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    かけはし2018年8月13日号

羽田空港増便計画に異議あり


国際線運行便数拡大を口実に

住民に危険を押しつけるな

東京五輪を理由に強行策す

空港運用規制緩和とは

 羽田空港の国際線運行便数拡大のためとして国交省が打ち出した、空港運用規制の抜本的緩和計画に対し、反対の行動が時を追って東京都民と川崎市民の中に広がっている。またこの住民の反対を受けて、国会の場でも何度か、特に安全問題を軸に国交省追及が行われた。
 この規制緩和計画は、首都圏空港機能強化策、すなわち大幅増便策として成田空港の規制緩和と一体的に打ち出された。そしてその増便は、「日本の経済・社会を維持・発展させていくためには諸外国との結びつきを深めていくことが課題」だとして意義づけられている(同計画説明会資料「羽田空港のこれから」)。恐ろしく抽象的だが、空港の運用規制を緩和する大義名分がこの程度で足りるとすること自体が問題にされなければならない。
 というのも各空港の運用規制は、航空機の安全運行確保を目的としていることは無論だが、周辺住民の安全と生活環境の保全も目的の重要な一部だからだ。離陸、着陸の飛行経路、飛行高度を含む飛び方に対する細々とした指示は、和文、英文併記による「航空路誌」(AIP)という文書にまとめられ、全世界に通知される。そして後者の目的に関するものについては、空港と住民の歴史的な確執(注)を背景に、地元自治体(および住民)と運用に関する協定文に近いものが結ばれ、その内容が運用規制にしたがってAIPに反映されている。
 まさに成田空港の場合も羽田空港の場合も、空港運用の規制はそのような内容を含めて規定されているのだ。羽田空港の場合、空港の沖合移転と合わせたそのような運用規制の基本原則が「海から入って海に出る」との簡潔な表現でまとめられてきた。つまりこのような形で、陸域上空を飛ばないということを明確にし、周辺住民の騒音地獄からの、また大気汚染からの解放という長年の要求が実現された、ということだ。言うまでもないが、この飛行方式は、部品落下による被害を回避できる方式でもあった。そうであれば当然だが、運用規制の緩和は周辺住民には大きな懸念とならざるを得ない。
 新滑走路増設と運用時間拡大を中心とする成田空港の場合は、その住民を無視した計画に対する周辺住民の反対の動きが、すでに本紙でも何回か取り上げられた。したがって今回はこの規制緩和の危険性を羽田空港の場合に絞って取り上げたい。
 (注)成田空港については言うまでもなく三里塚空港反対闘争があった。羽田空港の場合も特に騒音撤去を求める羽田住民の大運動があり、それを受け大田区議会は一九七四年一〇月に空港撤去を要求する決議を可決した。

都民、川崎市民の反対

 ではどのような規制緩和が提案されているのか。羽田空港の場合の眼目は、離着陸飛行経路の抜本的変更であり、先に紹介した「海から入って海に出る」原則の放棄だ。具体的には、着陸経路について、南風時として、午後三時から午後七時までとの時間制限の上、都心を北から縦断して羽田空港に進入する経路(A、C滑走路合計で時間あたり四四便)、および同時間帯、B滑走路から川崎側に離陸し、石油コンビナート上空を抜ける経路(時間あたり二〇便)、そして北風時、午前七時から午前十一時三〇分まで、および午後三時から午後七時まで、C滑走路から離陸し江東区、江戸川区、墨田区上空を北上する経路(時間あたり二二便)、が新たに設定される(図参照)。
いずれも超低空の陸上飛行になることが特徴だ。特に、都心縦断経路では、新宿駅上空で高度約九〇〇メートル、渋谷駅上空で同約六〇〇メートル、大井町駅上空で同約三〇〇メートルだ。大田区の京浜島という数千人が働く工業専業地区では、何と高度七〇メートル、まさに恐怖を起こす飛行になる。
さらに川崎側石油コンビナート上空の飛行が問題だ。この飛行については、現在の規制では約九〇〇メートル以上の高度確保が定められている。安全への考慮であり、これは川崎市との取り決めだ。ところが今回の計画では、この確保が前提とされていない可能性がある。国交省が公表している経路図では、飛行高度が色分けされて図示されているが、それを見る限り、少なくとも石油コンビナート上空に入る地点では明らかに高度九〇〇メートル以下なのだ。

騒音、大気汚染、部品落下


この飛行経路によりまず、航空機騒音が広範囲におよぶことは確実だ。しかも二分から三分ごとに轟く騒音であり、これまで航空機騒音が未経験だった人々には驚きと苦痛になるだろう。特に、江東、江戸川、また渋谷から南側の住民には相当な高騒音が降り注ぐ。したがってこの計画に対する反対の声はまず、この騒音への危惧から当該地区の住民から上がり始めた。これに対し国交省は、騒音の発生自体は当然否定できず、ひたすら受忍限度だと言い張るばかりであり、果ては「国益」を振りかざすしかなくなっている。騒音を受ける被害者ではない者が勝手に受忍限度などと決めつける傲慢さはとうてい許されるものではない。当然だが反対は広がるばかりだ。
そして今大問題になっているのは部品(および氷塊)落下の問題だ。当初この問題を強く指摘したのは大田区の住民たちだった。成田空港で現実に部品と氷塊の落下が毎年報告されていたことも一つの根拠だったが、実は羽田空港でも着陸機の部品紛失が、つまりどこかでの落下が、A、Bという四本のうち二本の滑走路使用機だけで毎年一〇件以上あることを掴んでいたからだ。そして、都心というまさに膨大な数の人びとが生活し行き交うところでの部品落下は、重大な被害につながることが危惧された。石油コンビナートへの部品落下の危険性は言うまでもない。そしてこの危惧は、このところ続くエンジントラブル・高熱のタービン動翼ばらまきでより切実なものになっている。
しかし国交省はこの指摘に対し、羽田空港では部品落下報告はこれまでゼロだ、と繰り返し、先の指摘を鼻であしらってきた。「海から入って海に出る」運用が部品落下報告をゼロにしていること、今回の規制緩和はゼロにしているその条件をなくしてしまうものだということを、彼らは完全に軽視していた。
ところが昨年九月以降立て続けに、彼らには思いがけない事態が起きた。昨年九月二三日のオランダ航空機からのパネル落下物損事故、そして四日後に判明した全日空機からの連続したパネル落下だ。これで国交省も部品落下の危険を座視できなくなった。急遽、まさに泥縄で「落下物防止等に係る総合対策推進会議」なる会議が設置され、今年三月二六日、そこから「落下物対策の強化策『報告書』」が提出された。国交省はこの対策により、落下物に関して「世界に類を見ない」基準を作り上げたなどと豪語している。
しかしその内容を見れば落下物の根絶などとうてい期待できない。考えてみれば当たり前であり、これまで長年航空機メーカーも航空会社も努力を続けてきた結果が現在の状況だからだ。そこから出る結論は、できる限り人が少ないところを飛ぶ、であり、現実に世界的にもそうなっている。その意味で「世界に類を見ない」のは、世界でももっとも高密度の人口が活動する地域の上空を低空で飛行させるというとんでもない無謀さだ。
この無謀さが、最大でも高々一日四〇便(南風時)あるいは八五便(北風時)の増便のためでしかないことも付け加えておきたい(現状の運航便枠は二〇一四年時点で国内線、国際線合計一日一一五〇便)。

連携し運動広げよう


この他排気ガスによる大気汚染の問題、また飛行の安全自体についても問題はあるが紙面の関係で今回は割愛する。いずれにしろ、今回の規制緩和に当たってその当否を、国交省が各規制の根拠と照らし合わせてきっちり検討していないことは、たとえば上に見た落下物をめぐるドタバタ一つ見ても明らかだ。
確かに今回の計画の下敷きとなった「首都圏空港機能強化技術検討小委員会中間とりまとめ」(二〇一四年六月)では、どうすれば増便可能かとの検討はされているが、規制を緩和しても問題は起きないかとの検討は、騒音を除いてまったくない。検討された騒音にしても、騒音は拡大すると認めた上で、増便のためにはやむを得ない、とあっさり片付けているのだ。
明らかに今回の規制緩和は、住民に対する危害押しつけを最初から折り込んだ計画であり、いわば住民を実験台にするようなものになっている。住民の反対の高まりは当然であり、成田での反対と合わせて、このような計画をこのまま進ませることの危険性をさらに広く訴えていくことが必要だ。おそらく政府は、東京オリンピックを金科玉条に強行を策すだろう。各地の住民はそのことによる困難も自覚した上で、広く連携を追求しつつ反対の動きをさらに広げようと努力を続けている。(谷)   



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