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    かけはし2018年2月5日号

絶対止めよう改憲発議


安倍施政方針演説を批判する

STOP! 人権弾圧と戦争国家への道

沖縄・韓国民衆と連帯し平和を切り開こう

「明治一五〇年」と「国難」宣伝

 一月二二日、東京都心でも二〇センチを超える積雪となった雪が降り始める中で始まった第一九六通常国会の冒頭で、安倍首相は施政方針演説を行った。
 安倍演説は@「はじめに」の項で「明治一五〇年」にあたって日本社会が直面する「少子高齢化」という「国難」を強調した。そしてA「働き方改革」、B「人づくり革命」、C「生産性革命」、D「地方創生」によってこの「国難」を突破する、というテーマに多くの部分を割いた。
 この中で安倍は、進んだ西欧文化の波濤が押し寄せる「明治」という時代の始まりが直面した「国難」に、現代の「少子高齢化」を対比させながら「明治の先人たちに倣って、もう一度、あらゆる日本人にチャンスを創ることで、少子高齢化もきっと克服できる。今こそ、新たな国創りの時です」と訴えた。
 会津藩白虎隊の一員でありながら、のちに東京帝大の学長になった山川健次郎、トヨタグループの創始者で、自動織機を開発した豊田佐吉、天竜川の治水に尽力した金原明善のエピソードを盛り込んだ安倍首相の意図は明白だ。安倍の施政方針演説の基調は、改憲という彼の最大の政治目標を「明治維新」という「革命」に擬して、「戦後国家」という「旧体制」からの突破を改憲によって実現することをアピールするものだ。彼は「旧体制」との闘いを「人づくり革命」や「生産性革命」という言葉で強調した。そしてその「革命」の主張は「新しい憲法」による「戦後の桎梏」からの解放として印象づけられているのである。
 この点でわれわれは安倍の描く「歴史観」との対決が重要であることを、改めて確認する必要がある。

「働き方革命」のねらい


 安倍の施政方針演説は、「アベノミクス」による「民需主導の強い経済成長」について語り、「生産性革命」という資本のための政策、すなわち労働者階級の権利に対するいっそうの攻撃、企業への従属、「過労死」をもたらす競争と長時間労働を強制している。
 「IoT・ロボット、人工知能、今、世界中で『Society5.0』(狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く『超スマート社会』とされる)に向かって、新たなイノベーションが次々と生まれています。この『生産性革命』への流れを先取りすることなくして、日本経済の未来はありません。二〇二〇年を大きな目標に、あらゆる政策手段を総動員してまいります」。
 「生産性革命に向けた新法を制定します。規制のサンドボックス(砂場)制度を創設し、既存の規制にとらわれることなく、企業が革新的なサービスやビジネスモデルにチャレンジできる環境を整えます。革新的なイノベーションに挑戦する企業には、思い切って、法人税負担を二〇%まで軽減します」。
 こうして安倍首相の施政方針演説で強調されている「働き方改革」「人づくり革命」とは、新しい「超スマート社会」に対応した技術革新、規制の撤廃を促しつつ、職場における労働者の権利を、そうした「生産性革命」に対応させて破壊するものに他ならない。安倍による戦後憲法の改悪という攻撃は、職場での労働者の権利をベースにした労働組合運動への攻撃、労働法制の根本的改悪と一体のものであることは、いっそう明らかになっている。
 さらにD「地方創生」の項では、「2年後の東京オリンピック、パラリンピック」を想定し「危機管理に万全を期すとともに、サイバーセキュリティ対策、テロなど組織犯罪への対策など、世界一安全・安心な国創りを推し進めます」と強調し、同項の末尾に「東日本大震災からの復興」について付け加えることも忘れなかった。しかしこの「震災からの復興」についても、「安全・安心の国創り」という全体としての治安対策と連動したものである。
 「福島イノベーション・コースト構想が、いよいよ本格化します。浪江町では、この夏、世界最大級の水素製造工場の建設を開始します。……まさに『CO2排出ゼロ』の新しいエネルギー供給のモデルです。オリンピック・パラリンピックでは、福島産のクリーンな水素を使って、『復興五輪』を世界に向けて発信してまいります。……原発事故で大きな被害を受けた福島において、未来のエネルギー社会の姿をいち早く示し、世界の脱炭素化を牽引してまいります」と安倍はぶち上げた。
 しかし、ここには言うまでもなく「脱原発」の指向などまったく見られない。福島は「復興」のシンボルとして利用され尽くしている。

「北朝鮮の脅威」と戦争国家


 安倍首相の演説は、Eの「外交・安全保障」の項目で北朝鮮の核・ミサイル開発の「脅威」に対して「日米同盟の抑止力」を強化することで対処することをあらためて訴えた。
 「三年前、私たちは平和安全法制を成立させました。北朝鮮情勢が緊迫する中、自衛隊は初めて米艦艇と航空機の防護の任務に当たりました。互いに助け合うことのできる同盟は、その絆を強くする。皆さん、日米同盟は、間違いなく、かつてないほど強固なものとなりました」と安倍は誇って見せた。その上で彼は、「地球儀を俯瞰する外交」の名の下に「自由で開かれたインド太平洋戦略」を推進し、日中・日ロを含めた友好・協力関係を打ち立てながら「北朝鮮による挑発」に「毅然とした」対応を取ることを強調した。
 安倍施政方針演説は、ここで「北朝鮮の脅威」を最大限に利用しながら、独自の防衛力強化を強調している。「安全保障政策において、根幹となるのは、自らが行う努力であります。厳しさを増す安全保障環境の現実を直視し、イージス・アショア、スタンド・オフ・ミサイルを導入するなど、我が国防衛力を強化します」「年末に向け防衛大綱の見直しを進めてまいります。専守防衛は当然の大前提としながら、従来の延長線ではなく国民を守るために真に必要な防衛力のあるべき姿を見定めてまいります」。
 「従来の延長線」ではない「真に必要な防衛力」――ここにこそ「専守防衛」の枠組みを超えた、グローバルな派兵・戦闘能力を持った「海外派兵国家」の戦力としての「自衛隊」という志向が浮き彫りになっている。

「国のかたち」と改憲宣言

 施政方針演説の締めくくり「Fおわりに」の項は、きわめて簡略なものだ。
最初に「見出し」抜きで「皇室会議を経て、皇室典範特例法の施行日が、平成31年4月30日となりました。天皇陛下の御退位と皇太子殿下の御即位が、国民の皆様の祝福の中でつつがなく行われるよう、全力を尽くしてまいります」という天皇「代替わり」キャンペーンが置かれている。その後に置かれているのが改憲にかかわる項目である。
しかし小見出しには「力を結集する」と書かれているだけであり、その末尾の部分に「50年、100年先の未来を見据えた国創りを行う。国のかたち、理想の姿を語るのは憲法です。各党が憲法の具体的な案を国会に持ち帰り、憲法審査会において、議論を深め、前に進めていくことを期待しています」。この約一〇〇字の施政方針演説の結語の中に、安倍首相のなみなみならぬ決意が透けて見えるというべきだろう。
安倍はこのようにして憲法九条の改悪を軸に据えて、「新憲法」制定への戦闘宣言を発した。施政方針演説での安倍の「改憲宣言」では、「国のかたち、理想の姿を語るのは憲法」という憲法観が端的に語られている。こうした安倍の憲法観に対して、立憲民主党の枝野幸男代表は「憲法は権力の行使を縛るもの、という立憲主義の本旨を踏みにじっている」と批判した。この批判は、そのとおりである。安倍の憲法観は、「美しい国・日本」という彼の「理想像」を打ち上げて、その理念を共有することを「国民」に強制するものだ。われわれは、安倍首相が推し進めようとしている改憲案をこの点で明確に批判することが必要である。
自民党の改憲案は四項目(@自衛隊の明記A緊急事態条項の創設B参院選合区の解消C教育無償化)に絞られているが、そのうちとりわけ現行九条の1項、2項を残したまま3項に自衛隊を明記するという、昨年五月三日の日本会議系改憲集会へのビデオメッセージと読売新聞インタビューで安倍首相本人が提起した案については、安倍のライバルを自認している石破茂(元自民党幹事長・防衛相)は、九条2項(陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない)の削除を求める態度を崩してはいない。しかし、これまでの自民党の立場に忠実な石破案は少数派にとどまっている。

今こそ安倍政権打倒へ!


三月の自民党大会で「改憲四項目」が決定され、憲法審査会での論議を経て、通常国会の会期大幅延長により、今国会で改憲案を三分の二の多数で発議するというスケジュールが描かれている。仮に今国会での発議ができなくても、九月の自民党大会で安倍首相の総裁三選を実現した後の秋の臨時国会で三分の二の多数により、希望の党や日本維新の会をも巻き込んだ形で改憲発議に踏み込むプランも想定されている。
われわれは何よりも、衆参両院における改憲発議阻止のための闘いに全力を上げよう。この闘いをどれほど大きく作り出すことができるかによってのみ、議会内の力関係で仮に「発議」が強行された場合でも「国民投票」で安倍改憲の意図を打ち砕き、安倍政権打倒を実現する広範な社会的運動を創り出すことができるだろう。その点で待機主義に陥ってはならない。
安倍改憲阻止の闘いは、同時に朝鮮半島での戦争を阻止し、韓国・北朝鮮の民衆とともに平和と人権の東アジアを作り出すための闘い、そして基地のない沖縄を作り出すための闘いと一体のものである。
それは同時に、反原発とエコロジーのための運動、そして安倍政権が重点課題として強調する「働き方改革」に反対する闘い、労働現場での権利破壊を打ち破る行動、さらには「天皇代替わり」キャンペーンや「東京五輪」など国家主義的・排外主義の奔流に掉さすあらゆる動きとの対決とも連動した人権と民主主義のための運動に並行して展開されるべきであることは言うまでもない。
今進められている三〇〇〇万人署名の達成を目指すとともに、労働運動、反原発・エコロジー運動、反戦・反基地・沖縄連帯の闘い、「天皇代替わり」や東京五輪に反対する運動の中からも「安倍改憲」阻止を自らの課題として意識的に取り組んでいこう。
改憲阻止・安倍政権打倒へ!(一月二八日 平井純一)


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