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    かけはし2017.年11月6日号

保守永久執権夢見た長期的戦略


「イミョンパククネ」国情院の文化統治

インターネットから映画まで掌握の野望


 「永久執権プラン」。
 先の保守政権9年間の国家情報院の活動は、1つの目標のために動いたものと見られる。イ・ミョンバク政府の「国情院テックル(コメント)事件」、パク・クネ政府の文化界「ブラック・リスト」と「ホワイト・リスト」事件はそれぞれに別個のことではない。パズルのように組み込まれた絵の一部だ。

戦略的インターネット世論誘導

 大部分の「プラン」は危機から始まる。2008年の「米国産牛肉輸入反対キャンドル・デモ」(BSEキャンドル・デモ)が最初の危機だった。イ・ミョンバク大統領の支持率は地に落ちていた。翌年の2009年初めに国情院長がウォン・セフンに代わった。ソウル市経営企画室長、ソウル市行政第1副市長、行政安企部(省)長官。彼の主要な履歴だ。主にソウル市で身を培い器用な彼が国情院長に赴任すると、「空から降りてきた人」という別名がついた。ウォン前院長はイ・ミョンバク大統領がソウル市長として在職していた時節のみごとな仕事の処理や公務員掌握の能力を示して厚い信認を得たものと伝えられた。政権の救援投手として大統領の腹心が登板したのだ。
ウォン前院長の就任後、?国内政治への介入?政府批判団体への攻撃など、旧中央情報部、安全企画部時代の悪習がよみがえった。国情院が新たに注目したのはインターネットを通じた世論の掌握工作だ。この工作の性格は「浄化」と「破壊」とに要約できる。
ウォン前院長は2011年10月21日、国情院全部署長会議で「いまインターネットをご覧になればお分かりだろうが、インターネット自体が従北左派勢力などがまるで占領しているかのように見えるが、これに対する対策をわれわれがキチンと立てていない。全職員がインターネット自体を『清掃』という姿勢で、そのような(左派)勢力らを引きずり出さなければならない」と語っている。汚染されたインターネット空間を「浄化」しなければならないとの趣旨だ。
第1段階の浄化が不可能な時には「破壊」工作が動員される。2015年2月9日のウォン前院長の控訴審判決文には「(国情院職員たちは『きょうのユーモア』コミュニティーに上ってきた)ユーモア、演芸、料理の掲示物に対してログインが必要でない推薦クリックをたくさんやってベスト掲示板に上げる活動も展開した。こうすれば、自分たちが判断した時、ベスト掲示板の上段から押し出すことができる」という部分が出てくる。政府に批判的な主張がインターネットに上がってきて、これを通じて巨大な世論が形成される連結の環を断絶する作業を繰り広げたのだ。掲示板の利用者はこのような状況を掲示板に「墨塗した」と表現している。
実際に国情院は2009年、BSEキャンドル・デモを通じて社会の世論を主導したポータルサイト・ダウム「アゴラ」の掲示板に集中的に介入した。これらの工作は政権をほめたたえ、批判勢力を批判するということにとどまらなかった。政権に脅威となる事件が起きれば芸能界のイシューなどを印象づけ、掲示板に「墨塗」して批判の世論が形成される流れを断ち切った。国情院の介入が続けられるとともにダウム・アゴラは公論の場としての機能をしだいに失うことになった。
このような工作は単純に眼前にさし迫った危機を克服しようとするレベルからなされたものではなかった。それよりももっと大きな絵があった。ウォン前院長は2010年7月19日、国情院全部署会議で「われわれ全職員が短期的問題よりも大きな流れに進まなければならない。わが国情院がやるべきことは大韓民国の憲法的な価値を導いて行く主体となることだ。心理専担チームと共に協調して巨視的で長期的な目標を持たなければならない」と語る。これは保守が永久執権をすることができるように国情院が「主体的」に乗り出しさまざまな工作を繰り広げなければならないことを意味するものだった。

映画産業にもアメとムチの介入

 これとともにイ・ミョンバク政権はインターネットでの世論工作やマスコミ掌握を試みた。BSEの問題点を報道したMBC〈PD手帳〉は検察の捜査を受けたし、朝・中・東(朝鮮日報、中央日報、東亜日報)などの保守新聞が主軸となった「総合編成チャンネル」の承認が達成された。
パク・クネ政権になって国情院が目をつけたのは映画などのコンテンツ産業だった。公論の場で流通されるコンテンツ自体を掌握しようとする試みが実現されたのだ。ある映画界関係者は「パク・クネ政府は文化界の進歩の性向に対する悩みが多かった。そこで、これを保守化しようとする考えがまん延していたようだ」と語った。さらに彼は「政権の初期から各保守団体がひき続き右派の映画を作らなければならない、との主張をしてきた。以降、いわゆる保守的価値を盛りこんだ各映画のファンディングの過程で『見えない手』が作用していることを感じた」と語った。このように変化した映画界の気流に映画振興委員会のある前職高位関係者は「2013年までは『含量未達』(要求を満たせなかった)右派映画などに投資支援を拒否することができた。われわれの間では右派のコンテンツを『魔がさした映画たち』だと呼んだ。彼らも映振委のほかに投資の経路を知らなかった。けれども〈弁護人〉以後、右派の映画などが方法を異にした。母胎ファンドを通じて右派映画の支援がなされ始めた。反面、〈弁護人〉の制作社や投資社には支援が中断された。強力な『見えない手』が介入しなければありえないこと」だと語った。
映画産業の生命力は多様性から出てくる。産業化の価値を印象づける〈国際市場〉や北韓(北朝鮮)との海上交戦の過程での殉国の軍人たちを扱った〈延坪海戦〉のような映画が作られるのも多様性の観点から必要なことだ。けれどもここに政治や権力が介入するのは次元を異にする問題だ。
故キム・ヨンハン元大統領秘書室民情首席が残した業務手帖を見ると、2014年12月18日付に「〈国際市場〉制作過程、投資者得がたいこと、問題あり、掌握・管掌機関必要」などと書かれている。青瓦台が映画を政治的に見ており、政権維持に有利な映画に投資がうまくできるように介入しなければならないという意志を示したのだ。反面、不利だと考えられる映画の制作には圧力を加える方法を悩んだ。2015年1月2日付のキム・ヨンハン業務手帖には「映画界の左派性向人物のネットワークの把握必要」という項目が出てくる。パク・クネ政府時期のメジャー投資配給社はもちろん、監督にまで接近したことが確認された国情院「エンターチーム」は、このように青瓦台が映画界に介入できるように手足の役割を果たしていたものと思われる。エンターチームが映画界の底辺から上がってきたおびただしい情報は、ブラックリスト、ホワイトリストの下絵を描くのに用いられたのはもちろん、映画制作に必要な投資を送りこんだり妨害するのにも用いられたものと推定される。
幸いにも「パク・クネ、チェ・スンシル・ゲート」が表面化するとともに、保守政権の9年間に続けられてきた「公論の場の掌握→右派コンテンツの活性化→保守世論の強化→政権の再創出」という長いプロジェクトもまた幕を下ろした。市民らの自由な討論がなされなければならない公論の場や多様性が保障されなければならない映画ならびに文化産業に国家機関が工作の影を落とすということが繰り返されてはダメだ。

自律性確保の第一歩は真相究明

 ある映画界関係者は「この問題は保守と進歩に分ける問題ではない。両者ともに映画や文化産業が自律性を持って成長できるようにしなければならない。自分たちと近い理由である所は支援し、違う所は投げすてるということはいつでも繰り返し得る。これを阻もうとするならば、これまで映画界でそもそもどんなことが行われてきたのか明白にされる必要がある」と語った。(「ハンギョレ21」第1179号、17年9月18日付、チョン・ファンボン記者、キム・ワン記者)

ブラックリスト判決文に闇の痕跡

広範囲の国情院介入浮き彫りに

しかし法の空白で免罪

 「青瓦台、国情院、文体部(省)を通じた支援排除のシステム」。
 チョ・ユンソン元文化体育観光部(省)長官の判決文に登場するこの表現は、昨年末に韓国社会を熱くした「文化界ブラックリスト」の作成と運用の原理を圧縮して示してくれる。この判決文は、ブラックリストを作り、執行した国家機関が文体部だけではないと指摘する。国情院もまた重要な役割を担当したのだ。

リスト作成、管
理、使用法まで
だが司法処理の過程で国情院の関係者は「一切」登場していない。不法行為はあったけれども責任を取る者が存在しないという法的空白が生じたのだ。実際にブラックリスト裁判はキム・キチュン元大統領秘書室長、キム・ジョンドク元文化体育観光部長官、キム・サンニュン元青瓦台教育文化首席など青瓦台や文体部の核心関係者たちを処罰対象とみなしている。だがキム元室長など主要な関係者たちの判決文には、〈ハンギョレ21〉が今回確認した「エンターチーム」の映画産業全般に対する不法な介入を除いたとしても、国情院がしでかした多様な不法行為の痕跡が残っている。国情院は民間人を査察してリストを作成し、その人々を排除するために動いた。
一例を見よう。2014年2月、キム元室長はモ・チョルミン教育文化首席に「文化芸術基金の支援対象選定の結果、左派団体、左傾作家などが含まれた。下半期の審査からこのような弊害が是正されるようにせよ」という趣旨の国情院情報報告文件を通達する。これは国情院が、文体部が支援した団体および個人に対する政治的性向を把握して青瓦台に報告したことを示している。キム某・元青瓦台秘書官の判決文にも「国情院の情報報告文件で政府の基金支援などを問題視した個人名、団体名、文体部から国情院に支援の是非についての検討、依頼して得た個人名、団体名」という内容が登場する。ブラックリストの作成と関連した基礎作業が終わった後、これに対するアップデートおよび執行が進められる過程で国情院が根深く介入していたことを推定させるところだ。
国情院の活動範囲は中央政府にとどまらない。これらは野党出身の自治体首長下で相対的に自律性の高い自治体傘下の文化団体まで査察の範囲内に含めさせた。キム元室長が2013年9月、モ・チョルミン教文首席に伝達した「市道文化財団の左偏向逸脱の振る舞いに対する是正が必要だ」という内容の国情院報告文件を見ると、広域自治体傘下の12の文化財団のうちソウル、光州、釜山、江原、忠北などを左偏向逸脱の振る舞いのケースとして指摘する。
国情院の業務は、動向把握によってリストを作成する水準を超えた。彼らは進歩的性向を持った人々を政府の支援対象から排除するための実行方法まで立案した。国情院はこの報告文書で「これまでの政府以降、政府支援の縮小およびスクリーン強化によって左性向の勢力がかなり萎縮しはしたものの、部分的に新たな拡散の企図が感知される。国立団体はフィルタリングのための公募祭の拡大および審査基準の強化が必要だ。韓芸総総長が左性向の教授を担当者として任命していることに留意し、研究実績がふるわない左性向教授の退出へと誘導が必要だ」と指摘した。

「補助金削減」
など細々と提案
国情院は市道文化財団の「逸脱形態の是正」と関係しても「文化界の健全人士」の主張を引用して「監査院・文体部が国費支援事業の監査などを通じて文化財団の運営実態を綿密に検討し、補助金の削減・不法脱法行為の法による対処措置などを通じて正常化をけん引しなければならない」「健全なメディア・団体と協調して、理念の偏向・予算の浪費および過度な分け前ぶんどりのあり方を知らせ国民の憤りを作り出し、警戒心をあおり立てる必要がある」などの方法を提案したりもした。(「ハンギョレ21」第1179号、17年9月18日付、キム・ファン記者、ハ・オヨン記者)

朝鮮半島通信

▲朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)の祖国平和統一委員会のウェブサイト「わが民族同士」とインターネットメディア「メアリ」は10月6日、昨年2月に操業停止している開城工業団地について、朝鮮の労働者が開城工業団地で働いているとしながら、「開城工業地区に対するすべての主権はわが共和国(朝鮮)にある」などと主張。これに対して韓国統一部の当局者は同日、韓国と北朝鮮の経済協力事業で現在は操業を中断している開城工業団地について、「北は開城工業団地内のわれわれの財産権を侵害しないようすべきだ」と述べた。
▲朝鮮労働党創建記念日の10月10日夜、アメリカ軍のB1B戦略爆撃機2機がグアムのアンダーセン空軍基地から飛び立ち、朝鮮半島に向かった。韓国空軍機と合流し、空対地ミサイル射撃訓練を実施した。
▲朝鮮中央通信は10月19日、金正恩朝鮮労働党委員長が李雪主夫人と改築された平壌の靴工場を視察したと報道。視察の日時は不明。視察には金正恩氏の妹の金与正党宣伝扇動部副部長らが同行した。
▲朝鮮労働党中央委員会は10月18日に開幕した中国共産党の第19回党大会に祝電を送った。朝鮮が中国への祝電を報道したのは昨年2016年6月30日、金正恩朝鮮労働党委員長が共産党創建95年に際し習近平国家主席に祝電を送って以来。祝電には「中朝親善」に関する言及はなかった。
▲韓国の朴槿恵前大統領は、収監されている拘置所で深刻な人権侵害を受けていると主張し、朴氏の国際法律業務を担当するMHグループが、スイス・ジュネーブの国連人権理事会に報告書を提出した。それに対し国連人権高等弁務官事務所は10月19日、「検討に値しない」とする立場を表明した。
▲韓国の文在寅政権の脱原発宣言を受け、建設を中断していた釜山近郊の新古里原発5、6号機について、大統領の諮問機関である有識者委員会は10月20日、「建設再開」の勧告案をまとめた。市民が参加した「討論型世論調査」の最終結果は、建設再開59・5%、中止40・5%だった。委員会の結果を受けて大統領府は、「結果を尊重する」と表明した。韓国の世論調査会社が18日に実施した世論調査では、建設中止が43・8%、再開が43・2%であった。



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