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    かけはし2018年9月3日号

支配階級に抗する民衆間連帯を


中国

米国との貿易戦争と民衆の立場

共産党指導部とトランプの主張
両者共民衆にとっては有害無益

錢 本立


 米中の貿易戦争が混迷を深めている。トランプ政権は年間二〇〇〇億ドル相当の中国からの輸入品に課す追加関税を一〇%から二五%に引き上げることの検討をはじめた。中国政府はトランプのアメリカファーストは自由貿易に逆行するとして、中国こそが自由貿易を守る万里の長城であるかのごとく振る舞い、対抗姿勢を崩していない。日本のブルジョアメディアは日本経済への波及に怯えながら、TPPプラスやRCEP(東アジア地域包括的経済連携)を通じたアメリカと中国との橋渡しなどという幻想に望みをかけている。以下は香港の左派ウェブサイト「無国界社運BORDERLESS MOVEMENT」からの翻訳。原注の参考記事はすべて割愛した。(「かけはし」編集部)

いずれも支持しない立場が基本


 七月六日、トランプ政府は中国からの三四〇億ドル規模の輸入品に二五%の関税を課すと宣言した。中国はすぐに米国からの輸入品に同額の課税を課すという反撃にでた。数カ月にわたる剣抜弩張(けんばつどちょう:一触即発)の状況はついに開戦に至った。
 この半年におよぶ双方のやり取りは、激しいコメントであったり、政府代表を派遣しての直接の交渉であったり、中興通訊(ZTE)に対する制裁やアメリカ大豆の輸入制限であったりと、非常に注目されるとともに、事態が目まぐるしく展開した。だが普通選挙権のない中国人民にとって、この争いがどれだけ熾烈なものであったとしても、それは神仙の戦争であり、関与する余地は全くなかった。
 だが、時の推移と戦火の拡大(アメリカはすでに二〇〇〇億ドル規模の対中関税を準備している)につれて、貿易戦争は人民にとっても、物価上昇、株式市場の下落、輸出産業における人員整理、社会保険料の未納、外貨兌換の制限など、無視することのできない影響をもたらすことは必至である。これらすべては社会の不安定要素を増大させるが、社会的不満がどのような方向に向かうのかは、世論の動向によってある程度決まる。
 筆者の観察によると、現在のところこのテーマに関する中国語圏の主張は、二つの陣営が対立している。一方は右翼によるもので、トランプの政策を称賛するものである。貿易戦争の理由(中国がWTOのルールを守っていない)を正当だと考えているだけでなく、暴政転覆の支援となると考えているのだ。もう一方は、中国共産党の宣伝機関に代表されるもので、アメリカの仕掛けた攻撃が自由貿易を破壊するものであり、中国はそれに対抗することができる、というものである(だが具体的な発言内容は変幻自在で予測困難)。
 予測可能なことは、この両陣営は民心の支持を得るための争いを今後も続けるだろうということである。左翼の立場は、たとえその身を太平洋のいずれの側に置いていたとしても、両陣営のどちらかの側に立つのではなく、「北京もワシントンも支持しない」という立場を取るべきであり、この貿易戦争のどちらかが正しいということはない、という事実を指摘することである。

非リベラル・ヘゲモニーの追求


 トランプは新自由主義の信徒ではないことは明らかであるが(彼のブレーンにはWTO脱退を主張するものもいる)、中国の右翼がそれを擁護するおもな理由は、女性や移民やマイノリティへの攻撃という、いわゆるリベラルとは明らかに一八〇度逆の立場をトランプが持っているからである。
 トランプは選挙期間中に六四天安門の虐殺を称賛する発言をしたことがあるし、米国指導者の訪中の際には恒例となっていた中国の人権に対する言及もなかったことなどから、今回の貿易戦争の発動も中共の暴政に反対するという意図から出発したものではない。
 トランプ政府の国際政策全体は、それまでの政権からの転換という面が強いが、アメリカのヘゲモニーを維持するという趣旨には全く変更はない。マサチューセッツ工科大学のバリー・ポセン教授(政治学)は今年初めに書かれた論文「非リベラルヘゲモニーの台頭(The Rise of Illiberal Hegemony)」で次のように述べている。
 「トランプは『自由主義ヘゲモニー』のなかから『自由主義』の大部分を抹消してしまった。彼はアメリカの経済と軍事力の優勢、また世界の大部分の地域における安全保障の決裁者としての役割を維持したいと考えている。しかし彼は民主主義の輸出の放棄と多国間貿易協定の破棄を選択した。つまり、トランプはまったく新しいアメリカの大戦略――「非リベラルヘゲモニー」(illiberal hegemony)の道を開いたのである」。
 最近の朝鮮問題におけるスタンスでもこの点は確認できる。朝鮮がアメリカに対する軍事的脅威(核兵器)を放棄し、北東アジアの地政学的力関係においてアメリカの権威を承認するのであれば、金ファミリーが独裁を継続することにも頓着しないが、そうでなければ武力と制裁に直面することになるというトランプのスタンスである。このディールは、金正恩に体制立て直しの猶予を与えるという中国共産党の方針と同類のものである。
 その中国に対するアメリカの新戦略は、アメリカのヘゲモニーに挑戦するような力を抑え込むということにのみ関心があり、かつてのような民主化を通じてアメリカの盟友にするという方針はみられない。世界のトップツーのあいだは敵対関係にあるという帝国主義のロジックに従えば、このような事態は理解できないものではない。

資本主義大国間の必然的対立

 マルクス主義の古典は今日の米中関係を分析するうえでも決して時代遅れではない。ブハーリンは帝国主義に関する論述のなかで、資本主義には二つの傾向があると指摘している。ひとつは国際化(internationalization)傾向であり、資本が投資、市場、資源、廉価な労働力をグローバルな範囲で探し求めることを推し進める傾向である。もうひとつは国家化(statification)傾向であり、多国籍企業をふくむ資本が拠点をおく国に支援を求めるという傾向であり、これは時には競争における保護と対立企業に対する抑制のために国家資本主義企業となることもある。
こうして、資本主義においては国家間の対立が不可避となる。そして経済規模が大きくなった国ほど、他国との衝突に陥る可能性が大きくなり、それは自然と世界や地域のヘゲモニーを築こうとする。歴史的に、世界の主導的地位を獲得するために、資本主義大国間で戦争を含む各種の相互牽制がとられてきたが、第一次世界大戦と第二次世界大戦はそのもっとも知られたケースである。
中国にとっては「一帯一路」およびそれ以前の「走出去」[外に出る――対外経済進出]戦略は、前述の「国際化」の傾向に対応したものである。中国政府は中興通訊(ZTE)を「国際化」の典型的ケースにしようとしてきた。中国がすでに帝国主義であるかどうかには議論の余地はあるにしても、世界第二位の経済体となった資本主義強国として、対立への道に進むことは不可避である。
なぜなら中国が韜光養晦(とうこうようかい:才能を人に気付かれないように包み隠して養っていくこと)政策を継続し、中興通訊(ZTE)などの「赤い企業」がルールを順守したとしても、アメリカが中国の発展を座視するわけがないからである。
ブッシュ(子)政権はイラクとアフガンに戦争を仕掛けて中東という戦略の要衝とエネルギー資源の産地を掌握しようとして失敗したが、[この地域における]中国とロシアに対する牽制の意図は明確である。オバマ政権は右翼から宥和的なリベラルだと罵られてきたが、それはオバマが帝国主義的ヘゲモニーに対する情熱に欠けていたからではなく、経済危機への対応と中東における混乱が中国に対する牽制よりも切迫した任務であったからにすぎない。その証拠にオバマはその後「アジア太平洋リバランス」戦略を提起した(彼の任期内での完遂はできなかったが)。
その一方で、中国は支配階級の欲望と超大国への熱望を満足させるため、また経済成長を維持して支配の能力と正当性を保持するために、本国資本の対外拡張が唯一の選択肢となった。こうして、短期的にはアメリカの地位に挑戦することは無理だとわかってはいたが(愚か者だけが外交部と宣伝部門の稚拙な演技を信じる)、それにもかかわらず必死に軍備拡張にまい進し、資本の対外拡張の援護射撃を行おうとした。それはアメリカに一層の危機感を抱かせた。このような悪循環のなかで、中国が外交や経済政策においてさらなる出色の表現をしたとしても、状況の趨勢を変えることはできないだろう。

トランプの敵だから支持の過ち


海外の一部の左翼の中には、中国の軍備拡張はアメリカから迫られた結果であり、中国の台頭はアメリカのヘゲモニーに対する牽制になると考えている。トランプの様々な反動的政策も、トランプの敵[中国]=正義の味方という図式を成り立たせている。
しかし、中国の対外拡張が迫られたものであろうと支配者の主観的熱望であろうと、また中共の宣伝機関がいかに中国が覇権主義の被害者であり抵抗者であるかと描き出すかにかかわらず、世界各地における中国資本の悪評を覆い隠すことはできない。他の外国資本への抵抗という要素はあるにしても、このような拡張は他の列強と同じように投資先の国の民衆に対する搾取が存在する。インドネシアでは、キャッシュローン・ビジネスに対する規制が未整備であることを利用した中国資本が地元青年を借金地獄に突き落としながら巨額の利益を上げた。パキスタンでは、[中国が融資した]グワダール港の建設によって現地住民が追い出された。南アフリカでは、中国資本の縫製工場が現地の最賃を無視した操業を続けている。ガンビアでは現地の役人を買収した中国資本の魚介工場が有毒廃水を海に垂れ流している。
仮に、この貿易戦争が中国の降参で終わりを告げたとしても、アメリカとの長期的な対抗関係においては、間違いなく本国民衆の利益を犠牲にすること、ひいては彼らを大砲の餌食にすることを厭わないだろう。もし貿易戦争がさらにヒートアップすれば、予想される結果として、中国は国内に対してさらに搾取や福祉の削減を強めたり、経済問題を民族感情に転化したり、異論派をスケープゴートにしたり、専制をさらに強化したり、ひいては局地的な戦争発動による資本の拡張スペースの確保と社会矛盾の転嫁がなされるかもしれない。
これらの予想は根拠なきものではない。政治に関心を寄せる者は種々の予兆を注意深く観察すべきだ。この間の税制改革、不動産税、年金改革、ウェブ規制の強化などがそうである。左翼がトランプ反対を理由に中国批判を抑制すれば、[中国]民族主義に洗脳されなかった青年たちを、結果的に[親米]右翼の側に差し出すことになるだろう。

内部の抵抗への支持こそ重要


実際には、帝国主義に反対するために、必ずしも帝国主義の対抗相手やその目標を支持しなければならないというわけではない。むしろ内部の抵抗を支持することこそ重要である。たとえばアメリカでは、移民に対する「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策に抗議するデモが各地で起こり数十万人が立ち上がった。似たような闘争は多くあり、われわれはそこから、すべてのアメリカ人がトランプのレイシズムや帝国主義の主張に賛同しているわけではないことを知ることができる。
アメリカの左翼組織もそのような状況の中で立ちあがりつつあり、小さくない成功を収めている。五月にはアメリカ民主的社会主義(Democratic Socialists of America, DSA)が支持する三人の社会運動活動家がペンシルバニア州議会ではじめて議席を獲得した。DSAは選挙だけにまい進しているわけではなく、コミュニティに深く分け入り、人々が関心をもつテーマを議論し、支援を提供して分断され孤立した人々をつないでいる。
アメリカにおける左翼の復活というには時期尚早だが、帝国主義内部における強大な左翼潮流の登場が帝国主義の対立と戦争を終わらせてきたことは、歴史が何度も証明してきた。
中国では組織的な左翼勢力はなおいっそう空白に近い状態である。しかしどうであれ、国内の抵抗に関心を寄せ、レイシズムを拒否し、本国支配階級こそがわれわれの最大の敵であり、海外において同じように支配者に抵抗する民衆こそがわれわれの盟友であることを示すことこそ、帝国主義の争いという暗闇のなかで進むべき道を見失わない方法なのである。
(二〇一八年七月二〇日掲載)

英国

国際主義的連帯基礎に

反緊縮、労働者の権利防衛へ

イアン・パーカー

EU離脱めぐる
深い政治的危機

 英国は、「ブレグジット」をどう導くかの問題をめぐって、深い政治的危機のど真ん中にある。二〇一六年のEU国民投票の結果は今、そのいずれもが「離脱」との結果を欲していなかった主要政党の位置取りを定めている。
自由民主党は、保守党との連立という枠内における戦術的な術策として、国民投票を求めて圧力をかけた。彼らはその国民投票について、「残留」を承認するだろうと確信していた。一方保守党はこの問題をめぐって分裂した。それは、六週間ごとに一人以上の率で先頃の閣僚辞任に導いた分裂だ。労働党は「残留」のためにキャンペーンしたが、一年前に選出された急進的な新党首の、ジェレミー・コービンの下で、用心深くそうした。彼はEUに対する彼の熱意に関するジャーナリストの疑問に、まったく正しくもその支持という点ではおよそ「七割」だと応じた。
コービンは、EUは私有化に熱を入れる新自由主義の権力ブロックであり、環大西洋貿易投資パートナーシップといった貿易取引に関し米国と結託する意志を大いにもっている、そしてそれらの取引は国民医療サービス(NHS)や他の福祉制度を危険にさらすことになるだろう、と十分に認識している。
英国における第四インターナショナルであるソーシャリスト・レジスタンスは、「残留」投票を呼びかけた。それは、分極化した論争が外国人嫌悪の激化によって特徴づけられたからだ。そしてこの分析は、投票結果公表直後のレイシストの攻撃増加によって確証された。

主な戦闘は今
労働党内部に

 労働党指導者としてのコービン選出は、主に若い新たに政治化した活動家内部で五〇万人以上にも増大した党員をもつ政党に基づく、緊縮への抵抗に向かう新たな可能性に幕を開けた。この政党は今や、欧州で最大の大衆的党員を抱える社会民主主義政党になっている。これは、「労働党の左」の小さな統一左翼(労働者階級の歴史的な成果の一つとしてNHSを守るために、ケン・ローチによる呼びかけにしたがって形成された)で活動していたソーシャリスト・レジスタンス出身の者たちを含んだ活動家たちに、さまざまな結果を残すことになった。コービンに助言を与えつつ依然労働党の外部に立っている革命派の周辺的なグループがいくつかある。しかし主な戦闘は今労働党の内部にある。
ソーシャリスト・レジスタンスのメンバーは労働党内部の新組織「赤緑労働党」内部で活動している。そしてこの組織は、英国での第四インターナショナルを特徴づけているエコソーシャリズムの諸政策を押し出している。これは、反フラッキング諸運動や持続可能な社会主義の未来に基礎を据える一連の他の汎欧州的で国際的な構想とわれわれが結びつくことを可能にした、特徴的な政治的立場だった。
コービンは、彼の指導をサボタージュするつもりになっている右翼的党機構要員と争う境遇に置かれている。EUとの交渉をめぐる保守党の最新の閣内危機(そこでは、ブレグジット相のデイヴィッド・デイヴィスと外相のボリス・ジョンソンが両者共辞任した)では、指導的な反コービン議員の複数が総選挙に反対して発言し、首相のテレサ・メイに対する支持を呼びかけた。再度の国民投票要求があり、左翼の側には「人民投票」を求める要求がある。

政治的座標転換
の可能性獲得へ


今優先度があるものは、こうした要求を総選挙要求やコービン支持の投票へと転換することだ。イングランドの労働党の一部としてソーシャリスト・レジスタンスが動員を図っているものがこれであり、他方スコットランド(そこでわれわれの同志たちは、独立と英国国家の非集権化を首尾一貫して求めてきた)ではそれとは独立した活動を展開している。
コービンは、ドナルド・トランプの訪英に反対する七月一三日のロンドン抗議デモで発言に立った。そして、ロンドンで二五万人を、国中の多くで数千人を結集したこの大衆的な決起では、多くの参加者がブレグジットとトランプの間に直接のつながりを見ていたことが明らかだった。このデモは、外国人排撃に反対し民衆の自由移動を支持するデモだった。
緊縮に反対し、労働者の民主的な団結権を求めるわれわれの闘いは、たとえば料理提供や清掃など、産業の諸部分で起きている。そしてそこでは、欧州やその境界を越えた出自をもつ移民労働者が労働力の重要な部分になっている。
トランプ反対の、またコービン下の左翼労働党を支持する闘いは、労働者の権利の防衛と、また欧州を貫く、さらに欧州を越えるつながりを求めることと解きがたく結びついている。EU国民投票で「残留」に投票した人々のほとんどは、さらに進んで「要塞化された欧州」により設けられた諸制限をも打ち壊す、国際主義的連帯というこの精神を支持して投票した。左翼が外国人排撃から緊縮反対の統一的闘いへと政治的座標を変える可能性を得るのは、その基礎に立つ場合だけだ。

▼筆者はソーシャリスト・レジスタンスの一員。(「インターナショナルビューポイント」二〇一八年八月号)


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