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    かけはし2018年9月10日号

グローバルな連帯の必要再提示


中国

JASICめぐる労働者・学生の逮捕

早野 一

労組結成めざした労働者を攻撃

  中国・深?の佳士科技(JASIC)の工場で労働条件の改善や労働組合の結成を求めたことで解雇された労働者とその支援者に対する中国政府による弾圧が朝日新聞や東京新聞など日本のメディアでも大きく報じられた。
 深?市人民代表(議員)が代表取締役を務める中国企業・佳士科技(JASIC)工場の労働者らが労働条件の改善や組合結成を求めたことで解雇され、労働者を支援する青年や学生らが毛沢東主義者らと一緒に労働者を支援し、七月から八月にかけて労働者や学生らがいっせいに弾圧されたという政治的事件に発展した。
 八月二四日早朝には、JASIC労働者の支援に全国から駆け付けていた学生ら五〇余人の宿泊施設を急襲して全員を拘束した映像が全世界に流れたことで注目された。同日、政府系通信社の新華社通信は、この事件について「西側のNGOが支援する国外組織」から資金援助を受けた国内労働NGOが騒動をあおり、労働者たちは違法行為を重ねたとの記事を配信した。
 記事で名指しされた香港の労働NGO「労働力」は声明を出し、協力関係にある「打工者中心」(労働者センター)の中国人職員二人が八月一三日に騒動挑発容疑で逮捕されたが、職員らは労災被害者から労働者支援の活動をはじめたものであり、合法的に中国の労働人権状況を改善するために地道に取り組んできたし、違法に労働者を組織したり騒動を挑発したこともないと述べている。
 また新華社の「労働者たちは違法行為を重ねた」(派出所に押しかけて警察の業務を妨害したり、警備員の規制を振り切って工場に侵入した)という記事に対して、国内のウェブサイトでは、そもそも佳士(JASIC)公司が労働者に対して違法行為を重ねてきた。
 新華社の記事では職場でのけんかを理由に解雇されたとされる労働者は、実際には解雇される直前に防犯カメラのない部署に異動になった直後に正体不明の男二人から暴行された被害者にもかかわらず「けんか」を理由に解雇されたのであり、労働組合の結成を早くから地域の総工会に相談してきたにもかかわらず、総工会の意図的な不作為が労働者を追い込んだのだという新華社記事に対する反論が公開されている。

「日本型労使協調」による介入

 今回の事件が示しているのは、二〇一〇年の南海ホンダのストライキ以降に大きくなった総工会改革に対する労働者の側からの粘り強いアプローチと、それに対する、とくに二〇一五年以降の当局(党・政府・総工会)の側のあいも変わらない敵対的対応だろう。
そしてもうひとつ指摘しておきたいことは、この事件に同情的な日本のメディアも事件を弾圧した中国政府に同情的な中国のメディアのどちらも報じていないことである。
それは今回の事件が注目を集めるきっかけをつくった支援者の中心の一人である沈夢雨さんが、中国当局によって拉致される三カ月前まで、日本の日本発条株式会社(ニッパツ)の一〇〇%子会社である広州日弘機電公司の社員であり、労働条件の改善を訴えたために、会社だけでなく労働組合からも嫌がらせを受けた末に、組合の交渉担当を不当に外された直後に、会社からも不当に解雇されたということである。
中国政府は、今回の事件を「西側のNGOが支援する国外組織」が暗躍していると示唆しているが、沈さんは「西側(日本)のNGO(企業)が支援する国内組織(御用労組)」の組合運営に対する職場の不満を背景にして労働条件の改善に取り組んだ末に解雇されたともいえる。
佳士科技(JASIC)の労働者たちが訴えたのも同じことだった。労働条件の改善にまったく取り組まない御用労組ではなく、労働者の声を反映した労働組合の結成を求めたがゆえに解雇された。その後の戦術などが当局の弾圧という事態を招いたという意見もあるが、職場内の異論派を追い詰め、そして工場の外へ放り出したことが発端である。
また経営陣におもねる労働組合運営という日本の労使協調路線こそ、この二つの事件に共通する「国外勢力の介入」といっても過言ではない。この「日本型労使協調」という「国外勢力」と「中国の特色ある労働組合」の結託こそが、労働者の不満を生み出し続けている。
かつて日本では「民主主義は工場の入口で立ちすくむ」と言われたが、工場の入口に限らず、社会の多くの「入口」で立ちすくむ特色ある中国の社会主義の状況を利用して利益を上げているのがグローバル・サプライチェーンの本質である。

労働者の古典的スローガン復権

多国籍企業のグローバルなサプライチェーンが世界中に展開される今日、もっとも積極的に介入を行っている国外勢力は、いうまでもなくグローバル企業であり、その苛酷な搾取の変革を求める労働者運動もまたグローバルな連帯が必要であることは、中国共産党の誕生から中華人民共和国の建国という歴史を振り返るまでもなく真実である。
二〇一〇年の南海ホンダのストライキといい、今回の事件の発端の一つとなったニッパツにおける沈さんの不当解雇といい、中国の労働問題は日本資本の中国におけるグローバルな展開と密接に関係している。この間報じられているトヨタ、ホンダ、日産の中国での更なる増産というニュースからも、今後もますます日本企業にからむ労働争議が予想される。そして数億に上る労働者の過酷な状況は、やすやすと国境や海をこえて日本にも押し寄せることは自明である。日本の労働者運動の展望が問われていることを、深く自覚すべきだろう。
朝日新聞は、今回の事件に抗議する中国国内の学生ら数千人の署名が寄せられた声明には「労働者階級万歳!」といった毛沢東時代を連想させるスローガンが見られる、と報じている。しかし学生たちの声明は、「労働者階級万歳!」に続けて「社会主義万歳!」、「万国の労働者、団結せよ!」といったスローガンを連ねている。グローバル・サプライチェーンが世界と中国を覆う今日、毛沢東時代よりもはるか以前から世界中の労働者階級のあいだで叫ばれてきたスローガンが、青年・学生のなかで復権しつつある。少なくとも不正や抑圧に憤る階級意識をもつ青年学生らが存在することは確かである。
中国の特色ある官僚資本主義の血肉と骨髄には毛沢東思想が深く刻み込まれているにもかかわらず、労働者を支援する学生や労働者のなかには「資本主義の復活とたたかった毛沢東」という神話が浸透していることは不幸である。スターリンや毛沢東は官僚(体制)とたたかったという主張をする学生もいる。しかし実際は、官僚(体制)が、その中で最もタフで冷酷で妥当な人物を押し上げたというのが真実である。
この点は今後も厳しい思想的変革の闘争を通じた関与が必要となる。しかし思想闘争の帰趨は現実の階級闘争いかんにかかっていることは弁証法を持ち出すまでもなく真実である。そのためにも民主主義・フェミニズム・生態主義などラディカルな変革思想を広く取り込んだ共産主義者らのグローバルかつ飛躍的関与がなによりも重要となる。それはこの東アジアの片隅に生きるわれわれにとっては一〇〇倍も真実である。飛躍を!(二〇一八年八月二八日)

イタリア

社会的・政治的オルタナティブの核心に   

国際主義的反資本主義構想を

フランコ・トゥリグリアット

 欧州統一構想に対し当初好意を示したイタリア人たちは、中道右派と中道左派の政権が遂行した緊縮政策(EU指導機構によりその度に正当化を受け、大労組連合により承認された)を前に、次第に立場を変えてきた。そして問題の緊縮は、勤労民衆の生活条件と労働条件を大きく劣化させてきた。
 これは、EUと欧州大陸の統一という理念そのものからのさらに大きな距離感/それに対する拒絶感を強めることになった。そしてそれが民族主義の立場(ある者にとっては民族主権という神話的な時代への回帰)、その多くが深く反動的でレイシズム的、外国人嫌いそしてファシストとも言える立場、に栄養物を与えることになった。

外国人嫌悪
のEU批判

 これこそが、民主党のひどい敗北とディ・マイオ率いる五つ星運動(M5S)並びにサルヴィニ率いる同盟の選挙における勝利、を説明するものだ。実際民主党は、大ブルジョアジーの利益のもっとも重要な管理人と通訳になっていた。
これらの諸政党は、欧州のもっとも反動的な諸政権との結びつきを強化しつつ、しかし何よりも、反移民の反動的なキャンペーンに取りかかることによって(特に、M5Sとの合意に基づいた内相のサルヴィニ)、自らを民族主権の防衛者と表現している。そして移民は、人口の大きな部分が経験してきた諸困難、そしてそれに対し政府が何の対応も行っていない諸困難、に対するえり抜かれたスケープゴートなのだ。
こうしてEUに対する批判は、先頃まではEUに関する論争ではまさに中心となっていたユーロ問題をもしのぐ形で、当座の有力なテーマになっている移民と関連させて、右翼の側から現れている。不幸なこととして留意すべきことだが、この悪意のこもったレイシズムキャンペーンはこれまで支持を勝ち取ってきた。つまり、それは住民の一部を非人道化しつつ社会全体を汚染し、民主主義の将来の退行に道を開きつつ、地中海で進行中の悲劇に関する無関心をつくり出している。

民族資本家階級
に奉仕する政府


M5Sと同盟は、さまざまな基盤を確保しているとはいえ、プチブルジョアジーおよび中規模ブルジョアジーの部分の表現だ。とはいえ指導的な雇用主グループとの密接な関係も保持している(何よりも同盟に当てはまり、この政党は何年もの間、この国のもっとも発展を遂げた地域であるロンバルディの統治にあたってきた)。この政府が存在できることになったとすればそれは、一定の重要省庁内部に、新自由主義的な既成エリートの信頼を勝ち得ている人間がいるからだ。たとえば準備されようとしている財政法は、EU諸条約の路線にピッタリと沿っている。
前政権が大企業と銀行に彼らが贈った贈り物で特徴づけられたとするならば、現政権により主張されている民族主権には、国際競争に対抗する闘争を展開中の企業グループを救出するために、ブルジョア階級内部で異なった形で富を配分するという目標がある。
職の防衛を求める社会的闘争と移民に連帯する部分的な決起は起きてきたとはいえ、この政権に対決する、必要な水準の対応はまだ生まれていない。

社会的抵抗欠く
緊縮拒否は無力

 社会的かつ政治的オルタナティブを建設するという、左翼諸勢力に義務として課されている任務には、社会内部で作動している民族主義的で反動的な退行を忘れることなく、以下のものとどのようにして同時に闘うかを知ることが含まれている。そしてこの場合に闘う対象とは、EUの緊縮政策、ブルジョアジーの重要な部分と結びついた、民主党(今や野党の)のリベラルを偽装した欧州主義、そして現在の右翼的レイシズム政権だ。
民主党の左に立つ数多くの社会的、政治的諸勢力は過去、EUの制度的な枠組みを受け容れた立場を起点に、社会的で民主的な意味における諸条約の改革を求めつつ、欧州統一の進展を支持してきた。
これは何の結果も残さなかった。緊縮政策に対する拒否は、必要な社会的抵抗を建設する能力も意思もないまま、単に選挙のレベルで防衛されたにすぎなかったからだ。EUに対するこの対処の仕方は、いくつかの部分では今も残っている。たとえ共産主義再建党のような勢力がその立場を急進化させ、EUの指令を拒否することによりEU諸条約に服従しないことが必要だと語っているとしても、そうなのだ。

新主権主義の
ワナの拒絶を


しかしながら他の諸勢力は今、EU諸条約の資本主義的で反民衆的な性格に対する公然の非難、およびEUとユーロから離脱する必要を出発点に、新主権主義の立場をとっている。彼らは、全面的な国民主権と通貨主権を回復することが必要、と考えている。つまり彼らは、大陸規模で勤労民衆のためのオルタナティブを建設する歩みの必要を理解していない。そして彼らは逆に、その階級的な輪郭が最低でも不確かと言うしかない、境界が限られていない地中海圏の形成を思い描いている。
われわれの場合次のように考えている。つまりEUは、第二次世界大戦後に確立された社会的獲得成果を破壊し、労働者階級の搾取とブルジョアジーの支配を押しつけるための欧州ブルジョアジーのツールであり、それゆえそれと対決する闘いが必要となる。しかしわれわれは同時に、欧州規模でのオルタナティブな構想、欧州大陸に暮らす何億人という労働者を巻き込むことによって信頼でき具体化可能となる国際主義的で反資本主義的な構想、を建設することが必要だ、とも確信している。それは、緊縮政策に対する拒絶、決起の構築、欧州規模での闘争の連帯、移民との連帯、労働者と民衆を分断する境界に反対する闘いに基づく構想であり、本物の社会的で政治的なオルタナティブを建設するための不可欠なツールとして、搾取された者の民主的な自己組織化を掲げる構想だ。

▼筆者は元上院議員であり、イタリアにおける第四インターナショナルの二組織の一つであるシニストラ・アンティカピタリスタ(反資本主義左翼)指導部の一員。同組織はシニストラ・クリティカの分裂から生まれた。(「インターナショナルビューポイント」二〇一八年八月号)


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