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    かけはし2021年1月1日号

STOP!2021年東京オリ・パラ


「祝賀資本主義」に異議あり!

資本のための「祭典」に終止符を

世界の人びと共に批判の訴えを

ウイルスに勝った証?

  福島県楢葉町のJヴィレッジからスタートする予定だった「聖火リレー」の2日前の3月24日に延期が発表された東京オリンピック・パラリンピック。菅義偉は首相就任後すぐにリモート開催された9月26日の国連総会の一般討論演説の締めくくりで「人類が疫病に打ち勝った証として、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催する決意です」という日本型祝賀資本主義によって書かれた台本を読み上げた。11月16日には来日した国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長に対して、そして新型コロナの第3波が本格的に全国的に拡大しつつある12月4日にリモート開催された国連新型コロナ特別総会においても「人類がウイルスに打ち勝った証し」という定型のセリフを繰り返し、2021年夏の開催に固執する日本型祝賀資本主義の末期的症状を余すことなく暴露した。

「祝賀資本主義」の現実


 コロナ禍における東京オリパラ開催という選択に象徴される日本型祝賀資本主義の犯罪性は、招致が決まった2013年9月のIOC総会における安倍晋三による「状況はコントロールされています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません」というスピーチでも余すことなく表現された。
 これは「汚染水による影響は福島第一原発の港湾内の0・3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされています」という総会での質問への答えで吐かれた嘘(港湾外の海水から放射性ストロンチウムSr90が検出されていることを4カ月後に発表)というだけでなく、当時まだ大震災と津波の自然災害、そして原発事故という放射能災害の直接の被害に苦しめられていた被災地の人々を切り捨て、開催地・帝都東京の安全のみをアピールする日本型祝賀資本主義の本音であり真実の姿である。「国体護持」つまり天皇制資本主義の帝都東京を守るためだけに降伏を先送りし沖縄、広島、長崎の民衆に戦後も続く塗炭の苦しみをあたえることを選択した支配階級による「御聖断」と同じ階級的犯罪である。

オリ・パラの醜い姿


巧みにナショナリズムや絆主義に演出されたグローバル企業の広告イベント「聖火」リレーに象徴されるオリンピック、そして近年では「感動ポルノ」としての商業的価値をより高めつつあるパラリンピックは、飽くなき利潤を求めて巨大化し、それ自身の危機の外皮にぶち当たる資本の論理と同じように、巨額の財政支出、つまり一層の大衆収奪によってしか、その危機を乗り切れなくなっている。そして2016年のブラジル・リオでの開催でも明らかなように、危機の中で開催したオリンピックがもたらしたのは社会的混乱、気候危機を嘲笑する極右ポピュリスト政権の台頭、そしてコロナ感染の危機的蔓延である。

巨額の税金使って


 東京オリ・パラの開催予算はこれまで1兆3500億円と言われてきたが、延期・コロナ対策で約2940億円の追加費用が必要と言われている。それら公式予算とは別に東京都が計上する8100億円の五輪開催関連経費、19年末に会計検査院が指摘した13〜18年度までに執行された約1億の五輪関連支出を合わせると3兆円を超える。
 開催延期で懸念されていたスポンサー契約(19年末で3940億円を計上)の延長でも、日銀緩和マネーによる巨額の増資にこぎつけた日本航空(JAL)や全日空(ANA)をはじめ、成田国際空港株式会社(NAA)、NECやJR東日本など、オリパラビジネスに生死を賭ける日本祝賀資本主義を支える企業グループは合計200億円の追加協賛費を表明している。
 3兆円の開催費用からすると焼石に水だが、労働者と自然環境からの搾取によって企業の内部留保が昨年まで8年連続過去最高の475兆円に上る日本の総資本にとって、200億円の追加協賛費は少なくとも21年3月に懲りずに目論まれている聖火リレーのJヴィレッジスタートまでの結論引き延ばしのための必要経費といえる。

「コロナ対策」に背反


 だがそれは原発災害や基地被害、コロナ感染やコロナ不況に苦しむ労働者民衆にとっての必要経費ではない。本来、充実した補償に充てられるべき資金が、オリパラ開催の強行に象徴される新自由主義の破綻的進化形態である日本型祝賀資本主義の「護持」のために投じられようとしている。このような階級的、国家的犯罪が社会不安を拡大し、それによる支配階級内部の分裂をあらかじめ抑えるため、9月から月2回のハイペースで行われている「東京オリンピック・パラリンピック競技大会における新型コロナ感染症対策調整会議」は、95年の国松孝次警察庁長官狙撃事件の際に警察庁警備局長を務めた公安畑上がりの杉田和博官房副長官が議長を務めている。
 12月初めに中間整理の報告がだされたが、そこでは国の責任で「組織委員会感染症対策センター」の設置が謳われている。しかし限られたリソースのなかでオリパラのコロナ対策にあたる医療従事者や施設を保障することは、それらのリソースを地域医療から奪うことと同義である。
 報告書には感染拡大による中止の判断基準など、中止にむけたプランBが一切示されていない。つまりリスク管理としては使い物にならないリスクだらけの議論がなされている。

大もうけの機会


 かりに開催するにしても、21年夏の開催をコロナ対策や「聖火」リレーを含む各県の支出を含めるとさらに費用は膨らむ。20年度の新規国債発行も、これまで最大だったリーマン直後の09年度52兆円の倍の112兆円となる見込みだ。オリ・パラ後には必ず不景気がやってくる。
 加えてコロナ恐慌の振動が足元を揺さぶるなか、日銀が史上最大の国債発行を引き受け、リスク資産の購入によって東証最大の株式投資家となることで、日本発のコロナ恐慌を避けたいという支配階級の思惑がある。世界中の中央銀行が緩和政策をさらに加速させているが、毎日150万人以上が感染し、1万2千人以上が死亡するコロナ禍の世界で29年ぶりの最高値をつけた日経平均株価や史上最高値を記録したNYダウ平均株価は、多国籍製薬企業による安全を無視したワクチン開発競争に日本をはじめ世界各国の政府が惜しげもなく購入契約し、企業の補償責任を回避する法律改悪(日本では12月2日に予防接種改正法が成立)などの支援を続けるなかで繰り広げられる一連の緩和バブルによる「人類がコロナでカネ儲けする証し」でもある。

中止しかない!


 グローバルな視点で見れば、世界でコロナ禍が拡大するなかで東京オリ・パラを強行することは、新自由主義によって脆弱化させられてきた「南」の諸国における公的医療衛生サービスにさらなる負担を押し付けるだけである。
 国際オリンピック委員会(IOC)や日本の組織委員会は、一部の「南」の諸国におけるオリンピックにかかわる検疫体制の支援を表明しているだけであり、コロナ検疫に関する公的衛生医療サービスには当然ながら関知もしない。ただでさえ脆弱な公的医療衛生システムがオリ・パラ参加を強行する「南」の諸国の政府によっていっそう脆弱になりかねない。
 日本など「先進国」やこのかんでは中国による支援表明もさらなる債務支配の強化につながりかねない。支援の前提として既存の債務の帳消しや債務の市民監査、それらをふくむ南の諸国の民衆自身による債務の管理システムがなければ、債務と犠牲が民衆に押し付けられるこれまでの歴史を繰り返すだけだろう。
 少なくともコロナ禍においてグローバル資本主義のスポーツ・ビジネスのメガ・イベントである東京オリ・パラの開催を中止させることは、福島や沖縄をはじめ、地域の民衆の自己決定権をかかげて中央政府の横暴にあらがう人々を鼓舞するにとどまらず、22年の北京冬季、24年パリ、28年ロスなどの五輪開催予定地で声を上げる人々、そして資本主義によるコロナ感染と気候危機の影響を最も受けるであろうグローバルサウスの労働者、農民、先住民、女性たちなど「99%の人類が1%の支配者に勝利した証し」として、階級闘争という人類の歴史に刻まれる1ページとなるだろう。オリンピック・パラリンピックの即時中止を!
(早野 一)



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