10.27
パブロ・ソロン/マリー・ルー講演会
成果と失敗、新しい挑戦
システムとしてのオルタナティブを
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「良く生きる」
という理念軸に
一〇月二七日夜、東京・御茶ノ水の連合会館で、「『水への権利』『マザーアースの権利』(国連決議)、ボリビアから世界へ」と題して、「パブロ・ソロン/マリー・ルー講演会」が開催された。パブロ・ソロンさんは先住民族出身の左派政権の下でボリビアの国連大使を務めた。ソロンさんのパートナーでもあるマリー・ルーさんも「グローバル森林連合」のメンバーで、「ビア・カンペシーナ」(国際的な農民団体)や「フォ―カス・オン・ザ・グローバルサウス」で活動している。この日の集会は、ATTAC Japan国際ネットワーク委員会、日本消費者連盟、水情報センター、地球的課題の実験村、TPPに反対する人々の運動、FoEジャパンなどで構成する首都圏実行委が主催した。
講演会を貫くメインテーマは「ビビール・ビエン」(良く生きる)。アンデスの先住民族の理念として自然ととともに生き、公正を重視し、経済成長を一義的追求目標とはしない価値観を指す。
服部綾乃さんの司会で進められた講演会では、まずパブロ・ソロンさんが報告。「ビビール・ビエン」はシステム的なオルタナティブであり、エコ・フェミニズム、脱グローバル化、「マザーアース」、「コモンズ」などの様々なオルタナティブが相互に補完し合うものだと指摘。「危機」とは個別的なものではなく既存のシステム全体の危機であることを強調した。以下講演要旨。
パブロ・ソロンさんの報告
「水紛争」が提起した課題
水の問題についてのオルタナティブは、それ単独ではなく、政治権力や家父長制とも関わっている。二〇〇〇年のコチャバンバの「水紛争」は外国の大企業による水道民営化への抵抗から始まった。水を取り戻して「国有化」「公営化」すれば問題は解決できると当初は考えていたが、なお二つの大きな問題が解決されていないと思う。
一つは「水と森林」の関係であり、もう一つは「水の管理と市民参加」というテーマである。ラパス(ボリビアの首都)では、水道のパイプラインはいきわたっているが、干ばつの中でまったく水が届かないこともあった。雨が少なくなったのは森林伐採の影響もある。また気候変動・温暖化によって雨が少なくなっている、という現実もある。水の問題を解決するためには企業から水を取り戻すだけではなく、水源の問題としても考えなければならない。
ボリビアの悪い習慣は、耕作地を広げるために森林を燃やすことだった。水の循環サイクルでは森はポンプの役割を果たしている。われわれは「水そのものの権利」を尊重すべきだ。人権保障のためには自然の権利を保障する必要がある。法律には書かれているが、尊重されているとは言えず、二〇〜三〇万ヘクタールの森林が伐採され、水の循環が破壊されている。
「水戦争」と言われたコチャバンバの闘争(一九九九〜二〇〇〇年にボリビアのコチャバンバで展開された水道民営化と水道料金値上げに反対する運動)はあったが、それ以後、人びとによる関与は弱まっている。
エネルギー転換
めぐる分岐とは
ボリビアではエネルギーは国有化されており、それ自体は重要だ。天然ガスの国有化によって、住宅・教育などの社会的プログラムが可能になった。しかし今、ボリビアの中で大きな闘争になっている問題は、政府が天然ガスを売って収益を上げようとしていることだ。気候変動に直面している社会は化石燃料(石油・石炭・天然ガス)の使用を減らさなければならない。
エネルギーの転換をどう進めていくかが問われている。政府は原子力発電の研究調査施設のために三億ドルの予算を計上した。「ビビール・ビエン」は、森や自然を破壊したり、核エネルギーを利用することとは相いれない。転換のためにはコミュニティーのエンパワーメントが求められている。「ビビール・ビエン」にはエネルギー生産のあり方を転換する必要があり、家父長制の問題、ジェンダー関係の転換が不可欠だ。エコ・フェミニズムの深化のためには、家父長制の転換とともに自然を尊重することが必要だ。われわれも自然の一部だということを理解しなければならない。自然の利用と女性を利用主義的に扱うことは結びついている。
法律上でジェンダーの問題が解決されているとしても、法律だけでは変わらない。女性への暴力は、日常生活、男女の関係の中でのありかたと結びついている。最初は政府を変えることが何より重要だと考えていた。二〇〇五年の選挙で左派が勝利し、新憲法が作られた。しかしそれだけでは解決にはならない。権力のロジックのままでよい政府を作ってもよい政策は実現できない。権力を取るだけではなく、私たち自身の対抗的力がなければ改革は進められない。
独立した労組、独立した農民組織などが必要であり、そうでないと権力の間違いをチェックできない。ボリビアでの進歩的政権の経験から学ぶのは重要だが、失敗の経験から学ぶことも重要だ。システム全体を変えるオルタナティブが必要なのだ。(文責編集部)
マリー・ルーさんの報告
森林破壊と気候変動
次に、マリー・ルーさん(グローバル森林連合)が報告した。マリー・ルーさんは、貿易のエキスパートとしてのWTO(世界貿易機関)と森林破壊に焦点を当てた。
WTOは貿易についての専門的な機関ではあるが、自由貿易、投資協定を通じてコミュニティーに重大な影響を及ぼしている。開発、貿易との関係で森林減少について明らかにし、オルタナティブを考えなければならない。森林減少の直接の要因は違法伐採、焼畑、山火事などさまざまだが「自然の商品化」、「木材と土地への持続不可能な需要」という二つの問題に焦点を当てて論じた。
マリー・ルーさんが例として挙げたのはポルトガルである。ポルトガルでは一二月から七月までほとんど雨が降らなかった。ポルトガルでは植林においてはユーカリの割合が非常に高い。ユーカリは表土を取り除いて地下水を使いつくし、他の種が生きる余地をなくし「緑の砂漠」を作り出してしまう。ユーカリが植えられている地には他の植物は何もない。恐ろしいことにユーカリはとても燃えやすい植物だ。ポルトガルでは今年六月一七日から一週間以上、ユーカリの森で火災が起こり、九つの自治体を巻き込んで六一人が死亡した。
大土地所有者が食肉牛の生産のために森を燃やし、開墾しようとすることが、気候変動と大きく関連している。米国やEUはアグリビジネスのために土地を奪い荒廃させてしまった。そのことはガーナの鶏肉産業や、パラグアイの遺伝子組み替え作物による自然・農業・エコロジーの破壊に示されていることだ。
マリー・ルーさんは産業的農業ではない自然と共存する農業的エコロジーの実践の中で、代替策はすでに行われている、と強調した。
自然との共生
めぐる模索へ
日本からはAMネットの堀内葵さんが、新自由主義ではない共生社会への実践は、公的機関によって情報へのアクセスが遮断されている状況の中でも、環境・ジェンダー平等・水への権利を求める闘争の中で進められていることが語られた。
またパブロ・ソロンさんやマリー・ルーさんへの質問への二人の回答の中では、ラテンアメリカでは国家歳入の多くが石油、天然ガスなどからもたらされていることの問題点(それは「ビビール・ビエン」とは言えない)や、連帯支援の活動は先住民・小農民の闘いの中にはあるが国全体には広がっていないこと、他者・自然との共生をどのように進めていくかについての模索の状況について率直な意見が語られた。(K)
10.21
韓国サンケン、キム・ウニョンさんを囲む集会
韓日労働者の連帯した力で
アジアから米軍基地一掃を
サード配備阻
止闘争の映像
埼玉県に本社があるサンケン電気が、韓国に設立した韓国サンケン。昨年九月に生産部門全員が解雇されて以来、組合員は一次、二次の日本遠征二九九日間を貫き、本社前などでの抗議活動と日本の多くの労組や支持者の支援を受けて、今年六月、闘い抜いた全員の原職復帰を勝ち取った。
一〇月二一日、おりしも国際反戦デー、衆院選前日、そして台風の襲来を予感させる天候のなか、文京区民センターにて、韓国サンケン労組のキム・ウニョンさん(指導委員)、オ・ヘジンさん(分会長)を招いた集会が開催された。
冒頭、最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD/サード)」配備阻止闘争の映像がスクリーンに映し出された。労働者と市民が機動隊の弾圧にも怯まず、体を張る。しかし機動隊は、座り込んでいる人々を無慈悲に叩きのめす。怒号と悲鳴が飛び交うシーンが、会場の参加者の胸を締めつけたまま集会は始まった。
労働者の国際
連帯で平和を
呼びかけ人を代表して、中岡基明さん(全労協事務局長)があいさつにたった。「安倍首相は北朝鮮の脅威を煽り、国難だと称して選挙を仕掛けてきた」、「朝鮮半島と日本の平和は、労働者が協力し連帯すれば勝ち取っていける」と、この集会の獲得目標を提示した。
メインの講演ではキム・ウニョンさんが、これまで支援してきた参加者を前に、「懐かしく、胸がいっぱいになる」と、万面の笑みを浮かべた。遠征時には、あたまを剃髪して鉢巻を巻きつけた戦闘的イメージが強かったが、いまは髪の毛を伸ばし落ち着いた印象を受けた。講演のテーマは「労働者の目で社会を!/韓日労働者の国際連帯」。
サンケン・韓国
と日本の現場
職場では皆が元気に働いていることを報告。その一方、大手メーカーからやってきた新社長を、最初の団交で諸要求掲げて追及したところ、一切社員の前に姿を現わさないとのこと(前社長は、争議解決直後に自殺)。韓国における労使の厳しい緊張関係を垣間見た。
今後の賃上げ・労働条件交渉で闘えるよう組織の若返りを図り、一緒に来日した若手のオ・ヘジンさんを分会長に起用した。地域社会との連帯活動や、政治活動も勢力的に行っているという。
そして日本の本社では、今月末まで一〇〇人のリストラが行われるという。かつて本社前では、次は日本の社員が解雇されると訴え続けたが無視された。もし連帯の要請があればすぐにでも応じるのだが、と残念そうに語った。
文政権のサード
配備に抗議
「キャンドルデモから登場した文在寅大統領の評価は、サード追加配備の強行により支持率が下がり、対中関係も悪化した。確かに光州民主化運動三七周年の記念式典へ参加し、犠牲者の名誉回復、市民虐殺事件の究明や、セウォル号遺族への公式謝罪と事故原因の徹底調査を約束したし、それを実践している。また公共部門での非正規労働者の正規採用や最低賃金の例をみない大幅アップ(一六・四%)、不当解雇を防ぐ指針づくりなど、評価すべき面は大きい。しかしそれをもってしても、サード配備は許せない」と批判。
「朝鮮戦争を経て米軍基地が数多く作られ(韓国:八三、日本:一一三)、七〇〇〇発近くを有する米軍が、朝鮮半島に危機的情勢を作り出している」。北朝鮮に核開発の口実を提供しているのはアメリカであり、「北朝鮮との一発触発の事態を招くおそれがある」。だからこそ「リーダーたる文在寅は、軍事的増強ではなく、対話を進めるべきだ」と強調した。
さらに「全世界の核兵器を廃絶することが求められ、休戦協定から平和協定を結ぶべき」と訴えた。そのためには、「韓国と日本の労働者と民衆が平和のために連帯し、米軍基地とそこに結びつく腐敗した政府、官僚、軍需企業を一掃するために闘おう!」と呼びかけ、会場からは、それに応える大きな拍手があがった。
日韓労働者連帯!
トランプ訪日阻止
集会の最後に尾沢孝司さん(元韓国サンケン労組を支援する会事務局)が、行動提起を行った。「サンケン闘争の絆をさらに発展」し、日韓の相互訪問を継続。東アジアの平和のため米軍を追い出す運動を今後も進め、トランプ訪日反対のデモを提起し、集会を終了した。 (大望)
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