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    かけはし2017.年9月18日号

民衆的抵抗勢力が二大政党制のワナ破る時


米国

反トランプ・反右翼の抵抗には
ノーを超えた建設的綱領が必須

「アゲンスト・ザ・カレント」編集委員会


 朝鮮半島の緊張が日本のメディアを占領しているが、米国でも、それにロシアゲート問題を加えて似たような状況が生まれているようだ。しかしそのメディア状況は客観的に、さまざまな問題をめぐる同時的な衝突が、民衆とトランプ政権および共和党との間で高まろうとしていることを隠すものにもなっている。以下は、そのことを指摘しつつ、米国の右翼が労働者民衆に仕掛けている恐るべき攻撃の実態を明らかにし、そこで求められる闘いの質とそこに向けた潜在的可能性について論じている。(「かけはし」編集部)

国内で戦争が多数の戦線で進行


 ドナルド・トランプは、「北朝鮮には焦点を定め弾は込め終わっている、ベネズエラに対してもだ」といった身内向け空威張りでメディアの注意を独占している。トランプ政権は、ウラジミール・プーチンばかりかこともあろうに金正恩をもひどく当惑させた。そして議会調査と「特別検察官」は、トランプの選挙キャンペーンに関するロシアの代理人との共謀や金銭的関わり合い、また犯罪の秘密が何であれ隠されている可能性のあるトランプの隠し金庫を迂回している。しかしこれらすべてのど真ん中で、もっと重大な戦争は今、本国で猛威をふるい続けている。
 トランプは全体としての支配者たる資本家階級の目的と特に共和党右翼を真正に代表しているのか、あるいは深刻で潜在的に危険に満ちた個人的無節操を抱えた自己中心的なごろつきなのか、このような疑問がしばしば挙げられている。答は、彼は実際に両方、というものだ。われわれが前にしている政治情勢の喜劇的だが命取りにもなるような特質を同時に捉えることは、日々の「臨時ニュース」的大騒ぎの真ん中では難しいかもしれない。
 もちろん、ティラーソン国務長官とマティス国防長官が、世界にトランプが翌週世界を爆発させることはないと請け合うために、彼の大口ツイートを追いかけなければならないならば、それは何とも滑稽なことだ。しかし朝鮮戦争の恐怖(あからさまに膨らまされた)は、この政権が今遂行中の総力をあげた社会的反動に関するニュースを押し出しているのだ。
 それは数多くの戦線での同時的戦争だ。それは、有権者、特にその非白人の豊かではない層をしぼませようとする戦争だ。それは特に、本国と世界的な女性の医療に対する、中絶の権利に対してだけではなく、妊娠中またその後のケアと避妊の利用に対する、たちの悪い戦争だ。それは、より全体的に、医療はあらゆる者に対する基本的な人権、という考えそのものに対する戦争だ。それは、億万長者の相続人であるベッツィー・デボスが率いる公的教育の権利に対する戦争だ。
 それは、警察の暴力という恐怖なしに暮らすための非白人コミュニティの権利に対する戦争だ。それは、トランプの予算局長のムルバニーが直接言明しているように、可能な限り多くの民衆から、死活的に必要な連邦給付を取り上げるための戦争だ。それは、環境規制と気候変動に関する基礎的な科学的調査のあらゆる形態に対する戦争だ。事実としてそれは、自然に関する物理的、化学的諸法則に対する、汚染がそれらを無視して続けられたとしても、こうした法則の結果が何らかの害となるはずがない、という根拠に立つ戦争だ。
 それは主には右翼の戦争だが、それには限られない。たとえばそれは、国連と他の国際諸機関が呼びかけたイスラエルとイスラエルの入植に対するボイコットを犯罪にしようとする戦争であり、それは両方の企業政党指導部から支持されている(上院七二〇号法案)。米イスラエル公共問題委員会(AIPAC)の起案による、そうしたボイコットを連邦規模で重罪にするこの法案は、憲法修正第一条を死文にすると思われる。これが、それが語っているものを読む機会ができるや否や、何人かのリベラルと保守派に、彼らの立場を再考させることになった。

低所得層の投票権に戦略的攻撃


 「われわれの選挙のハッキング」として告発されているすべてに対しロシア人が有罪であるとしても、それは、米国内での民主的プロセスに対する脅威としては三番目以上の高さにはならない。トランプが指名したコバク/ペンスの「清廉選挙委員会」は、大量投票不正というトランプのもっともらしい主張を確証するための、単なる空虚な作戦ではまったくない。それは、白人ではない貧しい人びとの投票を永遠に封じようとする、体系的な右翼の攻撃の鋭い切っ先なのだ。
 これは、数多くの共和党支配の州議会で通されてきたIDや「市民権証明書」といった類の投票抑圧を、全国規模で制度化しようとする策動だ。これらの州では、今法廷で解決が争われている最中の、高度に洗練されたゲリマンダー(当選を確実にするために奇怪な形にまで歪められた選挙区割り:訳者)のテクニックを伴っている。
 一般投票で本当に「勝った」んだという、ホワイトハウスにいる七一歳になる赤ん坊のわめき声の背後にある、このもくろみの目的は誰にも明らかだ。
 国民の健康保険のあらゆる断片を消し去り、メディケイド(低所得者のための医療保障制度)を無効にし、最終的にはメディケア(六五歳以上の高齢者のための医療保障制度)と社会保障を破壊しようとする集中された攻撃の背後にいる反動的なやくざ者たちは、完全に意識的な階級的戦士だ。彼らは、彼らの残酷な社会的設定課題に対し、多数の民衆的支持が生まれることは決してないだろうということ、そしてドナルド・トランプのたまたまの選挙人団獲得は、二度と彼らに道を開くことはないかもしれない好機に幕を開けているということ、これらを完全に理解している。
 彼らは、永久的投票抑圧が彼らの政治的上昇を維持するための唯一の手段、ということを分かっている。彼らの動機には党派性とイデオロギーが組み合わされている。彼らが原理として信じていることは、民衆のための政府プログラムから便益を受けている類の民衆(軍事部門の契約者、私営監獄の経営者、企業の繁栄や国庫による銀行救出の受益者などを数に入れず)は、本物の投票を行ってはならず、実際上は、彼らがそうすることを可能な限り面倒なことにしなければならない、ということだ。
 意識的で体系的な投票抑圧と双子の形で現れているものは、政治への巨額なマネー投入だ。その程度は、下院一議席に対し、キャンペーン費用が五〇〇〇万ドル以上にまで達しているほどだ(先頃のジョージア州における補欠選挙のように)。しかもそれは、クラック(コーク)兄弟や企業ロビーがあたりにまき散らした「裏金」の氷山の、見えるてっぺんにすぎないのだ。
 主な右翼の資金提供者たちは、トランプのメルトダウンや彼が追い出される場合にマイク・ペンスが大統領に正当に就任する可能性があることを予期して、彼に回す現金を集めつつある。これらの人々は、彼らの卵全部を一つのかごに入れるよりもそれがもっと良いことと分かっている。
 愚行の極みとしてコーク兄弟は、彼らの米立法交流協議会(ALEC)を通じて、共和党支配の州議会を、国民の健康保険と他の社会プログラムを禁止することにより合衆国憲法をハイジャックするために、また「均衡予算」と他の愚行諸々を強いるために、「憲法五条」会議(これを始めるには三四州が必要になる)に向け押しやろうとしている。ALECはさらに、修正憲法第一七条の撤廃にも圧力をかけている最中だ。この撤廃が引き起こすと思われるものは、合衆国上院議員の選出が大々的にゲリマンダー化された州議会に戻される、ということだ。

「反自由貿易協定」の極悪な実態

 「自由貿易」をなしにする交渉は、トランプと彼のチームがこれ以上たちの悪いものをつくり上げることは不可能と言うほどに、恐るべきものであり、職や賃金や労働者の諸権利に対して破壊的だ。係争中の「ニューNAFTA」は、バラク・オバマ大統領のTPP中にある最悪の特徴点を合体することになりそうだ。それがもたらす惨状を詳細に明らかにした論述(イーサン・アールのツイッター「トランプはNAFTAをもっと悪くしようとしている」)がすでに明らかにされている。
トランプは政治的寝技行為として、つい先頃沈められたTPP……の中で要求されたものすべてを含むことになる新自由主義的NAFTA交渉に向け、狡猾にも、彼の大統領選キャンペーンと同じ反エスタブリッシュメント、アメリカ優先のレトリックを利用しようと試みつつある。
トランプが率いる再交渉は、極悪なISDSの仕掛けの強化を意味することになるだろう。それは、たとえば反煙草立法をあえて導入するような、利益取得機会を「侵害する」諸政府に対し、企業による告訴を可能にさせるものだ。他方で「投資家に対する誘因」は、資本の流れの自由化を高め、可能な限り最大の労働者搾取条件を見つけ出す進行中の世界的競争において、何千という職の海外流出に導くだろう。
こうしたリストはさらに続く。右翼の州議会は、自治体政府が生計賃金と反差別の条例を取り入れることを禁ずる法を通しつつある。
共和党の指導者たちはロシア共謀疑惑を、トランプが彼らの課題設定を可能にする者というよりもそれを不利にする者になる場合に、彼に背く機会として見ているのかもしれない。しかし今のところ、トランプ(そしてペンス)の支持率は見ての通り低いとはいえ、それでも諸機構、共和党、あるいは議会に対する支持率よりまさっているのだ。

二大政党制の機能不全一層進行

 壊れた政治システムの機能不全は、双方の資本家政党に病変を起こしている。そして医療問題での危機は、それを絵のようにまったく十分に描き出している。事実として民主党のジレンマは、共和党が前にしているものとほとんど変わりなく深刻だ。彼らは三分の二の州で事実上無力であるだけではない。彼らの政策と企業資金への依存は、米国の心臓部で破滅的な危機に直面している労働者に訴えることができる一つのオルタナティブを固める上で、大きな打撃を与える障害でもあるのだ。
バーニー・サンダースの反乱的キャンペーン、共和党による襲撃の純粋に残忍な性格、そして「手頃なケア法」自体の不十分さの余波の中で、民主党支持基盤の圧倒的部分は、全員一律の「みんなのためのメディケア」に対する支持に変わろうとしている。そしてそれは、健康保険に対する事実上唯一の実のある解決案だ。
その支持者として登場している者は今や、サンダースやジョン・コニャーズ下院議員のような、一律健康保険を長い間支持してきた信念の固い者たちだけではなく、エリザベス・ウォーレン――民主党エスタブリッシュメントの中で左の端にいるが、その一部であることは確実な――もいる。しかし間違えてはならない。一律健康保険は保険業界と大製薬企業が大嫌いなものであり、それゆえオバマ、ペロシ、クリントンといった民主党指導部には受け入れることが絶対にできないものなのだ。
一九九〇年代はじめ、普遍的な健康保険を求める草の根の運動が上り調子にあったとき、ビル・クリントン大統領は一つのプログラムを開発するためにヒラリーを指名した。超巨大な保険企業からの指導的な入れ知恵に基づき彼女が考案した絶望的に複雑な方式は、粉々にされ燃え尽きた。しかし運動も事実上場外に出された。
ほとんど政治的荒野をさまよっている今日の民主党は、成長を続けている普遍的健康保険を求める運動を脱線させるという、以前と似かよった役割を演じることになるのだろうか? 共和党指導部から最終的に、この破綻に瀕した問題について、何らかの種類の「オバマケアに対する修正」を交渉する呼びかけがなされた場合、民主党はテーブル上に何をもってくるのだろうか? 彼らは横柄にも、かつての日にヒラリー・クリントンがやったように、また「手頃なケア法」に向けた論争中にオバマ大統領がやったように、彼らの普遍的健康保険支持者に席に着くよう、そして黙るよう告げるのだろうか?

今こそ社会主義運動の出番

 まさに今、資本と右翼は本国における戦争に勝利を収めようとしている。その現実を隠すことに利点はまったくない。くらしとコミュニティは社会的諸危機により、そして意識的に冷酷にされている諸政策によりひどく侵害されようとしている。その上移民家族は引き裂かれた。
しかし医療問題の袋小路、トランプ政権の正統性に関する危機の始まり、さらに両企業政党を冒している厳しい内部的諸問題が示していることは、民衆的「抵抗」勢力が二大政党制のワナを破って出るための、実体的な幕開けの存在だ。
これは、普遍的な健康保険に対する民衆的支持の高まりが示すように、住民の大きな部分が進歩的な回答に心を開いている時期なのだ。八月一二日のシャーロッツビルの殺人に対する反応は、大衆的な反レイシズム運動の潜在力を示している。そしてそれは、合衆国内部だけの現象ではない。たとえばそれは、英国総選挙において、ジェレミー・コービンのすばらしい成果で示された。そこでは、型に凝り固まった専門家たちは、コービンの左翼指導部の下で労働党はほとんど一掃されるだろう、と言明していたのだった。
共和党は一九二〇年代以来もっともたちの悪い社会的設定課題を遂行し続けている――その頂点に今日の環境に関わる黙示録的脅威を付け加えて――。他方でで民主党は、想定上の保守的な白人労働者を追いかける中での「中道への回帰」において、いわゆる「アイデンティティ・ポリティクス」(特に、人種的公正とLGBTの諸権利)が犠牲にされる必要があるかどうか、をめぐる戦闘に縛り付けられている。
ナオミ・クラインのような鋭敏な活動家のコメンテーターは、反トランプの抵抗が必要としていることは、残忍な右翼の猛襲に対しただ「ノー」を言うことを超えた建設的な綱領だ、と正しくも指摘している。これこそが、米国における社会主義政治の始まりとそれが保持する約束が文字通り重要である理由だ。
社会主義運動は、抑圧された人びとの諸権利のために、労働者階級全体の必要のために闘っている。それは、まともに支払われる職と労働者の諸権利を破壊する企業の「自由貿易」に反対し、彼らが合衆国内にいようが、メキシコ、ホンジュラス、フィリピン、あるいは中国にいようが、国境を貫く労働者の連帯のために闘う。
社会主義運動は、化石燃料からの可能な限り最速な移行のために、彼らの土地にパイプラインを通さないようにしようとする先住民民衆の権利のために、持続可能な経済への転換の中で生み出される可能性のある、何百万人という米国の職のために闘っている。これらすべてのことのために闘うことができるのは、ただ一つ、大衆的な社会主義運動だけだ。それが企業の必要と金融資本に結びついていないからだ。そしてそれは、右翼が打ち砕こうと決意している民主主義の、拡張と全面的な発展のために立ち上がっている運動の、唯一の種類だ。今こそその時だ。(「インターナショナルビューポイント」二〇一七年九月号)  



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