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    かけはし2018年5月21日号

共産党推せん候補と市民の合流


京都府知事選で福山和人候補が善戦

若い世代の支持集める

 四月八日投票の京都府知事選は共産党が推せんした新人の福山和人候補が四四・一%を獲得し、自民党が中心となった候補(自民・公明・民進・希望・立憲民主推せん)に迫る注目すべき成果を得た。この選挙の意味について、京都の仲間から報告が寄せられた。今後の「野党共闘」の可能性も含めて、安倍政権打倒への道筋を見出すための重要な材料となる。(編集部)

 一六年ぶりの「新人対決」となった四月八日投票の京都府知事選挙で、共産党も加わる「民主府政の会」と市民団体などでつくる「つなぐ京都」の福山和人候補(共産党推薦、新社会党、緑の党支持)が三一万七六一七票(得票率四四・一%)を獲得し善戦した。当選は、自民党主導で擁立された前復興庁次官の西脇隆俊氏(自民党、公明党、民進党、希望の党、立憲民主党推薦)である。福山氏の得票率は、保守府政に転換して以降の共産党推薦候補としては最高となった。

市民運動のほぼ
すべてが支援

 福山氏の善戦の要因としてまず指摘すべきは、「民主府政の会」と市民運動とが合流して「つなぐ京都」という確認団体がつくられたことであろう。
この背景には、3・11以降の脱原発運動(毎週金曜日の関電前抗議行動、毎年三月の円山野外音楽堂での集会など)や二〇一五年以降の安保法制反対運動(毎月一九日の京都市役所前での行動など)を通じて、共産党や総評などの団体と、市民運動などの共闘が深められてきたことがある。「民主府政の会」は、これら市民運動との共闘を重視し、また昨秋の総選挙に際して立憲民主党が結党されたことも考慮して、「野党と市民の共闘」という形を実現すべく、慎重に候補者の選考を進めた。そのような過程で、市民団体が、前文部科学省事務次官の前川喜平氏に出馬を打診したこともあったと伝えられている。
最終的に、二月一〇日、福山和人氏が出馬を表明することになった。福山氏は、弁護士として労働や貧困の問題に取り組んできた。また、大飯原発差止訴訟や安保法制反対運動などを通じて、市民運動とのつながりも強かった。二〇一五年には、京都弁護士会副会長として、弁護士会主催の安保法制反対集会の成功に尽力したこともある。こうした事情を背景にして、「民主府政の会」側からの選対参加要請に市民運動側が応じることとなった。こうして、「京都の市民運動のほぼすべての潮流が福山陣営に合流」(渡辺和俊共産党府委員長)するという形がつくられたのである。

立憲民主支持者の多くが福山へ


しかし、国政政党レベルでみれば、従来の「非共産VS共産」という構図を大きく崩すには至らなかった。連携が期待されていた立憲民主党は、結局のところ(案の定というべきか)、民進党、希望の党とともに、自民党主導で擁立された西脇候補を推薦した。とはいえ、社民党、自由党が自主投票を決めるなど、一定の変化はあった。また、立憲民主党の支持者が公然と福山候補支持を表明して選挙戦に加わるという動きもあった(立憲民主党の支持者の中には、せめて自主投票に、と求める動きもあった)。新社会党は当初から福山候補を支持し、当初は自主投票としていた緑の党も、選挙期間中に福山支持に切り替えた。
選挙期間中、国政では、財務省の公文書改竄問題や自衛隊の日報隠蔽問題などをめぐって与野党が激しく対立していた。にもかかわらず、国政で対立する与野党が「相乗り」で中央官僚を擁立したことには、強い批判の声が上った。福山氏は、当初こそ、国政の問題を府知事選には持ち込まない、としていたものの、安倍政権への怒りが広がる中で「政治で一番大事なことはウソをつかないこと。そのことに国も地方もない」と訴え、共感を広げた。
とはいえ、与野党の「相乗り」により選挙戦が盛り上がりを欠いたものとなり、低投票率(史上二番目に低い三五・一七%)を招いたことは否めない。そのような中で、「京都新聞」の出口調査によれば、立憲民主党支持者の六割、希望の党支持者の五割以上が福山氏に投票した。また、無党派層の五割以上も福山氏に投票している。「アベ政治を京都に持ち込む中央官僚はアカン」と訴えた福山氏に政権批判票が流れた結果といえよう。

具体的な政策
で論戦リード


福山氏の善戦の要因として、具体的な政策提案で論戦をリードしたことも指摘できるだろう。従来の共産党推薦候補は「府政転換」を掲げたが、福山氏は山田府政を「継承しつつ変化させる」として、大型公共事業を全否定しないなど、独自色を示そうとした(「京都新聞」によれば、福山氏のこうした姿勢は市民団体には支持されたものの、共産党や総評の一部には「対立軸を明確にすべき」との反発があった)。
福山氏は、4つの「つなぐ」――@夢をつなぐ(ストップ貧困京都宣言)、Aなりわいをつなぐ(企業と働く人をセットで応援し地域循環型経済を)、B未来へつなぐ(原発再稼働反対・廃炉推進、平和と多様性)、Cひとをつなぐ(自治体の自律性と住民自治を基礎とした府政運営)――という政策の柱を示し、府内各地でタウンミーティングを繰り返して、「ボトムアップ」で政策を練り上げていくことを目指した。
選挙戦最終盤では、「知事になったらすぐやる政策パッケージ」として、@中学まで医療費無償化(二七億円)、A全員制中学校給食の半額補助(四〇億円)、B給付制奨学金の創設(四億円)、C老人医療助成制度の拡充(九億円)、D中小企業と働く人をワンセットで応援する条例制定、という五点を前面に押し出し、必要な財源は八〇億円、府の年間予算九一〇〇億の一%未満でできる、と訴えた。これは「知事が変われば暮らしが変わる」というスローガンに具体的なイメージを与える力をもったといえるだろう。
対する西脇氏は、「安心・いきいき・京都力」「山田府政の継承と発展」という抽象的なスローガンを掲げるだけで、具体的な政策についてはほとんど語らなかった。その中で西脇氏がほとんど唯一力を込めて語っていたのが、北陸新幹線延伸やリニア新幹線建設などの巨大事業の推進であった。
そもそも国土交通省の官僚であった西脇氏が知事候補として担ぎ出された背景には、これら巨大事業の強力な推進を望む京都財界の意向があったものと思われる。現在、京都では、インバウンド(訪日外国人旅行)偏重の観光政策で、ホテル・民泊建設ラッシュが続き、「職住近接」を特徴としてきたまちなみの破壊が進行している。地域住民の生活の場を府外大手資本の儲けの道具にしていいのか、という批判的な意識が福山氏の善戦につながった面もあるだろう。

出口調査に見る
今後の課題は?


「京都新聞」の出口調査によれば、投票の際に最も重視した政策は、「福祉・介護」が二六・四%、「景気・雇用対策」が二三・四%であった。「福祉・介護」を選んだ有権者の投票先は、福山氏が五割を超えた。一方で、「景気・雇用対策」を選んだ有権者の七割以上が西脇氏に投票している。ここには、「アベノミクス」への漠然とした期待が安倍政権の高い支持率の要因となってきたのと同じ問題があるといえるだろう。「中央との太いパイプ」をもつ中央官僚なら景気・雇用を何とかしてくれるのではないか、という漠然とした期待があったのかもしれない。
福山氏は、中小企業振興基本条例や公契約条例など、地域循環型経済をつくるための提案を語ったが、残念ながら、広範な有権者の心をつかむには至らなかった。エキタス京都が主張する「時給一五〇〇円」も政策に入っていた(社会保険料負担軽減など中小企業支援と一体に時給一五〇〇円をめざす、「公契約条例」で府が発注する事業に従事する労働者に時給一五〇〇円以上を支給するようにする)が、中小企業経営者・中小自営業者には(福山陣営内部も含めて)十分に理解されなかったきらいもある。
それでも、福山氏が若者の貧困対策を訴え、給付制奨学金や時給一五〇〇円を具体的な政策として打ち出したことは、大きな意味があったといえよう。「京都新聞」の出口調査によれば、二〇代、三〇代の五割以上が福山氏に投票したのである。これは今後につながる成果である。
二〇二〇年二月の京都市長選挙、二〇二〇年四月の京都府知事選挙に向けて、「野党と市民の共闘」をより一層発展させながら、より具体的で説得力のある経済政策を練り上げていくことが求められている。
(沼田啓史)

4.25 都立病院の地方独法化を考える

地域住民と共に反対の声を

第3回学習会を開催


6月都議会が
大きなヤマ場
 四月二五日午後六時半から、東京・文京シビックホールで「第三回都立病院の地方独法化を都議と考える学習会」が都立病院の充実を求める連絡会の主催で開かれた。
 最初に、会を代表して氏家さんが「三月三〇日、病院経営本部の病院独法化を含む経営形態について検討を行う中期計画を正式に決めた。パブリックコメントでの受け入れ反対の声を無視しての決定だ。これから新しいステージの闘いだ。都の八つの病院に二〇〇〇万円ずつ配り検討していく。個々の病院に問題を突き付けていくことが求められる。署名は五月までに三万筆を集める。次の都議会は六月一二日開会、二七日が最終日。署名が審査・採決される。厚生委員会を傍聴しよう。都議会が大きなヤマ場になる」とあいさつした。
 次に、太田正さん(作新学院大学名誉教授)が「改革プランと経営委報告の虚実を検証する」と題して講演を行った。(別掲)

地域住民の声を
掘り起こそう
講演の後、質疑応答があった。質問@ 名古屋の病院の宿直が労基法違反であると判決が出たがどういうことか。答え 低い医療費、マンパワー不足。労働現場が深刻化している表れである。
埼玉からの報告。五年目に厚生連の病院二つがなくなった。医師や看護師を多く持っている九州の病院が経営に乗り出している。働き方によって差をつけ、病院がつぶされていく。健康医療センターで、年俸制が導入された。医者は年俸制をやればやめていく。看護師は最初の五年間は給料が良かったがその後上がらず、結局年間一〇〇万円も下げられた。
太田さんは、「経営形態の変更がどこまで医師の質を高め、患者のためになっているのか。直営ではなぜダメなのか。分からない。制度的限界と言われるが他の事業はなぜ独法化しないのか。独法化では解決しない。今まで何をやっていたのか、足元の課題にどう向き合うのか、問いただす必要がある。公社移管もやりっぱなしだ。都の責任ある態度が必要だ。地域ぐるみの闘いの輪を広げていきたい」とまとめた。
次に、広尾、大塚、墨東、多摩、駒込それぞれの地域の闘いの報告があった。東京では三小児病院が廃止、統合に反対する闘いなどの一〇年以上の闘いを継続してきている。一〇年前の「都立病院は都立直営のまま存続を」の旗がそのまま使えるとの報告や九二歳の母親が、広尾病院がなくなると一軒一軒回って署名を集めていることの紹介、学習会や病院・駅頭での署名集め、都議や地域の仲間・労働組合への要請など都立病院をなくすな、貧しい者にも医療の手を、とする地道な活動が報告された。今後とも病院労働者と連携しながら、地域住民に訴え、都立病院の独法化を阻止していく決意が固められた。          (M)

太田正さんの講演から

医療労働の現状・特性と
地方独立行政法の運営メカニズム

 一、なぜ公営企業型地独法(非公務員)が病院事業で占められているのか
?繰り返し指摘される「地方公営企業の制度的制約」が事業遂行上の決定的な障害であるならば、なぜ他の事業に波及しないのか。
?その背景・要因として、慢性的な医師・看護師の不足と過酷な医療労働と不十分な労働条件の実態があるとともに、公定価格としての診療報酬制度の下で医療費削減や保険外診療等の市場化圧力にもとづく経営効率化の要請があるのではないか。
二、医療現場の過酷な労働実態と勤務形態の特殊性
「人手不足で夜勤の体制は三人から二人に縮小。一人の仕事量は一・五倍になった。ICU(集中治療室)勤務の場合、月に一〇回以上の夜勤をこなす必要がある。「地域柄、入院患者は高齢者が中心で、ナースコールも多い。夜間勤務で休憩は三〇分取れればいいほう。将来が見えない若手や体力的限界を感じたベテランが次々に辞めている」(長井さん)。荏原病院は毎月のように募集をかけているが、看護師は集まらない。「公社病院の専属職員になることへの抵抗がある」と、ある中堅看護師は推察する。都立病院では数年ごとに病院間の人事異動がある。が、公社病院にはそれがない。専属職員になれば、原則、退職まで職場が変わらない。「都立や民間病院と比べ、待遇がいいわけでもない。勤務が過酷で、交通の便も悪い荏原病院に職員が集まらないのは当然だ」(同)。週刊『東洋経済』(2009年3月3日)より抜粋。

公営企業型地方独立行政法人への移行の本質

 一、公開企業型地方独立行政法人の第一のポイントは運営メカニズムにある。
・矛盾に満ちた医療現場をマネジメントするツールこそ地独法の運営メカニズムであるが、それは医療労働の世界に格差と分断をもたらし、そのことにより人件費総額を抑制しながら経営に貢献する人材の処遇改善と経営効率の向上を狙いとするものである。
・しかし、そのことはコメディカルや事務職を含めてチーム医療の前進を阻害し、さらには医療と介護の連携をはじめとする多様な地域社会における協働にも悪影響を与えることが懸念される。
・さらに、経営効率の向上が「儲かる医療」へと変質していく可能性があるだけでなく、そうした方向で経営改善への貢献を競い合うことにつながりかねない。
二、第二のポイントは一般会計繰入金(負担金・交付金・補助金)にある。
・公営企業型地独法は独立採算制を原則としつつその例外として一般会計繰入金を認めているが、これは行政的経費や不採算経費に係る義務的な負担金を含むものである。したがって無駄を排することは必要であるが、経営効率改善目的で負担金自体を抑制・削減することは本末転倒である。
・実態として、独法化により一般会計繰入金が削減される傾向にあり、その削減が経営合理化のテコとして悪用されている可能性がある。その行き着く先が民間譲渡や廃止につながらないとはいえない。(提起されたレジュメから)


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