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    かけはし2018年12月3日号

左翼は草の根の活動に戻らなければならない


ブラジル

MST指導者へのインタビュー

労働者階級と民衆の組織化こそ
実生活問題解決し力関係変える


 「土地なき労働者運動」(MST)全国調整機関のジョアオ・ペドロ・ステディレは、ブラジル大統領選決選投票におけるジャイル・ボルソナロの勝利直後に行われたブラジルのラジオ局であるブラジル・デ・ファトによるインタビューの中で、ボルソナロ勝利後に求められる左翼の次の歩みについて語った。彼は、「われわれはこのプロセスに、より密接なつながり、さらにこの公然としたファシスト的攻撃に抵抗する組織化能力と強さを残した」と語り、敗北はしたが、この二、三週間にある種強力な統一が発展したという展開を通じて、進歩勢力は政治的に勝利した、と指摘した。彼の見解では、二〇一九年一月一日に発足する予定のボルソナロの政権は、そのファシスト的性格の点でチリのピノチェト体制に似たものになるだろう。

左翼は政治的勝利を印した


――MSTが支持したフェルナンド・アダジ候補に投じられた四六〇〇万票以上について、あなたが言えることは何ですか?

 われわれは今も熱気がこもる時期にいる〔結果判明後の:IV注〕。だから第一にまた何よりも、冷静さを保ち、階級闘争の流れを理解しなければならない。そしてこの結果に敗北感を感じてはならない。投票箱はボルソナロに正統性を与えているかもしれないが、しかしそれは、彼が民衆多数の支持を得た、ということを意味しているわけではない。何よりも高い水準の棄権、すなわち三一〇〇万人〔有権者〕の棄権がある。そしてアダジは四五〇〇万票を獲得した。ボルソナロに票を投じなかったブラジル人は七六〇〇万人もいるのだ。
それゆえブラジル社会は分裂している。選挙結果ですら、私が選挙前の世論調査から理解できたことをはじめとして、アダジの政綱を支持している人々が所得の低い人々、最低賃金の二倍から五倍の人々、教育水準が低い人々であることをはっきり示していた。そして明らかに、富裕層と資産を多くもつ者たちがボルソナロに投票した。
しかしこの選挙ではまた、地域間にもはっきりした違いがある。われわれが選出された知事の地図をよく見れば、パラ州〔北部〕からエスピリト・サントのレナト・カサグランデ〔東南部〕まで、勝利した進歩的な候補者一二人〔二七州のうち〕が民衆の諸組織を支援している。地域の点では、北東部とアマゾン全地域は抵抗の軸になっている。そしてそれは、そこの人々がボルソナロのファシズム的構想の道に従うことなど望んでいない、ということを明確に示している。
結論的に、短評として全員が語っていることだが、選挙結果はさておき、最終週は左翼と民衆運動の政治的勝利を固めた。われわれは、あらゆる組織的勢力、労組、知識人、学生、大学による、数知れないデモを実現した。
ブラジルの歴史上、全土で、三六〇の都市で、五〇万人以上の女性が「彼はダメ」、「ファシズム反対」と声に出し街頭を埋めたのは、これまで一度もなかった。したがってわたしは、政治的敗北はない、とする分析を信じる。われわれは選挙では敗北を喫した。しかし、われわれはこのプロセスに、より密接なつながり、さらに公然としたファシスト的攻撃に抵抗する組織化能力と強さを残した。

ファシスト的政府待つ巨大矛盾


――ボルソナロのホラはいろいろあるが、われわれは諸制度には限界があることを知っている。彼はこれまで、MSTとMTST〔家なき労働者運動〕をテロリスト組織に指定するつもりだ、と語ってきた。あなたはこれを現実的可能性と見ますか?

 私の考えでは、われわれが一つの比較をする場合、ボルソナロの政権はチリのピノチェト体制に似たものになるだろう。それは、権力に到達するやり方ではなく、そのファシスト的性格が理由だ。それは、絶え間なく抑圧、脅迫、脅しを利用する政府になるだろう。それは、この社会に存在している反動的な諸勢力を解き放つだろう。他方で彼らは、新自由主義的計画の中で、資本に完璧な自由を与えようとするだろう。しかしながらその処方は実現不可能であり、それは社会に結合を与えず、民衆の基本的問題も解決しない。
ブラジルは深刻な経済危機を通過中であり、それこそが今回の全過程の根源だ。二〇一二年以来、この国は成長していない。そして成長がない中で、新たな富の生産がない中で、社会的、経済的、さらに環境の諸問題が深刻化している。
彼は、そこで資本の利益のみを支持している彼の超新自由主義綱領に基づいて、銀行を助け、銀行に利益を上げ続けさせ、われわれがここでもっているものの中で残っているものを多国籍企業がハイジャックするのを助けるかもしれない。しかし彼らが人々の現実の諸問題を、雇用、所得、労働者の権利、年金、農地、住宅といった点で、解決しない以上、それは諸矛盾をひどくするだろう。
それは社会的カオスに導くだろう。そしてそのカオスは、民衆の諸運動が大衆的決起をテコに攻勢路線に戻ることを可能にするだろう。さらに、本当のところわれわれを守ることになるものは、憲法に今あるもの――彼はそれを大して尊重しないだろう――に加えて、人々を結集する能力、諸権利の防衛や生活条件改善のために人々と共に闘いを維持する能力なのだ。そして人々の諸決起は、われわれの活動家と指導者を守るだろう。
怯えないようにしよう。彼らが抱えることになる諸矛盾は、責任を問われることなく抑圧を行使する可能性よりもはるかに大きくなるだろう。

左翼と民衆運動の統一を課題に


――選挙に関わる闘争がもう一つあるが、それは選挙プロセスが始まって以来、後回しにされてきた。すなわち、ルラ元大統領の違法かつ不公正な投獄という問題だ。この別の戦場に対する民衆的運動の見通しはどうですか?

 われわれは、資本の利害に完全にへつらっている司法システムを通して、ルラが資本によって拉致されたという、起こったことすべてを見てきた。彼は違法に投獄された。憲法に規定されていることとして、裁判の間自由を保持している他の数多い者たち――政治家だけではなく、普通の市民たちも――がいる。ちなみに憲法は、ある者の投獄を、彼らへの宣告がもはや控訴不可能になった後にのみ可能にしている。
ルラの場合、高裁の裁判が今なお未決であり、その後には最高裁の審理がある。それでも彼らは、彼が候補者として登録された時大統領への立候補を認めなかった。他の一四〇〇人の候補者はルラと同じ条件でも立候補できた。しかし彼は立候補を禁じられ、最終的に彼らは彼が発言する〔メディアを通じて〕ことも禁じた。その一方、あらゆる通常の犯罪者〔獄中の〕はインタビューでグロボ〔ブラジル最大のメディア複合企業体〕に答えることが可能だ。しかし彼らは、ルラが民衆に向けて語ることを禁じたのだ。
彼らは、彼がブラジル民衆を一体にする巨大な力をもたらし得る主要な民衆指導者である、そして彼の発言は諸々の構想に関する一つの論争をもたらすだろう、と痛切に分かっていた。はっきりしていることだが、ルラ支持者の一部はルラを信じている労働者だが、嘘に基づくキャンペーンにだまされ、彼らは最終的にボルソナロに票を投じた。
われわれには、左翼と民衆運動に向けて、今ここから巨大な挑戦課題がある。それは、彼の釈放と来年のノーベル平和賞指名に向けて、ブラジル全土で民衆委員会を組織し、真に大衆的な運動を組織し、真に国際的なキャンペーンを組織する、ということだ。後者のキャンペーンは、ノーベル平和賞受賞者のアドルフォ・ペレス・エスキベル(一九八〇年の受賞者、ブエノスアイレス出身の人権活動家:訳者)が先頭に立って進められているものだ。
われわれは、これらの委員会を組織し、このキャンペーンを民衆の旗にする、という巨大な任務を抱えることになる。これらは、われわれ、左翼と民衆運動が、これまで提案されてきたように一体になる目的で、今後の一時期に向かわなければならないもう一つの挑戦課題になるだろう。われわれは、ブラジル人民戦線、恐れなき民衆戦線を、おそらくすべての者を結集する形で、「民主主義を求める反ファシスト人民戦線」に変えなければならない。
それは、ブラジル人民戦線それ自身よりもさらに幅広い手段になる可能性があるだろう。われわれは今後に向けて闘うべきことを多く抱えている。これは階級闘争だ。それは長いトーナメントのサッカーゲームに似ている。人は一つの試合に負けても次には勝つことができる。しかし鍵になることは、強さを蓄積し、わが民衆を組織することだ。それこそが力関係を変えるものだ。

階級闘争と社会変革構想再建へ

――今回の戦闘後、左翼の状態はどうだろうか? 諸政党、運動、あるいはアダジ自身は?

 この戦闘に私は個人として、またわれわれの運動とブラジル人民戦線も携わった。そしてこの二週間を通じてわれわれがはっきり目撃したことが、われわれに新しい勇気を、またブラジルに起きつつあることに対する新たな解釈を与えた。政党や運動に関わりなく、多くの人々が立ち上がった。そしてそれは、社会にはエネルギーがあり、われわれはこれからもファシズムに抵抗できる、ということを意味している。
われわれは今、ものごとを政党に還元してはならず、あれやこれやに何がこれから起きるかにもっぱら関心を向け続けてもよくない。それは民衆とは関係がない。階級闘争は階級の問題であり、それゆえ、力関係を変えるのは、また民衆の諸問題を解決するのは階級闘争の推進力だ。新しい指導者や新しい関係は階級闘争の只中で出現する。われわれはこれらの解釈にこだわっていることはできない。
「アダジは二〇二二年における諸手段〔立候補に向けた〕を確保」、「シロも諸手段を確保」などの評がある。確かにシロ・ゴメス(民主労働党〈PDT〉の大統領選候補者:訳者)は第一回投票では成功した。しかし彼はその後、決選投票の政治的戦闘には加わらないと決めた時に、そのすべてを投げ捨てた。シロの生命〔政治的〕は三週間しか続かなかった。それは、階級闘争がどのように作用するかを示すものだ。
私の考えでは、まさに特定の根拠をもつ、つまり女性、住宅、農地、労組という民衆の運動と左翼であるわれわれは、まとまり、批判的評価と自己批判に基づいてものごとを探求し、くらしと歴史の試練に立ち向かうためのわれわれの労働者階級の設定課題を復活させなければならない。
今回のキャンペーンは一つのことをはっきりさせた。つまりわれわれは、草の根の努力を再開しなければならない、ということだ。マノ・ブラウン〔有名なブラジル人ラッパー〕はそう語ったが、彼は正しかった。この六ヵ月にわたってわれわれが貧しい人々が暮らしている都市の周辺で一軒一軒回る辛抱強さをもしもっていたとすれば、違った選挙結果になっていただろう、と私は確信している。人々は理解しているがしかし、彼らに話しかけるために誰もそこに向かっていない。
力関係を変えるものは一つの演説でも、「ワッツ・アップ」(米国のワッツ・アップ・メッセンジャーが提供している世界最大のスマートフォン向けインスタントメッセンジャーアプリ、リアルタイムでのメッセージ交換が可能:訳者)メッセージでもない、ということをわれわれは理解しなければならない。力関係を変え、人々の実生活問題を解決するものは、大衆的闘争に加わり自身の問題を解決するための、労働者階級と民衆の組織化だ。
われわれに職がなければわれわれは失業と闘わなければならない。もし液化天然ガス料金が高すぎるのであれば、われわれはそれを下げるために闘わなければならない。それは大衆闘争を必要とする。
その上左翼は政治教育を止めていた。人々は、ボルソナロのワッツ・アップ・メッセンジャーを使ったキャンペーンの嘘によってごまかされた。なぜか? 何が嘘であるか、また何がそのゲーム部分であったのか、それを知るための政治意識がまったく欠けているからだ。それへの取り組みは、政治的かつ思想的な教育に基づいてのみあり得る。人々が意識的であり、知識を持っていれば、彼らは自ら決断でき、誰の指図も待たないのだ。
われわれはまた、ラジオ局、新聞、小型情報誌、オンラインを使って、ブラジル・デ・ファトとしてここであなたがやっているすばらしい活動をさらに強化もしなければならない。今はそのための申し分ない時だ。
結論としてわれわれは、平等で公正な社会を求める新たな最高位の構想について、この国での新たな対話を始めなければならない。今回のキャンペーンがさまざまな嘘とその嘘に対する闘いを基礎としていたがゆえに、われわれは政綱に関する話をしていなかった。われわれは、この国にとっての構造的構想について話さなかったのだ。
今こそわれわれは、その対話を取り戻さなければならない。そして次の年月をかけて、一つの構想を軸とした人々の統一を再建しなければならない。それは人々にとっての解決策からなる構想であり、その理由は、政府がそうした解決に向かうことがないからだ。(「インターナショナルビューポイント」二〇一八年一一月号)   


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