寄稿
反核WSFとCOP23対抗アクション (3)
カーニバルの日に市内デモ
寺本 勉(ATTAC関西グループ)
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自然の権利国際法廷
一一月七日と八日の二日間、ボン市内のライン州立博物館地下ホールで、自然の権利国際法廷が開かれた。今回が四回目となるこの国際法廷は「自然の権利のための国際連合」が主催し、協賛団体として、ロックフェラー財団やドイツ緑の党、ローザ・ルクセンブルグ財団などが名を連ねている。そして、「エコシステムが存在・持続し、その生命のサイクルを維持・再生する権利を持つことを法廷の場で法的な立場から承認して、環境保護についての体系的なオルタナティブを提供する」ことを掲げて、七つの案件について審理が進められた。
七つの案件とは、「気候変動と誤ったエネルギー解決策」「自然の金融化・REDD+」「ドイツ・ハンバッハ森における褐炭採掘」「マザーアースを守る先住民への違反行為」「スペイン・アルメリアにおける水の強奪」「アマゾンに対する脅威」「自然に対する貿易協定の影響」である。
裁判長は、アメリカの先住民「ディネ・ダコタ」出身で、先住民環境ネットワークのトム・ゴールドトゥースさん。八名の判事の中には、エクアドルの前制憲議会代表やアルゼンチンの上院議員、ドイツの前国会議員、ケニア・南アフリカ・アメリカ・イタリアのNGOメンバーが含まれていた。壇上には、向かって右から、検事、判事団(中央に裁判長)、書記、証言席の順に並んでいて、マザーアースを擁護する二人の検事が、それぞれの案件について、告発者・専門家・被害者から証言を求めていくという形式で進行した。
私が参加できたのは、八日におこなわれた審理のうち、「アマゾンに対する脅威」のボリビア・ティプニス地域での道路建設問題、フランス領ギアナ・モントーユ鉱山開発プロジェクト、および「自然に対する貿易協定の影響」だった。
仏領ギアナでの鉱山開発告発
ボリビア・ティプニス地域での道路建設は、民衆気候サミットでも取り上げられていた(前号参照)。フランス領ギアナ・モントーユ鉱山開発は、ロシアとカナダの合弁企業によって推進され、二〇一八年にも開始されようとしている。工業用金採掘はいまでも住民と環境に大きな悪影響を与えている。
法廷での証言者は、「この地域は生物多様性の宝庫であり、六つの先住民族、約一万五〇〇〇人が生活している。鉱山開発のために、彼らが昔から生活してきた土地が企業に売り払われている」「二つの自然保護区に挟まれた区域で鉱山開発が進み、一日に二〇トンのダイナマイトを使って、森林を破壊している。シアン化合物を掘り出した後の廃棄物処理が最大の問題で、酸を含んだ汚染水が大量に発生し、それを貯蔵する池のダムが決壊する事故が二〇〇〇年以降で二五件も起きた。このプロジェクトによって、フランス領ギアナの二酸化炭素排出量は五〇%増加し、膨大なエネルギーが必要とされるため、バイオマス燃料として大量の樹木が伐採されている」と現状を告発した。
先住民のクリストールさんは「自分の名前はフランス流につけられているが、自分たちのことばでは“ヤヌアナ”と呼ぶ」と自己紹介したあと、「鉱山開発のためにすでにアマゾン流域は深刻な汚染に見舞われている。非合法な採掘も横行している。フランスは『人権の母国』のような顔をしているが、われわれ先住民の権利は全く尊重しようとしない。このプロジェクトはすでに二〇年にわたって続けられてきた。正直、この法廷に来ることを躊躇していたが、何でもやれることはやろうと思ってやって来た。昨日からの証言を聞いて、世界中の先住民兄弟姉妹が同じような状況におかれ、抵抗を続けていることを知り、勇気づけられた。われわれの闘いは先住民の権利を奪い返す闘いであり、途中で止めるわけにはいかないのだ」と力強く訴えた。
自由貿易協定が自然を破壊する
案件「自然に対する貿易協定の影響」では、カナダのマウデ・バーロウさんが概括的な告発をおこなった。
「多国籍企業が自由貿易協定で望んでいることは、『低賃金の国への生産の自由な移動』『全世界のエネルギー・鉱物資源・水への自由なアクセス』『資本を規制し人権を守る法律や規制の撤廃』の三つである。特に、ISDS条項は自然環境に対する脅威だ。環境を守る法律や規制によって多国籍企業の活動を制限すると、その政府が訴えられ、莫大な賠償金を払わされる。IMFや世界銀行が推し進める自由貿易協定は、地球にとって有害であり、それに代わる貿易協定をめざす必要がある」。
被害者からの証言では、モコエナさん(南アフリカ)、スコマさん(インド)、ジーサス・バスケスさん(プエルトリコ)が証言台に立った。
*モコエナさん
南アフリカでは、二〇一
六年、政府が農業への多国籍企業の参入を認めた。その結果、モンサントなどの多国籍アグリ企業は、遺伝子組み換え作物や農薬、化学肥料などを使った農家の規模拡大、単一品種栽培などを強力に進めている。こうした工業化された農業は、小規模農家に打撃を与えるだけでなく、自然環境にも悪影響を与える。
*スコマさん
原発が気候変動の解決策であるという誤った認識を原子力ロビーは宣伝している。しかし、核廃棄物の存在こそがマザーアースへの脅威だ。
*ジーサス・バスケスさん
巨大な種子企業が農民に種子を供給し、プエルトリコの農業を支配してしまっている。これらの企業は農民を従わせることで、水・土地・コミュニティ、そしてマザーアースを再植民地化しているのだ。遺伝子組み換え作物はマザーアースが生み出したものではなく、その栽培はマザーアースの権利の侵害である。伝統的な農業では、農民自らが種子を保存し、環境を守りながら、土地・水を使ってきた。ビア・カンペシーナは、こうした伝統的農業をアグリビジネスから守るために闘う。
このようにして七つの案件全ての審理が終了した後。二人の検事が最終論告をおこない、判事からのコメント、裁判長からの発言があり、国際法廷は終了した。検事役の一人、エクアドルのラミロ・アビラさんは、手振り身振りを交えながら、スペイン語で情熱的に論告を述べた。「資本主義が自然を破壊している以上、新たなパラダイムが必要だ。政府・資本主義・多国籍企業によるマザーアースの権利、自然の権利への侵害は、この法廷で明らかにされた証言によって明らかである」。
もう一人の検事役、アメリカのリンダ・シーハンさんは、打って変わって静かな口調で、「私たちの心が、”持続可能な経済成長”とか”グリーン経済”とかのことばによって、植民地化されている。私たちの心を脱植民地化して、自然との関係を作り出そう。原子力ではなく、風力や太陽光を、自然から奪うのではなく自然と共生したエネルギーを。私たちはマザーアースの声に耳を傾けなければならない」とコメントした。
裁判長は「資本は自らの利益と経済成長のために、化石燃料を拡充しようとしている。トランプもまたビジネスマンであり、気候変動を否定している。ビジネスは、マザーアースに対する戦争を仕掛けている。マザーアースの『聖なる』権利を『自然法』に基づく権利として確立することが重要だ」と国際法廷の意義を述べた。
「原発ノー!石炭ノー!」
一一日は、ケルンでカーニバルがあり、朝早くから着ぐるみやコスプレをした人々が世代を超えて、ケルン市内を歩き回っていた。ケルン中央駅に着く列車からは、カラフルな衣装に身を包んで、手には缶ビールや酒瓶を持った人々が大挙して降り立っていた。この日一日は街中でどんちゃん騒ぎになるらしい。その中をボン市内での気候正義を求めるデモに参加するため、国鉄に乗り込んだ。列車の中は酒臭い。
一〇時三〇分から始まる集会に向けて、ボン中央駅近くのバスターミナルの広場には、降り続く雨の中、大勢の参加者が集まってくる。服装は、カーニバルにそのまま行っても充分通用するような、カラフルな衣装だ。特に目立ったのは、ドイツの巨大エネルギー企業であるRWE社(ライン・ヴェストファーレン電力会社)による石炭開発に反対するグループ。RWE社は ハンバッハ炭鉱で大々的に褐炭の露天掘り採掘をおこなっており、年間四〇〇〇万トンの褐炭を生産し、その一部は専用鉄道で自社の石炭火力発電所に輸送し ている。採炭を認可された鉱区内で樹木を切り倒して、採掘地域を広げようとしているため、電動のこぎりの張りぼてを持ってのパフォーマンスも展開された。
ATTACドイツのオレンジ色ののぼり旗がいくつもみられる。参加者は思い思いのバナーを持ち、さまざまなコスチュームや小道具、祭りの山車みたいな大道具まで用意して、気候正義をアピールする気満々という感じだ。出発前の集会では、ATTACドイツのオレンジ色のヤッケを着たスタッフが、シュプレヒコールの音頭をとる。脱原発のバナーも多い。
二〇〇〇人のデモの先頭には、色とりどりのイラストを散らしたバナーを持つ人々が立ち、続いて幅三m、長さが数十mに達する巨大バナー二枚を両側で持ちながら、参加者が行進していく。ATTACドイツのサウンドカーから乗りの良い音楽が流れる中、子どもたちが大きな地球儀を転がし、「気候を変えるのではなく、システムを変えよう」というバナーを先頭に、音楽にあわせて身体を揺さぶりながら、デモ隊が続いていく。沿道では、建物から手を振る人もいる。デモ隊は、アデナウアー通り、ウィリー・ブラント通りを南下して、一路COP23会場近くへ。デモの後ろの方には、トランプ大統領のそっくりさんや、沈み行く地球船、骸骨の彫像などの山車が続いていく。
解散地点の集会では、「何を求める?」「気候正義」「いつ?」「今すぐ」という掛け合いのコールや「ノーモア・ヒロシマ」「ノーモア・ナガサキ」、そして「ノーモア・フクシマ」とコールが呼びかけられ、参加者は大きな声で応えていた。
COP23と対抗アクション
今回のCOP23では、パリ協定を実際に運用するルールブック作りが最大の課題と言われていた。しかし、実際には、気候変動の危険に現実にさらされている島国や途上国が、先進工業国に対して、温室効果ガス排出削減目標のさらなる引き上げ、気候変動で蒙った損失への補償、パリ協定開始(二〇二一年)以前の温室効果ガス削減の強化などを強く求めた。そして、それに対応する先進工業国の分裂・分岐、イニシアチブの欠如があらわとなった。その背後には、多国籍企業の影が見え隠れしている。
イギリス・カナダ主導で「脱石炭に向けたグローバル連合」が結成されたが、これらの国では原子力依存からの脱却は進んでいない。たとえば、フランスは二〇二三年までに石炭火力を廃止すると発表したものの、二〇二五年までに原発依存を五〇%にするという目標は延期している。一方、ドイツは二〇二二年までに原発を全面停止することになっているが、石炭火力からの撤退は明言せず、むしろ石炭採掘や石炭火力の増強をめざしている。こうした原子力依存か、石炭依存か、という不毛の選択の裏には、原子力ロビー、石炭ロビーの働きかけがあることは容易に想像可能だ。
そして、石炭と原子力の両方を推進する立場なのがアメリカと日本である。アメリカ政府がCOP23で唯一行なったイベントは「気候緩和における、よりクリーンで高効率の化石燃料および原子力の役割」というとんでもないもので、会場では環境NGOの抗議の声がこだました。日本はと言えば、COP会期中に日本投資開発銀行がインドネシアの石炭火力発電所への融資を決め、会場で環境NGOによる怒りの抗議行動が展開されたのである。
しかし、対抗アクションにおいては、ハンバッハ炭鉱の採掘拡大に反対するグループ(鉱区内の森の中で樹上に小屋を建てて活動している)と「原子力は気候変動の解決策ではない」というバナーを掲げた脱原発グループがともに参加し、COP23での先進工業国の分岐とは対照的に、運動の中で脱石炭と脱原発のつながりを実現した。
解散集会でも、ビア・カンペシーナ代表が「このままの生活を続ければ、人類は滅びてしまう」と成長を前提としない社会への転換を訴えていた。つまり、石炭でも原子力でもなく、経済的・社会的・文化的システムを変えることによってのみ気候変動を止めことができるというメッセージが対抗アクションでは鮮明に提起されていたのである。
COP24に向け「システム変えよう」
気候正義を実現する運動の中で掲げられている「システム・チェンジ」(システムを変えよう)というスローガンは、ある意味では世界社会フォーラムの「もう一つの世界は可能だ」より急進的であると言えよう。新自由主義的グローバリゼーションのもとにある資本主義システムでは気候変動を食い止めることはできない、資本主義に代わるシステムを目指さなければならないというメッセージが含まれているからである。
来年のCOP24は、ポーランドで開かれる。ポーランドは石炭大国であり、COP19が同国で開かれたとき、石炭を含む化石燃料の効率的利用を推進するセミナーを同時に開催し、ひんしゅくを買った経緯がある。COP23には、名だたる多国籍企業がスポンサーについていた。ポーランドが議長国となり、多国籍企業に支援されたCOP24で、果たして二℃以下というパリ協定の目標達成(一.五℃以下は言うに及ばず)に足る温室効果ガス削減に道をつけられるのだろうか? 気候正義を求める運動のうねりを拡大できるかどうかが、今こそ決定的である。 (おわり)
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