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    かけはし2017.年12月11日号

反戦・核兵器廃絶の民衆運動を


朝鮮による「ICBM」発射について

軍事的挑発・軍事的対抗の
悪の連鎖を断ち切ろう!

木下 正


 一一月二九日未明、北朝鮮は米本土に届く射程を持つICBM「火星15」を発射した。二カ月半におよぶ「沈黙」を破って発射したICBMは、米トランプ政権の動向とも重なって朝鮮半島での戦争危機を一段とエスカレートさせている。挑発の連鎖と核戦争危機を止める東アジアの民衆連帯を!(編集部)

1 はじめに

 米国のトランプ大統領が一一月五〜一四日の日程で、はじめてのアジア歴訪を行った。日本、韓国、中国、ベトナム、フィリピンの各首都を訪問するなかでトランプ大統領は、国連制裁を無視して核兵器開発を強行する朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)への圧力を強化するため、一致団結して取り組むよう各国に呼びかけた。一方で朝鮮は一一月二九日早朝、米国本土に到達する可能性の高い大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」を日本に向けて発射し、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。今回のミサイル発射においては、いくつかの注目すべき点がみられた。まず今回のミサイル発射の概要と背景について考察してみる。

2 弾道ミサイル発射の概要

 二〇一七年八月二九日、そして前回二〇一七年九月一五日の弾道ミサイル発射の際には、首都平壌近郊の順安国際空港近郊から発射されたが、今回発射された弾道ミサイル「火星15」は、二〇一七年七月二九日に弾道ミサイル「火星14」が発射された際と同じ、慈江道舞坪里付近からであった。朝鮮が弾道ミサイルを発射するのは七五日前の九月一五日に日本海に向けて発射した以来のことである。また朝鮮が発射した弾道ミサイルが日本の上空に近づいたのは今年九月一五日以来である。今回一一月二九日の弾道ミサイル「火星15」発射は、金正恩氏の「親筆命令」(注1)によって執行された。今回の弾道ミサイル発射では、いくつか注目すべき点が見られた。
第一に、発射、そして発射方向の事前予告なしにミサイルが発射されたことである。今年八月二九日の中距離弾道ミサイル「火星12」の発射以来これまで、朝鮮は発射、そして発射方向を事前に予告しないで発射しており、今年の朝鮮によるミサイル発射には異例が続いている。
第二に、ミサイルが未明に発射されていることである。未明の発射は三月二二日以来となる。朝鮮は二〇一七年、一六回のミサイル発射実験を行ってきたが、未明にミサイルが発射されたのは今回を含め二回のみである。
第三に、今回発射された弾道ミサイルの到達高度が過去最高の四五〇〇キロであった点である。
第四に、発射された弾道ミサイルが米本土全域を射程に入れたICBMミサイルという点である。
今回と、過去二回のミサイルの射程距離は、それぞれ以下のとおりである。
二〇一七年八月二九日:二七〇〇q
二〇一七年九月一五日:三七〇〇q
二〇一七年一一月二九日:五五〇〇qをはるかに超える距離
二〇一七年八月二九日、二〇一七年九月一五日、二〇一七年一一月二九日と、発射実験を重ねるごとに射程距離が伸びている。ちなみに平壌から米国の各都市までの距離は以下のとおりである。
平壌からグアムまで約三四〇〇q。
平壌からアラスカまで約六〇〇〇q。
平壌からワシントン約一一〇〇〇q

 以上のように今回の弾道ミサイル発射において、疑問点および注目するべき点がいくつか見られた。次項では、今回の弾道ミサイル発射背景について考察する。

3 弾道ミサイル発射の背景


二章で述べたように二〇一七年、朝鮮は今回を含めて一六回のミサイルを発射してきた。二〇一六年は合計で一七回のミサイル発射実験が行われたが、朝鮮国民へのアピールの意味では、二〇一七年、あと一回以上ミサイル発射実験が強行されるおそれがある。二〇一七年八月二九日、そして前回二〇一七年九月一五日に弾道ミサイルが発射された際は、平壌市民へのアピールを目的として首都平壌近郊の順安国際空港近郊からミサイルが発射された。
平壌近郊からミサイルが発射されたのは一九九三年に最初の朝鮮によるミサイル発射実験が行われて以来二回のみである。科学重視政策を掲げる朝鮮にとって、弾道ミサイル発射実験は朝鮮国民に対する国威高揚の役割を果たしている。また九月一五日以来、七五日間ミサイル発射実験が行われなかった背景としては、まずは核と経済の並進路線同時発展を標榜してきた金正恩氏による経済開発重視のアピールが挙げられる。九月一五日以来、金正恩氏は多くの経済関連の現地指導を行ってきた(注2)。また大気圏再突入時の弾道ミサイルの技術的問題の存在があったことも予想される。
前章では、今回のミサイル発射における四つの注目すべき点を挙げたが、その背景として第一と第二については、奇襲能力の高さを誇示する狙いがうかがえる。
第三と第四については、金正恩政権が体制保持のためのICBM技術を着実に向上させていることがうかがえる。ミサイルの射程距離を見ると、今年九月一五日の時点で、グアムまでミサイルの到達が可能である。今回一一月二九日のミサイルの飛行距離は五五〇〇qをはるかに超える距離であったため、すでに朝鮮の弾道ミサイルは、米国本土のアラスカまで到達する能力を有していることになる。
「火星15」の射程距離「五五〇〇qをはるかに超える距離」は、一一月二九日朝に小野寺五典防衛相が明らかにしたものであるが、韓国国防省が一二月一日に韓国国会に公表した「火星15」に関する分析結果によると、「火星15」を通常角度で発射した場合、一万三〇〇〇キロ以上飛行可能で、ワシントンが射程に入るという。朝鮮の保有するICBMは、米国本土に到達する飛行距離を有しているということになる。したがって朝鮮はすでに、米国のトランプ大統領の武力行使につながる「レッドライン」をすでに超えてしまった可能性が高い。現在の緊迫した東アジアの情勢は、極めて危険な結果をもたらす可能性がある。

4 東アジアで今、問われること

 朝鮮は今後も体制維持のため、並進路線と科学重視政策を朝鮮国民にアピールしつつ、東アジアのみならず米国本土に射程を置いたミサイルおよび核開発を継続していくであろう。地理上、朝鮮がミサイルを南方に発射した場合には、アメリカを必要以上に刺激する。また友好国のロシア、中国を避ける意味で、今後も今回と同じ日本の方向へのミサイル発射が継続されることが予想される。
一方で気になるのは、韓国の動きである。前回九月一五日の朝鮮によるミサイル発射実験の際に韓国は、朝鮮のミサイル発射に対抗して、日本海側に玄武二型ミサイルを発射した。玄武二型ミサイルは、韓国が開発した朝鮮への攻撃を主目的とした弾道ミサイルである。今後も継続が予想される在韓米軍と連携した韓国による朝鮮への軍事的けん制は、東アジアの緊張の一因となるであろう。それに加え朝鮮は、一一月二九日のミサイル発射によって米国のトランプ大統領の武力行使につながる「レッドライン」をすでに超えてしまった可能性が高い。アジアには大量の米軍が駐留しており、東アジアの情勢は、さらなる危険な段階にいたる可能性がある(注3)。

 東アジアにおける止むことのない軍事的挑発・軍事的対抗の悪の連鎖を断ち切るにはどのようにすればいいのであろうか?

 日本と韓国も、朝鮮への圧力を高めるための実効的手段は、ほとんどない。一方で中国は日本や韓国とは異なる。中国は、朝鮮を破綻に追い込む具体的な手段を、いくつも有しているからである。例えば朝鮮に送り込んでいる原油のパイプを停止すれば、朝鮮の国民の生活は成り立たなくなる。
今回の朝鮮のミサイル発射も、習近平国家主席の特使として一一月一七日より朝鮮を訪朝していた中国共産党中央対外連絡部(中連部)の宋濤部長が一一月二〇日に帰国してから発射された。宋濤部長の朝鮮訪問については不明な点が多いが(注4)、切迫した情勢が一一月一七日周辺に発生していたと思われる。中国指導部の朝鮮指導部への影響力は完全とはいえないが、中国が今後も朝鮮半島情勢の緊張緩和の一つのカギとなるであろう。
拡大する朝鮮半島における緊張の打開のために、今後も反戦運動を担う労働者・民衆の責任は大きい。また、進歩的勢力の動員、そして東アジアの反戦勢力、そしてインド、パキスタン、日本、フィリピンなど核廃絶に取り組んでいる第四インターナショナルを含む左翼潮流の運動の強化が急がれる。われわれ労働者・民衆は、米国、それに追随する日本政府、金正恩政権、そして東アジアにおける軍備拡大競争の一端を担う中国にも厳しい批判の目を向けていかなければならない。世界の労働者・民衆の声を結集させて、東アジアにおける軍備拡大競争、核兵器とミサイルの「常態化」にノーをつきつけよう。

(注1)一一月三〇日木曜日付の労働新聞に掲載された政治論文「万歳、万歳、万々歳」によると、金正恩朝鮮労働党委員長は以下の親筆による命令を発令した。
「試験発射を承認する
一一月二九日明け方に断行! 党と祖国のために勇敢に発射せよ! 金正恩
2017・11・28」(木下訳)

(注2)九月一五日以来、金正恩氏は合計六回の経済関連の現地指導を行ってきた。内訳は以下のとおりである。
順天ナマズ工場を現地指導 (11・28)
勝利自動車連合企業所を現地指導 (11・21)
金星トラクター工場現地指導 (11・15)
3月16日工場(自動車工場)を現地指導 (11・04)
新たに改築された平壌化粧品工場を現地指導 (10・29)
新たに改築されたリュウォン靴工場を現地指導 (10・19)

 朝鮮国民の食糧事情を改善するためのナマズ工場、自動車工場、トラクター工場、化粧品工場、靴工場など、経済分野における幅広い分野の現地指導が行われた。
そのうち自動車関連の現地指導は二回行われた。勝利自動車連合企業所は、大部分の朝鮮国産の自動車が生産されてきた工場である。また注目すべき点は、一一月四日の時点で三回連続の製造現場への現地指導が行われたことである。
上記の他に九月三〇日には、第810軍部隊傘下の1116号農場への現地指導が行われた。

(注3)
The Military Balance 2003によると、世界の全米軍兵力の37%はアジアに集中している。また海外における米軍兵力の最大駐留拠点は日本で(39,623人)、韓国は3位である(23297人)。

(注4)二〇〇七年の第17回党大会後特使として訪朝した劉雲山中央宣伝部長と二〇一二年の第一八回党大会後の李建国全人大副委員長が権力序列二五位以内の政治局員だったことに比べると、中央委員(権力序列二〇四位まで)の宋部長は特使としては一段階序列が低い。権力序列の低い特使が金正恩との面談の根回しもせずに朝鮮を訪問した背景として、緊急に中国の特使が朝鮮に入国せざるを得ない切迫した情勢が一一月一七日周辺に発生していたことがうかがえる。


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