進し、普及させるために、こうした制度を利用しなければならない。わが人民のかなりの部分、とりわけ労働者のかなりの部分が、何らかの形で選挙プロセスに参加している。それゆえ、選挙はわれわれが提案を示す場でもあり、社会主義者を公選職に選出することが目的でなければならない。選出された社会主義者は、議会外の闘争と常に接触することで社会主義プロジェクトに寄与することができる。
 われわれは、ボイコットするのではなく、選挙に参加することが現時点でもっとも適切な参加の形態であると考えている。われわれは、プエルトリコにおける選挙ボイコット・キャンペーンは効果がなかったことを付け加えよう。ボイコットには真の組織化工作が必要である。いままでに大規模なボイコット・キャンペーンが組織されたことはほとんどなかった。多くの場合、ボイコットは投票日における個人的行動になってしまう。2020年の選挙がそうはならないことを示すものは何もない。したがって、この状況でのボイコットの余地は限られたものである。したがって、それは選択肢としては破棄される。

PIPの限界はすでに明白

 われわれは独立と社会主義を支持している。新たな社会主義組織として、われわれは、われわれの一般宣言に賛同し、規範にしたがって組織する意思のある人々を受け入れようとしている。しかし、現在、プエルトリコでは、幅広い層の人々が、ブルジョアジーの伝統的な政党(PPDとPNP)を見捨てつつある。彼らは両政党に対する信頼、敬意、忠誠心を失っている。彼らはこうした政党のスタイルや政策の多くに疑問を抱いている。多くは、環境保護、医療・教育の権利、およびその他の問題について、進歩的な立場をとっているか、または共感を寄せている。彼らはオープンで、新しい政治的オルタナティブを探している。
しかし、現時点では、大多数は社会主義者あるいは独立賛成派の組織には加わらないだろう。われわれの考えを広めるためには、こうした人々とともに、選挙展望や明確に定義された綱領を持ち、労働者人民とかかわって、あらゆる形態の抑圧との闘争、環境保護、脱植民地化にとりくむ新たな政治運動を作る意思があることを率直に、公然と、誠実に表明しなければならない。そのような運動を構築すれば、わが人民の政治的発展における素晴らしい前進の一歩となるだろう。
私たちは、プエルトリコ独立党(PIP)(訳注2)が多くの優れた候補者を擁していることを知っている。さらに、PIPの綱領には、われわれが推進すべきであると考える提案と重なる点が多くある。彼らは、二大政党と新自由主義政策に対する拒絶を示している。われわれは、進歩的で社会主義的な人々が、正当な理由をもって、PIPとその候補者を支持する理由を理解している。PIPは、選挙プロセスにおいて、独立という視点を代表する上で信用できる重要な役割を果たしている。独立を支持する者として、われわれはこのことを認識している。
しかし、PIPはその閉鎖的でしばしばセクト的な政策のために、プエルトリコにおける独立運動の多数派を組み込むことができなかった。さらに重要なことに、PIPは、ますます多くの人々がPPDやPNPを見捨てつつある中で、そうした人々を魅きつける力をほとんど持っていないのである。そうした人々は、新たな選択肢を求めてはいるが、現時点では独立賛成派ではないからである。
ここ数回の選挙で、この歴史を持つ政党は、知事候補者が受けた支持を通じては、選挙における登録権を維持することができなかった。しかし、何人かの議会候補者を当選させることにたいていは成功してきた。2020年[の選挙]では、せいぜいのところ上院議員1人と下院議員1人を当選させることができるだけだろう。われわれは、これは達成できると信じており、それを望んでもいる。しかし、これだけではプエルトリコの政治状況を変えるには十分ではない。

MVC通じ新たな運動の創造へ

民主主義的社会主義者(PR)活動家のほとんどは、PR結成前から、2010年の「労働者人民党」(PPT)(訳注3)結成を支持し、2012年と2016年の選挙では、この党に参加し、この党を支持するよう人々に呼びかけていた。PPTは、選挙に参加する一方で、選挙に限定されない幅広い政治運動として機能した。PPTは、「街頭で、投票所で」というスローガンのもと、労働者階級の意識・意欲・闘争、フェミニストやLGBT+の闘争、環境保護の闘いなどを推進する綱領を採択した。PPTは、革命政党ではなく、実質的には過渡的綱領に立脚した進歩政党だった。しかし、2回の選挙を経て、多くの重要な問題について大衆的議論に貢献したものの、2大政党と新自由主義政策に対する現実的で増大している不満のかなりの部分をまとめることができなかったことは明らかだった。選挙結果は、一方では革命的左翼の広い意味での社会的孤立を反映したものであり、他方では投票の「有用性」や「よりましな悪」といった要因が決定的なものとなる選挙戦特有の論理を反映したものでもあった。
こうした限界を認識し、一連の議論と集会を経て、PPTはさまざまなセクターや個人とともに、同様の綱領を持つ、より広範で新たな運動の創造を追求する決定をおこなった。このプロセスはいくつかの段階を経て、名称を変え、いくつかのグループや組織の参加と脱退があったが、最終的には「市民の勝利運動」(MVC)(訳注4)の結成につながった。
MVCには、「緊急アジェンダ」として知られる最小限綱領にもとづいて結集してきた、さまざまな視点、傾向、闘争の経験を持つ人々が含まれていた。「緊急アジェンダ」は、政府綱領としてはまだ展開されていないが、PPTの綱領の基本的な考え方と一致している。
このアジェンダの項目の一部は以下のようなものである。
?PNP・PPD政府と財政監視・管理委員会が推進する緊縮政策に反対する/財政監視・管理委員会とプエルトリコ監視・管理・経済安定化法(PROMESA)と闘う
?プエルトリコの債務監査と帳消しのために闘う
?年金を防衛する
?プエルトリコ大学と公立学校システムの予算を防衛する
?アグロエコロジーの発展を含めた持続可能な経済発展のために闘う
?教育・エネルギー生産などの基幹サービスの民営化を阻止し、再公営化させる
?再生可能エネルギーへとただちに移行する
?「ポストのたらい回し」禁止、免責との闘い、政治運動への私的資金提供の排除などによって汚職と正面から闘う
?政治システムを民主化するような選挙制度改革を推進する(第2ラウンド、比例制度、選挙同盟の認可など)
?公的部門・民間部門の両方で、労働者階級の権利を回復・拡大する労働改革を実施する
?公的部門・民間部門の両方で、労働者の組織化を推進する
?憲法上の地位制定議会のメカニズムを通じて、透明性、拘束力、公平性のある真の脱植民地化のプロセスを展開する。

不均一さと幅広さの活用が重要


この綱領の二重の側面を強調する価値がある。それは、われわれが独立賛成派や社会主義派を超えた幅広い分野の人々の支持を求めることを可能にすると同時に、プエルトリコにおける支配的政策に対する根本的な挑戦を構成しているという点である。この綱領を普及させ、実行すれば、われわれの政治的発展においてすばらしい前進の一歩を踏み出すことになるだろう。たとえば、プエルトリコ人民によって連邦監視・財政管理委員会への資金提供を終了させることを提案する緊急アジェンダの規定を実行に移せば、財政監視・管理委員会とプエルトリコ監視・管理・経済安定化法との対決を意味するだろう。
この意味では、新自由主義的な政策に反対する綱領のもとで相当数の人々をひきつけ、腐敗した植民地的な2大政党制に明確な打撃を与えることができるような選択肢が今回の選挙では他にないことを考えると、選挙分野では「市民の勝利運動」がプエルトリコの政治の現状に挑戦する能力を持ったプロジェクトであるとわれわれは考えている。
われわれは、この運動の課題と弱点を認識している。それは、組織として、本来は参加すべきプエルトリコにおけるさまざまな闘争に参加できていない(もっとも進歩的な活動家が参加していることを否定するものではないが、その多くはすでによく知られた人物である)。他方で、それは不均質な運動である。緊急アジェンダにもかかわらず、その中では、まったく異なる、ときには矛盾したイデオロギー的なビジョンが共存している。しかし、その不均一さと幅の広さは長所でもある。「市民の勝利運動」には、実績と戦闘性が認められた候補者が多く、既存社会との闘争と挑戦という正しい道筋を歩んでいる若者や政治に新しくかかわった人々も多い。どの選挙区においても、進歩的な人々が確認できる。彼らは、新自由主義政治に挑戦する能力を持ち、力関係の変化を好ましいとする抵抗運動の発展に寄与している。われわれは社会主義者として、自らの考えを放棄することも押し付けることもなく、こうした人々とのつながりを強めることが重要であると考える。
これらすべての理由から、民主主義的社会主義者(PR)は、2020年の選挙で「市民の勝利運動」を支持することに賛成した。われわれはその限界を認識しながら、「市民の勝利運動」が現時点では、われわれの考え方を推進し、さまざまな背景を持つ人々とともに、2大政党と新自由主義を拒否することを可能にする最適のプロジェクトであることを理解している。それは、われわれの綱領や考え方を前進させ、さまざまな人々と接触し、われわれの声を聞いてもらい、われわれの候補者を宣伝することができる空間なのである。
われわれはすべての人々に、運動を強化し、MVC緊急アジェンダに概説されている原則を守るために、MVC地域委員会やテーマ別ネットワーク(たとえば、MVCディアスポラ・ネットワーク民衆グループ)に参加することを呼びかける。
2020年11月17日

(訳注1)プエルトリコは、1898年の米西戦争によって、アメリカの植民地となった。1952年、アメリカは国連による「植民地」の指定を避けるために、プエルトリコを「自治連邦区」という地位にしたが、その植民地的性格は変わっていない。プエルトリコ人はアメリカ市民権を持つが、大統領の投票権を持たない。人民民主党は地位問題を棚上げして自治拡大と生活条件改善を目指す一方で、新進歩党はプエルトリコをアメリカの51番目の州に昇格させることを目標としている。
(訳注2)プエルトリコ独立党は、1964年に結成され、プエルトリコ独立を目指している。社会主義インターナショナル加盟の社会民主主義政党。2020年選挙では、知事選挙で13・7%の得票を得るとともに、上下院で一議席ずつを獲得した。
(訳注3)労働者人民党は、2012年と2016年の総選挙で、ラファエル・バーナビーを知事候補として擁立したが、それぞれ〇・98%と0・34%の得票にとどまった。上下院選挙でも議席を得るには至らなかった。
(訳注4)「市民の勝利運動」は2019年に結成され、2020年選挙では知事選挙で14・2%の得票を得るとともに、上下院で2議席ずつを獲得した。上院当選者の1人はラファエル・バーナビーである。
(民主主義的社会主義者(PR)は、第4インターナショナルと連携するプエルトリコの政治組織)
(『インターナショナル・ビューポイント』11月18日)

 



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