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    かけはし2017.年11月6日号

債務を緊縮の口実にさせてはならない


債務問題

エリック・トゥサンへのインタビュー

政府への民衆による圧力継続が
急進的改革実現のためには必須


 エリック・トゥサンは、三〇ヵ国以上で当地の委員会を抱え、公的であろうが私的であろうが、正統性のない債務に対し抜本的なオルタナティブを練り上げるために闘っている国際ネットワーク、「正統性のない債務取消委員会」(CADTM)の共同創設者であると共に、そのスポークスパーソンだ。彼に、「グローバル・リサーチ」のヴィクトル・ラストレスが今年八月インタビューした。

反緊縮闘争から債務との闘いへ


――活動家としてのあなたを振り返ると、あなたが数々の政治運動や社会運動で活動してきたことが分かる。あなたが、債務返済反対の闘争をあなたの主な運動にする、と決めたのはいつか?

 まったく早くからだ。一九八三年、われわれは人口二〇万以上の私の本拠であるリエージュ(ベルギー)で、極端な緊縮政策と闘わなければならなかった。返済すべき巨額な公的債務があるとの口実を使った政策だった。われわれは、その債務について戦闘的な監査を実行した。そしてそれが、われわれはその正統性に異議を突き付けることができる、と実感した最初の機会だった。正統性のない債務に返済してはならない、と要求する一つのキャンペーンが一九八六年リエージュで船出した。
それ以上に一九八二年、数多くの第三世界と称されている諸国は、すでに債務危機に冒されていた。そしてわれわれの闘争は、二人の主要な国際的人物の事例から刺激を受けた。その事例とは、一九八五年に債務返済に反対する南の諸国による共同戦線創出を呼びかけたフィデル・カストロの例、そして、同じ年キューバと同じ道にしたがったアフリカの指導者、ブルキナファソのトーマス・サンカラの例だ。
一九八九年、この情勢に関する私の分析は、南の問題に依然優先性があり続けているとしても、北でもまた債務の取り消しのために闘う必要性について私を確信させた。私はこれらの理由すべてによって、一九九〇年、第三世界債務取消委員会、CADTMの創立に参加した。そしてこの組織は二〇一六年にその名称を正統性のない債務取消委員会に変えた。

――正統性のない債務によってあなたが意味を与えているものは何か?

 それが表現しているものは、住民の全般的な利益に反して、特権的な少数の特定の利益に役立つように契約されたあらゆる債務だ。たとえば、金融危機に責任のある支配的エリートや銀行家といった少数が、それでも、国家資金で救出されてきた。それらの財政投入による救出が、スペイン、ポルトガル、ベルギー、また二、三年前の他の諸国で、そうであったように、公的債務爆発の引き金を引いてきた。正統性のない債務は同時に、債権者がとてつもない利益を上げる途方もない契約という脈絡の中で、あるいは、利率や一定の契約条件が法的に無効になる場合、非合法となる可能性もある。

私的債務でも正統性欠落あらわ


――CADTMは近頃、公的債務に加えてもう一つの問題にも焦点を当ててきた。あなたは私的債務について、つまりマイクロクレジット、抵当付き住宅ローン、学生ローン……の作用について話している。これらのタイプの債務はどのような作用を及ぼしているのか?

 この一〇年われわれは、家計が抱える正統性のない債務が全体として増大してきた、ということに注意を向けてきた。これは、米国でサブプライムバブル――返済不能の高いリスクを抱える人びとに与えられた抵当付き住宅ローン――と共に起きたことだ。五〇万件以上の悪質な住宅ローン契約を識別できた。ある場合には、契約当事者の署名すらなかった。それらの契約が電話を通して合意され、契約書が読まれることもなかったからだ。金融業者の非行のおかげで、二〇〇七年から今日までの間に、米国の一四〇〇万家族以上が彼らの家を追い出された。スペインでは、三〇万家族近くが追い出された。
学生の債務は、特に米国、英国、カナダ、日本で、私的な正統性のない債務の爆発におけるもう一つの形態だ。これらの国が教育部門での極端な新自由主義改革をこの間経験してきた国であることは、確実に言えることとして偶然ではない。そこで手段とされたものは、予算削減や奨学金廃止であり、それが多くの学生に、彼らの勉学をまかなうために借り入れに向かうことを余儀なくさせた。米国では、三人に二人の学生が、平均二万七〇〇〇ドルの負債を抱え、日本では、二人に一人が三万ドルという大枚を借りている。
さらに正統性のない私的債務の膨張におけるもう一つの事例がマイクロクレジットだ。二〇〇五年以来、マイクロクレジット売り込みの国際的キャンペーンが進行してきた。国連は、二〇〇五年を「マイクロクレジット国際年」と宣言した。マイクロクレジットの推進者であり、グラミン銀行創設者である、バングラデシュの経済学者、ムハンマド・ユヌスは、二〇〇六年にノーベル平和賞を受賞した。スペインのサパテロ、ブラジルのルラ、あるいはフランスのシラクといった国家首脳たちは、このイニシアティブに公的な支持を与えた。今はっきりしていることは、それはある種のワナであり、貧困をつくり出すもう一つの仕掛けだった、ということだ。

資本家たちの民衆蔑視も頂点に

――マイクロクレジットとはどのように機能しているのか?

 それは一般的に、一〇〇ドルから三〇〇ドルのローンといった形態をとる。グラミン銀行(バングラデシュでマイクロクレジットを供与した最初の組織)の場合、最初あなたは、この借り入れのために五人から二五人の保証人を求められただろう。つまり、借り手がこのローンの返済が不可能になると、彼や彼女の代わりに保証人が返済することになる、ということだ。
そして今では、一〇〇ドルのローンを求める者は、銀行への保証として頭金三〇ドルをつくらなければならない。だから純粋の借り入れは七〇ドルにしかならないだろう。同時に彼らは、一〇〇ドル総額に対して、三〇〜五〇%の利子を払わなければならない。借り手が返済不能となっても、銀行には三〇ドルの補償金が残る。
これは大がかりな詐欺だ。現在、一億六〇〇〇万人の人口をもつバングラデシュでは、二〇〇〇万人がマイクロクレジットを利用している。あなたがそれに考えをめぐらすとすれば、それは、どのような銀行口座も持たずに暮らしている世界の二〇億人の成人から利益を抜き取ろうとする、金融資本側の危険な戦略的動きなのだ。このインタビュー時点で、一億人近くの人々がマイクロクレジットを利用している。資本にとって、貧しい人びとと契約した二〇〇ユーロや三〇〇ユーロのローンははした金だが、しかし最終的に意味をもつのは利益を上げることなのだ。そしてマイクロクレジットの場合、その利益は、投資に対し二〇%から二五%の間のどこかにある。これは、資本家にとってはすばらしい数字になる。
――マイクロクレジットを求める人はそれ以前に、問題をいくつか抱えていたに違いないのだが……。

 もちろんそうだ。世界的規模で公共サービスの劣悪化がある。小規模農民たちは多くの地域で、公的な農業信用銀行を利用している。これらの銀行は、多くの発展途上諸国の右に向けた移行と歩をそろえて、そして世界銀行とIMFの推奨という脈絡の中で、マイクロクレジットの代行機関で置き換えられてきた。
小規模農民たちは、「緑の革命」(灌漑と化学肥料と農薬による高収量品種栽培、として農業近代化が囃し立てられた)をもって債務の重荷に入り込んだ。バイエル―モンサントのような多国籍資本から農薬と種を購入できるようなるために、だ。収穫が乏しく、彼らが返済できない場合、彼らはさらに債務の深みに入り込む。マイクロクレジットを受けているのは主に女性であること(統計によれば八一%)を忘れないようにしよう。そして最後に、彼らは貧困によってもっとも苦しんでいる人たちなのだ。
あなたはあなたの記事のいくつかで、時間差構造調整の戦略――闘争の統一を避けるために、一部門で緊縮方策を適用し、他の部門ではそうしない――を強調している。OECDは、その戦略の適用法を諸政権に伝える一つの指導書を発行することにより、そうしたことを支えることまで行ってきた。資本主義はその手の内を見せることをもはや恐れていない、などということはあり得るのだろうか?
そのように見える。世界銀行は何年もの間、定期的に一つの報告、「ビジネス業況」を発行してきた。そこには、その諸条件が大量レイオフに最も適した国、あるいは最悪の労働条件にある国が最高得点を得る、そうした諸国の分類が含まれているのだ。
重要なことは、雇用主の攻撃は公的債務の削減に関する政府の議論に依存しているということを、労働者が理解しなければならないということだ。大資本のスポークスパーソンは、マーガレット・サッチャーが権力を握る以前には決して明らかにしなかったような、一種の傲慢さを示している。今日彼らは、彼らの渇望と期待を表す点で、もっと恥知らずにさえなっている。

――米国とEU間の大西洋間自由貿易協定(TAFTA、大西洋間貿易投資パートナーシップ、TTIPとも呼ばれている)は保留されている。しかし、CETA(カナダ、EU間包括的経済貿易協定)は進みつつあり、批准の段階に達した。これも、資本主義の渇望と期待の一例だろうか?

 まさにそうだ。そしてそれは極めて重要な挑戦課題だ。われわれは、これらの協定と闘わなければならない。それらが批准されてしまえば、そしてすでに存在している他の国内的協定やEUの諸条約に加えられるならば、われわれはわれわれの権利すべてを失うことになるからだ。これらの協定は、民衆の利益と公共の福利に反している。

急進左翼には好機の窓がある

――あなたは二〇一五年に、「ギリシャの公的債務に関する真実探求委員会」に席を占めた。あなたはこの監査からどんな結論を導き出したのか?

 われわれはチプラス政権に、債務返済を凍結し、債務棚上げという一方的行動をもって債権者に立ち向かうよう助言した。しかしながらチプラスは債権者からの圧力の下に屈服を選んだ。そしてそれが住民にとってはまったくのトラウマとなった。私は当時アテネの労働者が住む地区に滞在していた。そこでの人びとの期待は明瞭だった。彼らは、国民投票ではっきり示したように、いわば独立した政府を支える用意ができていた。この投票結果にもかかわらず、チプラスは降伏を望んだ。つまり彼らには、二〇一五年七月五日に行われた国民投票におけるノー投票の勝利を利用する用意がなかった。ギリシャ民衆に対するこの降伏の影響は今も感じることができる。

――EU左翼のどこが間違っているのか? それが住民と結びつくことができずにいるのはなぜか?

 私が考えるに彼らは、急進的政策の適用に専心し、不公正な法律や協定にしたがわない勇気を欠いている。シリザは、緊縮から離れることを約束することで選挙に勝利したのだ。そして多くの国には、急進的左翼の政治的解決策に好意をもつかなり重要な住民層がいる。それが、米国のバーニー・サンダース、英国のジェレミー・コービン、シリザ、ポデモス、またジャンリュク・メランションが得た好成績に対する私の解釈だ。
最後の事例では、彼はマリーヌ・ルペンとは二%の差しかなく、こうして二〇一七年五月の大統領選二回戦進出にはほんのわずかのところにいた。彼は、それに対し一定のメディアが戦闘準備を整えていた急進左翼の主張を使って、その成果を得た。急進左翼は、一〇年前にはなかった好機の窓を確保している。左翼がより攻勢に立ち、より戦闘的、より急進的であれば、われわれは選挙に勝利を収め、何よりも、資本主義とその新自由主義政策から離れる政策を実行する、そうしたあらゆる機会を得ると思われる。

――左翼諸政党は自己抑制的ということか?

 確実にそうだ。急進左翼の多くの指導者と諸政党は、彼らが政府に入る機会を得ていると知る時、自ら彼らの綱領を限定しなければならないと考え、彼らの主張をリアルポリティークに合わせようと試みている。
危機の情勢から抜け出し、住民多数を利すると思われる構造的変革と社会的公正をもたらす機会は、依然存在している。しかしながら、急進的多数がその好機をつかまないとすれば、確実に極右がそうするだろう。

民衆の自己組織化が前進への鍵

――あなたは中でも、エクアドルのコレアやベネズエラのチャベスに助言を与えてきた。あなたは、これらのラテンアメリカ諸政権が大国に立ち向かうより大きな政治的意志をもっていた。と考えるか?

 彼らが政権を託された出発点ではそうだ。ベネズエラの場合、チャベスの下での最初の一〇年間、極めて前向きな諸方策がとられた。それは、ボリビアのエボ・モラレス、エクアドルのラファエル・コレアの場合も同じだった。次いで後になって彼らが取った諸方策は、より穏健で失望を呼ぶ、リアルポリティークとなった。
このすべてから私が学んだ教訓は、先の三事例が示すように、政権付託の最初の年月に抵抗し、決裂政策を適用することはあり得ることであるとはいえ、住民にとって基本となることは、自己組織化を進め、深い変革という路線に政権を留めるために、政権に圧力をかけること、というものだ。
私は、これらの政権に助言を与えた時、常に独立を保った、と言いたい。私はどの国家からも一セントも受け取らなかった。そして、その大臣や大統領ともどのような契約も結ばなかった。これは、いついかなる時でも全面的に批判する私の権利を保持するために、私が決して曲げないルールだ。

――近年あなたは債務問題に関し、スペインの「オープン・シティ」ネットワークに所属している一定の自治体に助言を与えてきた。総選挙後二年を経たそれらの動きを分析するとすれば、そのイニシアティブがもつ潜在力をあなたはどう評価するか?

 それは全面的に、それらの執行部が正統性のない債務や緊縮と対決する自治体戦線を本気で作り上げる気がどれほどあるか、にかかっている。そうした戦線が作り上げられるならば、それがモントロ法とスペイン憲法一三五条やその他にしたがわない真剣な行動を取る可能性が生まれるだろう。行動がまったく取られないのであれば、この国が高い希望とあらゆる市民運動出身の多くの善意溢れる人びとにより、巨大な潜在的可能性をもっているとしても、具体的なことは何も変わらないだろう。
変革を求める自治体議会が、単に心地好い宣言を出し、公的予算の透明化を高めるだけでは十分でない。それらが緊縮と闘うために団結しなければ、失望と士気阻喪をもたらすだけだろう。
たとえば私は、公共サービスの再自治体管理化について多くの事例をまだ見ていない。それは、これらの機関が行ったもっとも重要な約束の一つなのだ。それが簡単なことではないことを私は分かっているが、しかし憲法を利用する政府に対する直接の衝突なしには、また幅広い戦線の行動なしには、どのような進歩もないだろう。

国家にしかできないことがある


――ここで、債務に反対する闘争の武器とオルタナティブについて語り合いたい。あなたが大いに用いている仕組みの一つが監査だ。それは、透明性への切望を超えて、どれほどまで実際に変革をもたらす可能性があるのだろうか?

 それには巨大な潜在力がある。それが市民を、今まで債務の正統性について一度も疑いをもったことのない人びとを巻き込むからだ。この監査は、政府が不公正であるならば、その政策と行動の正統性に疑問を差し挟むよう人びとを導く。そしてあなたが負債の論理にいったん疑問を持ち始めれば、より高いレベルの自覚を得たことになる。市民が政府を友好的であり、危害を与えないと考えて、統制せず、彼らに圧力を加えない限り、実体的変化は何もないだろう。
急進的な政策の適用のためには勇気と強さを備えた政治勢力の存在が必要だ。しかしもっと重要なこととして、政府がその約束を満たさない時、住民が動員され、決定的に反乱に準備されていることが必要だ。これらの二つの条件がない限り、底深い構造的な変革は何もないだろう。

――あなたはあなたが書いたものの中で、別な急進左翼的方策を指摘している。それは、銀行の国有化のような、国家統制を通過しなければならない、というものだ。しかしあなたは、社会的で連帯を基礎とした経済がオルタナティブになるとは考えないのか?

 発展に向けた現場の連帯を基礎としたイニシアティブにとって、地方通貨の創出をはじめとして、消費者と労働の協同組合を組織することは基本となる。しかしあなたが社会的で連帯を基礎とした経済を発展させるとしても、社会の中での実体的な変化に引き金を引くには、十分な伝搬力にはならないだろう。
同時に必要となるものは、諸方策に着手し、諸々の法律を変え、憲法を変え、国際協定に反対し、その他を行う用意がある政府だ。これこそが、われわれが環境を重視した移行に進みたいならば、エネルギーの生産と配分がわれわれの統制下に置かれなければならない理由だ。核兵器や原発を解体することにより、国家はエネルギー部門を統制下に置いていることとなり、それを公共サービスに転換することが可能になるだろう。
金融の場合にも似たような進展があり得るだろう。HSBC、バークレイ、DB、サンタンデールといった大銀行に立ち向かうためには、同時に倫理性のある金融を発展させつつ、あなたは支配的な金融部門と対決しなければならないだろう。これらは、民衆に支持された政府の仕事だ。
社会的で連帯を基礎とした経済は非常に重要であり、われわれはそれに至急真剣に取り組まなければならない。しかしそれは、構造的変革をめざす制度的な闘いを犠牲にしたものではあり得ない。(「インターナショナルビューポイント」二〇一七年九月号)   



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