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    かけはし2018年2月12日号

トランプのコメントに新しいものは何もない


米国

姿変え続くエリートの移民への恐怖

新旧形態のレイシスト的偏見と
移民制限の毒含む組み合せ再び

キース・マン

 アフリカや中米の人びとに対するひどい侮蔑をあからさまにしたトランプ発言の報道は、世界に大きな驚きを与えると共に強い非難をも巻き起こした。しかし米国の移民政策に通底するレイシズムとそれを根拠づけるイデオロギーは、トランプ発言にことさら新しいものはないことを示している。以下はそのことを、米国エリートに抱かれたイデオロギーと移民政策の歴史を概観的に振り返りながら明らかにしている。(「かけはし」編集部)
 DACAプログラム(「不法」入国した親に連れられて米国に来た未成年に、米国に滞在し働いたり勉学する権利を一定期間特例として認める制度:訳者)の運命に関する両院指導者たちとの駆け引き会合の中で飛び出した、もっとも最近のトランプによるレイシスト的わめきは、彼のレイシズム主張のエスカレーションとして広く糾弾されてきた。トランプはこの最新のコメント以前ですら、ハリケーンのハーヴェイとマリアがもたらしたカリブ海諸島の被害に対する彼の対応により、そしてそこには世界でもっとも古い植民地であるプエルトリコが含まれるのだが、体系的に低開発に置かれてきた諸国の民衆に対する侮蔑をはっきりと示していた。これらの最近のコメントはまた、レイシスト的偏見の新旧の形態と移民制限の毒を含んだ組み合わせでもある。

一貫したレイシズム的移民政策

 一方にアフリカの諸国、ハイチ、中米を置き、他方にノルウェイを置いた彼の区分けは、一九二〇年代の反動的でレイシズム的移民政策に遡る響をもつが、またおそらくは、われわれがこれまでトランプや彼の議会仲間から見てきたことを超えるような、米移民政策の残酷な全面補修の始まりすら予示している可能性がある。それらは同時に、植民地主義の遺産と今日の新帝国主義支配とレイシズムがもつ機能を、われわれに思い起こさせるものでもある。
一九二一年と一九二四年、議会は国民出自法を制定したが、それは、貧しく非プロテスタントの、南欧と東欧諸国からの移民をほとんどなくす割り当てを確立した。それらの人びとは当時、トランプによってごまかしを含んで言及されたハイチ人や他の人々に等しい存在だったのだ。その法は一九六五年まで米移民政策を制度化していた。そしてその一九六五年に、移民および国籍法が、割り当てシステムを、家族関係と労働熟練要件で置き換えた。
国民出自法は、急進的社会主義者と労働者政治に対する恐れを反映していたが、しかしまた特にトランプのものに似た、レイシスト的かつ階級的偏見をも反映していた。それは、アジア人移民を厳しく制限した一八八〇年代と一八九〇年代に採択されたあからさまにレイシスト的な立法を拡張した。この法が採択された時まで、北欧とスカンジナビアからの移民はすでにしずくのようなものにまで減退していた。
他方で一八八〇年代以後、大人数の人びとはポーランド、ロシア、イタリア、ギリシャから米国にやって来ていた。ほとんどは、田舎の人々であり、農民や農業労働者だった。そしてユダヤ人の場合は都会の労働者だった。これらの田舎の勤労階級移民は、拡張を続ける工業経済のための安い未熟練労働力として当初は歓迎されたものの、その後先に来ていた保守的なエリートによって標的にされた。彼らは、想像上の人種的かつ文化的な純粋性について警戒の声を上げたのだ。割り当ては、これらの諸国出身の移民を事実上なくすために考案された。
植民地時代から支配階級は圧倒的にプロテスタントだった。新移民はカトリック、ユダヤ教徒、またさまざまな形態の東方正教徒だった。アイルランド移民が被った偏見と差別の多くは、反カトリックの偏見という形態をとった。この宗教的、文化的偏見に、生物学的現象として理解された人種の観念が加えられた。

レイシスト的ニセ科学の時代

 モートンは、さまざまな人種の頭骨間に想像された違いを示す『アメリカーナ頭蓋骨』を引用して、霊長類の頭骨とアフリカの人びとの頭骨間にある類似性を主張した。当時は、ニセ科学レイシズムの時代であり、それは、アフリカに対する帝国主義による植民地化と米国内のジム・クロー(南部で実行されていた人種隔離のアパルトヘイト制度:訳者)を正当化するために利用された。そして新移民は、非白人の、あるいは半白人の人種的に劣った者と見られた。
英国の数学者で統計学者であるカール・パーソンのような人物が、レイシスト的ニセ科学と移民政策を結びつけた。パーソンや他の者たちは、後にナチスが彼ら自身の優生学プログラムのために利用した優生学理論を声高く主張した。一九二五年にパーソンはマーガレット・モウルと共に一つの文書を共著し、それには「ロシア人とポーランド人のユダヤ人の子どもに対する検証が示した、英国への外国人移民がはらむ問題」との標題が付けられた。
この文書は、間際に制度化された米国の割り当てシステムと高唱された移民政策に直接関係していた。その政策は、英国と米国の優れた(白人の)人種構成であると考えられたものを薄めるのではなく強めると思われた、慎重に選抜された希望者を基礎としていた。
この文書は、多くがスラムで暮らしていたユダヤ人移民の中にさまざまな病気が高率であることを記録し、それらを「ユダヤ人から見た異邦人」(非ユダヤ教徒)のはるかな低率と比べていた。彼らは、この比較が東欧ユダヤ人の人種的劣等性を示す、と考えた。彼らは、この文書中の他の個所では、アジアとアフリカの非白人と白人間の「混ぜ合わせ」がはらむ国民の人種的「衛生」に及ぼす否定的作用にもやきもきしていた。そのような懸念は科学的なものであり、移民政策を導くべきものだ、と彼らは力説した。
パーソンの考えは科学界で長い間信用されてこなかった。しかし今なお、レイシズムの主張と移民政策のさまざまな形態の中に再現している。

階級的恐怖からの移民敵視


支配階級の政治家と彼らのイデオローグたちはまた、移民と労働者と急進的政治の間の結びつきにも懸念をもっていた。都市地域からの幾ばくかの移民は欧州で、アナーキズムや社会主義の経験と知識を得ていた。またあるものは労働組合に入っていた。多くは米国で急進的な労働運動活動家や指導者になった。ヘイマーケットの殉教者(警察の殺人的弾圧を受け、メーデーの起源となった闘争の犠牲者:訳者)の全員は、米国生まれのアルバート・パーソンを除いて、欧州移民の初期の波におけるドイツ出身だった。
保守派の懸念に関する限り、ロシア革命は移民と破壊的政治の結びつきを確かなものと示した。米国の支配階級は、一九二〇年のもう一つの名を残す手入れで応じ、移民の労働運動指導者と急進派を標的にした。そして彼らは投獄され、しばしば国外追放された。この支配階級の逆上の頂点は、一九二七年に起きた、イタリア人移民アナーキストのサッコとヴァンゼッティに対するでっち上げ、および彼らの法的な殺害となった。もっと早くには、ノルウェイ人移民で革命的で多人種労働者組織であるIWW(世界産業労働者組合)のメンバーだったジョー・ヒルが、殺人をでっち上げられ、ユタ州で一九一五年に処刑されていた。

どんなときにもレイシストに

 エリート界のレイシズムの議論は時代を通じて、生物学的主張や左翼急進主義に関する怖れから、文化的主張へ、さらに九・一一以後はイスラムのテロリズムへと位置を移してきた(KKKの周辺化された白人至上主義はその根を優生学に近いままとどめている)。
米国政治学会会長の任を務めたハーバード大学教授のサミュエル・ハンチントンは、米国の移民政策に影響を与えるために考案された新しいレイシズム的課題設定を前に進めた。一九九六年の彼の著作『文明の衝突』でハンチントンは、ソ連邦の崩壊と冷戦の終焉の後では、共産主義はもはや米国への脅威ではない、と論じた。新しい脅威はラテンアメリカとイスラム諸国からの移民となった。そしてそれがその上に米国が築かれたプロテスタントの文化を文化的に薄める怖れがあり、それゆえ厳しく制限されるべき、とされた。ハンチントンのレイシズムの立論は、移民に関するエリートの議論からは決して消えなかった。そしてトランプのもっとも扇動的な見解は、古い比喩的用法の単なるリサイクルにすぎない。
トランプは二〇一六年の大統領選キャンペーンの中で、メキシコ人を「レイプ犯」や「殺人犯」と標的にし、次にムスリムを潜在的なテロリストと標的にした。レイシズムに反対する抗議に立ち上がったNFL(全米フットボールリーグ)プレーヤーに対する彼の攻撃は、黒人アスリートと全体としての黒人を狙った攻撃として広く理解された。トランプは今、エイズとハイチ難民との間の結びつきに関する彼の最新コメントをもって、パーソンとハンチントンの考えと勧告両者を偲ばせる形で、レイシズムの諸議論がもつ新旧の諸形態を組み合わせている。

低開発の原因と責任忘れ果て

 報道は現在の新しいサイクルの中で、彼が「くそダメ」とラベルを貼った諸国出身の人びとに向けたトランプのさげすみの、明らかなレイシズムに焦点を絞った。しかし、その人々が多くの形で汚水だめの中で暮らすほどまで、帝国主義が世界のその地域を搾取し低開発に置いてきたという、その程度はほとんど議論されていない。
これらの汚水だめは、世界銀行とIMFの「構造調整政策」を通じた新帝国主義支配の直接的結果なのだ。先の機関がもつ無実のような響をもつ名前は、社会的サービスを切り下げ、公務労働者を解雇するようにとの要求に関わっている。そしてその要求は、同じ銀行が何十年も前に、多くの場合米国が支えた殺人的な軍事独裁体制に対して行った巨額の貸し付けについて、利子を払わせる目的で銀行からカネを借りる条件として、なのだ。IMFと世界銀行によるラテンアメリカに対する新帝国主義的支配が意味することは、より短い期待寿命、幼児死亡率の天にものぼるような高率、貧弱で誰もがとはかけ離れた教育、さらに女性の抑圧の再生産だ。
この帝国主義的支配は、都市と地方のスラムを生み出し、そこでは、二一世紀の民衆が、電力や水道や衛生システム、あるいは交通、学校、医療、十分な食料、また捨て鉢の地下的経済から外に出る職、も欠いたまま暮らしている。
ハイチでは麻痺状態に置かれた衛生システムが、コレラのような水に起因する病気の復活に導いた。それらははるか昔に一掃されていたのだ。植民地主義の遺産であるアフリカのインフラ欠落は、この地域を最近まで、低賃金労働力の新帝国主義的搾取に対してすら望ましくないものにしてきた。植民地支配の直接的遺産である医療システムの欠落は、エイズの流行の中で驚くような高い死亡率の結果をつくり出し、一世代の子どもを孤児にした。プエルトリコのビエケスに残された放射性廃棄物から中米高速道路に使われた有毒物質まで、米国は南の世界中で、悲惨な生活条件を作り出す上で多くのことを行ってきた。
確かに、トランプがさげすんだ諸国に暮らす多くの民衆は、汚水だめの中で暮らしている。しかしそれらの汚水だめは、トランプが「再び偉大に」したがっているまさにその米帝国主義がつくり出したものなのだ。

あらためて国際主義の活性化へ


植民地主義とレイシズム的抑圧の歴史はまた、抵抗と反乱の歴史でもある。一七九〇年代のハイチ革命から二〇世紀のアフリカの独立運動、一九五九年のキューバ革命、一九七〇年代と一九八〇年代におけるカリブ海と中米の革命運動、そして一九九四年のサパチスタ反乱まで、トランプがさげすんだ地域の民衆は、帝国主義の抑圧と対決して闘う印象に残る能力をはっきり示してきた。
ハイチ、アフリカ、中米、そしてこれらの国出身の移民コミュニティに対するトランプの言葉による侮蔑は、支配を受けた諸国の民衆と米国でレイシズム的で階級的な抑圧を経験している者たちの間の、新たな国際主義に向けた呼びかけとして役立つ可能性があるかもしれない。
移民と非白人の低賃金部門への集中を条件とした場合、労働運動は、トランプのコメントとそれらが意味する諸政策をもっとも強い言葉で糾弾しなければならない。そして、全労働者と被抑圧民衆に向けて、垣根を越えた連帯のつながりを伸ばさなければならない。
より近いところでは、われわれはトランプが攻撃した移民を守るための行動を支援できる。そこには、ハイチ人、エルサルバドル人、ニカラグア人の移民四三万五〇〇〇人に対する一時保護の地位(度重なる天災からの避難民として移住資格が認められている:訳者)を維持するための、特別キャンペーンが含まれる。

▼筆者はウィスコンシン州ミルウォーキーのソリダリティのメンバー。(「インターナショナルビューポイント」一月号)


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