11・4「世界を揺るがした100年間 世界史から見たロシア革命」シンポへ
森田成也さんへのインタビュー
改めてその世界史的・現代的意義を探る
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世界史を揺るがしたロシア10月革命から今年で100年。ソ連邦の崩壊とともにロシア革命は、「失敗に終った歴史の実験」として葬り去られてきた。しかしグローバル資本主義の危機が深く進行する中で、今改めて人びとが社会主義革命にかけた理想を思い起こし、それを現代的に再生することが問われているのではないか。11月4日に開催されるシンポジウムへの参加を!
4回の連続講座
――今年は周知のように一九一七年のロシア革命が起こって一〇〇年目に当たります。それを記念して、一一月四日に「ロシア革命一〇〇年シンポジウム」が開催されます。「世界史から見たロシア革命」というテーマを設定していますが、まず最初に、一〇〇周年の年にそうしたテーマを設定した意図についてお聞かせください。
まずシンポに先立ってトロツキー研究所とアジア連帯講座の共催で「永続革命としてのロシア革命」という連続講座を四回にわたって企画し行ないました。毎回、二〇人から三〇人の参加者があってまずは成功したと思います。
ロシア革命をどういう視角で捉えるのかというとき、一つはロシアという国に焦点を当ててロシア史の観点からロシア革命を捉えるというやり方があります。そういう視点から見るとロシアの革命は、それ単独で起きたわけではなく、マルクス主義者が主導した革命だという観点から、そのマルクス主義的潮流がロシアでどのように生まれたかという議論がどうしても必要になる。
そうなるとロシアの隣の大陸ヨーロッパでのマルクス、エンゲルスの理論や活動ぬきには、当然、ロシア革命は語れない。そういう視点からすればマルクス、エンゲルスのロシア論、あるいは後進国革命論から始まって、それがロシアにおいてどのように発展し、それがロシアの現実とぶつかりあう中で、どのような飛躍を遂げ、そして最終的にロシア革命の指導的地位へとマルクス主義者たちが成り上がっていったのか、そしてそれが過酷な帝国主義の包囲という現実の中で、どのような困難に遭遇し、最終的にスターリニズムと呼ばれるシステムへと変質していったのかという流れを捉える必要があると思います。
これは非常に長大な過程ですから、四回の連続講座という形でまずこの問題を議論しました。しかしながらロシア革命は、単なるロシア一国の現象ではなくて世界史的な意味を持った現象であるということから、縦ではなくて横の観点から捉える必要もあります。
先に言ったように、ロシア・マルクス主義はヨーロッパ大陸で発展したマルクス・エンゲルスの思想から生まれたということから、すでに出発点から国際的な流れを持っているので、ロシア革命を、ヨーロッパ、ロシア、そしてアジアという大きな大陸間の横のつながりからロシア革命を捉え返す必要があります。
そういうわけで「世界史から見たロシア革命」が今度のシンポジウムのテーマになったわけです。こういう観点は他にはあまりなくて、基本的にはロシア史に閉じ込めた形でしかロシア革命を捉えられない論議が多い。しかし、ロシア革命が世界史的な現象であって世界史的な意義があったという観点から捉え返さないと、ロシア革命の本当の意味は分かりません。ロシア一国で考えているかぎり、ロシアでソ連が崩壊したからもう、ロシア革命を論じてもしょうがないという議論に流れがちです。しかし、そうではない。それは世界史的現象であって、私たちは今でもその恩恵や影響を受け続けているのだ、そういう広い観点を持つ必要があります。それこそ一〇〇周年という節目にふさわしいだろう。そういう問題意識から「世界史から見たロシア革命」というテーマを設定しました。
ロシア革命が世界史に刻印した理想
――世界史的観点からと言った場合に、世界的な革命運動との関係の中でロシア革命の準備がされたと思いますが、それが第一次世界大戦という世界史的動きの中で勝利し、全世界にさまざまな影響をもたらしていったことの意味は非常に大きいと思います。世界史的な意味という点で、いま一番考えなければならないのは何でしょうか。
つい先日、光文社古典新訳文庫から出したトロツキーの『ロシア革命とは何か』という論文集の解説でも少し書いたんですが、トロツキーは近代文明はある程度までフランス革命の洗礼盤から生じたと言っているのですが、ロシア革命は労働者の権利や民族自決や女性の権利をそれなりに重視する現代世界をある程度まで作り出したと言ってもいいと思います。
ロシア革命は世界史的に見れば、何よりも欧米帝国主義が支配していた当時の世界の中で、労働者と農民、女性、さらにユダヤ人や多くの植民地人民の権利や自立、解放を掲げ、ある程度それを実現したこと、このことに最大の意義があります。それなしには資本主義は一九世紀、あるいはせいぜい二〇世紀前半的なものでしかなかったでしょう。世界資本主義はロシア革命が作り出した労働者国家や戦後革命の現実に直面して、ある程度、軌道修正せざるをえなかった。そのことによって現代社会に生きるわれわれが享受しているような労働者の権利やさまざまな人権も可能になったのです。
このような到達点は、一九世紀や二〇世紀前半におけるような非常に暴力的で不平等な社会に対して、ロシア革命が明確なオルタナティブを提起し、そのことに世界中の労働者や植民地人民が共感し、それまでになかったような闘いを繰り広げたことに基づいているのです。
もちろん本国ロシアでは、その後スターリニズムが支配し、ブルジョア民主主義のレベルからしても問題となるようなる専制体制ができてしまいました。それにもかかわらず世界中の人びとは、ロシアの「社会主義政権」に未来と希望を見出し、先進国の労働者農民や植民地人民の中で非常に大きな闘いのエネルギーになったことは見落とすべきではありません。
ロシア革命が作り出した労働者国家が崩壊したにもかかわらず、その遺産はまだ完全にはなくなっていません。世界の労働者たちはその遺産を守ろうと日々努力しています。新自由主義や帝国主義的グローバリゼーションに抗して世界中の人々が、労働者の権利、農民の権利、有色人種や少数民族の権利、女性の権利、LGBTの権利を守るために今日も日々闘っています。そういう闘いの中に実はロシア革命の遺産は受け継がれ、生き続けているのです。
シンポジウムの3つの報告
――今回のシンポジウムでは、森田さんが「世界革命としてのロシア革命」、中村勝己さんが「ヨーロッパから見たロシア革命」を、江田憲治さんが「中国革命をロシア革命の延長線上で考える」という視角から報告していただくことになっています。この三つのテーマを設定した意図についてお話しいただけますか。
私の報告は「ヨーロッパ、ロシア、アジア」と副題にあるように、ヨーロッパからロシア革命へ与えた影響、そしてロシア革命がヨーロッパとアジアにそれぞれ与えた影響という全体像について報告したいと思っています。ロシア革命の指導者はみな、ヨーロッパ革命を切望していました。そこでは社会主義革命の条件は成熟しているのだから、ロシア革命が起きればヨーロッパの労働者は立ち上がって革命を遂行するだろうと思い描いていたわけです。しかしそれは実現されなかった。確かにそこかしこで革命は起こりましたが、すべて途中で挫折しました。それにもかかわらず、ヨーロッパのあり方に、その国家システムや人々の考え方に、けっして消えることのない影響を与えました。
他方、ロシア革命の指導者が想定していなかった地域、すなわちロシアより東のアジアにおいて、ロシア革命はむしろ社会主義革命の勝利にまでいたる大きなインパクトを与えました。ご存知のように、中国革命にはかなりの紆余曲折があって、最初の一九二五〜二七年の第二次中国革命は永続革命的な発展力学を完全に有していたのに、コミンテルンのメンシェビキ的指導のために破産し、粉砕されました。しかし、永続革命の過程は、敗北による二〇年の中断の後に、第二次世界大戦後に復活し、今度は第三次中国革命として結実します。同じような過程はベトナムでも見られました。
したがって、ヨーロッパとアジアはロシアに隣接する大陸なんですが、違った影響のされ方をし、違った歴史をそれぞれがたどっていくことになります。そこで、ヨーロッパの視点から見たロシア革命について中村さんに報告していただき、中国から見たロシア革命ということで江田さんに報告してもらおうと思っています。
とくに陳独秀は、中国においてロシア以上に不均等複合発展が作用していることを、その生涯を通じて先鋭な形で示している思想家・政治家です。中国における最初の啓蒙思想家であり、次にブルジョア民主主義革命運動の指導者となり、ついで中国共産党の最初の書記長になります。さらに、第二次中国革命の敗北後は、中国トロツキストの最初の指導者となり、晩年にはレーニン主義をも超えて民主主義的な社会主義のあり方を模索するようになります。そういう偉大でユニークな一人物のプリズムを通して、ロシア革命と中国革命の関係を論じることは非常に有益だと思います。
――最後に、「かけはし」の読者に「ロシア革命一〇〇年」のシンポジウムへの呼びかけをお願いします。
「かけはし」の読者の皆さんのあいだでは、ロシア革命が持つ重要な意義についてはすでに一定の共通了解になっていると思います。しかしそれでも、この間の、ロシア革命を単なる「歴史の逸脱」として葬り去ろうという非常に強い風潮の中で、ロシア革命の世界史的意義について改めて広い視野から学びなおすことは非常に意義のあることだと思います。そして、ロシア革命を一〇〇年目の現在から改めて新鮮な視点で見直すきっかけにもなるのではないかと思います。ぜひとも、皆さんこぞってご参加ください。
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