「戦争大統領」トランプの東アジア歴訪
今こそ民衆連帯の真価が問われる!
|
あからさまな戦争挑発
一一月五日、アジア歴訪の旅で最初に日本を訪問したトランプ米大統領が舞い降りたのは、米軍横田基地だった。一九七四年一一月のフォード大統領以来繰り返されてきた米国大統領の訪日で、横田基地に降りたのはトランプが初めてである(ちなみに米国大統領が成田空港を使ったこともなく、ほとんどが羽田で、例外的に大阪国際空港や、中部国際空港が使われたことがある)。そして一一月七日に韓国へ向けて飛び立ったのも横田基地からであった。
トランプは横田基地での第一声で、米軍人や自衛隊員を前にして米軍将兵たちを称賛しただけではなく米軍と「肩を並べて」任務についている自衛隊将校の名前まで挙げて激賞し、「ありがとう」と四度も繰り返した。米軍がアジアでのプレゼンスを保持するためには、在日米軍基地、そして米軍とともに共同作戦を展開する自衛隊の存在が不可欠であることを、横田の第一声の中でアピールしたのである。
まさに「戦争大統領」としての面目躍如というべきだ。この演説の中に、今回のアジア歴訪の最も重要な目的の一つがはっきりと浮かび上がっている。すなわち北朝鮮・金正恩(キム・ジョンウン)体制によるICBMと核兵器開発に対して、核戦争をもふくんだ対応にのりだすことである。そしてトランプと安倍はそのためにも「集団的自衛権の行使」による米軍の戦争への自衛隊の参戦を可能にした二〇一五年の戦争法が果たす役割を、現実の朝鮮半島核戦争危機の中であらためて強く確認したのである。
来日当日のトランプ・安倍のゴルフ、銀座のレストランでの会食は、まさに朝鮮半島核戦争危機という状況の下での、日米の軍事的協力・共同作戦、すなわち北朝鮮への軍事的オプションを含んだ強硬路線を確認するものだった。
安倍首相が、それにゴーサインを出したことは明らかだ。
「武器セールスマン」
一一月六日、トランプは天皇・皇后と会見した後、安倍首相らとの首脳会談に臨んだ。安倍首相との会談後の共同会見では、トランプは「『戦略的忍耐』の時代は終わった」と語り、安倍も「日米が一〇〇%共にあることを確認した」と呼応した。そして日米両国が北朝鮮に「最大限の圧力」をかけることで一致した、とされている。また北朝鮮による拉致被害者との面会がセットされたことも、こうした北朝鮮への徹底した圧力の強化という政治目的に沿ったものであることは間違いない。「最大限の圧力」とはすなわち軍事的攻撃を意味することは誰にも分かる。
われわれは、北朝鮮による拉致犯罪(その対象は日本人だけではない)を糾弾し、被害者の即時帰還を求める。しかしそれはトランプの北朝鮮に対する戦争を正当化するものではない。拉致犯罪被害者の帰国、加害責任者の処罰と北朝鮮に対する軍事行動は全く別の問題である。
日米首脳会談では日本による米国製の武器の大量購入が確認されたことも重大だ。首脳会談後の記者会見でトランプは「非常に重要なのは、日本が膨大な兵器を追加で買うことだ」と指摘し、それは米国での雇用拡大のためにも重要、と強調した。
かつて一九六〇年代前半の高度成長時代に訪仏した、当時の池田首相に対して、フランスのドゴール大統領は「トランジスターラジオのセールスマン」と評したそうだが、トランプは自ら米国大資本・軍需産業の利益をあからさまに代表する「武器セールスマン」としての役割を果たしたのである。
「新朝鮮戦争」メッセージ
一一月七〜八日の韓国訪問はどうだったか。トランプは「北朝鮮が核兵器を断念するまで最大限の軍事的圧力をかける」ことでムン・ジェイン政権の同意を取り付けた。トランプは北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を強調し、ムン・ジェイン大統領もその認識に同意した。ムン大統領は「対話による平和構築」という持論を、「今は語るべきでない」として封印し「今は北朝鮮への制裁と圧迫に集中しなければならない」という立場を受け入れた。
トランプは韓国国会での演説で、核とミサイル開発を進める北朝鮮・キム・ジョンウン体制を「世界全体の脅威」と描き出し、また北朝鮮の民衆が直面している無権利、貧困、飢餓について詳細に語り、北朝鮮の「完全かつ検証可能で、不可逆的な非核化」を実現するために国際社会が協調することは「われわれの責任であり義務」と強調した。
「北朝鮮の独裁者に直接メッセージを届けるために私は朝鮮半島に来た」と切り出したこの演説の中でトランプは、西太平洋地域に原子力空母三隻(ロナルド・レーガン、セオドア・ルーズベルト、ニミッツ)を配置していることを公表した。一一月一〇日に米原子力空母と韓国海軍が参加した西太平洋での演習が行われることも発表された。
米原子力空母三隻による西太平洋での軍事演習は二〇〇七年にグアム沖で行われて以来一〇年ぶりであり、朝鮮半島近海に米空母三隻が接近するのは、一九七六年に南北国境付近の非武装地帯でポプラの木の枝を切り落としていた米軍将校が北朝鮮軍の兵士に殺害されて以来のことだという。
さらに一一月一二日からは海上自衛隊と米原子力空母三隻を中心にした艦隊が日本海で共同訓練に入る。こうしてトランプの日韓訪問は、北朝鮮を射程に入れた核戦争遂行演習と一体となって企てられている。そしてトランプは韓国政府に対しても、日本に対してと同様に数十億ドルに上る兵器購入を求めたのである。
習近平のしたたかさ
一一月八日からの中国訪問でも、アメリカにとっての最大の貿易赤字国である中国との関係で、米国製品の輸入拡大を通じた赤字幅の縮小などの貿易・経済問題での取引が最大の課題となった。トランプは北朝鮮の最大の後盾になっている中国に対して、北朝鮮への石油禁輸、貿易・金融取引禁止などの措置を求めていた。しかし中国政府は、北朝鮮への経済的圧力強化を求めるトランプの要求をかわし、米国との経済的取引の拡大という取引で対応した。トランプ側も事実上、中国政府による北朝鮮への経済的圧力のさらなる強化をごり押ししなかった。
トランプが北京空港に到着して二時間後、人民大会堂で、米国・中国の企業が生命科学や航空など先端領域で一九の項目に署名し、その契約は九〇億ドルに達した。しかしそれはほんの序の口だった。
「中国側はトランプ氏側が対中赤字の削減を北朝鮮問題と並ぶ課題と位置づけていると見定め、周到に準備を整えていた。そして九日、習氏がトランプ氏との共同会見で明らかにした額は前日の契約の約二八倍の二五〇〇億ドル(約二八兆円)」「お金の使い方にも中国のしたたかさはにじむ。今回中国が結んだ契約では、習指導部が成長戦略として重視する先端領域が目立った。米国との連携を深めて国内のイノベーションを促しつつ、巨額の契約を会談の目玉として打ち出すことで、南シナ海問題や人権問題の激化、北朝鮮問題を巡る対立の深まりを避けるのに役立てた」(朝日新聞 一一月一〇日)。
中国は、北朝鮮をめぐる米国からの軍事的圧力の要求をカネでかわし、トランプの側もそれ以上の措置を、少なくとも当面の間は中国に対して求めなかったのである。
トランプの迷走は続く
一一月一〇日からはかつて巨大な米軍基地が置かれ、アメリカのベトナム侵略戦争の拠点となっていたダナンでTPP(環太平洋経済連携協定)参加国首脳会議が開催されることになっていた。TPPから離脱したトランプは、中国が主張する「一帯一路」(海と陸のシルクロード構想)に対抗し、日本、インド、オーストラリアと連携して「自由で開かれたインド太平洋」構想を打ち出していた。
TPP参加国首脳会議ではTPPからの離脱を表明したトランプの米国を除く一一カ国(カナダ、メキシコ、ペルー、チリ、マレーシア、ベトナム、シンガポール、ブルネイ、オーストラリア、ニュージーランド、日本)で「大筋合意」と発表されたものの、カナダが「合意/不合意」で言を左右にしたため、その発効の先行きはきわめて不透明なものになった。米国がぬけたTPPの新名称は「CPTPP(包括的で先進的なTPP)」だが、それが現実に機能するものになるかは「霧の中」だとも報じられている。
ここでもトランプのアメリカの迷走と、朝鮮半島危機への敢えて戦争も辞さない政策、さらには国内政治においても側近の相次ぐ離反に示される政権の求心力の崩壊現象などによって、「アメリカファースト」を金科玉条とするトランプの、世界政治での影響力は確実に失われざるを得ない。言うまでもなくそれは、大統領選から一年を経たトランプ政権そのもののいっそうの内部分解、存続の危機へと発展する可能性さえもふくんでいる。アメリカ大統領としては異例の三〇%台の低支持率にあえぐトランプ政権の遠心化はさらに拡大するだろう。
すでに進んでいるトランプの世界的孤立化は、安倍政権の基盤を根本的にゆさぶることになるのは必然である。トランプ政権の危機と世界政治における影響力の低下はさらに深まっていくだろう。
朝鮮半島の戦争危機、トランプによる核の威嚇、安倍政権の追随、北朝鮮キム・ジョンウン政権の核挑発に反対し、韓国、沖縄の民衆とともに東アジアの平和をともに作り出そう。新自由主義に反対し民主主義と人権のために闘う中国の人びと、アジアの労働者民衆と連帯しよう。
安倍政権の九条改憲を阻止する闘いは、そうした東アジアさらには世界規模での平和と自由と人権とエコロジーのための闘いの不可分の一部なのである。 (11月12日 平井純一)
|