朝鮮民族の民族自主権の回復、および朝鮮
半島における統一国家の樹立のための課題
木下 正
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はじめに
朴槿恵元大統領の罷免後の大統領選挙で発足した大韓民国(以下、韓国)の文在寅政権は、八月一七日に発足から一〇〇日を迎えた。これまで文在寅政権は、財閥企業と政治の癒着の断絶、国内経済の底上げ等の革新的な取り組みを主張してきた。
そのなかでも注目されるのが、朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国)との融和を重視する政策である。しかし共和国は文在寅政権の政策を評価せず(注1)、対話の呼びかけにもかかわらず、核開発やミサイル開発を止めていない。
金大中政権の太陽政策の継承を表明した盧武鉉政権の発足前後にも、共和国はNPTを脱退し、地下核実験や長距離弾道ミサイルの発射実験を強行し続けた。分断国家成立の根本的な歴史的認識の共有なしに、対話は意味を持たない。
二〇一七年八月末の共和国による大陸間弾道ミサイル)の発射実験、また九月はじめの六回目の核実験により緊張が高まりつつある東アジア情勢の中で、本稿では文在寅政権の対共和国政策に焦点をあて情勢分析を行うとともに、米国の対共和国政策、米韓関係の問題点等にも触れながら今後のわれわれの課題について述べていく。労働者国家の核武装の可否及び共和国の内政に関する問題については、別の稿で述べる。
文在寅政権はこれまで
の対共和国の政策
文在寅政権のこれまでの対共和国の政策は、制裁と対話を並行して平和的方法による朝鮮半島の非核化をめざし、朝鮮半島に恒久的平和を実現するというものだった。共和国の核の凍結と同時に体制保障をはかり、朝鮮半島における非核化、朝鮮戦争の終戦協定、共和国と米国の関係正常化が実現するというのが趣旨である。
しかしこの文在寅政権の政策は、主体思想に基づく自主路線を歩んできた共和国にとって何もメリットがなく、李明博政権から朴槿恵政権までの八年間断絶してきた南北関係を再開する理由にもならない。これまで共和国は、国の体制の保証のために自らの生存能力を向上させてきた。朝鮮戦争の休戦状態の下で共和国と中国との軍事同盟は継続しているものの、旧ソ連との軍事的な関係は事実上消滅している。
共和国にとって、生存能力とは核開発であった。体制を保証するために核技術を向上させ、核保有国の地位を得ようとしてきた。そのために六回の核実験を強行的に行い、核兵器の運搬手段の確保のためにミサイル実験を重ねてきた。共和国は一九九三年からこれまで六〇回以上のミサイル発射を行ってきたが、昨年二〇一六年のミサイル発射回数は過去最高の二四回であった。
共和国の核・ミサイル開発に対して国際社会が制裁を加えても、共和国はこれとは無関係にさらに水準の高い核・ミサイル開発を行い、国際社会はまたこれに対する制裁を繰り返すという悪循環が繰り返されている。オバマ政権の「戦略的忍耐」は、八年間の南北関係断絶と連動して共和国の生存能力を向上させてきた。結局今年になって共和国はICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験に成功し(注2)、東アジア地域における情勢が新たな局面を迎えている。
共和国の今年七月のICBM発射実験の成功によって、米国は本格的に共和国問題に関わらざるを得なくなった。共和国への制裁と圧迫による問題の解決が困難な状況のなか、手詰まりの状態である。情勢が共和国に有利な状況において、共和国にとっては南北関係を再開する必要もない。
しかしこの期に及んでなお文在寅大統領は、就任一〇〇日に際しての記者会見で、共和国に対する「強力な制裁措置」に言及した。現状では南北対話は実現不可能である。制裁と圧迫では共和国を止めることはできない。
朝鮮半島における分断国家成立の歴史を見れば、米国の国益を背景にした「米朝対話」も事態の改善につながらない。米国をはじめとする大国の核兵器、弾道ミサイルが温存されている現状において、「核実験を実施しない、これ以上のICBM実験を行わない」ことを共和国が受け入れるとは考えられない。対話さえ成立すれば問題が解決するという期待は、希望的な思考に過ぎない。正確な情勢分析がわれわれに求められている。
米国の対共和国政策
これまでの韓国および米国の対共和国政策は、事実上米国の主導によって進められてきた。オバマ政権の「戦略的忍耐」の時代までは、米国は当面の危機を感じなかった。しかし今年二〇一七年七月以降、状況は大きく変わった。オバマ政権の対共和国政策を「失敗した外交」と規定したトランプ政権は、中国による共和国に対する圧迫、対話を併行する戦略を行っている。しかしトランプ政権発足から現在まで、米国の共和国の核能力に対するはっきりした立場が示されていない。
一方で共和国の核は小型化しており、小型化した核の運搬手段も準備された。共和国が核保有国の一定のレベルを超えるということは、トランプ大統領が設定した「レッドライン」を越えることを意味する(文在寅大統領は、就任一〇〇日に際しての記者会見で、越えてはならない一線の「レッドライン」に関する質問に対して「共和国がICBMを完成し、核弾頭を搭載して兵器化すること」と回答している。その意味では、共和国はすでに「レッドライン」を越えている可能性がある)。
中国とロシアが提示した共和国の核凍結と米韓合同軍事演習「乙支フリーダムガーデン」の中断を受け入れなかったトランプ大統領にとって、共和国の非核化は事実上不可能となっている。トランプ政権は現在、共和国に対する圧迫と対話の併行と同時に、中国に対する経済的圧迫の強化を模索している(注3)。
米韓関係の問題点
文在寅政権はこれまで、朝鮮半島情勢の危機に対する抜本的な対策を打ち出すことができていない。理由の一つに、従来からの不適切な米韓関係が挙げられる。一九五三年七月二七日に共和国と米国は朝鮮戦争の停戦協定を締結した。しかし米国は、停戦協定調印から一カ月もたっていない八月八日、米韓相互防衛条約に仮調印した。
朝鮮停戦協定第第四条六〇項には、「停戦協定調印の三カ月以内に政治会談を開催し、すべての外国軍隊の撤退、平和的解決のための協議」が規定されているが、米韓相互防衛条約は「米韓両国の一国が侵略された場合には共同で対応し、米軍の南朝鮮駐留を認める」という内容であった。この時点で米国は、朝鮮停戦協定第第四条六〇項に違反していた。そして朝鮮半島に核を持ち込み、強大な軍事力で共和国を圧迫し続けてきた。
従来の米韓関係は韓国にとって一方的で不平等な関係でしかなかった。今年七月一日の米韓首脳会談後に文在寅政権は「朝鮮半島問題に対する韓国の主導権」に言及し、今年の光復節(独立記念日)の祝辞では「問題の主導的な解決」について述べたが、現実は米国の戦時作戦統制権によって韓国の主導権を行使できない状況である。
一方的で不平等な米韓関係が放置されたなかで、「防衛訓練」(共和国は韓米合同軍事演習を自国に対する攻撃訓練ととらえている)を口実に定例化している米韓合同軍事演習の停止、今年六基に増設された高高度防衛ミサイル(THAAD)の撤廃がされておらず、米軍基地汚染問題の解決、不公平な米韓行政協定(SOFA)の改定、戦時作戦権返還問題の解決がされていない。
国際機構の問題点
国連駐在朝鮮常任代表は昨年一二月、共和国のミサイル発射実験に対する国連安全保障理事会の決議に対して「国連憲章とどの国際法典にも核実験と弾道ロケットの発射が国際平和と安全に脅威になると規制したものはない」と述べ、新たな制裁決議の法的根拠を問うている(注4)。朝鮮半島情勢をより複雑化させているもう一つの要因として、国連安全保障理事会の二重基準が挙げられる。
米国をはじめとする大国はこれまで、数千回に及ぶ核実験と弾道ミサイルの発射実験を行ってきた。また大国の利害と一致する特定の国の核開発を事実上不問に付してきた。このような不公正な国際連合の構造が、共和国の態度をさらに硬直させ、体制保障のための核開発を加速させてきた。国連安全保障理事会は共和国の核開発を論じるまえに、まず米国をはじめとする核兵器保有国における核兵器廃絶の態度を明確にし、国際機構としての公正さを取り戻す努力をすべきである。
民族自決の視点の欠如
朝鮮民族が日本帝国主義の植民地支配を打倒してから七〇年以上経った今日も、朝鮮民族の民族自決権は回復されていない。日本帝国主義による植民地支配を打倒した後に形成された国家は分断国家であった。
植民地支配打倒後に朝鮮半島に分断国家が成立した根本的な要因は、「日本軍の武装解除」なる口実のもとに外勢(アメリカ帝国主義とソ連覇権主義)が行った朝鮮民族の民族自決権の侵害であった。また民族内の政治的、階級的対立、米ソ両国の対立によって統一国家の樹立が不可能になった。
民族自決権の回復が困難ななかでもこれまで、朝鮮民族は紆余曲折を経ながら一九七二年の南北共同宣言を結び、その後は局地的な軍事衝突があったにせよ、善後策によって時代の克服をはかってきた。南北の対話、交渉、交流、および協力の拡大により、二〇〇〇年には南北の最高首脳による国家承認の進展とともに、協調へと発展させ、統一を展望しながら今日に至っている。ところが民族自決権が失われた現状において、朝鮮民族の独立問題が国際化した場合、さらなる民族の内的分断や混乱を招く危険をはらんでいる。
共和国の公式文書、最高指導者の著作等において以前より、外勢による国家の分断解消は繰り返し否定されている。不適切な米韓関係が放置された状態において、歴史的発展の意味を持つ南北対話の実現や統一国家の樹立の前提となる民族自決権の回復は困難である。
われわれの課題
これまで韓国の対共和国政策を中心に大まかに俯瞰し、そのうえでのいくつかの今後解決するべき問題点を述べてきた。今年二〇一七年はロシア革命一〇〇周年にあたる年である。一〇〇年前の一九一七年、十月革命のさなかにレーニンの率いるソビエト政権は、ロシア最初の対外政策として無賠償、無併合、民族自決に基づく即時講和を第一次世界大戦の全交戦国に提案した。
東アジアでの核戦争の現実的危機が迫るなか、われわれがなすべきことは何であろうか。朝鮮半島における緊張緩和は、「国防産業」の意にそった米国をはじめとする外勢に依存するものではない。朝鮮民族の分断を招いた大国の国益を背景にした「対話」なるものがいかに朝鮮民族の民族自決権の回復に有害であるかを再度認識すべきである。
共和国は米国の国益追求を目的とした「対話」を望んでいない。朝鮮半島における緊張緩和を担うのは、日本帝国主義、アメリカ帝国主義、ソ連覇権主義によって民族自決権を踏みにじられてきた政治的主体としての労働者民衆である。
そのためにはまず、一方的かつ不平等な米韓関係は是正するべきである。それと同時に共和国に体制保障のための核開発を加速させる一つの要因となっている公正性を欠く国際機構の是正も必要である。これらは東アジアの平和の直接的脅威に直面している東アジアの労働者民衆の課題である。日本の労働者民衆は、朝鮮民族の民族自主権の回復を阻害する日本の反動勢力によるアメリカ帝国主義の「東アジア戦略」への軍事的関与を許してはならない。同時に共和国と韓国の労働者民衆と連帯して、東アジアにおける米軍基地撤廃の運動に力を結集していかなければならない。
朝鮮半島における統一国家の樹立の第一歩は、朝鮮民族の民族自主権の完全な回復である。民族自主権の完全な回復を第一段階とし、次のステップとして帝国主義、覇権主義を背景としない、労働者の国際連帯を背景とした統一国家の樹立に進んでいくべきである。
(注1)労働新聞八月一八日付論評
(注2)朝鮮中央テレビは七月四日一五時(日本時間七月四日一五時三〇分)「特別重大報道」
(注3)今年八月一日、トランプ大統領は中国の習近平主席との対話、スーパー三〇一条に言及した。
(注4)朝鮮中央通信
二〇一六 年一二月六日国連駐在朝鮮常任代表が国連事務総長あてに送付した書簡
9.15
共謀罪は廃止できる!
現代版「治安維持法」止めろ
3000人が集会・デモ
六月一五日早朝、自民・公明・維新の三党は、「中間報告」という議会のルールを踏みにじる措置で参院の委員会審議を省略し、現代の治安維持法=共謀罪法を成立させた。それから三カ月後の九月一五日、「共謀罪は廃止できる! 九・一五大集会」が、日比谷野外音楽堂に三〇〇〇人の労働者・市民・学生が参加して開催された。主催は、共謀罪成立後、労働・市民団体、NGOなどで作られた「共謀罪廃止のための連絡会」(参加団体はアムネスティー・インターナショナル日本、グリーンピース・ジャパン、日本消費者連盟、ピースボート、日本マスコミ文化情報連絡会議、共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会、未来のための公共、女性と人権全国ネットワーク、国際環境NGO FoE Japan、自由人権協会、反差別国際行動、共謀罪対策弁護団、共謀罪NO実行委員会、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会)。
権利破壊を許さ
ない世論の力で
司会を務めたのは、SEALDSの後継として学生など若い人たちで結成され、連絡会の構成団体となっている「未来のための公共」の馬場ゆきのさんと谷虹陽さん。主催者あいさつを山口薫さん(アムネスティー・インターナショナル日本)が行った後、アピールを海渡雄一さん(弁護士、共謀罪NO実行委員会)が行った。
海渡さんは、国連のカナタチ特別報告者による「共謀罪法案」の人権無視への批判に対してまともに向き合おうとせず、一方的に罵倒するだけだった安倍政権の対応を厳しく批判、「共謀」などについてもいかようにも拡大解釈できるこうした法律は廃止しなければならないし、廃止できると強調した。
国会議員からは、民進党の有田芳生参院議員を皮切りに、共産党、社民党、自由党など各会派から廃止への強い決意が語られた。
つづいて発言が、自由人権協会の芦澤斎さんを皮切りに、篠田博之さん(日本ペンクラブ)、野平晋作さん(ピースボート)、満田夏花さん(FoE Japan)、近藤恵子さん(女性と人権全国ネット、三澤麻衣子さん(共謀罪対策弁護団)、内田雅敏さん(総がかり行動実行委)、岩崎貞明さん(日本マスコミ文化情報労組会議)から行われた。
この日の集会は、憲法と民主主義を破壊する「現代の治安維持法」である共謀罪をあくまで廃止にするという強い意志とともに、朝鮮半島での戦争の危機、憲法改悪へのステップと連動した民主主義的権利の破壊に対する強い危機感を示すものとなった。
集会後、銀座・東京駅へ向かうデモを行った。(K)
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